イロガミ

牧屋 冬士

文字の大きさ
上 下
3 / 5

2.ニホンアマガエル

しおりを挟む



「はい、これ。あきらくんの分ね」

 ピンクのエプロンを着けた保育士がやってきて、正方形の紙をあきらの前に差し出した。

 返事はない。

 先生が手に持っているのは新品のカラーペーパー色紙。けれどそれを見ても、あきらの表情はまったく冴えなかった。

 じっと見つめること5秒。ようやく先生から色紙を受け取った。

「みんなにもお願いしてるの。今度の発表会までに、好きな色とか模様でかざってきてね。約束よ?」

 これまた返事の代わりに、あきらは無言で首を縦に振った。

「ああ、よかった! あきらくんが最後だったの」

 その先生はようやく全員に紙を配る仕事を終え、安堵の息を漏らした。

「いちおう壊れていないか確かめてみてね。じゃあね!」

 そう言い残すと、保育士は忙しそうに別の子どもたちの方へと走っていった。

 残されたあきらはひとり、紙を手にぽつんと立っていたが、やがて寒さを感じてぶるっと震えた。

 寝汗で濡れたシャツを着替える為、いちど色紙をフローリングの床に置いた。

 新しい上着を懸命に引っ張って、袖口から大きな頭をずり出した。ズボンをたくし上げ、シャツを中に入れる。背中の方はうまく仕舞えていないが、本人は気にもしなかった。

 自分なりに着替えを終えたあきらは、フローリングの床にペタンと座り込んた。人からもらった餌を警戒する猫のようにしばらく、おもちゃから宿題となった『紙』と睨めっこをしていた。

 渡されたおもちゃの色は、単色の黄緑色。『カラーペーパー』という名前は立派だが、薄くて変哲もない1枚の紙きれだった。

 やがて緑の紙に手を伸ばし、つまみ上げる。裏側を眺め、違う手で持ち替え、今度は目線の高さにかかげた。

 わかっている。警戒なんてする必要はない。あきらはこの種のおもちゃのことよく知っている。遊び方も、その紙に命を吹き込むための言葉も――。

「でろ」

 あきらは静かに命令コマンドワードをつぶやいた。

 言葉は確かに届いたらしい。カラーペーパーが風もないのにふわりと揺れた。まもなく紙の中央に小さな波紋が現れた。波は四角い紙の角めがけて均等に広がり、端まで伝わって消えた。

 その変化のあと、カラーペーパーの中心に光の粒子パーティクルが浮かび上がった。星の形をした光子が最初は1つ、次に2つと増えていき、やがて人の目では数えられなくなった。くるくると回る星たちは渦を作り始め、まぶしく光りだした。

 この小さなショーが引き起こす光は、あきらの瞳や頬にも反射していた。けれど彼の表情に驚きや感動の兆しはなかった。

 ぐるぐる回る粒子の軌跡がひとつに重なり、いまやそれはこぶしぐらいの球体になっていた。丸い塊は意思を持つように変形しながら、何かを形作っていく。その行程が終わりに近づくにつれ、明るかった光は徐々に消え失せていった。

 ショーは終わった。そして先ほどまで何もなかったカラーペーパーの上に、黄緑色の物体の姿が浮かび上がっていた。

『ケロケロ』

 それ・・がけたたましく、鳴いた。

 あきらはうんざりとした様子で、その『生きていない生き物』を見て、ため息を漏らした。

『カラーペーパーの世界へようこそ』

 荘厳なファンファーレが鳴り響く。

『この映像および音声素材は、子供の未来を創造するマデル社がお届けします』

 空中に投影された生き物の姿が、水平にゆっくりと回り出した。あわせて大人の女性の声で生態の解説が始まった。

『ニホンアマガエル。20XX年に絶滅。大きさは2センチから4センチぐらい。オスよりもメスのほうが大きく……』

「すきっぷ」

 あきらが解説を途中でぶっきらぼうに遮った。女性の声が消えた。ゆっくりと回っていたカエルの映像は、あきらに背を向けて止まった。

 なにせ少年はその解説を聞き飽きていた――内容を暗記して言えてしまう程に。

 その時、不愉快そうな声が聞こえた。カラーペーパーからの方からだった。

『すきっぷ、すきっぷって……そればっかり』

 声は不満そうだ。

『おい、いつも言うことだけどな。【かいせつ】はちゃんと最後まで聞けよ。まったく……あいかわらず、俺の言うことを聞いていないんだな』

 あきらの周囲には誰もいない。ということは――そう、声の主はカラーペーパーの中央に浮いている映像のカエルだった。

 あきらにゴツゴツした背骨を見せていたカエルは、懸命に手と足を動かして、自分の位置を修正した。3度目の水平回転でようやく正面を向き、あきらと顔を向き合わせた。

「なんだよ、また・・おまえか」

 せっかく視線を合わせられる位置まで回転したカエルの苦労もかえりみず、あきらはそっぽを向いた。

『まるで偶然会ったみたいな言い方だな。でも命令したのはあきらだぜ。俺に会いたいから出てきて下さいってね』

「でてきてくださいなんて、いってない! 『でろ』っていったんだ。それも一回ためせって先生がいうから。そうじゃなきゃ呼ぶもんか」

『俺は会いたかったぜ、あきら。前回教室の外に投げられてから、全然呼んでくれないからさ。あの時の俺は肉食恐竜アロサウルスの人形だったかな? あきらはとにかく怒りっぽいからな』

「よくいうよ! おまえがいきなり女の子のうさぎのぬいぐるみにかみついて、泣かしちゃったからじゃないか!」

『そりゃあ、ごっこ遊びだから真剣にやらないと……うまそうなごちそうが目の前にいれば、飛びかかるのが恐竜ってもんだ』

「もういい、お前とは、しゃべりたくない」

『つれない事を言うなよ、《ぼっちゃん》』

「ぼっちゃんって呼ぶの、やめろ! みんなにからかわれるんだから」

『へぇ。じゃあ、ヒナちゃんみたいに、《あきらくん》って呼べばいいのかい?』

カエルは皮肉たっぷりに言って、ケロケロと笑った。アマガエル特有の目の横の縞模様が、ピクピクと動いた。

「うるさいな……さっさとひっこめよ!」

 あきらはかっとなって、このたちの悪いカエルの映像を睨みつけた。

 どうしても、こいつと喋っていると最後には怒鳴ってしまう。あきらは胸に手を当てた。落ち着け、相手はただのおもちゃなんだぞと言い聞かせる。

 けれど一度高ぶった感情には効果が薄く、イライラとする気持ちは全然、おさまらなかった。

「マコさんがいけないんだ!」

 あきらは『この件』について、ついこの前も担任の保育士に解決をお願いしたばかりだった。

「マコさん! ぼくの【ぴーえー】のきおく、はやくキレイにしてよ!」

 依頼の台詞はいつも同じだった。

「あー! そうそう、あきらくんのPAでしょ? 大丈夫! 先生ちゃんと覚えてるんだから……ちょっと待ってね……説明書……説明書……えーっと、ここの所を押して……」

 タブレットを操作する保育士の喋りと手つきが、どんどん怪しくなってくる。あきらはその様子を見せられる度に、大人びた諦めのため息をつく事になった。


 言うまでもなく、近年の教育玩具のほとんどは標準でPA(パーソナライズド・アシスタント)機能に対応していた。

 一般的に子供は気に入ったおもちゃを見つけると、より念入りにそのひとつと遊びたがる。

 ひとりで時間を過ごす事の多い保育園の子には、寂しさのせいか特にその傾向が強くあった。

 遊び相手がぬいぐるみなら、子供はまず名前を付ける。昼間はその子とままごとをして遊び、寝る時は脇に置いて怖い夢を見た時にぎゅっと抱く。

 ある子供の所では、本当は悪者であるロボットが、いつしか主人公よりも正義感を全面に出しヒーローをやっつけている。

 またある所では、武装した戦闘機がまったくの無音で飛び、三姉妹のビニール人形を背に乗せて運ぶ優しいゆりかごになったりもする。

 おもちゃと過ごす時間が長ければ長いほど、子どもたちは独自の遊び方を発見したり、自分とおもちゃだけの秘密の会話を楽しんだりするものだ。

 そしてそれは、かけがえのない思い出になる。

 「個々の子供が育てる遊び方の記憶」こそ、玩具自体の多彩な機能性よりも大事だというのが、今の教育玩具業界の通説になっていた。

 その説を受けて誕生したもの、それこそがPAだった。

 この画期的な電子の頭脳は、目に見えないぐらい小さく出来ていた。そのおかげで、瞬く間にあらゆる玩具に埋め込まれる事になった。

 玩具が子供と会話できるのは昔からの事だが、さらにPAがあれば会話の記憶や子供が表した反応・表情など、あらゆるデータが蓄積され、経験値として積み上がる。

 仮におもちゃがすり替わったとしても、子供の遊びの情報は雲の上で生きている。そのおかげで次のおもちゃに載せられたPAへと『記憶』を引き継ぐ事ができた。

 だから新しいぬいぐるみを買ってきても、子供は寂しい思いをしない。両親は心配せずにおもちゃ売り場へ足を向けるようになり、玩具業界も売上への貢献を喜ぶのだ。

 ところがこの誰もが幸せな世界のもと、ある子供が不機嫌な表情をしているだなんて、残念がら業界の大人にはひとりとして想像ができないだろう。

 とにかく、あきらにとってはそんな便利な機能が、邪魔で邪魔で仕方がなかった。

 自分でオフのスイッチを押せれば何でもないのに、大人たちはPAの操作を子供に許すことはなかった。

 だからお願いしてるのにと、あきらが何度おもったことか。

 マコ先生とのやり取りの結末は、いつも決まっている。

「……あ、電話! ごめーん、あきらくん、後でやっておくから!」

 後でっていつ? 前回、そんな約束が交わされてから、もう余裕で1週間は経っているじゃないか。

 おかげで、彼が手にとって遊ぶどの玩具にも、この憎たらしく皮肉好きなAIとのやり取りが付きまとった。

 最近のあきらの機嫌はとても悪かった。特に今日はマコ先生が休みだったので、ぶつける先のない不満がいつもより心の中に溜まっていた。

 思い出すと余計に腹がたってきた。あきらは再びカエルに向き直ると、精一杯いやそうな声を作って喋りかけた。

「きょうもカエル? どうせ緑色なら、たまにはカマキリとか出してみろよ」

『そいつは、無理だね』

 アマガエルはぴしゃりと言った。

『説明ファイルに書いてあるだろ。カラーペーパーは、使う子供と紙の色の組み合わせで、出てくる生き物が決まるんだ。そんなに見たければ、違う色を選べよ。金とか銀はオススメだぜ』

「ふん」

 PAの答えにはくやしいほど反論の余地がなかった。あきらは仕方なく鼻を鳴らしたあと、チラリと部屋の中央を見た。

 それと同じぐらいのタイミングで、部屋の中央の方から、子供たちの歓声が上がった。

「クワガタだ!」

「カッコいい!」

「ひろくん、すごい!」

 ほとんどの園児たちが集まっているのではないか? それぐらいの声のボリュームだった。そして聞こえてくるのは、称賛の声ばかり。

 中心にいる、ひろくんと呼ばれた背の高い男の子は、とにかく得意げだった。その手には、金色に輝くカラーペーパーを持っている。

 彼はサービス精神を発揮するのを忘れない。手に入れた映像を仲間の園児たちにみ見えるよう頭の上に掲げていた。

 金色の紙の上には、かつて南の国に生息していた、金色に輝く美しい昆虫の映像が映し出されていた。

『オウゴンオニクワガタ。クワガタの仲間です。20XX年に地球上より絶滅』

 さらにもうひとつ、別の黄色い歓声が聞こえてきた。気移りの早い子どもたちの目は、次に現れた男の子に注がれていた。

「大きい! それにキレイ!」

「タカくん! みんなに見せて」

 太い腕と広い肩幅を持つ男の子が、集団の中心へと進み出た。

 彼もカラーペーパーを持っていた。今度は銀色の紙だ。周りの子がますます大きな声をあげた。少年が太い腕を伸ばして、紙の上に浮かんでいる映像を差し出したからだ。

 その昆虫はひときわ立派な成虫の体を持っていた。尾の付け根あたりに水色の筋があり、濃い体の色に映えとても美しかった。

『ヤンマの仲間、ギンヤンマ。トンボです。20XX年に絶滅種に指定』

 クラスの大半の子供が集まるなか、あきらはぽつんとひとり、ロッカーのそばに座り込んで、その様子を表情無く見つめていた。

『あーあ、だから言ったのに。今回もあいつらに、いい色を取られちまった』

 アマガエルの冷やかしに、あきらはもうそれ以上応戦しようとしなかった。

 拍子抜けしたカエルは、四本の指のついた右の前足で、自分の目の回りを拭き始めた。

 あきらとカエルのPAは気づかなかったが、背後から昼寝の時に声をかけた子が、ゆっくりと近づいて来ていた。

 同じたいよう組の女の子のヒナだった。

「わあ、あきらくんのアマガエル、かわいいね」

 ヒナの褒める声は、驚くあきらの肩の後ろから、覗き込むように届いた。

 カラーペーパーに表示された緑のカエルを見る少女の目がキラキラしている。心底羨ましそうだった。

 声の正体がわかると、少年はまたすぐに不機嫌なモードになる。あきらはヒナをちらりと見たが応じなかった。

 代わりにあきらのカエルが、照れたように言った。

『へへ、ありがとう。ひなちゃんは、何をもらったんだい?』

「ヒナはお花。オシロイバナ、だって」

 嬉しそうに笑い、手もとのカラーペーパーを開いて、2人に見せた。

 緑の葉とラッパのような形をした花びらを持つ植物が、紙の上でくるくると回っていた。

『へぇ、赤色の紙に花か。女の子らしくて、いいね。そうだろ、あきらくん・・・・・

「……ああ、そうだね」

 カエルにうながされて、あきらはしぶしぶ返事をした。

 そんな浮かない様子の友達を見て、ヒナは何か言いたげな素振りを見せた。けれどいったんやめて、少し考えてから再度口を開く。

「ヒナ、ほんとうは、金とか銀の紙が欲しいの。なのに、いつもあの子たち2人が、先に取っちゃうでしょう?」

 少女は腕を組んで、怒ったポーズを取った。

「だからこんど先生に言おうと思ってるの。私たちにも、ちょうだいって。もしもらえたら、あきらくんにもあげるね」

 実際ひなにとっては、どんな色のカラーペーパーでも良かった。

 けれどその台詞は、早熟な女の子が素直じゃないあきらの気持ちを考えて作り上げたもので、お姉さんらしい優しさにあふれていた。

 ただ残念なことに、あきらにはひなの真心が通じていなかった。

「いらないよ。僕はあんな色の紙に、興味ないんだから」

 あきらは立ち上がった。そして自分の色紙を持つこともせず、そこから立ち去っていった。

「あきらくん、また怒らせちゃた」

 あきらのイロガミと共に取り残されたヒナが、ぽつりと言った。少女はどうしていいか分からず、とても悲しそうな顔をするしかなかった。

『馬鹿だな、本当は欲しいくせに……頑固なやつ』

 主人に聞こえないよう、ぼそりとつぶやいた後、カエルは喉を膨らませ、コロロと鳴いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

電脳理想郷からの脱出

さわな
SF
 かつてメタバースと呼ばれた仮想空間がリアルワールドとなった西暦2923年の地球。人類はエルクラウドと呼ばれる電脳空間にすべての社会活動を移していた。肉体が存在する現実世界と精神が存在する電脳空間のふたつの世界に疑問を持っていたアイコは、秘密を知る人物、ヒデオに出会う。  理想郷と呼ばれた電脳空間からの脱出劇が始まる……! この作品は以下のサイトにも掲載しています。 *小説家になろう *note(別名義)

機械の向こう側の君に

Olivia
SF
あなたには自分の居場所はありますか?

予言

側溝
SF
いろいろな話を書いていると、何個かは実際に起こってたり、近い未来に起こるんじゃないかと思う時がある。 そんな作者の作品兼予言10遍をここに書き記しておこうと思う。

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

薄い彼女

りゅう
SF
 今年、大学四年になる神岡龍一は迷っていた。  就職先を決められないのだ。  そんな時、付き合っていた彼女の一言で彼の人生は大きく変わることになった。  彼女はこう言ったのだ。 「私には予知能力があるの」  もちろん、この一言で彼の人生は変わるのだが、それよりも驚いたのは彼女の存在確率が極めて低いという事実だった。

「日本人」最後の花嫁 少女と富豪の二十二世紀

さんかく ひかる
SF
22世紀後半。人類は太陽系に散らばり、人口は90億人を超えた。 畜産は制限され、人々はもっぱら大豆ミートや昆虫からたんぱく質を摂取していた。 日本は前世紀からの課題だった少子化を克服し、人口1億3千万人を維持していた。 しかし日本語を話せる人間、つまり昔ながらの「日本人」は鈴木夫妻と娘のひみこ3人だけ。 鈴木一家以外の日本国民は外国からの移民。公用語は「国際共通語」。政府高官すら日本の文字は読めない。日本語が絶滅するのは時間の問題だった。 温暖化のため首都となった札幌へ、大富豪の息子アレックス・ダヤルが来日した。 彼の母は、この世界を造ったとされる天才技術者であり実業家、ラニカ・ダヤル。 一方、最後の「日本人」鈴木ひみこは、両親に捨てられてしまう。 アレックスは、捨てられた少女の保護者となった。二人は、温暖化のため首都となった札幌のホテルで暮らしはじめる。 ひみこは、自分を捨てた親を見返そうと決意した。 やがて彼女は、アレックスのサポートで国民のアイドルになっていく……。 両親はなぜ、娘を捨てたのか? 富豪と少女の関係は? これは、最後の「日本人」少女が、天才技術者の息子と過ごした五年間の物語。 完結しています。エブリスタ・小説家になろうにも掲載してます。

処理中です...