前澤織人の手記

ネズミトリ

文字の大きさ
上 下
8 / 16

いじめの真相2

しおりを挟む
芹沢が逮捕されて、実に1週間が経過した。絵鞠は芹沢の担当弁護士に案内されて、拘置所の面会室に入った。

「今野さん。被害者の親族が来るこのようなケースは稀なんですよ」
「そうなんですね。確かに、普通は被害者を見た途端、発狂しかねませんからね」

弁護士は緊張を解すために声をかけたが、冷静淡々に返事をする絵鞠に冷や汗をかく。
敏腕警察官とも言わしめる黒田と協力体制を整え、なおかつ面会を取り付ける被害者の身内はそうそういないだろう。
いつ絵鞠が発狂してしまわないか、弁護士は内心ハラハラしていた。

しばらくすると、面会所から芹沢がやってきた。警察に連れられた彼は、初めて男子寮で見かけた時よりも痩せ細っており、深く俯いていた。

「芹沢くん。この方は前澤織人くんの実のお姉さんです。貴方にお聞きしたい事があるという事なので、特例でこの場に連れてきました」

優しく声を掛ける弁護士の言葉を聞き、芹沢は顔を上げて絵鞠を見た。その途端、芹沢の目から大量の涙が溢れ出し、その場で土下座する勢いで謝ってきた。

「前澤のお姉さん!前澤を死なせてしまい、本当にごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「芹沢。顔を上げろ」

警察が芹沢の顔をあげさせる。芹沢の顔面は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
絵鞠はその様子に少し同情し、泣かないよう唇を噛み締めた。

いじめているという自覚がない若者は多いのだが、芹沢はそうではなく、黒幕の差し金で織人をいじめていた。
つまり悪気があったにも関わらず、いじめをやめられなかったのは、そうでもしないと自分も虐められるという状況が怖かったからであろう。
絵鞠は目を瞑って深呼吸してから芹沢に向き合った。

「芹沢くん。私は芹沢くんが織人を殺した犯人だとは、まだ思っていません」
「!」

芹沢は絵鞠の発言に大きく目を見開いた。警察官も弁護士も驚きで固まっているようだ。絵鞠は大きく息を吐いてこう言った。

「例え貴方が本当に織人を殺したとしたら、首を切る事はせず、迷わず出頭していたでしょう?でもなぜ、出頭せずに学校に通っていたのですか?」
「…そ、それは…」

何かを言いかけて芹沢はまた深く俯く。推測するに、きっと彼は黒幕に口止めされているのだろう。絵鞠は1つの憶測を口に出した。

「もしかして、前に織人をいじめていた事を、織人に全て話したのですか?」
「あ…」

芹沢は絵鞠の出した憶測に驚き、戸惑っていたが、すぐにゆっくり小さく頷いた。

「…はい。全て、全て話しました…」
「そう、ありがとう。では、織人が殺されそうになっている事実も、貴方が織人に言ったのですか?」
「……はい。もう耐えきれなくて……」

芹沢は肩を震わせ、大粒の涙をこぼす。
余程怖くて辛かったのだろう。絵鞠は芹沢の肩を抱いて、背中を撫でてやりたい衝動に駆られた。

「ありがとう、芹沢くん。きっと織人は君の告白を笑顔で許していると思います。勿論、貴方が織人に全て白状したとしても、死なせるぐらいまでいじめた事実は変わりません。それは罪にあたります。だから、貴方はここにいるべきですが、きっとすぐに更生出来ると思いますよ」
「…お、お姉さん…ありがとうございます」

絵鞠がかけた慈悲の言葉に、芹沢は感謝の涙を流し深く頭を下げた。きっとこの子はこの先いい人生を歩める。そう確信した絵鞠は芹沢にこう問いかけた。

「最後に、貴方達を使役していた黒幕について教えて頂きたいのですが…」
「…えっ?」
「貴方が黒幕の事を隠したまま、責任という名の重荷を抱えて生きる事は、きっと織人も望んでいません。ここは、友を救うと思って、教えて頂けませんか?」
「友…」

友という響に、芹沢の目が一瞬輝いて見えた。そして、少し考え込んだあと、芹沢は意を決して絵鞠にこう言った。

「分かりました。ただし条件があります」
「条件、ですか?」
「はい。警察官の方々への条件ですが、黒幕が捕まった時、決して僕と同じ牢に入れないで頂きたいです」

芹沢は真っ直ぐに見据えて、自身の後ろにいる警察官にこう伝えた。警察官は一瞬首を傾げたが、すぐに頷いた。

「芹沢が真面目に更生するのであれば、掛け合ってみよう」
「ありがとうございます。…もし本当に同じ牢に入れられたら、僕は間違いなく黒幕に殺されるので」
「!!」

自嘲気味に笑った芹沢の発言に、警察官の身体がまた固まる。そして絵鞠達に向き合い、芹沢は今までよりも清々しい顔でこう言い放った。

「僕達を使役していた黒幕は………」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐代行業

ももがぶ
ミステリー
被害者の訴えを聞き取り、依頼者に成り代わり密やかに復讐代行を行う。

オボロアカツキ。

ウキイヨ。
ミステリー
これまで数々の「夢」を叶えようとすれば、現実的問題に阻まれ、いつしか「夢」と言う言葉が嫌いなった洋平は、ある日を境に「夢」を叶えるチャンスを手に入れる。しかし1ヵ月と言う期間と叶える為のルールが存在する中、彼の「夢」を阻む存在や事態が彼に立ちはだかる。そしていつしかそれは、彼にとって人生史上とてつもない事件に巻き込まれていくのであった。

天井裏の囁き姫

葉羽
ミステリー
東京の名門私立高校「帝都学園」で、天井裏の囁き姫という都市伝説が囁かれていた。ある放課後、幼なじみの望月彩由美が音楽室で不気味な声を聞き、神藤葉羽に相談する。その直後、音楽教師・五十嵐咲子が天井裏で死亡。警察は事故死と判断するが、葉羽は違和感を覚える。

港までの道程

紫 李鳥
ミステリー
港町にある、〈玄三庵〉という蕎麦屋に、峰子という女が働いていた。峰子は、毎日同じ絣の着物を着ていたが、そのことを恥じるでもなく、いつも明るく客をもてなしていた。

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

おさかなの髪飾り

北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明 物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか? 夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた 保険金殺人なのか? それとも怨恨か? 果たしてその真実とは…… 県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です

中学生捜査

杉下右京
ミステリー
2人の男女の中学生が事件を解決していく新感覚の壮大なスケールのミステリー小説!

ディアローグ 魔法学校の殺人

屋一路
ミステリー
1900年春。プリエール魔法学校の魔法薬学保管庫で、ひとりの生徒が殺された。 魔法が絡む事件で捜査に当てられる期間は3日間。 その間犯人が見つからなければ、もっとも疑わしいものが連行されることになっている。 疑いの筆頭に挙がったのは、魔法薬学の若き教師ライズ・グロリエルだった。 そんな事件に関わるのは、彼を救うため文字通りあらゆる手を尽くす助手のリィエンと、捜査のため学校を訪れたふたりの魔法執判官ヴァンとフィフィー。 そして、頼まれてもいないのに調査に乗り出した、3人の1年生。 「こーなったら、ボクたちがなんとかするしかよね!」 「いや、そもそもこれ勝手にやってることですし。というか、一応主人公僕なんですけど……」 「一応と言わず、胸張ってけ」 おさげの人気者ミルダと学校屈指の魔力を持つグレイ。 そして、魔法使いが好まない推理小説を愛するアルフェルノアの3人は、精霊と結界によって守られた密室の謎に挑む。 ※この作品は、下記のサイトでも重複投稿しています。 Nolaノベル・小説家になろう・アルファポリス・ノベルデイズ・エブリスタ

処理中です...