悪役神子は徹底抗戦の構え

MiiKo

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神殿はインフェルノ

ある神官の話

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王家から邪神の使いであるという青年を預かったのがおよそ1か月前。
邪神の支配が強まろうとしているという事実を隠したい王家と礼拝堂に降り立って主神様を侮辱した存在である男を処罰したい神殿、2つの思惑が一致した結果、青年は大神殿で身柄を拘束され主神信仰に還って自らの罪を告白させられることとなった。

神官は今年地方の神殿からの推薦で大神殿にて勤めることになった若い男だ。その記念すべき1年目に邪神の使いの監視という大きい役目を仰せつかってしまったので大変である。司祭様からは決して心を許さぬようにと言われていたが、まずもってそんな邪悪に気を許す自分ではない。全身を拘束されて運び込まれた青年を睨みながら控えていた獣人に枷を外させる。こんな男視界にも入れたくない。今後のことを獣人に指示するとさっさと部屋から出た。

神官のすることといえば、毎日青年の様子を記録し上に提出することだけ。出来るだけ詳細に書けと言われているので何の変哲のなさそうなこともとりあえず全て書いた。上はそれを元に今後の対応を考えているようだが、これから青年の身に何が起こるかなど興味がない。主神様を侮辱したことを後悔する羽目になればいいとは思うが。

青年が世話係の獣人と仲を縮めているようだと報告した2日後、神官はその獣人を痛めつけろと指示を受けたのでそうした。仲間数人と共に袋叩きにした上で、これは青年のせいだと言い聞かせる。神官の言うことは絶対だと教え込まされた優秀な獣人はそれ以降青年を毛嫌いし始めたようであった。心を痛める青年の様子を見て少しいい気味だと思った。

青年が教室に通い始めて以降しばらくは神官の出番はなかった。日中は教師役が監視をしているし、夜もほとんど部屋に帰って寝るだけだったからだ。青年が獣人の子ども達と仲良くしていると聞いてなぜ仕置きが与えられないのかと苛立たしくは感じたが、上の指示だと言われてしまえばそれまでだった。

ある日、明らかに帰ってきた青年の様子がおかしかった。いつもなら疲れた顔をしながらも世話役の獣人にありがとうとおやすみを欠かさない青年が、何にも反応を返さずに少し食事に手を付けるとすぐにベッドに入ってしまったのだ。これは遂に上の計画が動き出したに違いない。はやる気持ちを抑えて司祭様のところへと報告に上がる。そこには教師役の神官もいた。

「ああ来たか。奴の様子はどうだった。」
「はい。呆然自失とした様子で何にも反応を返さず、食事にもほとんど手をつけませんでした。」
「はっはっは。そうだろう。今日、奴の心をこれでもかと折ってやったのだ。」

愉快そうに教師役が笑う。興味深いので後で何があったのか聞かせてもらおう。

「うむ、まさしくそうであるようだな。明日1日観察して様子が変わらぬようなら次の段階へ移ろう。」
「次の段階とは?」
「それはその時に伝える。お前は明日1日奴を見張って報告せよ。」

下がってよいという司祭様に一礼して部屋を辞す。帰りに教師役から聞いた話は傑作だった。青年の心を折るばかりでなく獣人も従順にしてしまうとは効率を求めるこの男ならではのやり方だ。

次の日も青年は心が抜け落ちたようだった。そう報告すると司祭様はにっこり笑い、

「では次から奴の食事にこれを混ぜなさい。」

と一束のハーブを手渡した。

「それは奴を素直にする効能がある。罪の告白がしやすくなるだろう。明日からは部屋に神官を遣って主神様の教えを説くようにする。そのように準備を整えよ。」

なるほど、上の方々は素晴らしい。あの邪神の使いをも無力化し主神様の下へと下らせることが出来るのか。神官は更に信仰心を強くしながら、自分がこの過程に関われたことを誇りに思った。
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