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ハッハッと息を短くするエミリアは焦点も定まらず、隣にいる老神官の服を掴み、ずるずると膝をついた。
マーガレットを押し退けベッドから転げ落ちる婚約者を見て、ツーッと一筋の涙を流す。
次々と部屋に入る神官や騎士、更には領主夫妻まで。
狭い室内は人で溢れた。
「きゃあ!何なのよ!出てって!」
慌てて毛布を体に巻くマーガレットは入ってきた者達を睨み付け抗議する。その様子にマーガレットの母、ガランド子爵夫人は倒れ、運び出される。
老神官と子爵の呼び掛けで騎士二名を残し皆部屋の外に出た。
「マーガレット、お前は、何という事を」
震える声で子爵がマーガレットに問いかけるとマーガレットの顔は明るくなり、ジャンはベッドの下で乱れた衣服のまま青い顔で放心したエミリアに這い寄ろうとしている。
「お父様、私ジャンと結婚するわ。いいでしょ?ジャンはお父様のお気に入りだし、男爵になるのだもの。お婿に来て貰いましょ?うふふっ、それにもう契ってしまったわ」
嬉しそうに語るマーガレットは父である子爵が険しい目付きで睨み付けていることに気がついていない。
「ねぇジャンだって同じ気持ちよね?あんなに私を求めてくれたんだもの。それに、子種を私の中にくれたわ」
「君が淹れたお茶を飲んだら体の自由がおかしくなったっ、部屋で休んでいたら、私はミリィを」
その瞬間、ジャンの腕から銀の腕輪がゴトンと落ちた。
「婚約は男の不貞により無効、宜しいですな?子爵」
「.........こうなっては仕方ありますまい」
座り込み、涙を流すエミリアがジャンを捉えた。
「.........さようなら」
「待って!ミリィ!違うんだ!」
もつれる足で必死にエミリアに駆け寄るジャンの前に子爵が立ちふさがり騎士が押さえつけた。
エミリアはヨロヨロと立ち上がり、神官に抱えられるようにして出ていく。
「愛しているんだ!ミリィ!」
マーガレットはエミリアから完全にジャンを奪い高揚していた。
二年前、神官がエミリアを神子だと告げに来た時、孤児の娘が神子になり、マーガレットは腹が立った。
あの娘が神子?何もしていないじゃないか。領地はエミリアのお陰で潤っている訳ではない。そう思い、町の皆がエミリアに感謝することにも腹をたてた。
大した男ではないはずのジャンは、父に気に入られ爵位まで得られる。
そんなに良い男だったのか?ならばエミリアではなく私にこそ相応しい。
マーガレットは何度もジャンを誘ったがジャンはマーガレットに触れようとはしなかったが、抱きついたり、不意打ちでキスをしたこともあったが完全に拒絶されているのではないと感じた。そして今日、儀式のため父母の目もない、そちらに警備が厚くなる分自由に動けた。自宅で儀式の終わりを待つジャンを訪ね一緒に終わるのを待とうと声をかけ薬入りのお茶を淹れた。息を乱すジャンを休むよう寝室に押し込んだ。帰った振りをしそっと戻るとジャンは朦朧としながら自分のものをしごいていた。
そっと部屋に忍び服を脱いだ所でマーガレットに気づいたジャンは体を起こそうとしたが、それよりも早くベッドのジャンに覆い被さる。駄目だと拒否をするジャンの手を取り、自身の豊満な乳房に触れさせた。それでも駄目だと言うジャンの唇を奪った。薬が効いているジャンは体の自由が利かず、マーガレットのいいようにされていった。
禁欲生活が長かったジャンは萎えることはなく、初めての女の体にジャンはマーガレットの中に吐精してしまった。
マーガレットは欲しかった男をやっと手に入れた。逃がすつもりなどなかった。
二人が部屋を出るとすぐに子爵家の更に三名の騎士が入室した。マーガレットは父に向かい部屋から出るように言い放った。
「お父様、着替えますので騎士を連れて出てくださいませ!」
不機嫌そうにツンと顔を反らせば、すまなかったと父は部屋を出てくれるに違いない。そう思っていた。
カツカツと足音が近づき、マーガレットは近づく足音に顔を戻す。
ゴツッ!
強い衝撃が顔の半分を襲い、ベッドに叩き付けられた。
チカチカと視界を火花が飛び、殴られたと分かった。
見上げれば恐ろしい顔をした父が見下ろしている。
何故?
聞こうにも体中震えて声がでない。
「貴様は子爵家を潰す気か!誰と結婚すると!?神子の婚約者と知っていただろう!?私の気に入りだと!?神子の婚約者だからにきまっている!爵位もだ!私が便宜を図ったとでも思ったか!?神子と婚姻を結ぶからこそ王より与えられるものだ!それを!お前は今まで何を見てきた!!」
ゴッ、ゴッっと鈍い音が響く。
ガランド子爵は自分の娘に容赦なく拳を振り下ろす。
ジャンは騎士に取り押さえられ何も出来ないでいた。
控えていた騎士が止める頃には、マーガレットの意識はなく、顔は腫れ上がり元の美しい姿はどこにも無かった。
「ジャン、貴様は殴らん。罰を与えるのは私ではない」
元々の子爵領は今ほど豊かではなかった。ここ10年ほどで小麦の質は格段に良くなった。小麦だけではない。作物の収穫量も増え、大きな伝染病も、水害もない。そして二年前、王都から神官が来て恵みの神子が居ると知らされた。
エミリアが祖母とこの町に移り住んだのは10年前、16の成人を待ち、結婚を控えていた。
神子の純潔はあと二年守らなければいけなかった。
あれから二年、いまだ恵みは続いている。
ジャンと婚姻を結び屋敷を与えれば神子であるエミリアはこの領から出ていくことはない。だからこそ、尽力した。
マーガレットが薬を盛ったとしても、ジャンは二人になるべきではなかった。自衛する手段はあったはずだ。
子爵はギリギリと歯を食いしばりながらジャンを睨んだ。
以前からマーガレットが神子であるエミリアを疎んでいたのは知っていた。マーガレットが仕掛けたのが容易に想像できた。
「この女を屋敷に運べ」
子爵が指示をすると、騎士はベッドから剥がした汚れたシーツでマーガレットをくるみ、まるで荷物を担ぐように連れ出した。
大切にしてきた神子との関係が、自分の娘が原因で崩れる。
神子が去れば恩恵は恐らく消える。
我が領のみならず隣接する領もまた被害が出るかもしれない。
「この者はいかがしますか」
騎士の言葉にジャンを一瞥し告げる。
「連れて行け」
どのみちすぐにこの男の所業は町中に知れ渡るが、子細を聞き出さねばならなかった。
体の自由が効かないジャンは引きずられるように連れ出された。
町はしとしとと雨が降り、3日後、神子はこの町を去った。
マーガレットを押し退けベッドから転げ落ちる婚約者を見て、ツーッと一筋の涙を流す。
次々と部屋に入る神官や騎士、更には領主夫妻まで。
狭い室内は人で溢れた。
「きゃあ!何なのよ!出てって!」
慌てて毛布を体に巻くマーガレットは入ってきた者達を睨み付け抗議する。その様子にマーガレットの母、ガランド子爵夫人は倒れ、運び出される。
老神官と子爵の呼び掛けで騎士二名を残し皆部屋の外に出た。
「マーガレット、お前は、何という事を」
震える声で子爵がマーガレットに問いかけるとマーガレットの顔は明るくなり、ジャンはベッドの下で乱れた衣服のまま青い顔で放心したエミリアに這い寄ろうとしている。
「お父様、私ジャンと結婚するわ。いいでしょ?ジャンはお父様のお気に入りだし、男爵になるのだもの。お婿に来て貰いましょ?うふふっ、それにもう契ってしまったわ」
嬉しそうに語るマーガレットは父である子爵が険しい目付きで睨み付けていることに気がついていない。
「ねぇジャンだって同じ気持ちよね?あんなに私を求めてくれたんだもの。それに、子種を私の中にくれたわ」
「君が淹れたお茶を飲んだら体の自由がおかしくなったっ、部屋で休んでいたら、私はミリィを」
その瞬間、ジャンの腕から銀の腕輪がゴトンと落ちた。
「婚約は男の不貞により無効、宜しいですな?子爵」
「.........こうなっては仕方ありますまい」
座り込み、涙を流すエミリアがジャンを捉えた。
「.........さようなら」
「待って!ミリィ!違うんだ!」
もつれる足で必死にエミリアに駆け寄るジャンの前に子爵が立ちふさがり騎士が押さえつけた。
エミリアはヨロヨロと立ち上がり、神官に抱えられるようにして出ていく。
「愛しているんだ!ミリィ!」
マーガレットはエミリアから完全にジャンを奪い高揚していた。
二年前、神官がエミリアを神子だと告げに来た時、孤児の娘が神子になり、マーガレットは腹が立った。
あの娘が神子?何もしていないじゃないか。領地はエミリアのお陰で潤っている訳ではない。そう思い、町の皆がエミリアに感謝することにも腹をたてた。
大した男ではないはずのジャンは、父に気に入られ爵位まで得られる。
そんなに良い男だったのか?ならばエミリアではなく私にこそ相応しい。
マーガレットは何度もジャンを誘ったがジャンはマーガレットに触れようとはしなかったが、抱きついたり、不意打ちでキスをしたこともあったが完全に拒絶されているのではないと感じた。そして今日、儀式のため父母の目もない、そちらに警備が厚くなる分自由に動けた。自宅で儀式の終わりを待つジャンを訪ね一緒に終わるのを待とうと声をかけ薬入りのお茶を淹れた。息を乱すジャンを休むよう寝室に押し込んだ。帰った振りをしそっと戻るとジャンは朦朧としながら自分のものをしごいていた。
そっと部屋に忍び服を脱いだ所でマーガレットに気づいたジャンは体を起こそうとしたが、それよりも早くベッドのジャンに覆い被さる。駄目だと拒否をするジャンの手を取り、自身の豊満な乳房に触れさせた。それでも駄目だと言うジャンの唇を奪った。薬が効いているジャンは体の自由が利かず、マーガレットのいいようにされていった。
禁欲生活が長かったジャンは萎えることはなく、初めての女の体にジャンはマーガレットの中に吐精してしまった。
マーガレットは欲しかった男をやっと手に入れた。逃がすつもりなどなかった。
二人が部屋を出るとすぐに子爵家の更に三名の騎士が入室した。マーガレットは父に向かい部屋から出るように言い放った。
「お父様、着替えますので騎士を連れて出てくださいませ!」
不機嫌そうにツンと顔を反らせば、すまなかったと父は部屋を出てくれるに違いない。そう思っていた。
カツカツと足音が近づき、マーガレットは近づく足音に顔を戻す。
ゴツッ!
強い衝撃が顔の半分を襲い、ベッドに叩き付けられた。
チカチカと視界を火花が飛び、殴られたと分かった。
見上げれば恐ろしい顔をした父が見下ろしている。
何故?
聞こうにも体中震えて声がでない。
「貴様は子爵家を潰す気か!誰と結婚すると!?神子の婚約者と知っていただろう!?私の気に入りだと!?神子の婚約者だからにきまっている!爵位もだ!私が便宜を図ったとでも思ったか!?神子と婚姻を結ぶからこそ王より与えられるものだ!それを!お前は今まで何を見てきた!!」
ゴッ、ゴッっと鈍い音が響く。
ガランド子爵は自分の娘に容赦なく拳を振り下ろす。
ジャンは騎士に取り押さえられ何も出来ないでいた。
控えていた騎士が止める頃には、マーガレットの意識はなく、顔は腫れ上がり元の美しい姿はどこにも無かった。
「ジャン、貴様は殴らん。罰を与えるのは私ではない」
元々の子爵領は今ほど豊かではなかった。ここ10年ほどで小麦の質は格段に良くなった。小麦だけではない。作物の収穫量も増え、大きな伝染病も、水害もない。そして二年前、王都から神官が来て恵みの神子が居ると知らされた。
エミリアが祖母とこの町に移り住んだのは10年前、16の成人を待ち、結婚を控えていた。
神子の純潔はあと二年守らなければいけなかった。
あれから二年、いまだ恵みは続いている。
ジャンと婚姻を結び屋敷を与えれば神子であるエミリアはこの領から出ていくことはない。だからこそ、尽力した。
マーガレットが薬を盛ったとしても、ジャンは二人になるべきではなかった。自衛する手段はあったはずだ。
子爵はギリギリと歯を食いしばりながらジャンを睨んだ。
以前からマーガレットが神子であるエミリアを疎んでいたのは知っていた。マーガレットが仕掛けたのが容易に想像できた。
「この女を屋敷に運べ」
子爵が指示をすると、騎士はベッドから剥がした汚れたシーツでマーガレットをくるみ、まるで荷物を担ぐように連れ出した。
大切にしてきた神子との関係が、自分の娘が原因で崩れる。
神子が去れば恩恵は恐らく消える。
我が領のみならず隣接する領もまた被害が出るかもしれない。
「この者はいかがしますか」
騎士の言葉にジャンを一瞥し告げる。
「連れて行け」
どのみちすぐにこの男の所業は町中に知れ渡るが、子細を聞き出さねばならなかった。
体の自由が効かないジャンは引きずられるように連れ出された。
町はしとしとと雨が降り、3日後、神子はこの町を去った。
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