訳あり男装執事は、女嫌いの騎士団長に愛され口説かれる

九重ネズ

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その錯覚は突然に (ロザリアside)

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「…ん…」
「ロザリア、様?ロザリア様っ!」

 離宮の客室にあるベッドで、ロザリアはゆっくりと目を開けた。
 とても長い夢を見たような気がしたが、リュドウィックがいたこと以外思い出せない。
 そして、彼女の側には、涙を流して泣いているアンディの姿があった。

「…アンディ?泣いて、いるの?」
「うっ…ひっぐ…。よ、よがっだですぅ!ロザリア様、あれから二日も寝込んでいらしたのでぇ、気が気ではなくぅ…」
「そ、そうだったのね…。ごめんなさい、アンディ。心配かけたわね」
「いいえ、いいえ!おっ…お目覚めになったのであればっ、何よりですからっ…!」

 アンディは右手の甲で自分の目を何度も目を擦ってから、無理やり笑顔を作る。
 それを見たロザリアは、なんだかアンディに申し訳なく感じてしまい、下を向いて俯いた。

「あ、あのね、アンディ。実は私、夢を見ていたの」
「…夢?夢ですか?」
「そう、とても長い夢。けれど、どんな夢かは忘れちゃって。でもね、その夢にはリュドウィック殿下がいたの」
「え?リュドウィック殿下が、ですか?」
「そうなの。なんで、あのバカアホ女たらし殿下が夢の最後に出てくるのよ!って思ったんだけど、彼がいた夢はとても心が温かくなって、幸せだった。多分もう、私はリュドウィック殿下のこと…。あっ!」
「ロザリア様…」

 つい夢のことで、アンディにリュドウィックへの恋心を吐露しそうになって、ロザリアは咄嗟に口を噤んだ。

 確かに、リュドウィックに好意を持ってることは、信頼しているアンディに言ってもいいとは思っている。
 しかし、いつ何時その話を誰かに聞かれてしまうかもと思うと、ロザリアは恥ずかしくて悔しくて、言いたくても言えなくなってしまうのだ。

(あー、危なかった。こういうのは本当にアンディと二人きりじゃないと話せないし、見渡す限りここは私の部屋じゃないから、誰かに聞かれてしまったらお終いだわ!…それにしても、ここは何の部屋なのかしら?すごく豪勢な照明と、可愛らしい装飾が施されていて、とても素敵だわ)

 ついつい部屋全体に目がいき、ロザリアは顔を上げて、キョロキョロと辺りを見渡す。
 すると、閉まっていた扉がコンコンとノックされたかと思うと、一人の女性が中に入ってきたのを見て、ロザリアの目が大きく見開かれた。

「…えっ?リディア、様?」
「ふふっ。ようやくお目覚めのようね、ロザリア嬢。ご気分はいかがかしら?」
「へ?え、ええ。大丈夫では、ありますけれど…」

 赤薔薇のように美しい佇まいのリディアを見て、ロザリアは嬉しさ半分眩しさ半分で、目を細める。
 しかし、しばらくして目を開けると、ロザリアはリディアの顔にとある錯覚を覚えた。

 リディアの顔が、リュドウィックの顔とという錯覚を。

(あれ?リディア様って、リュドウィック殿下と顔が同じだったかしら?初めて会った時は、そうだとは全く思わなかったし、違和感がなかったから、平気で話せていたのだけれど…。もしかして、あの時じっくり見ていなかったから、気付いてなかったのかもしれないわ。けれど、リディア様は殿下の妹よ?似てるのも当然、よね?…そうよね?)

 段々と、自分の考えが分からなくなってきたロザリア。
 ついに頭がパンクしてしまったため、ロザリアはアンディに「ごめんなさい、アンディ。疲れたから、もう少し寝るわ」と言い、ベッドに潜って寝直したのだった。
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