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第十二章 到達する物語とハッピーエンド

楊貴妃と薺(なずな)(その1) ※全9部

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 天国のおばあさま……、おばあさまの愛した何処何某いずこのなにがしを中心に、日本が魔国になろうとしています。
 地獄門が開けば、日本が魔国になるという話ですが、具体的にはどういうことなのでしょう。

 「コココンコンッ、コココンコンッ! さあ! 悪事に身を染めた亡者のみなさーん! 現世うつしよで再び生を受け、思うがまま悪事を繰り返しなはれ! この日ノ本を悪徳で満ちる魔国とするのです!」
 
 なるほど! それは一大事!

 「おい、橙依とーい、お前『珠子姉さん、図太過ぎない?』と思っただろう」
 「……うん、今はそれどころじゃないけど」

 橙依とーい君たちが迫りくる亡者の魂をの群れをなぎ倒しながら、あたしの方をチラリ。

 「やってくれたものよ玉藻」
 「ええ、やり遂げました。大蛇の嫡男さん。これでわっちの使命は九分九厘くぶくりん果たしたも同然」
 「その使命を与えた上司が大嶽丸と同じ第四天魔王か」
 「嫡男さんはそつがありませんなぁ。そうどす。大センパイの大嶽丸が女にうつつを抜かして負けちゃいましたから。後任で派遣されたのが、わっちでございます。残り一厘いちりんも間もなく。地獄で待っていた第四天魔王様の配下、わっちのクラスメイトたちが群れをなしてやって来ます。そうしたら、地獄門を閉めようとする輩は誰も近づけません。たとえ国津神の軍勢でも」

 第四天魔王!?

 「ねぇ、橙依とーい君。第四天魔王って、あれよね、織田信長が名乗っていたやつよね」
 「……違う。それは第六天魔王。第四天魔王はそのちょっと下」
 「もっと詳しく」
 「……簡単に説明すると、仏教の教えは輪廻とそこからの解脱が目的。輪廻する世界は六つ、六道輪廻りくどうりんね

 おお! なんか橙依とーい君と一緒に見たアニメの黄金乙女っぽい技!

 「……その六道は地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天上界。僕たちのいる現世うつしよは人間界。悪行を積むと地獄逝き、善行を積めば天上界にいける」
 「なるほど! おばあさまのいる所ね」
 「……多分そう。さらに天上界も細部に分かれている、天上界の一番下に六欲天ろくよくてんって世界があって、そこでは善行を積んで天上界に行けたけど、まだ解脱するには欲望がアリアリの者が住む世界。六欲天は六が1番上、その四、第四の天で上のステージへの解脱を妨げるのが第四天魔王。第四天から次のステージに上がるには五欲ごよく、五感を刺激する欲望を捨てるのが条件。珠子姉さんには無理」

 むー、なんか馬鹿にされたような気がする。
 
 「わかったわ!」
 「フフフ、そこの小娘でもわかりましたか。第四天魔王様の偉大さが」
 「つまり、第四天魔王って第六天魔王の織田信長のふたつ下くらいでしょ! 具体的には”汁かけ飯”の汁の分量を見誤った北条氏政ほうじょううじまさくらい!」
 
 …
 ……
 ………

 「あれ? 合ってるよね? 北条氏政の”汁かけ飯”のエピソード、みんな知ってるよね?」

 ちょっとマニアック過ぎたかしら。

 「左様でございますな。戦国大名としての北条、その最後の当主”北条氏政”は汁かけ飯が好きであったが、その汁を2度かけたことを父、氏康うじやすに見られ『飯にかける汁の量も計れぬとは、北条家もわしの代で終わりか』と呆れられた逸話がございます」
 「さっすが鳥居様! ですよねー、有名ですよねー」

 あれ? まだみんなの視線が冷たい。
 黄貴こうき様だけは”よくやった”みたいな目で見てくれてるけど。

 「ぶっ……、ぶっ殺したる! 亡者ども! あの珠子の小娘とジジイを真っ先に血祭りに上げりっ!!」

 顔を真っ赤にした玉藻の命令で、亡者の魂が一気にあたしと鳥居様に!?
 どうして!?

 「おい、お前、本気でそう思っているから大したもんだぜ。あっちの爺さんは違うのによ」
 「さすがでござるな」
 「……本当。でも、これでまとめて倒しやすくなった」
 
 雷獣の渡雷君と橙依とーい君がパリッバリッっと帯電。

 「「双雷一閃そうらいいっせん!!」」

 出た! ふたりの合体技!
 一条の閃光となったふたりがあたしに近づく亡者の魂たちをまとめて切り裂く。

 「まだどす! 亡者は地獄門が開いている限り、いくらでも湧きます!」
 「そうかな? 地獄門を閉める方法があるとしたらどうだ?」
 「コココンコンッ! それは絶対無理でありんす。たとえ知っていても、それを実現できるはずが……」

 ん? 玉藻の顔が少し赤くなったり青くなったり……

 「また、やってくれましたね! この男は!」
 「ハハハ、同じ手は二度は喰うまいと思っていたが、女中と鳥居が上手くお前の心を揺さぶってくれたからな!」

 黄貴こうき様がそう言って親指を上に上げ、それを見たさとりの佐藤君もサムズアップ。
 そっか、心の読める佐藤君を使って玉藻から情報を聞き出そうとしていたのね。
 
 「『女子供、負傷した者、非戦闘員は戻れ! ここは我らが守りぬく!』」

 黄貴こうき様の権能ちからある言葉に促され、あたしたちは入って来た扉に向かって走り出す。
 そして、あたしたちの背中を守るように立つみなさん。

 「ガッハハ! 防衛戦ということか! これは面白い」
 「アタシも頑張っちゃうもん!」
 「やだねぇ。張り切り過ぎて俺っちはもうクタクタだぜ」
 「亡者どもの相手は拙僧たちに任せて下され」
 「というわけさ、あおり上手な珠子さん。助っ人の算段、待ってるぜ!」
 
 頼もしくもあるけど、あの数の亡者の魂を相手にずっと守り抜けるとは思えない。
 だから!

 「ちょっとだけお待ち下さい! すぐに地獄門を閉じるレシピと材料を引っさげて戻ってきますから!」

 あたしの出来る限りの大声に、残ったみなさんは少し笑った気がした。

◇◇◇◇

 「では発表して頂きましょう! 地獄門の閉め方を! 佐藤君! お願いします!」

 あの地下空間を脱出し、再び何処何某いずこのなにがしの宴会場に戻ってきたあたしは、檀上に佐藤君を上げて拍手する。

 「なんでアンタが仕切っているのよ。それはヒーローの役割でしょ」
 「そうだな。ここは心の清い君が相応しい。もしくは、あのご老人だな」
 
 うっ、女の子たちの意見が厳しい。

 「左様ではござらん。儂は所謂いわゆる参謀さんぼう。矢面に立つのは不得手。その役は珠子殿に譲ろう」
 「そうだぜ。俺はこの女こそが地獄門を閉じる鍵だと思っているぜ」
 「……こんなに根拠のない台詞も珍しい。でも、僕もリーダーは珠子姉さんでいいと思う。それよりも早く事を進めないと」

 橙依とーい君がそう言うと、佐藤君が軽く頷く。
 そうよね、誰がリーダーかなんて気にしている場合じゃない。

 「それじゃあ発表するぜ。地獄門を開ける条件は天より下った鬼、地より出でし鬼、人より生じた鬼の三鬼の同意と宣言が必要だった。ここでの地は死の国、地獄や黄泉のことな」
 「開いちまったのは俺がポカしたおかげだな」
 「しょうがないでござるよ。天野殿はそうしてしまう”あやかし”でござるから」
 「……そんなことはない。玉藻が一枚上手だっただけ」

 橙依とーい君の言う通り、玉藻の作戦は見事だった。
 大嶽丸が破れ、あたしたちみんなを敵にするというあの不利な状況から、一気に逆転する手があったなんて。
 
 「それよりも、閉め方! ランランが心配だわ。ランランってとっても強いけど、無限に権能ちからが使えるわけじゃないのよ」
 「赤好しゃっこうさんも心配です。物量で攻められると、いくら幸運の抜け道がえる赤好しゃっこうさんでも厳しいと思いますわ」
 「それに黒龍さんも。黒龍さんって実力はありますけど、抜けていますから」
 「わあった。それじゃ言うぜ。さっきの玉藻の心を」

 アリスさんに、雨女さん、つらら女さんの声に促されるように佐藤君が口を開く。

 「地獄門を閉めるのは、開けるのの逆。天に上った人、地より戻りし人、人の世で生きる人の三人の同意が必要だ。一度死んで天に上った人間。現世うつしよなら神使とか神になったやつとか転生したやつだな」
 「なら天神様を頼りましょう! ここからなら北野天神が比較的近いです」

 緊急事態ですもの天神様はきっと協力してくれる。

 「……人の世に生きる人は簡単。どこにでもいる。だけど”地より戻りし人”、これが難解。死んで幽世かくりよの先まで行ってよみがえった人はレアキャラ」
 「はいはーい! あたし! あたしは四半世紀も臨死体験をしてるわ! あたしならその資格があるんじゃない?」
 「……そうかも」
 「なら、普通の人代表はあたしで。誰が天神様を連れてくるかですが、ここは足の速い……」

 ポロロン

 「ミタマさん何か?」
 
 あたしたちの作戦を打ち切るようにミタマさんの琴が音を立てる。

 「お話はわかりました。天神を連れてくるのもよろしいでしょう。場合によっては吉備真備様か阿倍仲麻呂様の方でも、お早い方をご自由に。ですが、ここで、こちらとそちらは別行動とさせていただきます」
 「そうね。わたしもそうするわ」

 別行動? ミタマさんとコタマちゃんが!?

 「どーして? コタマちゃん。あそこはあぶないよ。あのわるーい魂はボクの権能ちからで追い返しても新しいのがたくさん来ちゃうよ」
 「そうね。それに、何度倒しても復活するでしょうね」
 「ならどうして? もうすぐ、あのタマモのなかまもやって来るって言ってたよ。とってもあぶないよ」
 「言ったでしょ。わたしの、ううん、わたしたちの目的は別にあるって」

 何度か聞いているコタマちゃんの目的。
 春先のころ、相方を助けに京都へ行くと聞いたのが始まり。
 そして今も、この何処何某いずこのなにがしに来た目的は別にあると。
 
 「コタマちゃん、それって、あの玉藻と合体している玉環タマタマさんのことでしょうか」
 「そうよ。とっくに気付いているだろうけど、彼女もわたしたちと同じ九尾の狐の分体。彼女を玉藻から引き剝がすのがわたしたちの目的よ」
 「玉環タマタマさんって楊貴妃なんですよね。唐の玄宗の愛妃の」

 楊貴妃という言葉に周囲がざわつく。

 「九尾の狐? それって妲己だっきの転生体? だめよ! ヒーローは私だけのものなんだから!」
 「唐の玄宗は最初は名君だったが晩年は安禄山に反乱を起こされたと聞く。その原因となった楊貴妃? 心の清い君がたぶらかされないか心配だ」

 九尾と中華美女、その組み合わせが行き着く先。
 それが古代中国を滅ぼしたいんの妲己につながるのは、ある意味自然。
 だけど違うの、彼女は違うの。

 「違います! 違います! ミタマさんもコタマちゃんも妲己じゃありません!」
 「本当に?」
 「本当です、きっと」
 「証拠は?」

 うっ、そう言われるとつらい。

 「しょ、証拠はないけどわかります! 彼女たちは悪い方じゃありません! 接客業10年のあたしの勘です!」
 「ふーん、接客業の勘ねぇ」
 「10年程度でわかると言われてもな。相手は千年どころか数千年妖狐だぞ。舞台の花形だ」

 圧が、圧が強い、九段下さんと若菜姫さんの圧があたしにのしかかる。

 「珠子殿の勘がおそらく正しかろう。そもそも中国では九尾は吉をもたらす瑞獣ずいじゅうとも伝えられておる。それに、ホレ」

 助け舟を出してくれた鳥居様が示す先は佐藤君。

 「さとりの小僧が逃げ出しておらぬのが何よりの証拠。稀代きだいの悪女、妲己の分体の心を読んでいるなら、裸足で逃げ出すであろうよ」
 「それもそうね」
 「さすがは鳥居殿。その言葉は重みがある」

 ふたりとも、あたしの時とは態度が違い過ぎませんかね。
 
 「……珠子姉さんは料理がからまないと説得力が落ちるから」

 橙依とーい君の視線を受けてコタマちゃんはハァと溜息。

 「よく間違えられるのよ。ま、慣れたけどね」
 「風評被害もいいところです。九尾の美女はみななげいています。オヨヨ」
 「わからぬのは何故、楊貴妃が日本におるのかだ? 安禄山の乱の折、玄宗は蜀の地へと逃亡した。その途上の馬嵬駅ばかいえきで楊貴妃は殺されたと伝えられているが」
 
 ポロロン

 「ご老人。その時の話の詳細をご存知でございますか?」
 「無論。安禄山の反乱は楊一族の専横にあると考えた兵士が、その元凶の楊貴妃をちゅうすべしと断じ、玄宗もそれに従わざるを得なかったと伝えられている。手を下したのは玄宗の幼きころからの忠臣にて宦官の高力士こうりきしであると」
 「その高力士が助けてくれたのです。密かに長安の阿倍仲麻呂様と連絡を取り、その手引きで太宰府の吉備真備様の下へ逃れることが出来ました。その後は恩を返すために日ノ本で活動することにしたのです。湯田の温泉を堀り当てたのも、その頃でございます」

 あ、湯田の狐吉こきちさん。
 狐吉さんたち白狐の一族も伝説の白狐に湯田の温泉を授かったって話をしてた。

 「あとはあなたたちの知っている伝説とほとんど同じよ。そのまま日ノ本の人のために全国を行脚していた時。玉藻が現れたのよ。これも妲己とは無関係ね。だって二尾程度だったもの」
 「はい、第四天魔王の命を受けたとはいえ、九尾に比べて遥かに格下。人間の陰陽師程度に見破られる程度でございました。数多くの仙人ですら手玉に取った妲己とは比較になりません。箔をつけるために、九尾だと喧伝していたようですが」
 「でも悪知恵と狡猾こうかつさは見事だったわ。関東で悪いエロ国司の手からを女子供を隠し里に逃がしていたわたしたちに婦女子誘拐の罪を着せたのですもの。そのせいで朝廷から討伐隊が送られちゃったわ」
 「こちらは日ノ本の人に恩がありますから、殺す気で戦うことは出来ませんでした。せいぜい幻覚や許しを請うくらい。ですが玉藻の奸計かんけいに乗せられた人間は止まらず、遂には討ち取られてしまったのです」
 「左様であったか。玉藻前の伝説では、宮中で正体を見破られた玉藻は関東に逃れ、そこで九尾の狐として朝軍に討たれ殺生石と化し、その殺生石も後の世で玄翁和尚げんのうおしょうに砕かれたと伝えられているが、裏にそんな話があったとは」

 玄翁和尚のことはあたしも知っている。
 日本のハンマー、玄翁げんのうの語源にもなった偉人。
 肉の筋を切ったり柔らかくするためのミートハンマーも広義では玄翁なのよね。

 「……珠子姉さんの料理脳には少し感心する」
 「だな。そして、そこの姉ちゃんの言っていることは本当だぜ、俺が保証する」

 そっか、さとりの佐藤君が言うのなら間違いないわね。

 「ありがと。砕かれたわたしたちは少しずつ集まって復活しようとしていたけど、悪評が多くってね。復活には1000年の時を要したわ。しかも一部は玉藻に吸収されちゃっているし」
 「あの子は、一意専心一途狐いちいせんしんいちずのきつね阿環アタマは目的のためには手段を選びませんから。復活するにはそれが最も早いと踏んだのでしょう。事実こちらよりも早く復活していました」
 「左様であったか。阿環アタマとは楊貴妃の本名”楊玉環ヤンユーファン”の幼き日の愛称。日本語に訳せば、タマお嬢様となる。考えてみれば、あの者は最初から自分が楊貴妃だと名乗っておったということか」

 スゴイな鳥居様は、何でも知っている。
 あたしは楊貴妃の好物しかしらないのに。

 「それで、アタマさんの目的って何ですか? みなさんと一緒になって九尾に戻ることですか?」
 「それもあると思うわ。でも、きっと玄宗の墓参りでしょうね」
 「あの子は玄宗にベタ惚れでしたから。その死を知った時には分裂してひとりで唐へ帰るって聞きませんでしたわ」
 「コタマちゃんも”げんそう”って王様が好きなの?」
 「全然好きじゃないわ。九尾くらいになるとね、いくつも心があるの。人格といってもいいわ。そして好んだ相手に合わせて誰がメインを張るか相談して決めるのよ。ちなみに玄宗にゾッコンだったのがアタマ、かなり好きだったのがミタマよ」
 「最後はこちらが熱意に負けて譲りました。ですので、ファイナル楊貴妃とアタマは同一人格とみてよろしいでしょう」
 「これでわかったでしょ。わたしたちが別行動するって言った理由が」
 「天神が来て全て解決してくれるのは嬉しいのですが。それだと玉藻と一体化している彼女まで一緒に調伏されかねません。ですので、その前に救出したいのです」

 なるほど、そういうことだったのね。
 困ったな、あたしが天神様から依頼されたのは玉藻と玉環タマタマ、つまりアタマさんの抹殺か捕獲。
 抹殺は無いにしろ、捕獲するとコタマちゃんとミタマさんにまで罪に問われかねない。

 「……気にしちゃダメ。それよりも地獄門を閉める方が優先」
 「そうね。幸い、わたしたちの目的とあなたたちの目的は競合しないわ。お互いベストを尽くしましょ」
 「協力出来る譜面がありましたら協力致します。それがよろしいかと」
 「わかりました。じゃあ、連絡役は渡雷君が……」

 算段が付いて作戦を相談を始めようとしたあたしの耳に、

 カタリ

 小さな音を立てて扉が開く音が聞こえた。
 そこには血まみれの鬼。
 扉をゆっくりと、ううん、もう勢いよく開ける力なんて残っていないのかもしれない。
 鬼は、血まみれの鬼、大嶽丸は扉を開けて足を引きずりながらあたしたちへ近づく。

 「今更何の用だ大嶽丸。もはや勝敗は決した。動くのがやっとの貴様では、この状態の俺様でも倒せるぞ」
 「酒呑童子、お前との決着に異存はない。オレの負けだ。だが地獄の、故郷の風がオレに与えてくれた最後の活力ちから。それで為すべきこと為す」

 一瞬、それは文字通り瞬きするほどの刹那。
 大嶽丸の妖力ちからが戦っている時と同じように大きくなり、その身体から粉雪よりもっと小さい氷の霧が噴出する。

 「目くらましか!? 橙依とーい! 珠子を守れ!」

 え!? 目的はあたし!?
 視界が真っ白になり、あたしはそこから出てくる鬼から身を守ろうと必死に防御の体勢を取る。

 「もはや道はない! オレと共に地獄へ! 立烏帽子!」
 「やなこった!」

 あたしじゃない! 大嶽丸の目標は立烏帽子さん!

 ザンッ!!

 氷の霧の中で聞こえたのは何か鋭い刃物が肉を切り裂く音。
 そして視界が再び開けた時、あたしが見たものは二本の刀で銅と首を貫かれている大嶽丸と……。
 その二刀を手にしている白の水干すいかんくれない長袴ながばかまに立烏帽子を被った白拍子しらびょうし
 彼女は……

 「たてえぼ……」

 あれ? 違うな、そうそう、彼女の名は……。
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 「鈴鹿御前すずかごぜんさん!」
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