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僕の生きる場所(セオル) 1
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退屈な毎日だった。
夜も明けきらないうちに森へ入り採取する。清流で泥を洗い流しいつもの様に木と木の間に張った縄に挟み時間をかけて乾燥させてゆく。
ある程度の作業が終わる頃父の作った朝食の匂いが立ち込め、体は空腹を覚える。
自宅に戻れば調理場では鍋を回す父。朝食の支度を手伝いテーブルに作り置きのパンを竈で軽く温め皿に盛った物を置き、温かいスープをよそう。支度が整う頃母が気怠そうに起きてきて食事を食べ始める。
甲斐甲斐しく他温めたスープとミルクを母に渡し、寒くないようにと肩掛けを掛ける父。
元来我儘な体質の母はなんでも父にやらせた。お陰で僕は幼い時から父の仕事を手伝い早朝から森に入ることになり、今じゃ父よりも調剤の腕があるんじゃないかと思う程だ。
母と父は番同士だったらしい。
と言っても、父がそう言うだけで母は父の事を番と言ったところを見たことが無いけど。こんなのが番同士の結婚生活なら地獄だなと思った。
家を出る事も考えたけど父を一人置いていっても生活は難しいと分かってるから踏み切れなかった。
うんざりするようなつまらない毎日、母親だと言うのに母を母と思ったことは無い。まあ、どこもそんなもんなんじゃないかとも思ってたから喧嘩しようとも思わなかったけど。
俺たちが稼いだ金を当たり前のように母が使う。そんな生活がある日突然終わった。
ある日突然、母が出ていった。
何も無い森の中、偶に街へ行って買い物やら食事やら遊びに行っていたけど、それじゃ足りなかったみたいだった。
『こんな生活はうんざり』と、荷物を持って出ていってしまった。
父は慌てて追いかけて行ったけれど、どうせすぐに戻ってくると、僕は普段と変わらない生活を続けた。
だけど、1日経っても2日経っても7日たっても2人は戻ってこなかった。
2人がいなくなってひと月が過ぎたころ、僕はふと思った。自由に生きていいんじゃないかと。
そう思ったら行動するのは早かった。街で必要なものを揃え旅支度をした。誰も居なくなる自宅には、元々番である母を守るためだと父が高価な結界魔道具を付けていたため引き続きそれを使用した。
もしあの二人が戻ってきても、二人の魔力は登録されているから入れる。食料の残りを袋に詰め、作り置いた薬を持って家を出た。
各地を転々として数年、流れの薬師として生計を立てていた。そろそろそんな生活に飽きてきた頃、旅先で知り合った商人に会いにスロッシュベルトの王都へと足を運んだ。サルターンとは違い街を歩く半分は人間、あと半分のほとんどが獣人と、僅かに魔人。
しばらく滞在し、街で知り合った別の男から娼館で働いてみないかと持ちかけられた。
僕の見た目は女受けするらしく、色素の薄い髪と肌は特に貴人から人気があるんだと言う。
娼館、男娼ってことだ。さすがに男に尻を貸す気にはなれないと断ったけど、借金があって勤めるわけじゃない。だから客はある程度選べる、女だけ相手にしてもいいと言われちょっと揺らいだ。
でも女だけって言ってもいい女ばかりじゃない。中にはぶよぶよに太った女や、異臭のする女、加虐趣味のある女も居るはず。
ちょっと無理。そう伝えたけと、「人間の女も客として来る」って言葉に負けた。
僕も獣人、人間の女には憧れがある。
旅先で何度か見かけた彼女たちは、すごくいい匂いがする。香水とは違う甘い甘い肉の匂い。
一回ぐらいお願いしたいと何度も思った。
で、不純で軽い気持ちで始めた男娼生活はやっぱりいいもんじゃなかった。
最初にかけてもらった避妊紋はなんか歪だし、かけた奴は失敗を認めないし。まあいいよ、子どもとか特にいらないからさ。
しかも僕を買うのは裕福な獣人の女ばかり。中には男を連れてきて、3人で楽しみましょうと言う者までいた。
念願の初めての人間の女は子供を産み終えた美しくもない相当歳上の女。甘い肉の匂いではなく腐った魚みたいな匂い、それを誤魔化すのに香水を山ほどかけた女だった。しかも臭い下半身への奉仕を要求され、一気に気持ちが冷めた。
そう、そうだよな。
何もしなくても男は寄ってくるんだ。わざわざ金を払ってまで獣人の男を買うなんて人間の女、マトモな女の訳無かった。
しかもその女に気にいられ、最悪な事に事に度々指名を受ける。
金は十分あるしそろそろ頃合、人間の女はうんざりだった。
あー、多分今日もあの女が来るなぁと窓の外を眺めていた時、彼女を見つけた。
「そこの綺麗なお姉さん。ちょっと遊んでかない?」
夜も明けきらないうちに森へ入り採取する。清流で泥を洗い流しいつもの様に木と木の間に張った縄に挟み時間をかけて乾燥させてゆく。
ある程度の作業が終わる頃父の作った朝食の匂いが立ち込め、体は空腹を覚える。
自宅に戻れば調理場では鍋を回す父。朝食の支度を手伝いテーブルに作り置きのパンを竈で軽く温め皿に盛った物を置き、温かいスープをよそう。支度が整う頃母が気怠そうに起きてきて食事を食べ始める。
甲斐甲斐しく他温めたスープとミルクを母に渡し、寒くないようにと肩掛けを掛ける父。
元来我儘な体質の母はなんでも父にやらせた。お陰で僕は幼い時から父の仕事を手伝い早朝から森に入ることになり、今じゃ父よりも調剤の腕があるんじゃないかと思う程だ。
母と父は番同士だったらしい。
と言っても、父がそう言うだけで母は父の事を番と言ったところを見たことが無いけど。こんなのが番同士の結婚生活なら地獄だなと思った。
家を出る事も考えたけど父を一人置いていっても生活は難しいと分かってるから踏み切れなかった。
うんざりするようなつまらない毎日、母親だと言うのに母を母と思ったことは無い。まあ、どこもそんなもんなんじゃないかとも思ってたから喧嘩しようとも思わなかったけど。
俺たちが稼いだ金を当たり前のように母が使う。そんな生活がある日突然終わった。
ある日突然、母が出ていった。
何も無い森の中、偶に街へ行って買い物やら食事やら遊びに行っていたけど、それじゃ足りなかったみたいだった。
『こんな生活はうんざり』と、荷物を持って出ていってしまった。
父は慌てて追いかけて行ったけれど、どうせすぐに戻ってくると、僕は普段と変わらない生活を続けた。
だけど、1日経っても2日経っても7日たっても2人は戻ってこなかった。
2人がいなくなってひと月が過ぎたころ、僕はふと思った。自由に生きていいんじゃないかと。
そう思ったら行動するのは早かった。街で必要なものを揃え旅支度をした。誰も居なくなる自宅には、元々番である母を守るためだと父が高価な結界魔道具を付けていたため引き続きそれを使用した。
もしあの二人が戻ってきても、二人の魔力は登録されているから入れる。食料の残りを袋に詰め、作り置いた薬を持って家を出た。
各地を転々として数年、流れの薬師として生計を立てていた。そろそろそんな生活に飽きてきた頃、旅先で知り合った商人に会いにスロッシュベルトの王都へと足を運んだ。サルターンとは違い街を歩く半分は人間、あと半分のほとんどが獣人と、僅かに魔人。
しばらく滞在し、街で知り合った別の男から娼館で働いてみないかと持ちかけられた。
僕の見た目は女受けするらしく、色素の薄い髪と肌は特に貴人から人気があるんだと言う。
娼館、男娼ってことだ。さすがに男に尻を貸す気にはなれないと断ったけど、借金があって勤めるわけじゃない。だから客はある程度選べる、女だけ相手にしてもいいと言われちょっと揺らいだ。
でも女だけって言ってもいい女ばかりじゃない。中にはぶよぶよに太った女や、異臭のする女、加虐趣味のある女も居るはず。
ちょっと無理。そう伝えたけと、「人間の女も客として来る」って言葉に負けた。
僕も獣人、人間の女には憧れがある。
旅先で何度か見かけた彼女たちは、すごくいい匂いがする。香水とは違う甘い甘い肉の匂い。
一回ぐらいお願いしたいと何度も思った。
で、不純で軽い気持ちで始めた男娼生活はやっぱりいいもんじゃなかった。
最初にかけてもらった避妊紋はなんか歪だし、かけた奴は失敗を認めないし。まあいいよ、子どもとか特にいらないからさ。
しかも僕を買うのは裕福な獣人の女ばかり。中には男を連れてきて、3人で楽しみましょうと言う者までいた。
念願の初めての人間の女は子供を産み終えた美しくもない相当歳上の女。甘い肉の匂いではなく腐った魚みたいな匂い、それを誤魔化すのに香水を山ほどかけた女だった。しかも臭い下半身への奉仕を要求され、一気に気持ちが冷めた。
そう、そうだよな。
何もしなくても男は寄ってくるんだ。わざわざ金を払ってまで獣人の男を買うなんて人間の女、マトモな女の訳無かった。
しかもその女に気にいられ、最悪な事に事に度々指名を受ける。
金は十分あるしそろそろ頃合、人間の女はうんざりだった。
あー、多分今日もあの女が来るなぁと窓の外を眺めていた時、彼女を見つけた。
「そこの綺麗なお姉さん。ちょっと遊んでかない?」
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