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専属侍女の独り言

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ロゼッタお嬢様はずっと寂しいお方だった。侍女の私から見ても旦那様方はお嬢様をあまり構うことをなさっていなかった。仕方がなかったと言えば、そうかもしれない。旦那様はお仕事でお忙しいし奥様は最初の1年ぐらいはご自分でお世話をされていたが、その後また妊娠をなされたので、侍女たちに任せ切りとなった。

そう、仕方がなかったのかもしれない。
でも、齢2歳ぐらいの子供にそれを理解しろというのは何分酷ではないだろうか。

「かぁさまはどこ…??」

「奥様は寝室にてお休みになっておられます」

「行っちゃだめなの…?」

「……お嬢様はリリアと遊びましょう。
 奥様がお目覚めになりましたら、リリアと一緒に会いに行きましょうね」

「……わかった。じゃあ、ロゼッタに絵本よんでほしい…」

私の手を控えめに引きながらそのように言うお嬢様はとても寂しそうだった。




そんなお嬢様が変わったのは2歳の後半ぐらいからだった。だんだん私たちの言うことを聞かなくなり、小さな癇癪を起こすようになった。

「やだ!ロゼッタたべない!!!!絶対食べないんだから!!」

だされた食事を床に投げ捨て、そのまま走り去っていくお嬢様。きっと今頃いつのも部屋でうずくまっているのだろう。



「お嬢様…??」

部屋の中からは何も物音がせず、そっと中に入るとうずくまったまま動かないお嬢様がいた。すうすうと寝息を立てている。
よく見てみると少し目元が赤くなっている。きっと泣き疲れてしまったのだろう。

「ぉかあさま……」

つきんと心が傷んだ。きっとお嬢様は奥様と食事をしたかったのだろう。いつも1人でお食べになっているから…。
奥様はいつもベッドに横になっておられるし、悪阻が酷いので食べれるものが決まってくる。
そっとお嬢様を抱き上げ、寝室へと運ぶ。

「おやすみなさいお嬢様…いい夢を」







--------------------------------------






その日もいつものようにお嬢様が逃げ出し、私はそんなお嬢様を探しているところだった。
丁度奥様が出産中で辺りはいそがしそうだ。

「一体どこにいるのかしら…いつもの部屋にはいなかったし…」


探し回っていると分娩室を覗いているお嬢様をみつけた。
あんな所で何を…と思っていると急にお嬢様が走り出した。慌ててその後を追いかけていると、急にお嬢様が凄い声を出した後、盛大に倒れた。

「お、お嬢さまぁぁぁぁぁあぁああ!!!!!!!!」



その後の記憶はよく覚えていない。とにかくお嬢様を運ぶことで必死だったものだから。
お嬢様は2日も目を覚まされなかった。
1日目の夜中にお嬢様の部屋に入っていく旦那様を見かけたので、そっと中を除くと優しくお嬢様の頬を撫でている様子が見えた。
私は知っている。旦那様がとっても不器用な方だと。仕事が忙しいのは重々承知しているが、もっと構われたらよろしいのにと思うが一使用人がそんな事を言える立場ではない。

また1日と立ち、また次の朝お嬢様の部屋の扉を控えめにノックをすると中から返事が来た。少しいつもより荒く扉を開くとベットの上でぼーっとしているお嬢様がいた。
よかった……ちゃんと目を覚まされた…



「お嬢様…!!目を覚まされたんですね…!!良かった……リリアは心配していたのですよ。2日も目を覚まさないのですから…」

「………2日も寝ていたの…」


「ええ、ええ…!!一時はどうなることやら…心臓が止まるかと思いましたよ…お嬢様を探していたら、庭園で急に倒れたものですから…………お嬢様…??」

お嬢様は静かに涙を流していた。
ただただ静かに、まるで息をするかのように涙を流していらした。
あぁ…溢れてしまったのだと私は思った。

人には一人一つずつコップがある。
それは大きかったり、小さかったり…または歪な形をしていたり、美しい形をしていたりとそれは人それぞれだ。少しずつ溜まっていく物を人はこぼしたり、誰かに抜いてもらったりしてコップから溢れないようにする。

でもお嬢様はその方法を知らない。きっとお嬢様のコップはもう既に溢れそうなほど溜まっていたのだ。それが今溢れてしまった。溢れて溢れて、止め方が分からない。だって誰もこの方のコップにそそがれていく物を抜かなかったから、誰もそのこぼし方を教えてあげなかったから。

どのくらいたったかは分からない。
嗚咽を堪えながら私に 「心配してくれてありがとう」と言うお嬢様は今何を思っているのだろう。そっと彼女に近づき、その小さな方を抱き寄せる。すると、お嬢様は声を上げて泣き出した。やがて疲れたのか、うとうととしだしたお嬢様の為に子守唄を歌った。優しい子守唄を

いつかそのコップが暖かいもので溢れてしまうようになるまで……



リリアがずっとお嬢様のお傍におります。



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