10 / 17
10
しおりを挟む
アルレイシアとフランツが婚姻し翌年には男児を出産しジェミニと名づけた。そして更に二年が経ち、アルレイシアはフランツとの間に二人目の子を授かった。
フランツは仕事で暫く国を出ることとなり、アルレイシアを安全のためにラットン家に預け、隣国へと立った。
フランツが立って二十日。帰路へ着くと知らせを貰った三日後に、その知らせは届いた。
フランツは途中土砂崩れにあい、行方不明になっていると。
その知らせを受けたアルレイシアは倒れてしまった。
あれから五日が経ち、従者の遺体は発見されたがまだフランツは見つかっていない。
予想だにしない出来事に、ゲルガーはアルレイシアの滞在中は本邸に滞在し、ルーマリアも頻繁に訪れアルレイシアの体を気遣った。
日に日に窶れ萎びれてゆくアルレイシアを、皆が心配した。
「・・・・アルレイシア」
ぼんやりと中を眺めていたアルレイシアは、ヤンの訪れに僅かに反応した。
部屋の中では幾人もの使用人が壁際に張り付きその様子を伺っている。
ヤンはアルレイシアの座るソファの前で膝をつきその顔を覗き込んだ。
「私が分かるかい?」
「・・・・・・おじ様」
「こんなに窶れてしまって」
悲しそうに眉を寄せるヤンに、アルレイシアの瞳は僅かに動きを見せる。
暫くの間ヤンはぼんやりとしたアルレイシアを見つめた。
ヤン手はしていた小箱を開け、アルレイシアに差し出す。
差し出した箱の中にはアルレイシアもよく知る砂糖菓子。箱の中に綺麗に六個が並んでいる。
舌の上でさらりと解ほどけ、花の香りと爽やかな甘さが広がる東国の砂糖を使った高級菓子。
フランツはよくアルレイシアに手ずから与え、アルレイシアは幸せな時間に浸った。
「・・・・・・あ、」
ポトリと一粒の涙が零れ、アルレイシアは唇を震わせた。
「おじ、様……わた、私」
震える手で涙を確認するアルレイシアの手を、ヤンがそっと握る。
アルレイシアはビクリと身体を震わせその手から逃れようとするが、ヤンの優しい顔に振り払うことは出来なかった。
「フランツ様は素晴らしい人だ。きっと無事だよ」
「・・・・・おじ様、、、ゔぅ、ううぅ・・・」
ボロボロと零れる涙は、両手では受けきれずに溢れてゆく。
ヤンはそっと隣に腰掛け優しくアルレイシアの肩を抱いた。
ヤンはアルレイシアを慰め、アルレイシアの気に入りの砂糖菓子の箱を置いて帰っていった。
そのヤンと入れ違いで訪れたルーマリアは、ヤンの姿にピクリと眉を動かし、頭を下げるヤンの脇を通り過ぎた。
「・・・・・・・・・」
立ち去る後ろ姿を見つめるルーマリアに、アルレイシアは小さな声でその名を呼んだ。
「・・・マリア」
「アルレイシア」
ルーマリアはアルレイシアの元に急ぎ駆け寄り、その体を抱き寄せた。
「アルレイシア、エリストロ家に来てちょうだい。夫にもゲルガー様にも許可は取っているわ」
「マリア?どうしたの?」
「心配で堪らないの。会う度に痩せて、窶れてしまって。お願いよ」
「でも、エリストロ侯爵様にご迷惑を」
「そんな訳ないでしょうっ、夫もあなたの事をとても心配しているわ。それに義弟について何か分かれば一番に知らせが来るのはエリストロ家よ?」
アルレイシアはぼんやりとした頭で頷き、それを見たルーマリアはすぐに屋敷のものに指示を出しその日のうちにアルレイシアとフランツの間に生まれた子、ジェミニを連れ出した。
アルレイシアをエリストロ家へと連れてきたルーマリアは窓も大きく日当りの良い部屋へアルレイシアを滞在させた。
窓を開ければまだ幼いジェミニが楽しそうに一つ年上のルーマリアの子ヴィスタと駆け回り楽しそうな声を上げる様子が見れる。
その様子をぼんやりと眺めるアルレイシアに、ルーマリアは薬を飲むように促す。
「・・・ありがとう」
「いいのよ」
サラリとした粉薬を口に含み水で流し暫く、アルレイシアは心地よい眠気に包まれうとうとと瞼をを閉じ、やがて静かに寝息を立て始めた。
「様子はどうだ?」
「今の所は何とか。お医者様からの薬が効いて安定しているわ。とても弱い薬だと言うけれど、心配で」
「そうか」
ルーマリアは夫であるエリストロ侯爵と向かいアルレイシアについて話をしている。
アルレイシアがエリストロ家に滞在して三日、精神状態の悪いアルレイシアは医師から精神安定効果のあるハーブを少量処方され、欠かさずに服用している。
腹の子は安定期を過ぎてはいるが、だからと言って安心は出来ないからだ。
「食事の量も随分と少なくて、、、このままではお腹の子だけではなくあの子まで」
「・・・・・・・・」
「まだ話してはいけないのですか?」
「期待させておいて、万が一にという事もある。今の彼女では耐えられないだろう」
エリストロ侯爵はふーっと息を吐きシワの寄った眉間を押さえる。
フランツは生きている。
だがアルレイシアに伝えることが出来ないでいた。
意識はなく、もう何日もの間生死をさまよってるからだ。
兄として信じたい気持ちはある。だが万が一があった場合、フランツの子を宿しているアルレイシアとジェミニ、腹の子を守らなければならないとも思っていた。
伝えなかったことを恨まれてもいい。弟の為に悪役に徹しても構わない。
「ですが、、、せめて会わせてあげたいのです」
「ルーマリア、すまない」
わっと泣き出したルーマリアを、歩み寄りエリストロ侯爵は優しく抱きしめた。
フランツは仕事で暫く国を出ることとなり、アルレイシアを安全のためにラットン家に預け、隣国へと立った。
フランツが立って二十日。帰路へ着くと知らせを貰った三日後に、その知らせは届いた。
フランツは途中土砂崩れにあい、行方不明になっていると。
その知らせを受けたアルレイシアは倒れてしまった。
あれから五日が経ち、従者の遺体は発見されたがまだフランツは見つかっていない。
予想だにしない出来事に、ゲルガーはアルレイシアの滞在中は本邸に滞在し、ルーマリアも頻繁に訪れアルレイシアの体を気遣った。
日に日に窶れ萎びれてゆくアルレイシアを、皆が心配した。
「・・・・アルレイシア」
ぼんやりと中を眺めていたアルレイシアは、ヤンの訪れに僅かに反応した。
部屋の中では幾人もの使用人が壁際に張り付きその様子を伺っている。
ヤンはアルレイシアの座るソファの前で膝をつきその顔を覗き込んだ。
「私が分かるかい?」
「・・・・・・おじ様」
「こんなに窶れてしまって」
悲しそうに眉を寄せるヤンに、アルレイシアの瞳は僅かに動きを見せる。
暫くの間ヤンはぼんやりとしたアルレイシアを見つめた。
ヤン手はしていた小箱を開け、アルレイシアに差し出す。
差し出した箱の中にはアルレイシアもよく知る砂糖菓子。箱の中に綺麗に六個が並んでいる。
舌の上でさらりと解ほどけ、花の香りと爽やかな甘さが広がる東国の砂糖を使った高級菓子。
フランツはよくアルレイシアに手ずから与え、アルレイシアは幸せな時間に浸った。
「・・・・・・あ、」
ポトリと一粒の涙が零れ、アルレイシアは唇を震わせた。
「おじ、様……わた、私」
震える手で涙を確認するアルレイシアの手を、ヤンがそっと握る。
アルレイシアはビクリと身体を震わせその手から逃れようとするが、ヤンの優しい顔に振り払うことは出来なかった。
「フランツ様は素晴らしい人だ。きっと無事だよ」
「・・・・・おじ様、、、ゔぅ、ううぅ・・・」
ボロボロと零れる涙は、両手では受けきれずに溢れてゆく。
ヤンはそっと隣に腰掛け優しくアルレイシアの肩を抱いた。
ヤンはアルレイシアを慰め、アルレイシアの気に入りの砂糖菓子の箱を置いて帰っていった。
そのヤンと入れ違いで訪れたルーマリアは、ヤンの姿にピクリと眉を動かし、頭を下げるヤンの脇を通り過ぎた。
「・・・・・・・・・」
立ち去る後ろ姿を見つめるルーマリアに、アルレイシアは小さな声でその名を呼んだ。
「・・・マリア」
「アルレイシア」
ルーマリアはアルレイシアの元に急ぎ駆け寄り、その体を抱き寄せた。
「アルレイシア、エリストロ家に来てちょうだい。夫にもゲルガー様にも許可は取っているわ」
「マリア?どうしたの?」
「心配で堪らないの。会う度に痩せて、窶れてしまって。お願いよ」
「でも、エリストロ侯爵様にご迷惑を」
「そんな訳ないでしょうっ、夫もあなたの事をとても心配しているわ。それに義弟について何か分かれば一番に知らせが来るのはエリストロ家よ?」
アルレイシアはぼんやりとした頭で頷き、それを見たルーマリアはすぐに屋敷のものに指示を出しその日のうちにアルレイシアとフランツの間に生まれた子、ジェミニを連れ出した。
アルレイシアをエリストロ家へと連れてきたルーマリアは窓も大きく日当りの良い部屋へアルレイシアを滞在させた。
窓を開ければまだ幼いジェミニが楽しそうに一つ年上のルーマリアの子ヴィスタと駆け回り楽しそうな声を上げる様子が見れる。
その様子をぼんやりと眺めるアルレイシアに、ルーマリアは薬を飲むように促す。
「・・・ありがとう」
「いいのよ」
サラリとした粉薬を口に含み水で流し暫く、アルレイシアは心地よい眠気に包まれうとうとと瞼をを閉じ、やがて静かに寝息を立て始めた。
「様子はどうだ?」
「今の所は何とか。お医者様からの薬が効いて安定しているわ。とても弱い薬だと言うけれど、心配で」
「そうか」
ルーマリアは夫であるエリストロ侯爵と向かいアルレイシアについて話をしている。
アルレイシアがエリストロ家に滞在して三日、精神状態の悪いアルレイシアは医師から精神安定効果のあるハーブを少量処方され、欠かさずに服用している。
腹の子は安定期を過ぎてはいるが、だからと言って安心は出来ないからだ。
「食事の量も随分と少なくて、、、このままではお腹の子だけではなくあの子まで」
「・・・・・・・・」
「まだ話してはいけないのですか?」
「期待させておいて、万が一にという事もある。今の彼女では耐えられないだろう」
エリストロ侯爵はふーっと息を吐きシワの寄った眉間を押さえる。
フランツは生きている。
だがアルレイシアに伝えることが出来ないでいた。
意識はなく、もう何日もの間生死をさまよってるからだ。
兄として信じたい気持ちはある。だが万が一があった場合、フランツの子を宿しているアルレイシアとジェミニ、腹の子を守らなければならないとも思っていた。
伝えなかったことを恨まれてもいい。弟の為に悪役に徹しても構わない。
「ですが、、、せめて会わせてあげたいのです」
「ルーマリア、すまない」
わっと泣き出したルーマリアを、歩み寄りエリストロ侯爵は優しく抱きしめた。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる