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その後のお話
一夫多妻の心得 その4
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「丸耳」
呟かれ、カッと顔が熱くなる。
薬を足そうと思っていたのを、おしゃべりに夢中ですっかり忘れていた。
「ミリアリア、その耳(なんで?急にピコンって)」
「し、失礼しますねっ!」
慌てて薬の小瓶を取り出すも、さわさわと身体中に獣性が戻ってくるのを感じる。
こうなると完全に戻るまで薬は利かない。私は二人の前でこの世界の獣人とは違う本来の姿を見せてしまうことになる。
「あ、あぁ」
「……ミリアリア」
「……(なんだこの姿は。獣人、なのか?)」
驚き目を見張る二人。
私は込み上げる劣等感に瞳が潤んだ。
全身を包む体毛は毛深ではすまない。鼻は伸び獣特有の形に戻り、獣とも違うが人の口とも違う大きな口、長く器用に動く指先は丸く、鋭い爪が隠される。
完全に戻ってしまった丸い手で、爪を使い小瓶の蓋を弾くように明け一気に飲み干す。
「……お見苦しいところを見せました。暫くしたらまた先程の姿になりますから」
薬が聞くまで数分。沈黙が恐ろしく長く感じる。
「……可愛い」
「……(あぁ、なんて事だ)」
「え?」
「あの、触っても、いい?」
「え? え?」
触る?触って獣だと蔑むの?
「凛子様(私の前で他の獣人に触れないで下さい)」
「だってすごく可愛いんだもの。ね? ちょっとだけ(女同士なら合法もふもふにならない?)」
「かわ、いい? この姿が?」
この姿を可愛いと褒めてくれたのはりーくんだけ。全身わ毛に覆われまるで獣のような姿、同じ転移者村の人達だって獣だって陰口を叩く。だから獣性を消す薬を飲んでいるのに。
テーブル越しに手を伸ばされ、恐る恐る手を伸ばすと、黒の姫はそっと手を取り優しく撫でながらうっとりと目を細めた。
「凄い気持ちいい。ツヤツヤで滑らかでふにふに。ミリアリアは転移者村の出身だものね(薬を飲むのだからきっとこの姿を気にしているのね)」
「……私の母の世界では獣人ではなく半獣人と言われていたそうです」
獣人も居たらしいけど私はそれより獣性の強い半獣人。村でも異質な存在だった。
「その薬はその獣性を消すのね」
「ええ、そうです。効いてる間の能力は人間と同じくらいまで下がりますけど」
何故この人は笑わないのかしら。
「じゃあ逆もあるの?」
「逆? 戻る為のもの、ということでしたらあります。薬の効果を打ち消す獣性を強めるもの」
ただし、飲みすぎると獣性が出すぎてしまうから持っていても飲んだことは無いけど。
「じゃあ私が飲んだら獣人みたいになれたりする?」
「凛子様!」
アリエーラが慌てた声を上げる。
え? 飲みたいの?
「えっと、獣性を持っていれば姿は変わるかと」
もしかして獣人で無いことを気にしているの? いえまさか。
「飲んでみますか?」
アリエーラと、控えている幻獣人の反対が凄かったけど、この薬の販売元がアリエーラの番の一人だと知り多少大人しくなる。
私も驚いたわ。まさかあの有名な薬師デオルトが三番目の番だったなんて。あまり出回らないからある時についつい買いだめちゃうのよ。
話しているうちにまた人間の見た目に変わりほっと息をついたけど、こんな所でいつも買ってる薬の製造元に繋がりがあったことにもっと驚いた。
以前会ったことがある幻獣王アレクシスが呼ばれ、テーブルの真ん中に置いた薬を囲んだ。
「アレク、飲んでみていい?(耳付いたらジンが喜ぶかも)」
「うーん、戻る薬もあるならいいかな。(まぁ、いざとなったら私が体内から成分抜いて調整しようか)」
「なりませんっ! アレクシス様!」
「やった!」
アリエーラは最後まで反対していたけれど黒の姫が押し切る形でポンと栓を抜き、私も飲んだことの無い薬を一気に飲み干す。
「……」
「……」
「……!」
どんな変化が起こるのか、皆がじっと見つめているとポンとツヤツヤの短い毛の黒い三角の耳が現れる。
人間が、獣人になる不思議な状態を目の当たりにし息を飲んだ。
あら、意外と可愛いじゃないの。
「わわっ! ほんとに出た! アリエーラ、どう?」
「……大変、可愛らしいです。(なんて破壊力、愛らしいなんてものじゃない! ピクピク動く耳に可愛らしいヒゲ)……ヒゲ?」
「アニエーニャ、どうしたニョ?」
「り、凛子様!?」
見る見るうちに半獣人のような容姿に変わり、変わったかと思ったら体が縮み出す。
「ニャ? ニャ?(あれ?なんか、あれれ??)」
「り、りりり凛子様ーーーーっ!!」
パサリと身につけていたドレスや下着が落ち、部屋の中にアリエーラの絶叫が響いた。
「……なァ~(ど、どうしよう)」
唖然とする私たち。
ただの人間の黒の姫は、小さな猫になってしまった。
えっと、体積が随分変わったけど?
*
「アリエーラ、ちょっとだけ」
「なりません。元の姿に戻るまでは私がお守り致します」
「だってこんなに可愛い子猫ちゃんなんだよぉ?」
膝の上で黒猫を抱きゆっくりと眉間や頭、背中を撫で続けるアリエーラに、アレクシス王が抱かせてくれと強請るが彼女はそれを一喝する。
動作用したのかすっかり獣の姿になってしまった黒の姫はだらんとだらしなく三番目の膝で伸びる。
元に戻るには獣性を弱める薬を最初に飲んだ薬の量と同等飲まなくてはいけない。でも小さくなってしまった今の黒の姫に小瓶といっても一瓶は大変な量で、結局そのまま薬が切れるのを待っている。
「凛子ちっちゃくても可愛いよぉ(もう少しこのままがいいかな)」
「なァ~(ありがとう)」
アレクシス王がアリエーラの膝で伸びる黒猫に手を伸ばすも、アリエーラがその手をパシリと叩き落とす。
明らかな不敬だけれど、二人とも気にした風ではない。
帰るタイミングを失い、気がつけばとっぷりと日も暮れている。もうすぐ黒の姫の夫達も順に戻って来るらしいけど、この姿のままで怒らないかしら?
まさかこんな事になるなんて思いもしなかったけど、どう考えても私が飲んでみるかと聞いたのがいけない。元々黒の姫も異界人、この世界の魔法薬の効果が私達と同じだと考えてはいけなかったのよ。
「……あの、もしよろしければ凛子様が元に戻るまでの間、私がお世話をしたいのですが」
「なァ~(平気よ気にしないで? そのうち戻るでしょ?)」
なんて言っているのかさっぱり分からないけれど、きっとありがとうと言っているのね。
「必要ない。全て私がお世話する(図々しい女が)」
「いいえ、元はと言えば私が迂闊な事を言ったのが原因。それに夫の女を支え纏めるのは本妻である私の責任でもありますから」
「……夫の女? 本妻? 何を言っている」
「何って、凛子様もあなたもりーくん、夫の女でしょ?」
シン、と一瞬の静寂。
「あ、その誤解まだ解けてなかったの?」とのアレクシス王の言葉に、見る見るアリエーラの顔が朱に染まってゆく。
「有り得ない! 何故凛子様が! どうしたらそんな考えになる!」
「え? え? だってりーくんに付いてる匂いは確かに凛子様の」
「それは同じ部屋にいるからだ! 凛子様は月に二度ほどリミオを茶の席に招待している!」
「ぇえ!」
誤解? 誤解なの? お茶って、まぁ確かに匂いは薄かったけど、りーくんは黒の姫をとても好きで、あの感じだとどう考えても番。
「じゃああなたは?りーくんといい関係何でしょ? 私が以前ここに来た時、あなたりーくんと、その、イチャイチャしてたわよね?」
「してない!!」
アリエーラは黒の姫の周りに防音を施すと、大きな声で言った。
「私の番は凛子様だ!!」
「なァ~(なになになんの話し?)」
そう叫ばれ、私の思考は停止した。
え、あなた女よね?
「あ、コレ凛子に言ったらリミオ共々消されちゃうから気をつけてね」とのアレクシス様の言葉にさらに驚いたけど、確かにアリエーラの顔は本気だった。
その後、仕事を終えた黒の姫の夫達が続々と集結し、彼女を抱くアリエーラの周りに集まるも、アリエーラが小さな黒猫を離すことは無かった。
*
その後、帰りの遅い私をりーくんが迎えに来てくれて私達は自宅に戻った。
りーくんは小さくなった黒の姫を見て固まり、暫くしたら鼻を爆発させてしまった。
あんなに小さくてもりーくんをこんなにするなんて、なんて手強いのかしら。これでりーくんの番じゃないなんて信じられないわ。
「ねぇりーくん」
「何? ミーちゃん」
「りーくんは凛子様の事、愛しちゃってるのよね?」
「ええ、何ミーちゃん。恥ずかしいよォ」
誤解だとは聞いたけど、りーくんに確認した方がいいわよね?
やっぱりりーくんはクネクネしながら照れてしまう。どう考えてもこちら側に入っておかしくない。
「彼女は自分のハーレムを持っているけどもし好き合ってるなら……」
「ミ、ミーちゃん?」
「私仲良く出来るわよ?」
「そ、それってつまり、僕と姫様が……む、無理だよぉ」
「……りーくんは凛子様の話をするとくにゃくにゃになっちゃうのよね」
「そりゃ僕の憧れで理想で崇拝する方だもん。ひ、姫様の事は、勿論愛しちゃってるけどぉ、でも僕が番たいなんてそんな烏滸がましい事……それに僕にはミーちゃんが居るし」
「他に女を迎えても怒らないわよ?」
「知ってるよぉ。ミーちゃんもそういう種族の血を引いてるから僕みたいなのと付き合ってくれるって分かってる。ありがとう。でも今の仕事忙しいし、周りは幻獣人ばかりだからなかなか出会いが無いんだよね」
「そう」
それじゃあ暫くは妻同士の色々な心配はないのね、良かった。
転移者同士での繁殖は、その性質を色濃く繋ぐ。私とりーくんはそれだ。
そして私達は互いにハーレム作り、加わる種族の血筋。りーくんは複数の番を持ち、私はそのハーレムに加わる。
りーくんが他に女を連れてきても特に抵抗はないし嫉妬に狂うことも無い。多分だけどね。そりゃ私だってできるなら一夫一妻でいたいけど、りーくんはそうじゃないから……ただ私と上手くやれそうな女であって欲しいとは思うけど。
「じゃあ、アリエーラ、さんは?」
「アリエーラさんは僕の魔術の師匠だよ」
「りーくんは魔眼持ちなのに?」
「アリエーラさんがもし魔眼持ちだったら僕は足元にも及ばないだろうね」
「へえ」
彼女そんなに凄いの?
結局りーくんには私以外に女が居ないって事ね。まぁ黒の姫が近くにいる職場じゃ他の女は目に入らないでしょ。
酷い誤解で怒らせてしまったし、日を改めて二人にお詫びに行かなくちゃ。
あら?もしかしてこのままならずっとりーくんを独占できる?
ま、まあ、夫の決定に従うのも妻の役割だし?りーくんがこのままでいいなら問題は無いわよね。
─────────────────────
「そう、今回の騒ぎはアレクシスに責任があるんだね」
「全て、ではありませんが多少面白がっていた節があります。誤解があるのを知っていたようですし」
「……アリエーラ、壁に貼ってあるリンの予定、取ってくれる?」
「……どうぞ」
シャッシャッ
カリカリカリ……
「はい。リンの来週の予定一日空いたから街にでも連れて行ってあげて? アレンとアールにも会えたら喜ぶ。もちろん護衛はしっかりとつけてね?」
「(アレクシス様の日を私に?)ありがとうございます」
「ああ、予定が変わった事、皆に周知させておいてね」
呟かれ、カッと顔が熱くなる。
薬を足そうと思っていたのを、おしゃべりに夢中ですっかり忘れていた。
「ミリアリア、その耳(なんで?急にピコンって)」
「し、失礼しますねっ!」
慌てて薬の小瓶を取り出すも、さわさわと身体中に獣性が戻ってくるのを感じる。
こうなると完全に戻るまで薬は利かない。私は二人の前でこの世界の獣人とは違う本来の姿を見せてしまうことになる。
「あ、あぁ」
「……ミリアリア」
「……(なんだこの姿は。獣人、なのか?)」
驚き目を見張る二人。
私は込み上げる劣等感に瞳が潤んだ。
全身を包む体毛は毛深ではすまない。鼻は伸び獣特有の形に戻り、獣とも違うが人の口とも違う大きな口、長く器用に動く指先は丸く、鋭い爪が隠される。
完全に戻ってしまった丸い手で、爪を使い小瓶の蓋を弾くように明け一気に飲み干す。
「……お見苦しいところを見せました。暫くしたらまた先程の姿になりますから」
薬が聞くまで数分。沈黙が恐ろしく長く感じる。
「……可愛い」
「……(あぁ、なんて事だ)」
「え?」
「あの、触っても、いい?」
「え? え?」
触る?触って獣だと蔑むの?
「凛子様(私の前で他の獣人に触れないで下さい)」
「だってすごく可愛いんだもの。ね? ちょっとだけ(女同士なら合法もふもふにならない?)」
「かわ、いい? この姿が?」
この姿を可愛いと褒めてくれたのはりーくんだけ。全身わ毛に覆われまるで獣のような姿、同じ転移者村の人達だって獣だって陰口を叩く。だから獣性を消す薬を飲んでいるのに。
テーブル越しに手を伸ばされ、恐る恐る手を伸ばすと、黒の姫はそっと手を取り優しく撫でながらうっとりと目を細めた。
「凄い気持ちいい。ツヤツヤで滑らかでふにふに。ミリアリアは転移者村の出身だものね(薬を飲むのだからきっとこの姿を気にしているのね)」
「……私の母の世界では獣人ではなく半獣人と言われていたそうです」
獣人も居たらしいけど私はそれより獣性の強い半獣人。村でも異質な存在だった。
「その薬はその獣性を消すのね」
「ええ、そうです。効いてる間の能力は人間と同じくらいまで下がりますけど」
何故この人は笑わないのかしら。
「じゃあ逆もあるの?」
「逆? 戻る為のもの、ということでしたらあります。薬の効果を打ち消す獣性を強めるもの」
ただし、飲みすぎると獣性が出すぎてしまうから持っていても飲んだことは無いけど。
「じゃあ私が飲んだら獣人みたいになれたりする?」
「凛子様!」
アリエーラが慌てた声を上げる。
え? 飲みたいの?
「えっと、獣性を持っていれば姿は変わるかと」
もしかして獣人で無いことを気にしているの? いえまさか。
「飲んでみますか?」
アリエーラと、控えている幻獣人の反対が凄かったけど、この薬の販売元がアリエーラの番の一人だと知り多少大人しくなる。
私も驚いたわ。まさかあの有名な薬師デオルトが三番目の番だったなんて。あまり出回らないからある時についつい買いだめちゃうのよ。
話しているうちにまた人間の見た目に変わりほっと息をついたけど、こんな所でいつも買ってる薬の製造元に繋がりがあったことにもっと驚いた。
以前会ったことがある幻獣王アレクシスが呼ばれ、テーブルの真ん中に置いた薬を囲んだ。
「アレク、飲んでみていい?(耳付いたらジンが喜ぶかも)」
「うーん、戻る薬もあるならいいかな。(まぁ、いざとなったら私が体内から成分抜いて調整しようか)」
「なりませんっ! アレクシス様!」
「やった!」
アリエーラは最後まで反対していたけれど黒の姫が押し切る形でポンと栓を抜き、私も飲んだことの無い薬を一気に飲み干す。
「……」
「……」
「……!」
どんな変化が起こるのか、皆がじっと見つめているとポンとツヤツヤの短い毛の黒い三角の耳が現れる。
人間が、獣人になる不思議な状態を目の当たりにし息を飲んだ。
あら、意外と可愛いじゃないの。
「わわっ! ほんとに出た! アリエーラ、どう?」
「……大変、可愛らしいです。(なんて破壊力、愛らしいなんてものじゃない! ピクピク動く耳に可愛らしいヒゲ)……ヒゲ?」
「アニエーニャ、どうしたニョ?」
「り、凛子様!?」
見る見るうちに半獣人のような容姿に変わり、変わったかと思ったら体が縮み出す。
「ニャ? ニャ?(あれ?なんか、あれれ??)」
「り、りりり凛子様ーーーーっ!!」
パサリと身につけていたドレスや下着が落ち、部屋の中にアリエーラの絶叫が響いた。
「……なァ~(ど、どうしよう)」
唖然とする私たち。
ただの人間の黒の姫は、小さな猫になってしまった。
えっと、体積が随分変わったけど?
*
「アリエーラ、ちょっとだけ」
「なりません。元の姿に戻るまでは私がお守り致します」
「だってこんなに可愛い子猫ちゃんなんだよぉ?」
膝の上で黒猫を抱きゆっくりと眉間や頭、背中を撫で続けるアリエーラに、アレクシス王が抱かせてくれと強請るが彼女はそれを一喝する。
動作用したのかすっかり獣の姿になってしまった黒の姫はだらんとだらしなく三番目の膝で伸びる。
元に戻るには獣性を弱める薬を最初に飲んだ薬の量と同等飲まなくてはいけない。でも小さくなってしまった今の黒の姫に小瓶といっても一瓶は大変な量で、結局そのまま薬が切れるのを待っている。
「凛子ちっちゃくても可愛いよぉ(もう少しこのままがいいかな)」
「なァ~(ありがとう)」
アレクシス王がアリエーラの膝で伸びる黒猫に手を伸ばすも、アリエーラがその手をパシリと叩き落とす。
明らかな不敬だけれど、二人とも気にした風ではない。
帰るタイミングを失い、気がつけばとっぷりと日も暮れている。もうすぐ黒の姫の夫達も順に戻って来るらしいけど、この姿のままで怒らないかしら?
まさかこんな事になるなんて思いもしなかったけど、どう考えても私が飲んでみるかと聞いたのがいけない。元々黒の姫も異界人、この世界の魔法薬の効果が私達と同じだと考えてはいけなかったのよ。
「……あの、もしよろしければ凛子様が元に戻るまでの間、私がお世話をしたいのですが」
「なァ~(平気よ気にしないで? そのうち戻るでしょ?)」
なんて言っているのかさっぱり分からないけれど、きっとありがとうと言っているのね。
「必要ない。全て私がお世話する(図々しい女が)」
「いいえ、元はと言えば私が迂闊な事を言ったのが原因。それに夫の女を支え纏めるのは本妻である私の責任でもありますから」
「……夫の女? 本妻? 何を言っている」
「何って、凛子様もあなたもりーくん、夫の女でしょ?」
シン、と一瞬の静寂。
「あ、その誤解まだ解けてなかったの?」とのアレクシス王の言葉に、見る見るアリエーラの顔が朱に染まってゆく。
「有り得ない! 何故凛子様が! どうしたらそんな考えになる!」
「え? え? だってりーくんに付いてる匂いは確かに凛子様の」
「それは同じ部屋にいるからだ! 凛子様は月に二度ほどリミオを茶の席に招待している!」
「ぇえ!」
誤解? 誤解なの? お茶って、まぁ確かに匂いは薄かったけど、りーくんは黒の姫をとても好きで、あの感じだとどう考えても番。
「じゃああなたは?りーくんといい関係何でしょ? 私が以前ここに来た時、あなたりーくんと、その、イチャイチャしてたわよね?」
「してない!!」
アリエーラは黒の姫の周りに防音を施すと、大きな声で言った。
「私の番は凛子様だ!!」
「なァ~(なになになんの話し?)」
そう叫ばれ、私の思考は停止した。
え、あなた女よね?
「あ、コレ凛子に言ったらリミオ共々消されちゃうから気をつけてね」とのアレクシス様の言葉にさらに驚いたけど、確かにアリエーラの顔は本気だった。
その後、仕事を終えた黒の姫の夫達が続々と集結し、彼女を抱くアリエーラの周りに集まるも、アリエーラが小さな黒猫を離すことは無かった。
*
その後、帰りの遅い私をりーくんが迎えに来てくれて私達は自宅に戻った。
りーくんは小さくなった黒の姫を見て固まり、暫くしたら鼻を爆発させてしまった。
あんなに小さくてもりーくんをこんなにするなんて、なんて手強いのかしら。これでりーくんの番じゃないなんて信じられないわ。
「ねぇりーくん」
「何? ミーちゃん」
「りーくんは凛子様の事、愛しちゃってるのよね?」
「ええ、何ミーちゃん。恥ずかしいよォ」
誤解だとは聞いたけど、りーくんに確認した方がいいわよね?
やっぱりりーくんはクネクネしながら照れてしまう。どう考えてもこちら側に入っておかしくない。
「彼女は自分のハーレムを持っているけどもし好き合ってるなら……」
「ミ、ミーちゃん?」
「私仲良く出来るわよ?」
「そ、それってつまり、僕と姫様が……む、無理だよぉ」
「……りーくんは凛子様の話をするとくにゃくにゃになっちゃうのよね」
「そりゃ僕の憧れで理想で崇拝する方だもん。ひ、姫様の事は、勿論愛しちゃってるけどぉ、でも僕が番たいなんてそんな烏滸がましい事……それに僕にはミーちゃんが居るし」
「他に女を迎えても怒らないわよ?」
「知ってるよぉ。ミーちゃんもそういう種族の血を引いてるから僕みたいなのと付き合ってくれるって分かってる。ありがとう。でも今の仕事忙しいし、周りは幻獣人ばかりだからなかなか出会いが無いんだよね」
「そう」
それじゃあ暫くは妻同士の色々な心配はないのね、良かった。
転移者同士での繁殖は、その性質を色濃く繋ぐ。私とりーくんはそれだ。
そして私達は互いにハーレム作り、加わる種族の血筋。りーくんは複数の番を持ち、私はそのハーレムに加わる。
りーくんが他に女を連れてきても特に抵抗はないし嫉妬に狂うことも無い。多分だけどね。そりゃ私だってできるなら一夫一妻でいたいけど、りーくんはそうじゃないから……ただ私と上手くやれそうな女であって欲しいとは思うけど。
「じゃあ、アリエーラ、さんは?」
「アリエーラさんは僕の魔術の師匠だよ」
「りーくんは魔眼持ちなのに?」
「アリエーラさんがもし魔眼持ちだったら僕は足元にも及ばないだろうね」
「へえ」
彼女そんなに凄いの?
結局りーくんには私以外に女が居ないって事ね。まぁ黒の姫が近くにいる職場じゃ他の女は目に入らないでしょ。
酷い誤解で怒らせてしまったし、日を改めて二人にお詫びに行かなくちゃ。
あら?もしかしてこのままならずっとりーくんを独占できる?
ま、まあ、夫の決定に従うのも妻の役割だし?りーくんがこのままでいいなら問題は無いわよね。
─────────────────────
「そう、今回の騒ぎはアレクシスに責任があるんだね」
「全て、ではありませんが多少面白がっていた節があります。誤解があるのを知っていたようですし」
「……アリエーラ、壁に貼ってあるリンの予定、取ってくれる?」
「……どうぞ」
シャッシャッ
カリカリカリ……
「はい。リンの来週の予定一日空いたから街にでも連れて行ってあげて? アレンとアールにも会えたら喜ぶ。もちろん護衛はしっかりとつけてね?」
「(アレクシス様の日を私に?)ありがとうございます」
「ああ、予定が変わった事、皆に周知させておいてね」
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