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思わぬハプニング 1
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さっきまで空気が澱んで暗かった伯爵邸の応接間が、リュドウィックが仕事に関する話を持ちかけた事により、段々と明るいものに変わっていく。
この事に目を見開いて驚いたアンディとオズワルドは、お互い顔を見合わせて扉を指したあと、静かに応接間から外に出た。
「…すまない、アンディ殿。応接間を出る合図を送ってしまい…。ここからは王家とエンブレスト伯爵の間で商取引に関する話をするだろうと思ったら、騎士団長の俺が応接間の中に留まるのはダメだと思ってな…。何せ、機密事項だからな」
「ええ。僕も貴方の考えに同意します。業務に関わる話だけならば、殿下が恋だの愛だのを吹っかけて来る事も、少なくなるかもしれないですし。…けれど、このまま応接間の外にいてもいいのでしょうか?」
「ああ。それなら任せてくれ」
そう言って、オズワルドは応接間の扉に手をかざし、小声で何かを詠唱する。
すると、赤い魔方陣がフワッとそこに映し出されたかと思うと、次の瞬間には薄くて赤い膜のような結界が生成され、応接間の外側を包み込んだ。
「ふぅ。これでよし。やはり一部屋だけに防御結界を張るのは、簡単で楽だな」
「!?き、騎士団長様って、魔法使えるんですか!?」
「ん?そりゃそうだろ。なにせ俺はウェリントン公爵家の次男だからな!…まぁ、持ってる魔力量が少ないから、あまり戦い向きではないけどな」
「そ、そうなんですね…。って、ええええええ!?」
いきなりアンディが大声を出して頭を抱えたものだから、オズワルドは肩をビクッと跳ねさせて、目の前の小さな執事を見た。
そう。アンディは失念していたのだ。この国では、公爵家と王家の血筋を持つ者だけが、魔法を扱えるという事を…。
(待って待って!?騎士団長が公爵家の人間だった事、すっかり忘れてた!しかも、まさか彼が魔法を使えるとは思ってなかったよ!?精悍な顔立ちに筋骨隆々の大きな身体を持ち、切れ味抜群の大剣で敵を薙ぎ倒している騎士団長と、まるでイメージが違う…)
とうとう、目を回して蹲ってしまったアンディ。
それに気付いたオズワルドは、慌ててその場にしゃがみこみ、アンディの顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫か、アンディ殿?何か重要なミスでもしたか?」
「へっ!?い、いやいや!た、ただ騎士団長様が魔法を使えるとは思っておらず、貴方様が公爵家の人間だという事も、わ、忘れておりまして…」
「…ふーん。普通に夜会とか参加すると、俺の地位目当てで群がる令嬢が後を絶たないんだが…。あー、そっか。アンディ殿は男性で、なおかつロザリア嬢の専属執事だから、彼女の世話で手一杯か」
「はい…。すみません、色々疎くて…。僕、執事失格かも…しれません…」
自分から『執事失格』と言ったにも関わらず、アンディはその言葉が胸に刺さってしまい、段々と両目が潤み始めた。
実は、アンディはまだ、執事になってたったの一年しか経っていない。
しかも、勉強があまり得意ではないのも自覚しているため、粗相をしないよう自己を戒めながら、ここまで努力してきたのだ。
けれどアンディが学べたのは、執事としてのマナーとロザリアの世話、そしてエンブレスト伯爵邸の中の家事全般。
かろうじて、以前女性騎士になる訓練をしていたため、騎士団や軍事に関する事も学んではいたが、その知識は未だロザリオアを護る事にしか役立たない。
だから、例え一国民として王族の事は覚えていたとしても、貴族の事には少し疎いのである。
しばらく、アンディはそのままの状態で座り込み、目から一粒の涙を流した。
それを見たオズワルドは、大きくため息をついてから、アンディの頭に自分の右手を置いて優しく撫でたのだった。
この事に目を見開いて驚いたアンディとオズワルドは、お互い顔を見合わせて扉を指したあと、静かに応接間から外に出た。
「…すまない、アンディ殿。応接間を出る合図を送ってしまい…。ここからは王家とエンブレスト伯爵の間で商取引に関する話をするだろうと思ったら、騎士団長の俺が応接間の中に留まるのはダメだと思ってな…。何せ、機密事項だからな」
「ええ。僕も貴方の考えに同意します。業務に関わる話だけならば、殿下が恋だの愛だのを吹っかけて来る事も、少なくなるかもしれないですし。…けれど、このまま応接間の外にいてもいいのでしょうか?」
「ああ。それなら任せてくれ」
そう言って、オズワルドは応接間の扉に手をかざし、小声で何かを詠唱する。
すると、赤い魔方陣がフワッとそこに映し出されたかと思うと、次の瞬間には薄くて赤い膜のような結界が生成され、応接間の外側を包み込んだ。
「ふぅ。これでよし。やはり一部屋だけに防御結界を張るのは、簡単で楽だな」
「!?き、騎士団長様って、魔法使えるんですか!?」
「ん?そりゃそうだろ。なにせ俺はウェリントン公爵家の次男だからな!…まぁ、持ってる魔力量が少ないから、あまり戦い向きではないけどな」
「そ、そうなんですね…。って、ええええええ!?」
いきなりアンディが大声を出して頭を抱えたものだから、オズワルドは肩をビクッと跳ねさせて、目の前の小さな執事を見た。
そう。アンディは失念していたのだ。この国では、公爵家と王家の血筋を持つ者だけが、魔法を扱えるという事を…。
(待って待って!?騎士団長が公爵家の人間だった事、すっかり忘れてた!しかも、まさか彼が魔法を使えるとは思ってなかったよ!?精悍な顔立ちに筋骨隆々の大きな身体を持ち、切れ味抜群の大剣で敵を薙ぎ倒している騎士団長と、まるでイメージが違う…)
とうとう、目を回して蹲ってしまったアンディ。
それに気付いたオズワルドは、慌ててその場にしゃがみこみ、アンディの顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫か、アンディ殿?何か重要なミスでもしたか?」
「へっ!?い、いやいや!た、ただ騎士団長様が魔法を使えるとは思っておらず、貴方様が公爵家の人間だという事も、わ、忘れておりまして…」
「…ふーん。普通に夜会とか参加すると、俺の地位目当てで群がる令嬢が後を絶たないんだが…。あー、そっか。アンディ殿は男性で、なおかつロザリア嬢の専属執事だから、彼女の世話で手一杯か」
「はい…。すみません、色々疎くて…。僕、執事失格かも…しれません…」
自分から『執事失格』と言ったにも関わらず、アンディはその言葉が胸に刺さってしまい、段々と両目が潤み始めた。
実は、アンディはまだ、執事になってたったの一年しか経っていない。
しかも、勉強があまり得意ではないのも自覚しているため、粗相をしないよう自己を戒めながら、ここまで努力してきたのだ。
けれどアンディが学べたのは、執事としてのマナーとロザリアの世話、そしてエンブレスト伯爵邸の中の家事全般。
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だから、例え一国民として王族の事は覚えていたとしても、貴族の事には少し疎いのである。
しばらく、アンディはそのままの状態で座り込み、目から一粒の涙を流した。
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