上 下
108 / 120
第八章 延長戦

その1 たとえ万人が敵だとしても

しおりを挟む
 俺は常識人だ。
 勝負には少し知恵を絞ったりもするが、基本的に善人で普通の一般人だ。
 だから、俺が手に入れた『食材』の紙には、広い意味に取れる内容、『大地と海と空の恵み』と書いた。
 そして、6つの紙がラウンダの手に渡る。

 「さあ! お題が集まりました! まずは『料理』からです!」

 ここだ、ここが重要だ。
 『ハンバーグ』と『カレー』なら、ハンバーグカレーという解がある。
 だが、『お茶漬け』『ドライカレー』になってしまうと矛盾が生じてしまう。

 「料理は『寿司』と『家庭料理』です!」

 よしっ!

 「ふっ、寿司を外さぬ道理はなかろう」
 「おうちでごはん~、おいしく作るよ~」

 見直したぞ! 土御門! 
 ありがとう! そして、ありがとう! 蘭子!

 「食材は『愛情』と『大地と海と空の恵み』です!」
 「そんな食材があるかぁ!」
 「愛情は何よりも美味しいスパイスよ!」
 「それは空腹だ!」

 だが、どうとでも取れる『愛情』ならば、矛盾は発生しない。
 残るはテーマだが、そのクジを引いたのは部長と寿師翁か。
 最大の問題は部長だ。
 俺たちに有利になるお題を選んでくれると信じているが……あの部長の事だからなぁ。

 「私が選んだお題は『テーマ:友情・努力・勝利』よ!」

 ナイス部長! 
 寿師翁は最強だが、孤高でもある。
 ”友情”とは縁が遠そうだ。
 勝負として成り立たせ、さらに俺たちに有利になるお題を選んでくれた!
 
 「そして、最後のテーマは……」

 ラウンダの口が止まる。
 冷や汗も見て取れる。

 空が暗くなり、ゴロゴロという雷の音も聞こえてくる。

 何かマズいテーマでも書かれてあったのか!?

 「『テーマ:対軍料理(具体的には審査員は会場の全員、約1万人)』です!!」

 はい!?

 「ぐわーはっはっは! 儂は空気の読める男よ! そして、負ける気も無いと言ったであろう!!」

 会場からは狂喜乱舞の歓声が聞こえた。

◇◇◇◇◇
 
 「お題ヲ受領シマシタ。審査員は全テ、一般審査員トシ、各チームノ所属スル組織ノ人員参加ヲ可能とシマス」
 「所属する組織って具体的には?」

 部長がコンピュータに問う。

 「『料理愛好倶楽部』ト『魚鱗鮨』ノ事デス」

 えっ!? それって!

 「トゥ!」「タァ!」「ヤァ!」

 気合の掛け声を上げ、空中で一回転しながら、幾人もの人影が宙を舞う。 

 「シュタ」「シュタタ!」「シュタタタ!」

 そして、その人影は寿師翁を中心にひざまづく。

 「寿師翁様! 魚鱗鮨二十四節鬼にじゅうしせっき、馳せ参上致しました」
 「うむ、ご苦労」

 ええと、さっきの『炎の7香貫なのかかん』で配膳をしてた方々ですよね。
 寿師翁の弟子兼、魚鱗鮨の従業員の方々ですよね。

 「あれは、二十四節鬼にじゅうしせっき! 実在していたとは!?」

 師匠が驚きの声を上げる。
 発足は1分前だと思います。

 「さあ! 我ら3人を加えた寿司徒すしと二十七租に勝てるかな!?」

 ピシャーン! と背景に落雷を描きながら、寿師翁とその一味は一段高い所で叫んだ。

 「雨天ノ為、延長戦ハ明日ニ順延シマス」

 ゲリラ豪雨が降った。
 夏の天気は変わりやすい。

◇◇◇◇◇

 俺と蘭子は控室で横になっている。
 控室に戻った瞬間に疲労が、ドッと出たのだ。

 「大丈夫か、少年、少女」

 師匠が心配そうな声を掛けてくる。

 「ああ、休めば回復する。だが、休む暇が無いのが残念だな……うーん、あと五分……」
 「せんせー、ブドウ糖~」 
 「ほら、あーんしろ」
 「あーん」
 「あ~ん」

 口の中に爽やかなひんやりとした甘味が広がる。
 本当ならば、女の子にやって欲しい所だが、それを言う元気もない。

 「ふう、ちょっとは回復したかな」
 「あたしは~、もうちょっと~」
 「蘭子は休んでいろ。作戦と仕込みは俺と部長が……」

 今日、最も消耗したのは蘭子だ。
 運動量だけでも俺や部長の数倍は消費している。
 そして、あの寿師翁の相手をしたのだ。

 「生きてるか、花屋敷! 助っ人に来たぜ!」
 「蘭ちゃん、元気! うちらが助けに来たよ!」
 「あたしも~」
 「はたらきたくない~、だけど、まけてほしくない~」

 扉を開けて入って来たのは、江戸川とものぐさ三銃士だ。

 「ほら! 入部届けだ! これで、俺たちも『料理愛好倶楽部』の一員や! 雑用でも何でもするぜ!」
 「他にも、友達に声をかけているから、明日の朝には、もっと増えると思うわ」

 江戸川が入部届けの紙をヒラヒラさせる。
 ありがたい、とても助かる。
 だが……これでは勝てない。
 たとえ全方位学園の総勢1万人が入部したとしても。

 「浮かない顔だな。少年、やはり1万人の審査員を相手にするには、荷が重いか」
 「はい、師匠。正直勝てる気がしません」
 
 1万人分の料理を作るのは出来る。
 だが、あの寿司徒二十七祖を上回る料理を作るのは不可能だ。
 しかも、俺たちには金が無い。
 食材は会場の物を使うしかないだろう。
 魚鱗鮨が自前の特鮮海産を出してきたら、素材でも俺たちは劣る。
 まだ、魚鱗鮨二十四節鬼を1対1で24人抜きした挙句、土御門、安寿さん、寿師翁を倒す方がましだ。

 「あの魚鱗鮨の統一の取れた組織に勝てるとは思えません」
 「いつになく弱気だな少年。少年やボスならば、地区予選決勝で112対3の逆境からも勝てる策を思いつくと思っておったのに」
 「透明ランナー制でも出来れば話は別ですがね。せめて、師匠や蘭子クラスとまではいかないまでも、俺や部長くらいの料理の腕を持った人物が20……いや、15名いれば……ねえ、部長」

 あれ? 部長の姿が見えない?

 「あれ~、なでちゃんは?」
 「試合が終わったら、生徒会長を連れてどこかに行ったぞ」
 
 そう、師匠は言った。
 そうか、生徒会長も応援に来てくれていたのか。
 しかし、どこに行ったのだろう?
 ……まさか!?

 ブルルッ

 俺のスマホが振動する。

 『陸、蘭子ちゃん、火砲かほうは寝て待ちなさい、米炊いて寝ろ』

 部長からのメッセージはそれだけだった。
 誤字ではない、火力を補充してくれると言っているのだ……まさか!?

 「よしっ! 蘭子、寝よう!」
 「えっ、そんな、死亡フラグだよ、それ……でも……いいよ……」
 「勘違いするな! 体力を回復させるんだ!」
 「ええ~、もうダメ~、やる気でない~」

 ああ、ものぐさ三銃士が砂を吐いているのが見える。

 「師匠、作戦が出来ました。すみませんが、仕込みとこいつらの世話をお願いします」

 こいつらとは、江戸川とものぐさ三銃士と、これから入部してくる仲間たちだ。

 「心得た。して、その策を聞かせてもらおうか」
 「おしえて~、りっくん」

 師匠と蘭子が期待に満ちた目で俺を見る。

 「死んだやつらを、透明ランナーとして蘇らせるのさ!」
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

太夫→傾国の娼妓からの、やり手爺→今世は悪妃の称号ご拝命〜数打ち妃は悪女の巣窟(後宮)を謳歌する

嵐華子
キャラ文芸
ただ1人だけを溺愛する皇帝の4人の妻の1人となった少女は密かに怒っていた。 初夜で皇帝に首を切らせ(→ん?)、女官と言う名の破落戸からは金を巻き上げ回収し、過去の人生で磨いた芸と伝手と度胸をもって後宮に新風を、世に悪妃の名を轟かす。  太夫(NO花魁)、傾国の娼妓からのやり手爺を2度の人生で経験しつつ、3度目は後宮の数打ち妃。 「これ、いかに?」  と首を捻りつつも、今日も今日とて寂れた宮で芸を磨きつつ金儲けを考えつつ、悪女達と渡り合う少女のお話。 ※1話1,600文字くらいの、さくさく読めるお話です。 ※下スクロールでささっと読めるよう基本的に句読点改行しています。 ※勢いで作ったせいか設定がまだゆるゆるしています。 ※他サイトに掲載しています。

月夜の理科部

嶌田あき
青春
 優柔不断の女子高生・キョウカは、親友・カサネとクラスメイト理系男子・ユキとともに夜の理科室を訪れる。待っていたのは、〈星の王子さま〉と呼ばれる憧れの先輩・スバルと、天文部の望遠鏡を売り払おうとする理科部長・アヤ。理科室を夜に使うために必要となる5人目の部員として、キョウカは入部の誘いを受ける。  そんなある日、知人の研究者・竹戸瀬レネから研究手伝いのバイトの誘いを受ける。月面ローバーを使って地下の量子コンピューターから、あるデータを地球に持ち帰ってきて欲しいという。ユキは二つ返事でOKするも、相変わらず優柔不断のキョウカ。先輩に贈る月面望遠鏡の観測時間を条件に、バイトへの協力を決める。  理科部「夜隊」として入部したキョウカは、夜な夜な理科室に来てはユキとともに課題に取り組んだ。他のメンバー3人はそれぞれに忙しく、ユキと2人きりになることも多くなる。親との喧嘩、スバルの誕生日会、1学期の打ち上げ、夏休みの合宿などなど、絆を深めてゆく夜隊5人。  競うように訓練したAIプログラムが研究所に正式採用され大喜びする頃には、キョウカは数ヶ月のあいだ苦楽をともにしてきたユキを、とても大切に思うようになっていた。打算で始めた関係もこれで終わり、と9月最後の日曜日にデートに出かける。泣きながら別れた2人は、月にあるデータを地球に持ち帰る方法をそれぞれ模索しはじめた。  5年前の事故と月に取り残された脳情報。迫りくるデータ削除のタイムリミット。望遠鏡、月面ローバー、量子コンピューター。必要なものはきっと全部ある――。レネの過去を知ったキョウカは迷いを捨て、走り出す。  皆既月食の夜に集まったメンバーを信じ、理科部5人は月からのデータ回収に挑んだ――。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

処理中です...