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降り立った世界はハードモード
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扉の向こうに人の気配を感じ、咄嗟に祭壇の後ろに身を隠してしまった。外に助けを求めに行こうとしていた矢先なので素直にそのまま人が入ってくるのを待てばよかったのだが、さっき考えていた宗教関連と、そもそも建物に無断で入っているという罪悪感で考えるより前に体が反応してしまったのだ。果たして、涼貴の警戒心は正しかったのかもしれない。入ってきた者たちは涼貴が予想していた風貌とはかなり違っていたからである。
入ってきたのは教会関係者のようであった。一番前を歩く人物は年のころ60歳くらいか、全身を包む濃色のローブを身にまとい手に持った黒い杖も金で豪華な文様が施されているのが見て取れた。後ろに続く二人はカーキ色の簡素な修道士のような服を着て、それぞれ手にこれまた金で装飾された箱を捧げ持っている。3人の周りは護衛であろう甲冑の騎士たちが固めており、そこだけ見ると中世にタイムスリップしたのかと勘違いしそうだ。こんな状況でなければこれから行われるであろう神秘的で荘厳な儀式を期待して少しワクワクしていたかもしれない。
だが残念ながら涼貴にそんな余裕はなかった。もう自分の中の違和感を取り繕うことが出来ない。自分の把握している限り恋人の家の周りにこのような場所などありはしなかったし、入ってきた人はみな西洋人風の顔をしている。おかしい。見知らぬ建物、見聞きしたことのない宗教に日本人離れした人々。第六感がここは日本ではないと告げている。だとしたらここはどこだ。こんな格好のまま海外に人一人を、しかもその人間に気付かれずに、連れ出すなんて出来るはずがない。さっきまでは頭がおかしいと思われるかもしれないが少なくとも保護して相応の機関に連絡をしてもらえれば御の字だと考えて人を見つけることを目標としていたのに、今は見つかったらどうなるかわからない。涼貴が混乱と恐怖でうずくまったその時、老人が話し始めた。
「うむ、やはり何者かがここに侵入した痕跡が残っておる。侵入の際に使われた陣はもう既に消えてしまってはいるが、明日には残滓から使用者を特定することもできよう。」
「やはりそうですか。ではお手数ですが鑑定をよろしくお願いいたします、司祭殿。」
騎士の一人、深紅のマントをまとい他より高い地位についていそうな男だ、がそう答えた後に他の騎士に向き直って伝える。
「お前たちは司祭殿がたを大神殿までお送りせよ。侵入者が潜んでいる可能性が高いため慎重にな。私は一度この礼拝堂を調べた後にご報告に上がると陛下に伝令も頼む。外の者には一層守りを強化するように伝えよ。」
騎士たちは一礼すると、老人たちとともにまた扉の外へと出て行く。
涼貴はその後姿を見送りながら素早く考えを巡らせていた。
あの騎士は侵入者と言っていた。自分の意志でしたことではないけれど確実に侵入者は俺だし、こんな狭い建物の中で隠れられる所なんてここぐらいだ。探すまでもなく見つかってしまう。捕まるは捕まるとして、俺の言い分をちゃんと聞いてもらえるだろうか。あの腰に下げている剣は偽物でしたなんてことにならないかな。
なぜか動き出さない騎士を不思議に思いながら更に考え続ける。会話を聞いたことで更に生まれた違和感についてだ。
この際格好はとりあえず置いておこう。なんで俺には彼らの話している言葉が分かったんだ?一瞬日本語を話しているのかと思ったがそうじゃない。耳に入ってきたのは明らかに違う言葉だったのに頭では理解していた。一体どうなっているんだ。陣とか使用者とかも聞こえたし、俺の常識の範疇を超えている。
ドッキリなら手が込み過ぎだし、独自の世界観を持った人たちなら自分は更に分が悪い気がする。ふと脳裏に異世界の文字が浮かび上がる。転生やら転移やらで異世界に飛ばされた主人公の冒険譚は本屋やネット上に投稿されているのを涼貴もいくつか読んだことがある。今の状況は嫌に現実離れしすぎていて、異世界に来たのだと思えばしっくりきた。だが、あれのセオリーは現実世界で辛い目に合っていたり死んでしまったりで不遇だった主人公が、異世界で何かしらの特典がついて好待遇を受けられるというハッピーなものではなかったのか。少なくとも涼貴が読んだことのある物語は大体そうで主人公が周りから大事にされるハッピーエンドだった。人生も比較的順調、恋人とは同棲寸前、直前まで幸せを満喫していた自分がいきなり飛ばされた上に犯罪者扱いになるなんてアンチ王道も甚だしい。というかそもそも異世界はフィクションだ。まだ夢の方が現実味があるぞ。
「ほんとなんなんだよ!」
理解できないことが多すぎて鬱積した思いはすべて怒りとなって溢れ出し、涼貴は思わず大声で叫んだ。
「やはりそこにいたか。」
入ってきたのは教会関係者のようであった。一番前を歩く人物は年のころ60歳くらいか、全身を包む濃色のローブを身にまとい手に持った黒い杖も金で豪華な文様が施されているのが見て取れた。後ろに続く二人はカーキ色の簡素な修道士のような服を着て、それぞれ手にこれまた金で装飾された箱を捧げ持っている。3人の周りは護衛であろう甲冑の騎士たちが固めており、そこだけ見ると中世にタイムスリップしたのかと勘違いしそうだ。こんな状況でなければこれから行われるであろう神秘的で荘厳な儀式を期待して少しワクワクしていたかもしれない。
だが残念ながら涼貴にそんな余裕はなかった。もう自分の中の違和感を取り繕うことが出来ない。自分の把握している限り恋人の家の周りにこのような場所などありはしなかったし、入ってきた人はみな西洋人風の顔をしている。おかしい。見知らぬ建物、見聞きしたことのない宗教に日本人離れした人々。第六感がここは日本ではないと告げている。だとしたらここはどこだ。こんな格好のまま海外に人一人を、しかもその人間に気付かれずに、連れ出すなんて出来るはずがない。さっきまでは頭がおかしいと思われるかもしれないが少なくとも保護して相応の機関に連絡をしてもらえれば御の字だと考えて人を見つけることを目標としていたのに、今は見つかったらどうなるかわからない。涼貴が混乱と恐怖でうずくまったその時、老人が話し始めた。
「うむ、やはり何者かがここに侵入した痕跡が残っておる。侵入の際に使われた陣はもう既に消えてしまってはいるが、明日には残滓から使用者を特定することもできよう。」
「やはりそうですか。ではお手数ですが鑑定をよろしくお願いいたします、司祭殿。」
騎士の一人、深紅のマントをまとい他より高い地位についていそうな男だ、がそう答えた後に他の騎士に向き直って伝える。
「お前たちは司祭殿がたを大神殿までお送りせよ。侵入者が潜んでいる可能性が高いため慎重にな。私は一度この礼拝堂を調べた後にご報告に上がると陛下に伝令も頼む。外の者には一層守りを強化するように伝えよ。」
騎士たちは一礼すると、老人たちとともにまた扉の外へと出て行く。
涼貴はその後姿を見送りながら素早く考えを巡らせていた。
あの騎士は侵入者と言っていた。自分の意志でしたことではないけれど確実に侵入者は俺だし、こんな狭い建物の中で隠れられる所なんてここぐらいだ。探すまでもなく見つかってしまう。捕まるは捕まるとして、俺の言い分をちゃんと聞いてもらえるだろうか。あの腰に下げている剣は偽物でしたなんてことにならないかな。
なぜか動き出さない騎士を不思議に思いながら更に考え続ける。会話を聞いたことで更に生まれた違和感についてだ。
この際格好はとりあえず置いておこう。なんで俺には彼らの話している言葉が分かったんだ?一瞬日本語を話しているのかと思ったがそうじゃない。耳に入ってきたのは明らかに違う言葉だったのに頭では理解していた。一体どうなっているんだ。陣とか使用者とかも聞こえたし、俺の常識の範疇を超えている。
ドッキリなら手が込み過ぎだし、独自の世界観を持った人たちなら自分は更に分が悪い気がする。ふと脳裏に異世界の文字が浮かび上がる。転生やら転移やらで異世界に飛ばされた主人公の冒険譚は本屋やネット上に投稿されているのを涼貴もいくつか読んだことがある。今の状況は嫌に現実離れしすぎていて、異世界に来たのだと思えばしっくりきた。だが、あれのセオリーは現実世界で辛い目に合っていたり死んでしまったりで不遇だった主人公が、異世界で何かしらの特典がついて好待遇を受けられるというハッピーなものではなかったのか。少なくとも涼貴が読んだことのある物語は大体そうで主人公が周りから大事にされるハッピーエンドだった。人生も比較的順調、恋人とは同棲寸前、直前まで幸せを満喫していた自分がいきなり飛ばされた上に犯罪者扱いになるなんてアンチ王道も甚だしい。というかそもそも異世界はフィクションだ。まだ夢の方が現実味があるぞ。
「ほんとなんなんだよ!」
理解できないことが多すぎて鬱積した思いはすべて怒りとなって溢れ出し、涼貴は思わず大声で叫んだ。
「やはりそこにいたか。」
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