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いじめの真相2
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芹沢が逮捕されて、実に1週間が経過した。絵鞠は芹沢の担当弁護士に案内されて、拘置所の面会室に入った。
「今野さん。被害者の親族が来るこのようなケースは稀なんですよ」
「そうなんですね。確かに、普通は被害者を見た途端、発狂しかねませんからね」
弁護士は緊張を解すために声をかけたが、冷静淡々に返事をする絵鞠に冷や汗をかく。
敏腕警察官とも言わしめる黒田と協力体制を整え、なおかつ面会を取り付ける被害者の身内はそうそういないだろう。
いつ絵鞠が発狂してしまわないか、弁護士は内心ハラハラしていた。
しばらくすると、面会所から芹沢がやってきた。警察に連れられた彼は、初めて男子寮で見かけた時よりも痩せ細っており、深く俯いていた。
「芹沢くん。この方は前澤織人くんの実のお姉さんです。貴方にお聞きしたい事があるという事なので、特例でこの場に連れてきました」
優しく声を掛ける弁護士の言葉を聞き、芹沢は顔を上げて絵鞠を見た。その途端、芹沢の目から大量の涙が溢れ出し、その場で土下座する勢いで謝ってきた。
「前澤のお姉さん!前澤を死なせてしまい、本当にごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「芹沢。顔を上げろ」
警察が芹沢の顔をあげさせる。芹沢の顔面は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
絵鞠はその様子に少し同情し、泣かないよう唇を噛み締めた。
いじめているという自覚がない若者は多いのだが、芹沢はそうではなく、黒幕の差し金で織人をいじめていた。
つまり悪気があったにも関わらず、いじめをやめられなかったのは、そうでもしないと自分も虐められるという状況が怖かったからであろう。
絵鞠は目を瞑って深呼吸してから芹沢に向き合った。
「芹沢くん。私は芹沢くんが織人を殺した犯人だとは、まだ思っていません」
「!」
芹沢は絵鞠の発言に大きく目を見開いた。警察官も弁護士も驚きで固まっているようだ。絵鞠は大きく息を吐いてこう言った。
「例え貴方が本当に織人を殺したとしたら、首を切る事はせず、迷わず出頭していたでしょう?でもなぜ、出頭せずに学校に通っていたのですか?」
「…そ、それは…」
何かを言いかけて芹沢はまた深く俯く。推測するに、きっと彼は黒幕に口止めされているのだろう。絵鞠は1つの憶測を口に出した。
「もしかして、前に織人をいじめていた事を、織人に全て話したのですか?」
「あ…」
芹沢は絵鞠の出した憶測に驚き、戸惑っていたが、すぐにゆっくり小さく頷いた。
「…はい。全て、全て話しました…」
「そう、ありがとう。では、織人が殺されそうになっている事実も、貴方が織人に言ったのですか?」
「……はい。もう耐えきれなくて……」
芹沢は肩を震わせ、大粒の涙をこぼす。
余程怖くて辛かったのだろう。絵鞠は芹沢の肩を抱いて、背中を撫でてやりたい衝動に駆られた。
「ありがとう、芹沢くん。きっと織人は君の告白を笑顔で許していると思います。勿論、貴方が織人に全て白状したとしても、死なせるぐらいまでいじめた事実は変わりません。それは罪にあたります。だから、貴方はここにいるべきですが、きっとすぐに更生出来ると思いますよ」
「…お、お姉さん…ありがとうございます」
絵鞠がかけた慈悲の言葉に、芹沢は感謝の涙を流し深く頭を下げた。きっとこの子はこの先いい人生を歩める。そう確信した絵鞠は芹沢にこう問いかけた。
「最後に、貴方達を使役していた黒幕について教えて頂きたいのですが…」
「…えっ?」
「貴方が黒幕の事を隠したまま、責任という名の重荷を抱えて生きる事は、きっと織人も望んでいません。ここは、友を救うと思って、教えて頂けませんか?」
「友…」
友という響に、芹沢の目が一瞬輝いて見えた。そして、少し考え込んだあと、芹沢は意を決して絵鞠にこう言った。
「分かりました。ただし条件があります」
「条件、ですか?」
「はい。警察官の方々への条件ですが、黒幕が捕まった時、決して僕と同じ牢に入れないで頂きたいです」
芹沢は真っ直ぐに見据えて、自身の後ろにいる警察官にこう伝えた。警察官は一瞬首を傾げたが、すぐに頷いた。
「芹沢が真面目に更生するのであれば、掛け合ってみよう」
「ありがとうございます。…もし本当に同じ牢に入れられたら、僕は間違いなく黒幕に殺されるので」
「!!」
自嘲気味に笑った芹沢の発言に、警察官の身体がまた固まる。そして絵鞠達に向き合い、芹沢は今までよりも清々しい顔でこう言い放った。
「僕達を使役していた黒幕は………」
「今野さん。被害者の親族が来るこのようなケースは稀なんですよ」
「そうなんですね。確かに、普通は被害者を見た途端、発狂しかねませんからね」
弁護士は緊張を解すために声をかけたが、冷静淡々に返事をする絵鞠に冷や汗をかく。
敏腕警察官とも言わしめる黒田と協力体制を整え、なおかつ面会を取り付ける被害者の身内はそうそういないだろう。
いつ絵鞠が発狂してしまわないか、弁護士は内心ハラハラしていた。
しばらくすると、面会所から芹沢がやってきた。警察に連れられた彼は、初めて男子寮で見かけた時よりも痩せ細っており、深く俯いていた。
「芹沢くん。この方は前澤織人くんの実のお姉さんです。貴方にお聞きしたい事があるという事なので、特例でこの場に連れてきました」
優しく声を掛ける弁護士の言葉を聞き、芹沢は顔を上げて絵鞠を見た。その途端、芹沢の目から大量の涙が溢れ出し、その場で土下座する勢いで謝ってきた。
「前澤のお姉さん!前澤を死なせてしまい、本当にごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「芹沢。顔を上げろ」
警察が芹沢の顔をあげさせる。芹沢の顔面は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
絵鞠はその様子に少し同情し、泣かないよう唇を噛み締めた。
いじめているという自覚がない若者は多いのだが、芹沢はそうではなく、黒幕の差し金で織人をいじめていた。
つまり悪気があったにも関わらず、いじめをやめられなかったのは、そうでもしないと自分も虐められるという状況が怖かったからであろう。
絵鞠は目を瞑って深呼吸してから芹沢に向き合った。
「芹沢くん。私は芹沢くんが織人を殺した犯人だとは、まだ思っていません」
「!」
芹沢は絵鞠の発言に大きく目を見開いた。警察官も弁護士も驚きで固まっているようだ。絵鞠は大きく息を吐いてこう言った。
「例え貴方が本当に織人を殺したとしたら、首を切る事はせず、迷わず出頭していたでしょう?でもなぜ、出頭せずに学校に通っていたのですか?」
「…そ、それは…」
何かを言いかけて芹沢はまた深く俯く。推測するに、きっと彼は黒幕に口止めされているのだろう。絵鞠は1つの憶測を口に出した。
「もしかして、前に織人をいじめていた事を、織人に全て話したのですか?」
「あ…」
芹沢は絵鞠の出した憶測に驚き、戸惑っていたが、すぐにゆっくり小さく頷いた。
「…はい。全て、全て話しました…」
「そう、ありがとう。では、織人が殺されそうになっている事実も、貴方が織人に言ったのですか?」
「……はい。もう耐えきれなくて……」
芹沢は肩を震わせ、大粒の涙をこぼす。
余程怖くて辛かったのだろう。絵鞠は芹沢の肩を抱いて、背中を撫でてやりたい衝動に駆られた。
「ありがとう、芹沢くん。きっと織人は君の告白を笑顔で許していると思います。勿論、貴方が織人に全て白状したとしても、死なせるぐらいまでいじめた事実は変わりません。それは罪にあたります。だから、貴方はここにいるべきですが、きっとすぐに更生出来ると思いますよ」
「…お、お姉さん…ありがとうございます」
絵鞠がかけた慈悲の言葉に、芹沢は感謝の涙を流し深く頭を下げた。きっとこの子はこの先いい人生を歩める。そう確信した絵鞠は芹沢にこう問いかけた。
「最後に、貴方達を使役していた黒幕について教えて頂きたいのですが…」
「…えっ?」
「貴方が黒幕の事を隠したまま、責任という名の重荷を抱えて生きる事は、きっと織人も望んでいません。ここは、友を救うと思って、教えて頂けませんか?」
「友…」
友という響に、芹沢の目が一瞬輝いて見えた。そして、少し考え込んだあと、芹沢は意を決して絵鞠にこう言った。
「分かりました。ただし条件があります」
「条件、ですか?」
「はい。警察官の方々への条件ですが、黒幕が捕まった時、決して僕と同じ牢に入れないで頂きたいです」
芹沢は真っ直ぐに見据えて、自身の後ろにいる警察官にこう伝えた。警察官は一瞬首を傾げたが、すぐに頷いた。
「芹沢が真面目に更生するのであれば、掛け合ってみよう」
「ありがとうございます。…もし本当に同じ牢に入れられたら、僕は間違いなく黒幕に殺されるので」
「!!」
自嘲気味に笑った芹沢の発言に、警察官の身体がまた固まる。そして絵鞠達に向き合い、芹沢は今までよりも清々しい顔でこう言い放った。
「僕達を使役していた黒幕は………」
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