218 / 411
第八章 動転する物語とハッピーエンド
馬鹿と馬方蕎麦(その3) ※全8部
しおりを挟む
◇◇◇◇
次の日、僕は昨日の出来事を渡雷たちに話した。
みんな蕎麦で行くことには同意してくれたけど、どうやって勝つかは気になっているみたい。
天邪鬼の天野が同意したのは、勝ち目の無い戦いで勝とうとするのが気に入ったからかな。
僕も同意。
ジャイアントキリングは男のロマン。
そして、僕は蕎麦での出店を申請。
「それじゃ、橙依の家に行って作戦を考えようぜ。お前の兄さんの話も聞いてな」
「あの昼行燈っぽい兄上でござろう。大丈夫でござろうか」
「ああいうのが実は冴えてるんだぜ。きっと」
そんな会話をしながら僕らは『酒処 七王子』への道を進む。
林の間から家が見えて来た時、佐藤が「プッ」と吹き出した。
「……どうしたの?」
「プッ、ハハハッ、いや、なんでもないさ。いや、お前ん家の兄ちゃんは最高だな」
どうやら家の誰かの心を読んだらしい。
カラン
扉を開けて居住館に入ると、そこには大きな袋が多数。
廊下からリビングまで山積み。
そして、リビングで頭を抱えている赤好兄さんの姿。
「よ、よう。早かったな」
そういう赤好兄さんの顔は、心底うんざりしたような顔。
ものすごい後悔が露見。
「……どうしたの? それにこの袋は?」
「そいつはな……」
ガサッ
その時、袋の合間から誰かが立ち上がった。
「フハハハハハ! よくぞ帰ってきたな我が弟よ! だが、遅かったようだな!」
楽しそうに高笑いをする黄貴兄さんをチラリと見て、赤好兄さんはひと言、
「この袋は蕎麦の実さ。新そばのな」
と呆れたようにつぶやいた。
「その通り! 百獣の王は兎にも全力を尽くす! ここら一帯の新そばの実は我の財で全て買い占めたぞ! フハハハハ! この時期の名物の新そばが手に入らず、味の劣化した蕎麦の実を使わざるを得なければ我らの店に到底敵うまい! フハハハハハ!」
なにその料理漫画の悪役仕草。
そう思う僕の隣で、
「おい、橙依。お前、『これって漫画で見た展開だー』って思っただろう」
とっても愉快そうに佐藤が声をかけてきた。
◇◇◇◇
「ハハハハ! この騒動の原因はそれだったんですか。これだからこの業界は面白い」
「そんな高笑いすんなよ。これでも俺たちゃピンチなんだぜ」
あの後、僕たちは蕎麦袋の山の谷間から現れた緑乱兄さんに誘われて新宿へ。
なんだか高そうなお店に連れ込まれた。
聞くと「俺っちがたまに世話になる店さ。うめぇぞ」って、兄さんはここの板前さんと仲が良いらしい。
そこで僕たちは食べている、板前さんのお手本蕎麦を。
ズルズルズルゥ
ここは寿司店なのに蕎麦もある、なんでもありの店。
新そば有マス。
「だめだー! このコシ! 口の中で刺激する弾力! 悔しいっ! でも、かんじゃう!」モムモム
「うまいでござる! うまいでござる! 感動でござる!」
「こいつはもう蕎麦じゃない! マズ過ぎる! もう他の蕎麦が食べられねぇ!」
お高いお店だけあって、味も絶品。
佐藤も渡雷も、天邪鬼の天野でさえも称えざるを得ない美味。
「……すごい、おいしい。これが新そばの味」
昨日、馬鹿が打った蕎麦なんて目じゃない。
あの時は凄く美味しいって思ったけど、これはそれを遥かに凌駕。
蕎麦の風味が麺をすするごとに鼻を抜け、鮮烈なインパクト。
これを味わったら今まで食べてた蕎麦じゃ物足りない。
「うめぇだろ。ここの兄ちゃんの腕は新宿一だからな」
「ハハハ、この前の日本一より大分スケールダウンしましたね」
「でも否定はしないんだろ。お前さんの師匠の店は銀座だからな」
緑乱兄さんの言葉に板前さんは笑顔で応答。
「それでどうだい? 新そばを入手するあてはあるかい?」
「難しいですね。うちにも製粉済の新そばはありますが、来週の学園祭には不向きでしょう。蕎麦の”3たて”じゃなくなりますから」
3たて?
「蕎麦の格言のひとつさ。”挽きたて”、”打ちたて”、”ゆでたて”の3つで”3たて”さ」
僕の心を読んだ佐藤が”3たて”について説明。
「おや、お若いのによく勉強されてる。予習はバッチリてことですね」
「これぐらい当然さ。さらに”獲れたて”を加えて”4たて”。最五に夫をたてて”5たて”ってね。旦那さん」
「こりゃスゴイ! 私の心でも読んだと思えるくらい、いなせな返しですね」
読んだと思えるくらい、じゃなくて、きっと読んでる。
「更科粉なら良いのを提供出来るのですが……」
「蕎麦を挽いた時に出る最初の粉だな。口当たりが良く色も白くて見栄えがいいが、甘皮ごと挽いた”挽きぐるみ”で打つ蕎麦に比べ風味に劣ると」
「本当にお詳しいですね。その通りです。更科系の蕎麦はクセが少なて食べやすく切れにくいという魅力はあるのですが、新そばの旬と比較すると……」
「見劣りするってか」
「ええ、まだ緑の甘皮の色が出た新そばは、どんな食通をも唸らせますから」
「まさか、あんな漫画みたいな真似をされちまうとは……こりゃ困ったね」
「ええ、少量ならば手に入れられると思いますが、学園祭で振舞うには量が足りないと思います。ツユの素になる”かえし”も良いのをご提供できるんですが……困りましたね」
そう言って、ふたりは首をかしげる、斜めに。
だけど、僕はずっと考えていた、ここに来るまで。
漫画みたいな展開なら、こっちも似たもので対抗。
「……大丈夫。僕に策がある漫画みたいな展開なら、あれをぶつければいい」
「なるほど、貞子 VS 伽椰子みたいに『バケモンには化け物をぶつけんだよ!』みたいな展開ってか」
さすがは僕と趣味を同じくする親友。
僕の心の表面だけでなく、奥底まで読んだみたい。
「それで、あれって何だい? 教えてくれよ」
「……それは特撮!」
僕は自信をもって叫ぶ。
ふふん、きっとみんなは今ごろ僕の言葉を理解できなくて困った顔のはず。
脈絡がなさそうな言葉をぶつけて、それからの説明で説得力を増すのは珠子姉さんも良く使う手。
僕の予想通り、僕の心を読める佐藤以外はこれからの説明を待ちわびる表情。
あれ? 佐藤が僕の方じゃなくて隣を見ながら驚愕。
その視線の先は真面目な顔で何かを考えている板前さん。
「お、おい、橙依! こ、こいつバケモンだ。料理の腕も頭の回転も珠子さんの上をいく。ちくしょう! 人間ってのは何て恐ろしいんだ!」
へ? なに覚の物語の運命みたいなこと言ってるの?
「なるほど! 君が言いたいのはタイムレンジャー16話『そばにある夢』ですね!」
「はあぁぁぁ~!?」
僕の口から変な声が噴出。
「なんだいそりゃ?」
「そういうエピソードがあるんですよ。タイムグリーンが真夏で蕎麦の味が悪くなる時期に南半球のオーストラリア産の蕎麦粉を手に入れて美味しい蕎麦を作るって話が」
そ、その通りだけど、なんであの”特撮”というキーワードからそれが連想できるの!?
「いやぁ、漫画みたいな展開に漫画でぶつけるなら美味しんぼの『真夏のソバ』という同じくオーストラリア産の蕎麦粉で作った蕎麦で解決する話があるんですけど、あれの掲載時期はバブル時代ですから、ちょっと古いですよね。ちなみにアニメ版美味しんぼにはそのエピソードはありません。あ、元々は実際のお店の話ですね。オーストラリアのタスマニア島で白鳥製粉の社長が契約農場で蕎麦の栽培を開始したことに端を発します。その蕎麦粉を使って『そば処 新ばし』では真夏でも美味しい蕎麦を提供するようになったという話ですよ」
板前さんの口から次々とあふれる情報、というか蘊蓄。
「兄ちゃんは、ようそんな事まで知ってんな。タスマニア産の蕎麦粉は料理人だからわからなくもねぇが、その話が使われた料理漫画から、果ては全く関係ない特撮まで何で知ってんだよ」
「これくらいは板前のたしなみですよ。お客さんとの会話も重要ですしね」
そうなの?
僕の心の問いに佐藤は首を振って否定する。
ああ、この板前さんの趣味ね。
「……で、でも僕のアイディアの通り、そのオーストラリア産の蕎麦を使えば、この新そばにだって……」
あれ? まだ佐藤が首を振り続けている。
「うーん、厳しいことを言いますが、それではダメですね。ゲームっぽく言えば『惰弱! 情弱ぅー!』といった所でしょうか」
板前さんはノリノリになって言う、スマホゲーのどっかのファラオみたいな口調で。
おかしい……わけがわからないよ。
珠子姉さんも、たまに頭がおかしいと思う時があるけど、この人はそれ以上。
それとも、料理人ってみんなこうなの?
そんな僕の心の疑問に、
ふぅ~
佐藤は溜息と首を振ることで応えた。
◇◇◇◇
「説明しよう!」
どこかのナレーターのような口調で板前さんが宣言。
最初のイメージからちょっと違った変な人だけど、この人の腕は確か。
説明を聞かざるを得ない。
「……教えて、どうしてミレニアム戦隊とかバブルグルメ漫画で、夏に劣化する蕎麦の解決策として紹介されたオーストラリア産の蕎麦がダメかを」
「そこっ! そこですっ! ミレニアムとかバブルとか! いったいいつの話をしているんです? ミレニアムからは約20年、バブルからは約30年経過しています。情報が古いんですよ!」
「……なるほど」
「言われてみばそうでござるな」
「20年くらいあっという間だからなぁ」
”あやかし”にとって20年はちょっとこの前のイメージ。
100年でまずまず、1000年でいっちょ前、それが”あやかし”の基準。
「蕎麦は春播き夏収穫の”夏そば”と、夏播き秋収穫の”秋そば”があり、新そばと言えば”秋そば”でした。”夏そば”は”秋そば”より味が劣るとされ、”秋そば”が通の間では評価されてきたのです」
オタク特有の早口で板前さんは説明を継続。
「かつて、8月は”夏そば”すら市場に出る前でしたので、味が劣化すると江戸時代から言われていました。その対策のひとつとして季節が逆転する南半球に目をつけた先人の努力には敬意を表しますが、答えはそれだけではありません」
「別のやり方で夏の蕎麦の劣化を防ごうとしたヤツもいたってことか」
「緑乱様のおっりゃる通り! 幸いなことに日本は南北に長く、山地も多いです。耕作地の選定とと品種改良でそれを乗り越えました。今では7月末収穫で8月には市場に出る蕎麦の栽培が広がっているのです。これなら買い占められていないはずですよ」
「でもよ、それじゃ収穫時期の早い”夏そば”じゃねぇか? ”夏そば”は”秋そば”に劣るんだろ?」
「そこで耕作地と品種の選定が活かされるのですよ。具体的には北海道で栽培される”キタワセソバ”を長野で栽培することで”夏そば”であっても”秋そば”に劣らない味が出せるようになったのです! これで私たちは8月でも美味しい蕎麦を食べれるようになったとさ。めでたしめでたし」」
そう言って、うんうんと頷きながら板前さんは物語を締めた。
「でも今は10月だぜ」
「そうでござる。それに夏に獲れた、その”夏そば”では、第四のたて”獲れたて”の分、馬鹿殿の”秋そば”に劣るのではござらんか?」
…
……
「そこに気付くとは……やはり天才か」
「……だめじゃん」
次の日、僕は昨日の出来事を渡雷たちに話した。
みんな蕎麦で行くことには同意してくれたけど、どうやって勝つかは気になっているみたい。
天邪鬼の天野が同意したのは、勝ち目の無い戦いで勝とうとするのが気に入ったからかな。
僕も同意。
ジャイアントキリングは男のロマン。
そして、僕は蕎麦での出店を申請。
「それじゃ、橙依の家に行って作戦を考えようぜ。お前の兄さんの話も聞いてな」
「あの昼行燈っぽい兄上でござろう。大丈夫でござろうか」
「ああいうのが実は冴えてるんだぜ。きっと」
そんな会話をしながら僕らは『酒処 七王子』への道を進む。
林の間から家が見えて来た時、佐藤が「プッ」と吹き出した。
「……どうしたの?」
「プッ、ハハハッ、いや、なんでもないさ。いや、お前ん家の兄ちゃんは最高だな」
どうやら家の誰かの心を読んだらしい。
カラン
扉を開けて居住館に入ると、そこには大きな袋が多数。
廊下からリビングまで山積み。
そして、リビングで頭を抱えている赤好兄さんの姿。
「よ、よう。早かったな」
そういう赤好兄さんの顔は、心底うんざりしたような顔。
ものすごい後悔が露見。
「……どうしたの? それにこの袋は?」
「そいつはな……」
ガサッ
その時、袋の合間から誰かが立ち上がった。
「フハハハハハ! よくぞ帰ってきたな我が弟よ! だが、遅かったようだな!」
楽しそうに高笑いをする黄貴兄さんをチラリと見て、赤好兄さんはひと言、
「この袋は蕎麦の実さ。新そばのな」
と呆れたようにつぶやいた。
「その通り! 百獣の王は兎にも全力を尽くす! ここら一帯の新そばの実は我の財で全て買い占めたぞ! フハハハハ! この時期の名物の新そばが手に入らず、味の劣化した蕎麦の実を使わざるを得なければ我らの店に到底敵うまい! フハハハハハ!」
なにその料理漫画の悪役仕草。
そう思う僕の隣で、
「おい、橙依。お前、『これって漫画で見た展開だー』って思っただろう」
とっても愉快そうに佐藤が声をかけてきた。
◇◇◇◇
「ハハハハ! この騒動の原因はそれだったんですか。これだからこの業界は面白い」
「そんな高笑いすんなよ。これでも俺たちゃピンチなんだぜ」
あの後、僕たちは蕎麦袋の山の谷間から現れた緑乱兄さんに誘われて新宿へ。
なんだか高そうなお店に連れ込まれた。
聞くと「俺っちがたまに世話になる店さ。うめぇぞ」って、兄さんはここの板前さんと仲が良いらしい。
そこで僕たちは食べている、板前さんのお手本蕎麦を。
ズルズルズルゥ
ここは寿司店なのに蕎麦もある、なんでもありの店。
新そば有マス。
「だめだー! このコシ! 口の中で刺激する弾力! 悔しいっ! でも、かんじゃう!」モムモム
「うまいでござる! うまいでござる! 感動でござる!」
「こいつはもう蕎麦じゃない! マズ過ぎる! もう他の蕎麦が食べられねぇ!」
お高いお店だけあって、味も絶品。
佐藤も渡雷も、天邪鬼の天野でさえも称えざるを得ない美味。
「……すごい、おいしい。これが新そばの味」
昨日、馬鹿が打った蕎麦なんて目じゃない。
あの時は凄く美味しいって思ったけど、これはそれを遥かに凌駕。
蕎麦の風味が麺をすするごとに鼻を抜け、鮮烈なインパクト。
これを味わったら今まで食べてた蕎麦じゃ物足りない。
「うめぇだろ。ここの兄ちゃんの腕は新宿一だからな」
「ハハハ、この前の日本一より大分スケールダウンしましたね」
「でも否定はしないんだろ。お前さんの師匠の店は銀座だからな」
緑乱兄さんの言葉に板前さんは笑顔で応答。
「それでどうだい? 新そばを入手するあてはあるかい?」
「難しいですね。うちにも製粉済の新そばはありますが、来週の学園祭には不向きでしょう。蕎麦の”3たて”じゃなくなりますから」
3たて?
「蕎麦の格言のひとつさ。”挽きたて”、”打ちたて”、”ゆでたて”の3つで”3たて”さ」
僕の心を読んだ佐藤が”3たて”について説明。
「おや、お若いのによく勉強されてる。予習はバッチリてことですね」
「これぐらい当然さ。さらに”獲れたて”を加えて”4たて”。最五に夫をたてて”5たて”ってね。旦那さん」
「こりゃスゴイ! 私の心でも読んだと思えるくらい、いなせな返しですね」
読んだと思えるくらい、じゃなくて、きっと読んでる。
「更科粉なら良いのを提供出来るのですが……」
「蕎麦を挽いた時に出る最初の粉だな。口当たりが良く色も白くて見栄えがいいが、甘皮ごと挽いた”挽きぐるみ”で打つ蕎麦に比べ風味に劣ると」
「本当にお詳しいですね。その通りです。更科系の蕎麦はクセが少なて食べやすく切れにくいという魅力はあるのですが、新そばの旬と比較すると……」
「見劣りするってか」
「ええ、まだ緑の甘皮の色が出た新そばは、どんな食通をも唸らせますから」
「まさか、あんな漫画みたいな真似をされちまうとは……こりゃ困ったね」
「ええ、少量ならば手に入れられると思いますが、学園祭で振舞うには量が足りないと思います。ツユの素になる”かえし”も良いのをご提供できるんですが……困りましたね」
そう言って、ふたりは首をかしげる、斜めに。
だけど、僕はずっと考えていた、ここに来るまで。
漫画みたいな展開なら、こっちも似たもので対抗。
「……大丈夫。僕に策がある漫画みたいな展開なら、あれをぶつければいい」
「なるほど、貞子 VS 伽椰子みたいに『バケモンには化け物をぶつけんだよ!』みたいな展開ってか」
さすがは僕と趣味を同じくする親友。
僕の心の表面だけでなく、奥底まで読んだみたい。
「それで、あれって何だい? 教えてくれよ」
「……それは特撮!」
僕は自信をもって叫ぶ。
ふふん、きっとみんなは今ごろ僕の言葉を理解できなくて困った顔のはず。
脈絡がなさそうな言葉をぶつけて、それからの説明で説得力を増すのは珠子姉さんも良く使う手。
僕の予想通り、僕の心を読める佐藤以外はこれからの説明を待ちわびる表情。
あれ? 佐藤が僕の方じゃなくて隣を見ながら驚愕。
その視線の先は真面目な顔で何かを考えている板前さん。
「お、おい、橙依! こ、こいつバケモンだ。料理の腕も頭の回転も珠子さんの上をいく。ちくしょう! 人間ってのは何て恐ろしいんだ!」
へ? なに覚の物語の運命みたいなこと言ってるの?
「なるほど! 君が言いたいのはタイムレンジャー16話『そばにある夢』ですね!」
「はあぁぁぁ~!?」
僕の口から変な声が噴出。
「なんだいそりゃ?」
「そういうエピソードがあるんですよ。タイムグリーンが真夏で蕎麦の味が悪くなる時期に南半球のオーストラリア産の蕎麦粉を手に入れて美味しい蕎麦を作るって話が」
そ、その通りだけど、なんであの”特撮”というキーワードからそれが連想できるの!?
「いやぁ、漫画みたいな展開に漫画でぶつけるなら美味しんぼの『真夏のソバ』という同じくオーストラリア産の蕎麦粉で作った蕎麦で解決する話があるんですけど、あれの掲載時期はバブル時代ですから、ちょっと古いですよね。ちなみにアニメ版美味しんぼにはそのエピソードはありません。あ、元々は実際のお店の話ですね。オーストラリアのタスマニア島で白鳥製粉の社長が契約農場で蕎麦の栽培を開始したことに端を発します。その蕎麦粉を使って『そば処 新ばし』では真夏でも美味しい蕎麦を提供するようになったという話ですよ」
板前さんの口から次々とあふれる情報、というか蘊蓄。
「兄ちゃんは、ようそんな事まで知ってんな。タスマニア産の蕎麦粉は料理人だからわからなくもねぇが、その話が使われた料理漫画から、果ては全く関係ない特撮まで何で知ってんだよ」
「これくらいは板前のたしなみですよ。お客さんとの会話も重要ですしね」
そうなの?
僕の心の問いに佐藤は首を振って否定する。
ああ、この板前さんの趣味ね。
「……で、でも僕のアイディアの通り、そのオーストラリア産の蕎麦を使えば、この新そばにだって……」
あれ? まだ佐藤が首を振り続けている。
「うーん、厳しいことを言いますが、それではダメですね。ゲームっぽく言えば『惰弱! 情弱ぅー!』といった所でしょうか」
板前さんはノリノリになって言う、スマホゲーのどっかのファラオみたいな口調で。
おかしい……わけがわからないよ。
珠子姉さんも、たまに頭がおかしいと思う時があるけど、この人はそれ以上。
それとも、料理人ってみんなこうなの?
そんな僕の心の疑問に、
ふぅ~
佐藤は溜息と首を振ることで応えた。
◇◇◇◇
「説明しよう!」
どこかのナレーターのような口調で板前さんが宣言。
最初のイメージからちょっと違った変な人だけど、この人の腕は確か。
説明を聞かざるを得ない。
「……教えて、どうしてミレニアム戦隊とかバブルグルメ漫画で、夏に劣化する蕎麦の解決策として紹介されたオーストラリア産の蕎麦がダメかを」
「そこっ! そこですっ! ミレニアムとかバブルとか! いったいいつの話をしているんです? ミレニアムからは約20年、バブルからは約30年経過しています。情報が古いんですよ!」
「……なるほど」
「言われてみばそうでござるな」
「20年くらいあっという間だからなぁ」
”あやかし”にとって20年はちょっとこの前のイメージ。
100年でまずまず、1000年でいっちょ前、それが”あやかし”の基準。
「蕎麦は春播き夏収穫の”夏そば”と、夏播き秋収穫の”秋そば”があり、新そばと言えば”秋そば”でした。”夏そば”は”秋そば”より味が劣るとされ、”秋そば”が通の間では評価されてきたのです」
オタク特有の早口で板前さんは説明を継続。
「かつて、8月は”夏そば”すら市場に出る前でしたので、味が劣化すると江戸時代から言われていました。その対策のひとつとして季節が逆転する南半球に目をつけた先人の努力には敬意を表しますが、答えはそれだけではありません」
「別のやり方で夏の蕎麦の劣化を防ごうとしたヤツもいたってことか」
「緑乱様のおっりゃる通り! 幸いなことに日本は南北に長く、山地も多いです。耕作地の選定とと品種改良でそれを乗り越えました。今では7月末収穫で8月には市場に出る蕎麦の栽培が広がっているのです。これなら買い占められていないはずですよ」
「でもよ、それじゃ収穫時期の早い”夏そば”じゃねぇか? ”夏そば”は”秋そば”に劣るんだろ?」
「そこで耕作地と品種の選定が活かされるのですよ。具体的には北海道で栽培される”キタワセソバ”を長野で栽培することで”夏そば”であっても”秋そば”に劣らない味が出せるようになったのです! これで私たちは8月でも美味しい蕎麦を食べれるようになったとさ。めでたしめでたし」」
そう言って、うんうんと頷きながら板前さんは物語を締めた。
「でも今は10月だぜ」
「そうでござる。それに夏に獲れた、その”夏そば”では、第四のたて”獲れたて”の分、馬鹿殿の”秋そば”に劣るのではござらんか?」
…
……
「そこに気付くとは……やはり天才か」
「……だめじゃん」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる