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第二章 再び遠き理想郷

その2 やっぱり、ここは……ファンタジー世界!?

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 布の服を作るには当然だが繊維が必要だ。
 繊維をとる動物か植物が必要である。
 パピルスはあるけど、ゴワゴワなのだ。
 それを加工しても、柔らかい竹細工のようにしかならない。 
 麦わらもダメだ、麦わら帽子で服を作ってみるのを想像してみるがいい。
 硬い、痛い、チクチクする、エロい。
 近所に羊やアルパカのような繊維がとれる動物はいないだろうか。
 そういえば、マンモスが居たな。
  
 「なあ、シリー、ここで毛が多いもこもこの動物を見たことはないか?」
 「もこもこ? もこもこ知らない?」
 「いただろう、はなのながい、パオーンて鳴く象と、毛の生えた象が」
 「ぱおーんとなく、いる! でも、もこもこじゃない」

 マンモスは絶滅したのか?
 それとも北上していったのだろうか。
 ならしょうがない、 植物性のもので なんとかしないといけない。
 麻か綿があるといいんだが。
 麻からは麻布が作れる。
 綿からは木綿が作れる。

 ん!? 待てよ!?
 俺が、過去の世界だか、異世界だかに来たのには理由や使命があるはずだ。
 
 「なあ、シリー、何か困った事や敵はいないか?」
 「しりー、こまってない。てきいない、たべものいっぱい、 みんなでかりして、はたけでとって、おどってうたって、ねるー。かみさまもいっしょ!」

 どうやら何か問題があって俺がここに召喚されたわけじゃないみたいだ。
 あれ? みんなで?

 「シリー、狩りはみんなで行くのか?」
 「いけるひと、みんなで! たべるのもみんなで! まってるひと、おすそわけ!」
 
 これだ!
 ここが時代のターニングポイントだ。
 自然からの恵みが十分に豊かなのだ。
 狩りが不猟となることも少なく、その場合でも畑からの恵みで十分に食べていける。
 季節は温暖と言うか熱帯で、季節による変動も少ない。
 この満たされた環境が、こいつらに新しいことをさせる機会や精神を失わさせているのだ。 
 おそらく、この村の人口が増え、狩りで食料が賄えなくなった時、本来ならば歴史が動くのだろう。
 狩猟生活から、農耕生活へのシフトだ。
 食糧危機となった時に俺が来たのではもう間に合わない。
 だから今のうちに俺が呼ばれたのだと思う。
 ならばやるべきことは一つ、農業改革だ。
 収穫量を上げ、食料だけではなく、衣料にも活用できる植物を栽培できるようにする。
 そのために必要なのは灌漑かんがいだ。
 今は水辺の近くでしか栽培ができない。
 水路を敷いて、栽培面積を増やすのだ。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 俺は早速、周囲の地形を確認することにした。
 ここは、あのルーが住んでいた崖の下だ。
 俺が召喚された場所も、洞窟が拡張された所だった。
 この崖を登ればいいのだが、道具なしでは無理だろう。
 しょうがないので一番高い木に登ることにした。
 糸はなくとも紐はある。
 植物の蔓で作られた紐と縄はまだ健在だった。
 これを使って輪を作り、 それを周囲に巻きつけることで木登りの補助とすることにした。
 木の上から見ると全体の地形が少しわかってきた。
 以前より森が小さい。
 全体的にサバンナ化しているのであろう。
 俺は周囲を見て見つけた、一番大きいと思われる川、いや大河を。
 昔、泥をとった川はその支流だ。
 よし、まずはあそこに行ってみよう。
 半日も歩けば到着するだろう。


 俺はいつものバッグとナツメヤシの実のお弁当を手に大河に向かった。

 「かみさま、どこいく? しりーもいっしょ!」

 シリーがついてきた。
 
 「川に行くんだ」
 「かわー? かわこっち。そっちだめなかわ」

 だめな川? 
 いや、俺が行きたい川はこっちなんだよ。
 俺はの声を無視して大河へと向かった。
 シリーが、何度か俺を引き止めようとするが俺はそれを無視する。  
 そして川へ出た。
 
 やはりそれは大河だった。
 向こう岸は水平線の様にも見え、対岸の植物が見えなければ、俺はそれを海と錯覚したかもしれない。
 これならば十分な水量があるだろう。
 よしここから水路をひらいて畑作地帯にしよう。
 考慮しなきゃいけないの雨季と乾季だな。
 気候からして、必ず雨季は存在する。
 ルーの時も長雨が降った記憶がある。
 そして俺は川岸へ近づく。

 「かみさま! あぶない!」

 シリーの叫びが聞こえた。
 ワニでもいるのか!
 俺は身構えた。
 だが川から現れたのは……
 二足歩行する魚だった。
 やっぱ、ファンタジー世界じゃないですか、やだー!
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