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第一章 はじまりの物語とハッピーエンド
あやかし女子会とおいも料理(前編)
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「第五回! あやかし女子会 in 『酒処 七王子』かいさーい! どんどんぱふぱふー!」
今日は定休日だけど、あたしは半プライベートで出勤している。
藍蘭さん主催の女子会にゲストとして呼ばれたからだ。
出勤なのは……お給料が出るから!
しかも休日手当付き!
なんだよもう、人間の会社の方がブラックじゃないか。
本当に怖いのはやっぱり人間だったのです。
そんなありきたりな事を考える宵の口、七王子には藍蘭さんの友人がふたり集まってきました。
「いらっしゃーい、文車妖妃ちゃんに、橋姫ちゃん。テーブルはこっちよーん」
「失礼いたします」
「参りましたわ」
今日のゲストは文車妖妃さんと橋姫さん。
文車妖妃さんは文学少女っぽい。
黒髪ロングで少し陰がありそうな和風美人って感じ。
橋姫さんは少し茶系が入ったセミロングのお嬢様系かな。
まあ、どっちも鬼なんですけどね。
ふたりの頭には二本の角がしっかり。
「今日は、人間のゲストをお招きしているわ! ウチの新人の珠子ちゃんでーす」
「珠子です、よろしくお願いします」
あたしはペコリと頭を下げる。
「初めまして珠子さん。仲良くしてくれると嬉しいです」
「こんばんは珠子ちゃん。お噂はかねがね聞いていますわ」
そしてあたしはふたりと握手をする。
うん、このふたりは感じの良い”あやかし”だ。
たぶん、男が絡まなければ。
まー、あたしは人の恋路を邪魔する気はないし、大丈夫でしょ。
「さて、今日のテーマは……LINEの既読を無視する男を呪う方法でしたっけ?」
「あら、ストーカー規制法の抜け穴についてではなくって?」
ちょっと待て。
「あらやだ、今回のテーマは『女子力向上の傾向と対策』だったじゃない」
「ああ、そうでしたわ」
「いやですわ、おほほ」
ありがとう、藍蘭さんはこの女子会の良心です。
「じゃあ、座って座って、早速はじめましょ女子会を」
「男もすなる飲み会といふものを、女もしてみむとてするなり」
「あら、土佐日記ね。相変わらず文車妖妃さんは文学がお好きなようで」
文車妖妃さんが土佐日記の出だしをアレンジして言う。
うーん、深読みするとちょっと面白い。
土佐日記の作者紀貫之は男なのに女のふりをして、今風でいうネカマで土佐日記を書いたから。
藍蘭さんをイメージしているのかな。
「あっ、わたしは料理でちょくちょく席を外しますけど気にしないで下さいね。まずはドリンクをお持ちしますね。何かリクエストはありますか?」
「珠子さんのお奨めを」
「あなたのセンスで」
「珠子ちゃんのかわいいドリンクを期待しているわ」
あたし、ちょっと試されているのかな。
まあいいけど。
あたしはカウンターに入り、女子会用のドリンクを準備する。
「はい、今日のドリンクは女子会らしくティーリキュールとミルクとタビオカのカクテルにしました。アルコール入りタビオカドリンクみたいなものですね」
「あら、やだオシャレー」
「こっちは抹茶リキュールなのですね」
「こっちは紅茶のリキュールベースですか。良い味ですね」
「紅茶リキュールにはダージリンとアールグレイのふたつを用意しました。あとはジャスミンティーリキュールも」
最近はティーリキュールも入手しやすくなって嬉しい。
通販様様だわ。
もちろん経費!
「うん、このタビオカのつぶつぶ感と爽やかな茶の香りとミルクの味わいが絶妙ですわね」
「ええ、アールグレーの柑橘系のフレーバーも酒に溶けて良い味わいですわ」
あたしもこれから料理が無ければ飲んでいる所だけど我慢我慢。
「さあ、ここで秘密兵器の登場よーん! この女子力測定アプリで女子力を高めるお勉強をしましょ」
そう言って藍蘭さんはタブレットを取り出し『おなごちから』というアプリを起動する。
「これはね、あたしたちの会話をクラウド上に上げて、サーバーのAIを通じて女子力の高さを計測できちゃうの! すごいでしょ!」
「く……くらうど? 蔵人の事でしょうか」
「さ……さぁばぁ? 娑婆の事ですか」
やっぱり”あやかし”さんはITは疎いようです。
「うーん、ちょっと違うわね。あえて言うなら電話相談室のようなものかしら。ね、珠子ちゃん」
「ええ、これに話しかけると、その先の賢人が助言をしてくれるのです」
かなり違う気がするが、こう説明するしかないだろう。
「へぇー、最近は文明が進んでいるのですね」
「ハイテクですわね」
ピコッ
アプリが起動した。
「あとは適当に会話するだけ。そうしたらAIが判定してくれるわ」
最近のAIはすごいなー。
おっ、そろそろ蒸しあがる頃だ。
「ちょっと、台所に行ってきますね」
そう言ってあたしは席を立つ。
「はーい、よろしく。じゃあ、早速始めるわよ、女子力を高めるにはどうすればいいと思う?」
「やっぱり文をまめに書く事でしょう。今風に言えばラブレターやメールですね。一時間に一回は送らないと」
ピコッ「ラブレターは良いですが頻度がダメです。一日一回にしましょう。50点」
「やっぱり情熱ではなくって、恋敵を全て呪い殺すくらいの勢いの」
ピコッ「『最後に生き残れは勝者』という考えは危険です。意中の相手には『あなただけが好きなの』ではなく『あなたが一番好きなの』と言われるようになりましょう。20点」
うーん、聞き耳を立てて聞いているけど、かなりひどい。
「あらあら、だめよそれじゃ。やっぱりオシャレでしょ美しさを磨くの」
ピコッ「オシャレは良いです。男の人が喜ぶファッションを勉強して女子力を高めましょう。80点」
藍蘭さんはまともだ。
あたしは蒸し器の火を止め、その中身を取り出し、皿に盛る。
「はい、お待たせしました。まずは衣かつぎです」
これはとっても簡単、洗った里芋の上側をカットして蒸すだけ。
残った皮が平安時代の女性の衣装『衣被』ように見えるから、それがもじられて衣かつぎ。
『衣被』は時代劇で女の人が顔を隠している薄布だ。
「この料理は……いきなり服を脱ぐのが女子力を高めるという意味ですか?」
どうしてそうなる!?
「い、いえ違います」
「あらそう、ごめんなさいね。あの裸で迫る下女を思い出しちゃって」
「では、ヒトのあなたはどうやったら女子力が高まると思います?」
うーん、女子力かぁ、あんまり深く考えた事がないぞ。
まあ、適当に答えておきましょうか。
「えーと、こうハアァァァァって臍の下の丹田に力を込めれば高まるんじゃないでしょうか」
「はい?」
「そんなバトル系のヒーローみたいな事で高まるわけが……」
ピコッ「丹田に力を込める、つまり子宮マッサージですね。それは妊娠力が高まります。女子力と妊娠力には正の相関関係があります。良いですね85点」
まじか!?
冗談で言ったのに!
「あはは……ユーモアを理解してくれるAIですね」
あたしは再び席に座る。
「ほら、熱々のうちに衣かつぎを食べちゃいましょう。塩が美味しいですよね」
あたしが里芋の皮を軽く握ると、みょるんと白い中身が出てきた。
あちち
「ちょっと熱いから気を付けて下さいね。ああ、みなさんの分もあたしが剥きましょうか」
この人たちは元々は貴族の持ち物や姫から生まれた”あやかし”だ。
こんな里芋は食べてなかったかもしれない。
「いいえ、里芋は大好物ですわ。いただきます」
「あたくしも里芋は好みでしてよ」
文車妖妃さんと橋姫さんは、その里芋よりも白い指でつまむと、にょるんと中身を剥き出し、塩をちょんちょんと付けて口に運んだ。
「はふっ、はふっ。こんなに熱々の里芋を食べるのは初めて!」
「ほふほふ、素材そのものの味が良いですわね!」
やっぱり初めてだったのか。
「うーん、おいしい。やっぱり珠子ちゃんのお料理はおいしいわ。誰かに作ってもらう料理っていいものね」
「自分で作るのと、誰かに作ってもらうのでは同じ味でも味わいが違いますしね。きっとふたりで一緒に作るとまた味わいが変わりますよ。あっ、次の料理を作ってきますね」
そう言ってあたしは再び席を立つ。
仕込みは済ませているので調理は10分程度で出来るが、やっぱり作り立てを食べて欲しい。
「ねぇ、聞いた、橋姫さん。『ふたりで』ですって」
「聞きましたわ、文車妖妃さん。『一緒に』ですってよ」
「さらりと藍蘭さんにアプローチをしてますわね」
「あの女、あなどれないわ」
「あの女、台所の女中にそっくり」
聞こえるように言っているのだろうか。
聞き耳を立てるまでもなく、女子会の会話があたしの耳に入って来る。
「やーね、そんなの考え過ぎよ。アタシは珠子ちゃんのズッ友であっても恋人じゃぁないわ」
その通り、あたしと藍蘭さんは乙女同盟なのです。
「それより次よ。男の子のハートをキャッチする冬のオシャレを考えましょ」
おしゃれかぁ、あたしはフライパンで次の料理を焼きながら考える。
今度は点数の低そうな答えにしよう。
ダサイファッションでいいな。
「やはりここは文学的にお姫様ファッションでしょう。和風なら着物、洋風ならフリルのドレス」
ピコッ「ガチの衣装は相手を引かせてしまいます。まずはフランクなファッションでここぞという所で勝負服にしましょう。60点」
「ブランド服で固めましょう! ライバルの女が手を出せないくらい高価な衣装で圧倒するのです!」
ピコッ「ブランドで固めると男からは金のかかる女と見られてしまいます。相手の経済力を考慮して服は選びましょう。大丈夫、男はブランド服なんてタグを見ないとわかりません。50点」
あはは、女だけどタグを見ないとブランド品なんてわかりません。
「露出よ! 腹も! 太股も! 露出を高めれば高めるほど全身が武器になるわ!」
ピコッ「露出は重要です、いいですね。ですが季節を考えましょう。冬のオシャレでしたよね。70点」
「なによ! アタシは全然寒くなんかないんだから!」
あやかしですもんねー。
ピコッ「あなたが寒いかどうかは問題ではありません。相手の男が寒く感じるかが問題なのです」
よしっ、焼き上がり完了!
「お待たせしました。続いてはいももちですよ。中身はチーズとひき肉と山椒味噌と塩辛です」
じゃがいもの皮を剥いてレンチン。
マッシュにしたら片栗粉を少々つなぎにして混ぜる。
後は好きな具材を包んで焼くだけ、これでおいしいいももちの出来上がり。
「あら、塩辛なんて珍しいわね」
「じゃがいもとは塩っけが合うんですよ。バターやチーズといった洋風の塩っけから、山椒味噌や塩辛まで、味が濃いのが良いですね」
山椒味噌は味噌に山椒と砂糖を入れて酒を少々加えて練れば出来上がり。
豆腐に塗って田楽にしてもよし、そのまま焼いて酒の肴にしてもよし、なんと出汁で溶けばスパイシー味噌汁にだってなっちゃう、万能調味料なのです。
「で、あなたはどんな冬のファッションが良いと思いますの?」
「うーんと、普通のがいいですね。毛糸の茶色い縦縞セーターとかがいいと思います」
このダサさなら点数は低いでしょ。
ピコッ「素晴らしい! あなたは男心を理解している! 縦縞セータで浮かび上がるバストライン! これなら世の男はメロメロです! おっぱい! おっぱい! 95点!!」
なんじゃこのAI!?
「あー、わかるわ」
わかるんですか藍蘭さん!?
今日は定休日だけど、あたしは半プライベートで出勤している。
藍蘭さん主催の女子会にゲストとして呼ばれたからだ。
出勤なのは……お給料が出るから!
しかも休日手当付き!
なんだよもう、人間の会社の方がブラックじゃないか。
本当に怖いのはやっぱり人間だったのです。
そんなありきたりな事を考える宵の口、七王子には藍蘭さんの友人がふたり集まってきました。
「いらっしゃーい、文車妖妃ちゃんに、橋姫ちゃん。テーブルはこっちよーん」
「失礼いたします」
「参りましたわ」
今日のゲストは文車妖妃さんと橋姫さん。
文車妖妃さんは文学少女っぽい。
黒髪ロングで少し陰がありそうな和風美人って感じ。
橋姫さんは少し茶系が入ったセミロングのお嬢様系かな。
まあ、どっちも鬼なんですけどね。
ふたりの頭には二本の角がしっかり。
「今日は、人間のゲストをお招きしているわ! ウチの新人の珠子ちゃんでーす」
「珠子です、よろしくお願いします」
あたしはペコリと頭を下げる。
「初めまして珠子さん。仲良くしてくれると嬉しいです」
「こんばんは珠子ちゃん。お噂はかねがね聞いていますわ」
そしてあたしはふたりと握手をする。
うん、このふたりは感じの良い”あやかし”だ。
たぶん、男が絡まなければ。
まー、あたしは人の恋路を邪魔する気はないし、大丈夫でしょ。
「さて、今日のテーマは……LINEの既読を無視する男を呪う方法でしたっけ?」
「あら、ストーカー規制法の抜け穴についてではなくって?」
ちょっと待て。
「あらやだ、今回のテーマは『女子力向上の傾向と対策』だったじゃない」
「ああ、そうでしたわ」
「いやですわ、おほほ」
ありがとう、藍蘭さんはこの女子会の良心です。
「じゃあ、座って座って、早速はじめましょ女子会を」
「男もすなる飲み会といふものを、女もしてみむとてするなり」
「あら、土佐日記ね。相変わらず文車妖妃さんは文学がお好きなようで」
文車妖妃さんが土佐日記の出だしをアレンジして言う。
うーん、深読みするとちょっと面白い。
土佐日記の作者紀貫之は男なのに女のふりをして、今風でいうネカマで土佐日記を書いたから。
藍蘭さんをイメージしているのかな。
「あっ、わたしは料理でちょくちょく席を外しますけど気にしないで下さいね。まずはドリンクをお持ちしますね。何かリクエストはありますか?」
「珠子さんのお奨めを」
「あなたのセンスで」
「珠子ちゃんのかわいいドリンクを期待しているわ」
あたし、ちょっと試されているのかな。
まあいいけど。
あたしはカウンターに入り、女子会用のドリンクを準備する。
「はい、今日のドリンクは女子会らしくティーリキュールとミルクとタビオカのカクテルにしました。アルコール入りタビオカドリンクみたいなものですね」
「あら、やだオシャレー」
「こっちは抹茶リキュールなのですね」
「こっちは紅茶のリキュールベースですか。良い味ですね」
「紅茶リキュールにはダージリンとアールグレイのふたつを用意しました。あとはジャスミンティーリキュールも」
最近はティーリキュールも入手しやすくなって嬉しい。
通販様様だわ。
もちろん経費!
「うん、このタビオカのつぶつぶ感と爽やかな茶の香りとミルクの味わいが絶妙ですわね」
「ええ、アールグレーの柑橘系のフレーバーも酒に溶けて良い味わいですわ」
あたしもこれから料理が無ければ飲んでいる所だけど我慢我慢。
「さあ、ここで秘密兵器の登場よーん! この女子力測定アプリで女子力を高めるお勉強をしましょ」
そう言って藍蘭さんはタブレットを取り出し『おなごちから』というアプリを起動する。
「これはね、あたしたちの会話をクラウド上に上げて、サーバーのAIを通じて女子力の高さを計測できちゃうの! すごいでしょ!」
「く……くらうど? 蔵人の事でしょうか」
「さ……さぁばぁ? 娑婆の事ですか」
やっぱり”あやかし”さんはITは疎いようです。
「うーん、ちょっと違うわね。あえて言うなら電話相談室のようなものかしら。ね、珠子ちゃん」
「ええ、これに話しかけると、その先の賢人が助言をしてくれるのです」
かなり違う気がするが、こう説明するしかないだろう。
「へぇー、最近は文明が進んでいるのですね」
「ハイテクですわね」
ピコッ
アプリが起動した。
「あとは適当に会話するだけ。そうしたらAIが判定してくれるわ」
最近のAIはすごいなー。
おっ、そろそろ蒸しあがる頃だ。
「ちょっと、台所に行ってきますね」
そう言ってあたしは席を立つ。
「はーい、よろしく。じゃあ、早速始めるわよ、女子力を高めるにはどうすればいいと思う?」
「やっぱり文をまめに書く事でしょう。今風に言えばラブレターやメールですね。一時間に一回は送らないと」
ピコッ「ラブレターは良いですが頻度がダメです。一日一回にしましょう。50点」
「やっぱり情熱ではなくって、恋敵を全て呪い殺すくらいの勢いの」
ピコッ「『最後に生き残れは勝者』という考えは危険です。意中の相手には『あなただけが好きなの』ではなく『あなたが一番好きなの』と言われるようになりましょう。20点」
うーん、聞き耳を立てて聞いているけど、かなりひどい。
「あらあら、だめよそれじゃ。やっぱりオシャレでしょ美しさを磨くの」
ピコッ「オシャレは良いです。男の人が喜ぶファッションを勉強して女子力を高めましょう。80点」
藍蘭さんはまともだ。
あたしは蒸し器の火を止め、その中身を取り出し、皿に盛る。
「はい、お待たせしました。まずは衣かつぎです」
これはとっても簡単、洗った里芋の上側をカットして蒸すだけ。
残った皮が平安時代の女性の衣装『衣被』ように見えるから、それがもじられて衣かつぎ。
『衣被』は時代劇で女の人が顔を隠している薄布だ。
「この料理は……いきなり服を脱ぐのが女子力を高めるという意味ですか?」
どうしてそうなる!?
「い、いえ違います」
「あらそう、ごめんなさいね。あの裸で迫る下女を思い出しちゃって」
「では、ヒトのあなたはどうやったら女子力が高まると思います?」
うーん、女子力かぁ、あんまり深く考えた事がないぞ。
まあ、適当に答えておきましょうか。
「えーと、こうハアァァァァって臍の下の丹田に力を込めれば高まるんじゃないでしょうか」
「はい?」
「そんなバトル系のヒーローみたいな事で高まるわけが……」
ピコッ「丹田に力を込める、つまり子宮マッサージですね。それは妊娠力が高まります。女子力と妊娠力には正の相関関係があります。良いですね85点」
まじか!?
冗談で言ったのに!
「あはは……ユーモアを理解してくれるAIですね」
あたしは再び席に座る。
「ほら、熱々のうちに衣かつぎを食べちゃいましょう。塩が美味しいですよね」
あたしが里芋の皮を軽く握ると、みょるんと白い中身が出てきた。
あちち
「ちょっと熱いから気を付けて下さいね。ああ、みなさんの分もあたしが剥きましょうか」
この人たちは元々は貴族の持ち物や姫から生まれた”あやかし”だ。
こんな里芋は食べてなかったかもしれない。
「いいえ、里芋は大好物ですわ。いただきます」
「あたくしも里芋は好みでしてよ」
文車妖妃さんと橋姫さんは、その里芋よりも白い指でつまむと、にょるんと中身を剥き出し、塩をちょんちょんと付けて口に運んだ。
「はふっ、はふっ。こんなに熱々の里芋を食べるのは初めて!」
「ほふほふ、素材そのものの味が良いですわね!」
やっぱり初めてだったのか。
「うーん、おいしい。やっぱり珠子ちゃんのお料理はおいしいわ。誰かに作ってもらう料理っていいものね」
「自分で作るのと、誰かに作ってもらうのでは同じ味でも味わいが違いますしね。きっとふたりで一緒に作るとまた味わいが変わりますよ。あっ、次の料理を作ってきますね」
そう言ってあたしは再び席を立つ。
仕込みは済ませているので調理は10分程度で出来るが、やっぱり作り立てを食べて欲しい。
「ねぇ、聞いた、橋姫さん。『ふたりで』ですって」
「聞きましたわ、文車妖妃さん。『一緒に』ですってよ」
「さらりと藍蘭さんにアプローチをしてますわね」
「あの女、あなどれないわ」
「あの女、台所の女中にそっくり」
聞こえるように言っているのだろうか。
聞き耳を立てるまでもなく、女子会の会話があたしの耳に入って来る。
「やーね、そんなの考え過ぎよ。アタシは珠子ちゃんのズッ友であっても恋人じゃぁないわ」
その通り、あたしと藍蘭さんは乙女同盟なのです。
「それより次よ。男の子のハートをキャッチする冬のオシャレを考えましょ」
おしゃれかぁ、あたしはフライパンで次の料理を焼きながら考える。
今度は点数の低そうな答えにしよう。
ダサイファッションでいいな。
「やはりここは文学的にお姫様ファッションでしょう。和風なら着物、洋風ならフリルのドレス」
ピコッ「ガチの衣装は相手を引かせてしまいます。まずはフランクなファッションでここぞという所で勝負服にしましょう。60点」
「ブランド服で固めましょう! ライバルの女が手を出せないくらい高価な衣装で圧倒するのです!」
ピコッ「ブランドで固めると男からは金のかかる女と見られてしまいます。相手の経済力を考慮して服は選びましょう。大丈夫、男はブランド服なんてタグを見ないとわかりません。50点」
あはは、女だけどタグを見ないとブランド品なんてわかりません。
「露出よ! 腹も! 太股も! 露出を高めれば高めるほど全身が武器になるわ!」
ピコッ「露出は重要です、いいですね。ですが季節を考えましょう。冬のオシャレでしたよね。70点」
「なによ! アタシは全然寒くなんかないんだから!」
あやかしですもんねー。
ピコッ「あなたが寒いかどうかは問題ではありません。相手の男が寒く感じるかが問題なのです」
よしっ、焼き上がり完了!
「お待たせしました。続いてはいももちですよ。中身はチーズとひき肉と山椒味噌と塩辛です」
じゃがいもの皮を剥いてレンチン。
マッシュにしたら片栗粉を少々つなぎにして混ぜる。
後は好きな具材を包んで焼くだけ、これでおいしいいももちの出来上がり。
「あら、塩辛なんて珍しいわね」
「じゃがいもとは塩っけが合うんですよ。バターやチーズといった洋風の塩っけから、山椒味噌や塩辛まで、味が濃いのが良いですね」
山椒味噌は味噌に山椒と砂糖を入れて酒を少々加えて練れば出来上がり。
豆腐に塗って田楽にしてもよし、そのまま焼いて酒の肴にしてもよし、なんと出汁で溶けばスパイシー味噌汁にだってなっちゃう、万能調味料なのです。
「で、あなたはどんな冬のファッションが良いと思いますの?」
「うーんと、普通のがいいですね。毛糸の茶色い縦縞セーターとかがいいと思います」
このダサさなら点数は低いでしょ。
ピコッ「素晴らしい! あなたは男心を理解している! 縦縞セータで浮かび上がるバストライン! これなら世の男はメロメロです! おっぱい! おっぱい! 95点!!」
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