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第十一章 探求する物語とハッピーエンド

塵塚怪王と塵(ゴミ)を称える料理(その2) ※全4部

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◆◆◆◆

 「ふむ。長子殿は気付いておったか。五子殿が先んじていたことに」
 「あれだけ言葉に含みを持たせられれば気付かぬ方がおかしいですからな」
 「まあ、そう言うな。かつての友の子が時を同じくして、ふたりも来たのだ。ならば、双方の力量を量ってみたくもなるもの」
 
 やはりそうか。
 これならば八岐大蛇ヤマタノオロチの子は確実に妖怪王へと至る道を知ることが出来るであろう。
 少々意地が悪い。

 「ふむ。八岐大蛇ヤマタノオロチの子らよ。余の前で競い合い、どちらが優れているか示すがよい。その見物料を対価として、勝った方に”妖怪王へと至る道”を教えよう。競技は何でもよいぞ。双方で納得のゆく競技を決めるがよい」

 いや、これは破格の条件か。
 ”妖怪王へと至る道”の対価として、無理難題や無理無体むりむたいを押し付けられるより遥かにマシ。
 例えそれが、弟との対決であっても。
 
 「蒼明そうめいよ、ずいぶんと楽しそうな恰好ではないか。これから我と対決する事になるというのに」
 「これは余裕というものです。戦は始める前までに決まるもの。勝利への布石は万全です」クイッ
 「ほう、となると何で雌雄を決すかは決めているようだな」
 「ええ、男らしく拳で決めるのも悪くはありませんが、ここの瓦礫がれき灰塵かいじんに帰すのも迷惑ですからね。ここは”料理対決”といきませんか? お題と審判は公平に塵塚怪王殿。もちろん、陣営戦で」クイッ

 陣営戦……つまり、お互いの陣営から代表者を選んでの対決ということか。
 こちらには女中がいる。
 女中と蒼明そうめいは何度か料理勝負をしているみたいだが、蒼明そうめいでは手も足も出ずに敗北している。
 蒼明そうめいでは女中に勝てまい。 
 すると、人間の料理人を雇ったか?
 女中は『あたしなんて人間の中ではまだまだですよ』と言っておった。
 一流の料理人が相手なら、女中とて遅れを取るやもしれぬ。
 いや、違う。
 まだ何者かが隠れている気配はあるが、それは人のものではない。
 すると、蒼明そうめい側の代表は他の”あやかし”か?
 料理において、人間を上回る”あやかし”など聞いたことが無いが。
 だが、あの自信。
 蒼明そうめいは必ず勝てる策を練っているはず。
 蒼明そうめいはそういう男だ。

 「さて、どうします?」クイッ
 
 ……ええい、ままよ!
 我は女中を信じる! 
 
 「よかろう! 料理対決受けた!」
 「よろしい! なら、私の陣営の代表はこちらです!」シャキーン

 蒼明そうめいの合図で闇より現れたのは、獣の耳と尻尾を備えた女。
 明るい茶系のウェーブがかった髪、明るく大きな目に褐色の肌、黒が基調のパリッとしたタンクトップにホットパンツの軽装へそ出し姿。
 我の好みとは違うが、世間的には美女で通るだろうな。 
 赤好しゃっこうの読んでいる雑誌に載っているようなギャル系というやつか。

 「こ、この妖力ちから、気配、お主……ひょっとして!?」

 その姿を見た讃美がその正体に気付いたように声を震わせる。

 「紹介しましょう。彼女はおタマさん。故あって、私の客将を務めています」
 「そう、オレはおタマ。今のボスはこの男だぜ。褐色臍出随一狐かっしょくへそだしずいいちのきつね、おタマって呼んでくれよな」

 そう言っておタマという女は片目をつぶる。
 言葉使いは少々乱暴だが、男ならばそういった飾らない口調が好きな者もおるのであろう。
 
 「気を付けられよ、主殿! あやつ殺生石より生じた九尾の分身じゃ!」
 
 九尾……、それはかつて平安の世で朝廷を脅かした日本三大妖怪のひとり『白面金毛九尾狐はくめんこんもうきゅうびのきつね』。
 殺生石に封じられ、その殺生石もバラバラに砕かれ各地に散ったと聞いておるが、その中のひとつが分身として復活したか。
 確かに名に恥じぬ妖力ちから
 戦えば無事では済まぬだろうが、これは料理対決。
 
 「蒼明そうめいよ、確認するがだな」
 「もちろん。術や荒事は当然禁止。純粋な味と料理に込められたメッセージ性の勝負」クイッ
 「そうか、ならばこちらの代表は!」

 我は最も信頼のおける者の名を宣言しようと……。

 「あ、ちょっと待って下さい」クイッ
 「どうした?」
 「珠子さん。前に東北旅行した時の約束を覚えてますか?」クイッ

 約束? 何のことだ?

 「え、えっと……、実方雀さねかたすずめさんと十六夜姫いざよいひめの時のことでしょうか」

 女中の顔が渋い。
 何やらよくない約束なのか!?

 「よく覚えてました。ここで『忘れちゃった』とでも言い張るのなら、私は貴女を軽蔑けいべつしなくてはいけませんでしたよ。ああ、侮蔑の言葉や視線が欲しいならいいですよ。今からそう言っても」クイッ
 「あ、相変わらずの鬼畜ぶりというか何というか……。蒼明そうめいさん! あの時からこの状況を想定して仕込んでいたんですね!」
 「あたり前でしょう! 貴女は私を何だと思っているんですか!」クイッ
 「鬼畜眼鏡軍師ですっ!!」
 
 女中の叫びに蒼明そうめいは満足そうにニヤリと笑う。
 
 「ど、どうした女中よ!?」
 「ご、ごめんなさい黄貴こうき様! 珠子は事情があって今から早退しますっ!」
 
 女中はそう言うとタッと駆け出して蒼明そうめいの隣で半回転。

 「た、珠子殿。ま、まさか……」
 「う、うらぎりじゃー! それは主殿への叛乱じゃぞ!」
 「やりおったな蒼明そうめい!!」
 「そうです! 珠子さんは私と約束をしていたのですよ! 私が料理対決にする時に一度だけ、どんな相手だろうと味方すると!」

 まさか、これを仕込んでおったとはな!
 要の時に裏切りが出るのも王道!
 されどよくないっ!
 くっ、数多くの王が裏切りにより敗れたのも納得がいく。

 「代表はおタマさん! そしてスーパーアドバイザーに珠子さん! これが料理勝負で決して負けぬ勝利の布陣です!」キラーン。

 盤石の布陣、無双の仲間、そして絶対の自信。
 それら全てを備え、蒼明そうめいは高らかに言う。
 勝利を確信した顔で。

◆◆◆◆
◇◇◇◇

 ……とまあ、こんな具合で我は少々危機に陥っている。
 大物との席で裏切り行為を働くなど、言語道断ごんごどうだん不逞ふていの行為。
 世が世なら、その場で切り捨てられてても文句は言えぬ。
 まぁ、女中はそこまでは考えておらぬのだろうがな。
 
 我が陣営で女中に次いでの料理の腕なら”傾国のロリババア”こと讃美が適任。
 女中ほどではないにしろ、料理の腕は上々である。
 だが、勝つのは至難。
 加えて、勝てたとしても裏切り者の女中をどう処断するかが問題になる。
 するとやはり……。

 「よかろう。ならばこちらからは我自らが出よう」
 「殿!? 正気でございますか!?」

 ひどい言いようだな鳥居。
 正気だ、正気だからこそ我が出ようとしているのに。

 「珠子殿! 本当に裏切ったのですか!? 何かの策ではなく!?」

 ほんの少しの期待を込めて、鳥居が女中を、いや珠子を見る。

 「主殿あるじどの、ここは妾があやつらをらしめるゆえ、どうか抑えてたもれ!」 
 「ダメだ。ここは我自らが出る」
 
 讃美の申し出はありがたいが、ここは我が出るべきなのだ。
 我が。

 「役者はそろったようだな。では始めるがよい。料理対決を! ”余を称える料理”、それが余の望む料理だ! より気に入った料理を出した側にに”妖怪王へと至る道”を教えよう。この塵塚怪王ちりづかかいおう直々じきじきにな!」

 楽しむように塵塚怪王が宣言する。

 「おてやわらかに、なんて言わねぇ! オレが一捻りにしてやる! 妖怪王候補だか、八岐大蛇ヤマタノオロチの長男だが知らねぇが、台所とベッドでオレに勝てると思うなよ!」
 「やれやれ、騒々しい。我が認める女中が相手ならともかく、そちでは役不足よ。蒼明そうめい、今からでも女中、いや珠子に代表を代えてはどうだ?」
 「その手には乗りません。勝負に心は何よりも重要。裏切った負い目のある珠子さんでは実力を発揮できないでしょう。もし、私が兄さんと同じ立場ならその弱点を突きます」クイッ

 流石は我が弟の中で最も切れ者よ。
 隙がない。

 「ふん! オレの頭越しに言いたい放題言ってくれやがって。それに知ってるぜ、あんたは言葉に重きを置いているって話を」
 「いかにも。王たるもの、自らの言葉に責任を持たねばならぬ」
 「ぷっ、それが”役不足”たぁ知識不足もいいとこだぜ。教えてやるよ、役不足とは本当は”役者不足”のことなんだぜ」
 「間違えておらぬ」
 「だからぁ、役不足とは”役者不足”のことで……」
 「”役者不足”とは与えられた役割がその者にそぐわず不満を持つ時に使うのであろう。そちが最も輝く舞台はベッドの上ではないか?」

 我の言葉におタマという女は一瞬顔を紅潮させ、いやらしく舌なめずりをする。

 「言うじゃねぇか。その通りだぜ」
 「だったら今からでも代わったらどうだ?」
 「ダメだね。オレは勝つためにここに居る。役割に不満があろうと、勝てばいいのさ!」

 女はそう言ってクルッと後ろを見ると、その妖力ちからを高める。

 ビクンッ!

 珠子の身体が硬直し、その瞳がグルンと白目をむく。

 「何をしているんです! おタマさん!!」
 「何って、料理の下ごしらえさ。今日のコンセプトと献立は、ふんふん、その材料もリュックの中にと……へぇ、やるじゃねぇか」

 女がフムフムと頷く度に、珠子の身体がビクッビクッと震える。

 「主殿! あれは胸中侵食読心術きょうちゅうしんしょくどくしんのじゅつじゃ! 珠子殿は無理やり心を読まれておるぞ!」

 讃美が少し焦ったように叫ぶ。
 なるほど、無粋な。

 「『止めよ下女げじょ』」

 我の権能ちからある言葉に、女の身体が強張り、そして珠子が頭をクラクラさせながら膝を着く。

 「おやまぁ、術の類は禁止じゃなかったのかい? それじゃ、勝負はそっちの反則負けってことで」
 「何を御託を。裏切り者とはいえ、我らの縁者を術で攻撃したのはそちらが先であろうに」

 女と我の視線が空中で交差し、場の雰囲気が重くなる。

 「お止めなさい、おタマさん。今のはこちらに非があります。大丈夫ですか? 珠子さん」
 「んもう! なんですか! 意を決して裏切ってみれば、最初にフレンドリーファイアだなんて! あたしは蒼明そうめいさんに味方するんですから! あなたには味方しませんからね! ぷんすか!」

 頬をふくらませて抗議する所を見ると、さほど心身に影響はなさそうだな。
 我は元気に立ち上がった珠子の姿を見て安堵あんどする。

 「いいぜ。知りたい情報は知ったからな。しかし、こいつの裏切りは相当なもんだな。そいつは胸中で、身も心も今日だけはボスに捧げるくらいって思っていたぜ」
 「!?」
 「!?」

 我と蒼明そうめい動悸どうきが早くなるのがわかる。

 「くらいですっ! くらいっ! たとえ、たとえ!」

 なんだ、たとえか。
 我と弟は同時に胸をなでおろした。

◇◇◇◇

 「ふむ、余興としては良い見世物であった。では、本戦を始めるがいい」

 こうして塵塚怪王が出したお題、”余を称える料理”の対決は始まった。
 先に料理を出す先攻側が我。
 それくらいは譲りますと蒼明そうめいが言ったからだ。

 だが、状況はあまりにも不利。
 まず、食材がない。
 食材は裏切り者の珠子の荷物に入っていたためだ。
 次に調理道具がない。
 これも珠子の荷物に入っていたからだ。
 最後に腕が無い。
 我は料理なぞしたことがないのだから。

 ないない尽くしだな。
 だが、知恵はある、策もある。
 ならば、それで出来上がるものを出すしかない。

 「鳥居、讃美」
 「はい、ここに」
 「主殿、何か助けが必要かの」
 「食材の買い出しを頼む。鳥居はこれを、讃美はこっちだ」

 我はメモを渡し、鳥居と讃美はそれを互いに見せ合って難しい顔をする。

 「殿、この食材なら小一時間もあれば買い揃えられましょう。ですが、これで勝てますでしょうか?」
 「そうじゃ、そううじゃ。それに、こっちは出来合いの市販品ではないか」
 「よいのだ。それに鳥居。火打石を持っておったであろう」
 「はい、切り火用に」
 「それを借りるぞ。あとは我に任せよ」

 ふたりは不安そうに顔を見合わせたが、すぐにその場から去って買い出しに出た。
 流石は我の近臣。
 己のやるべきことを心得ておる。
 今は食材の入手こそ最優先だと理解した。
 我もやるべきことをしよう。
 我は手頃な石と燃えそうな枯れ枝を瓦礫の中から探す。
 そして、手頃なものを見つけた時、
 
 「おっ、やってるやってる」
 「……珠子姉さんがやらかしたと聞いて」

 場に緑乱りょくらん橙依とーいが現れた。

 「お前たち、どうしてここに!?」
 「余が声を掛けた。審査の補助としてな。かつての妖怪王に最も近づいた男と、最も若い妖怪王候補のひとりにな」
 「久しぶりだな廃棄王さんよ。あん時は世話になった。おかげで助かったぜ」

 そう言って緑乱りょくらんが塵塚怪王に軽く手を振る。

 「緑乱りょくらん兄さんは塵塚怪王殿と知り合いなのですか?」クイッ
 「昔、ちっとばかりな。一緒に大立ち回りした仲さ」
 「……僕は妖怪王になんて興味がないのに」

 そう言って橙依とーいは軽く溜息を吐く。

 「そんなに面倒くさそうな顔しなさんなよ。嬢ちゃんの手料理が食えるんだぜ。嬉しいだろうに」
 「……違う。そうだったらこんな顔してない」

 橙依とーいの視線の先は我の対戦相手の女。

 「残念だったな! 今日はオレの手料理だぜ!」

 紫の果実を手に女が橙依とーいに言い放つ。
 どうやら、下ごしらえが終わったようだな。

 「あれは……アケビだな。”塵塚怪王を称える料理”の対決とは聞いたが、アケビをどう使うのかねぇ」
 「……あと、あれは内臓の肉っぽい」

 続けて女が用意しているのは肉。
 橙依とーいの指摘通り内臓の部分だ。
 どうやら、女は珠子が準備していた通りの料理を作るようだな。
 珠子が試作で作ったゴミにちなんだ料理。
 それは我も認めた素晴らしきもの。
 この場であれ以上の料理は出来まい。
 だが、それでも我とて負ける気はないのだ。

 「あとはこれを叩いて味噌と合わせりゃっと」

 内臓の肉が包丁で細かく刻まれ、そこに味噌と香辛料スパイスが投入される。
 そして女は肉を拳大の形に成形する。

 「おっ、あっちの色っぺぇ姉ちゃんは内臓もつのハンバーグを作る見てぇだぜ」
 「……ちょっと違う。あれはホルモンハンバーグ」
 「そっか、そいつは美味そうだな。でも、黄貴こうき兄の方はどうなってんだ? 何もしてねぇぞ」
 「……サレンダーの構え?」

 うるさい、我もすることがなく困っているのだ。
 鳥居はまだか。

 「お待たせしました殿。築地で手に入れた”活貝の詰め合わせ”です。砂抜き処理済でございますぞ」

 鳥居が持って来た発砲スチロールの箱にはビニールに入れられた貝の数々。
 アサリ、ハマグリ……と巻貝が多数。

 「出来るだけ地方の珍しい貝をという指示でしたので、浅蜊アサリハマグリの他に、赤螺アカニシ団平喜佐古ダンペイキサゴを買い求めました」

 水の入ったビニールの中にはスーパーなどでよく見る貝の他に、殻口の赤い大型の巻貝と独楽コマのような形の巻貝が動いている。

 「あー、ナガラミだー! あ、ナガラミってのはダンペイキサゴの別名です。美味しいんですよ、あれ」

 独楽コマに似た貝を指差し珠子が『じゅるり』と舌なめずりする。
 なるほど、よいもののようだな。
 我は進物のひとつである陶器の平皿を取り出し、そこに貝をジャラジャラと入れ、水をひたるくらいかけ塩を少々。
 そしてそのまま火の横へ。

 「あああああああ! あれほど新鮮なアカニシだったら刺身にも出来るのに。それに煮るんだったらムラの出る置き火よりも焼き網でも立たせてその上で煮た方が……」

 珠子が何やら我の調理法に文句を付けているが、我はそんな方法は知らぬ。
 だが、調理法バリエーションもあった方がよかろう。
 煮るだけでもなく、焼きもやってみるか。
 皿はもうないので、平べったい石を洗って、その上に貝をカラカラと乗せ、これも火の横へ。

 「だから! だから! ムラになるんだってば! 向きを変えてまんべんなく火があたるように! 巻貝系は片側によせるとか! ほら! 殻口から美味しいエキスがこぼれちゃうじゃないですか! ああもう! 火が通り過ぎて身が固くなってますよ! ええい! あたしにやらせろ!!」

 文句たらたらにそう叫ぶ珠子を蒼明そうめいが『どうどう』と抑える。
 開いた貝の口から汁が地面に落ちるのが気に入らないのであろう。
 ええい、そんなにダメ出しするな。
 我も勝手がわからぬのだ。
 貝の焼き方なぞ、見よう見まねでしかわからぬ。
 だが、火は通ったようだな。
 そろそろか。
 
 「主殿! 買ってきたのじゃ!」

 讃美も戻って来た。
 頃合いだな。

 「よし、我はこれで出来上がりだ。先攻ゆえに先に供させてもらってもよいかな? 塵塚怪王殿」
 「よいぞ。余と客人に振舞うがいい」
 「へ? もう?」
 「これで完成なのですか?」

 珠子と蒼明そうめいが拍子抜けしたように言う。
 まあ、珠子であれば、これから味付けにひと工夫くふうを凝らしたり、流麗な盛り付けでも行う所であろうが、我にそんな技量はない。
 皿にジャラッと貝殻のまま盛り、讃美が買って来た出来合いの物を添え、最後に酒をぐだけが関の山よ。
 
 「さあ、塵塚怪王殿よ。これが我の料理、”語らぬ物語よ”」
 「物語なのに語らぬとは滑稽こっけいな! 王は結構けっこうな腕でございますっ!」

 瀬戸大将が我を称賛して……いるのだろうな。
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