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雄叫び
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鼻と目が焼け爛れたみてぇに熱く痛てぇ。
手足が痺れ、目も開けられねぇし息をするに鼻も喉も酷い有様で鼻水はダラダラ出てくるわ喉の奥から粘液出てくるわ最悪だ。
先に復活ささたセオルがジンに薬を与え、俺にもくれた。小さな瓶の栓を爪で飛ばし一気に飲み込むと、ドロっとした甘い薬が喉に広がりスっと吸収され喉の痛みが引いてゆく。時間を置いて徐々に手足の痺れが消え目の腫れや痒みも引いた。
万能魔法薬。カイルはセオルの腕がいいと言ってたが、ここまで効きの良いのは金があるからと言って手に入るもんじねぇ。
「……クソがァ舐めたことしやがる」
回復し立ち上がったジンは恐ろしい程に怒っていた。身体中から溢れる魔力は痺れるような痛みを感じさせる。
「どれくらい気を失ってた」
「数分です。屋外にも撒かれたようで外も混乱しています」
「ウィル達もやられたか。クソっ、鼻から吸い込んだせいでまだ鼻が死んでる。リンは?」
「いません。アリエーラも」
「……駄目だ。鼻が利かない。お前達、アリエーラの匂いを追えるか」
「ここからじゃ無理だな。匂いも何も異臭で嗅ぎ取れねぇ」
「僕もです」
「セオル、あと何人いける」
「人数分。既に投薬済みです」
アリエーラが一緒なら姫さんは大丈夫な筈だ。
ジンはわかってるからあまり焦って無いんだろうが、俺は違う。
アリエーラは確かに強いが、まだ魔力が上手く練れない。焦っても仕方ねぇのは分かってるが、万が一アリエーラに何かあったら……
獣人は番、伴侶となれば相手に印をつける。余程離れてなきゃ番の大体の居場所を知ることが出来、強く感じる感情も分かるらしい。番に対する感覚強化みたいなもんで、自由を好む獣人の中にはこれを嫌う者もいるから付けてない奴らもいる。そして獣人の夫を持つ姫さんにもそれはある。ジンは姫さんに付けた番の契約紋から位置を探る。
「……くそっ、人が多すぎて混じる」
「人が多いと分かりずらいのか?」
そんなのは聞いたことないが俺には経験がないからわからねぇ。話しながらジンは魔力を練って伝令鳥を創り出す。
「いや、リンの場合は番が複数居るからな、契約紋の感度を鈍らせるまじないが施されてる」
「……鈍らせる」
「獣人の夫婦でもあるだろう?感情が筒抜けになるのは恥ずかしいって言う奴。ま、そんな女は大概浮気癖があるが」
「姫さんはそんな風にはみえな……」
「当たり前だ! ……お前、アリエーラにもし付けたらどうなる? お前がいない時セオルとヤってんの気付きたいかよ」
ああ、そうか、そういう事か。
「獣人の男は嫉妬深い。覚悟があって番っても、知りたくない」
「……じゃあどう探す」
「匂いの届かないところ。風上か、上だ。二人にかけた結界は解けてねえ、そんなヤワな術じゃねえからな。が、リンの変装は俺が気を失って解けてるはずだ。アリエーラなら目立たないように隠れようとする」
「夜と言っても人は多い。ってことは、上か」
「あまり離れた場所には行かないはずだ。近辺三階以上の場所くまなく探す」
俺たちは周辺の木や建物に上り周囲を伺うが、アリエーラと姫さんは見つからない。
騒ぎをに駆けつけたサルターンの騎士らが駆けつけより騒ぎは大きくなった。
幻獣人が複数固まっていた事で、こっちが犯人扱いされることになっちまった。
引き止められ取り調べをと詰め寄られ、ジンのイライラらは最高潮に達しそうになった。
「ジン、リンは何処?」
酷く冷たい冷気を纏い、黒幕カイルがふっと現れた。
カイルは周囲に目をやり、今にもキレて暴れだしそうなジンとサルターンの騎士を見て一言「大体把握した。少し待て」と言いシュッと転移で消えた。
そんでものの数秒で戻って来たが、その隣には服を乱したサルターン第一王子アルバンが顔を引き攣らせながら立っていた。
乱れ方から察するに女と会ってた最中、か。
「アルバン、何者かの襲撃を受けて連れていた獣人、幻獣人が被害に遭った。結界術で被害を逃れたリンと護衛騎士アリエーラが行方不明、でいいね? ジン」
「ああ、こいつらから俺達が犯人だと不当聴取を要求されてる。リンを探しに行きたくても逃げれば聴取無しで捕縛すると」
「何を! 貴様ら以外に怪しいもの達などどこにも居ない!!」
「あ"? ざけんな! なんで俺らが自分の鼻潰すんだってんだろ!」
そんた時、ハッと気が付いた。
「ちっと待て! 姫さん所に直に転移すればいいんじゃないか?」
カイルがアルバンを一瞬で連れて来たなら姫さんの所に行って連れて帰って来たらいいんじゃねぇだろうか。
「無理だよ」
「何故だ」
「ジンの結界術は魔力を遮断する」
「ならそれを解いて」
「今が安全とは限らない」
「ならどうやって!」
「そのためのアルバンだよ。ね?」
アルバン王子は相変わらず顔を引き攣らせているが、はぁっと大きく息をつき「仕方ない」と漏らした。
「アルバンは少し特殊な術を使う。遠視、とは違うが……アルバン、頼むよ」
アルバン王子は周りの騎士を退かし場所を作ると魔力を練り、知らねぇ言語の呪文らしき物を唱える。
足元には魔法陣が描かれ、波紋が広がるように魔力が波打つ。
「おおっとぉ?これは、アレだな」
「何だ」
「三番通り四階建て屋上」
「幾つあると思ってる。もっと絞れ」
「二人は警戒してる。人間の、男が一人。入れ替わって十人、か? が入れ替わる。全員帯剣してるな。この感じ、獣人か」
「ジン」
「ああ、行ってくる」
カイルを残し俺たちは三番通りへと急いだ。
そこまでは大した距離じゃねぇ、近付きゃジンも契約紋で分かるかもしれねえし、俺の鼻もセオルのおかげでそこそこ回復してる。
三番通り、着いたはいいが王都だ。建物の数はかなりあって、その中からとなると探すのは少しかかる。
そんな焦る俺の前を、弱々しい伝令鳥がゆっくりと通りすぎる。
「!! アリエーラの匂い! ジン!!」
俺宛じゃないアリエーラの匂いのする伝令鳥は立ち止まるジンの肩にそっと止まり嘴の魔法紙をそっと離す。
「三番通り、赤い煉瓦、商会、白枠の窓、四階建て、広い屋上……行くぞ」
場所に近付くにつれ、アリエーラの匂いを微かに感じるようになった。ジンも同じなんだろう迷うこと無く足を進める、
赤い煉瓦の商会を見つけた時、剣を撃ち合う音が聞こえ、身体中の血が一気に沸騰した。
俺とセオルはジンを追い越し壁を蹴り屋上へと急いだ。
「アアァァァァァリエェェエエラアアアアッッ!!」
男共と二人の間に着地し、目の前の男どもを睨んだ。
「グレン!」
驚いたアリエーラの声。
ああ、無事で良かった。
「……てめぇら、俺の番に手ぇ出したんだ。覚悟は出来てんだろうなぁ」
手足が痺れ、目も開けられねぇし息をするに鼻も喉も酷い有様で鼻水はダラダラ出てくるわ喉の奥から粘液出てくるわ最悪だ。
先に復活ささたセオルがジンに薬を与え、俺にもくれた。小さな瓶の栓を爪で飛ばし一気に飲み込むと、ドロっとした甘い薬が喉に広がりスっと吸収され喉の痛みが引いてゆく。時間を置いて徐々に手足の痺れが消え目の腫れや痒みも引いた。
万能魔法薬。カイルはセオルの腕がいいと言ってたが、ここまで効きの良いのは金があるからと言って手に入るもんじねぇ。
「……クソがァ舐めたことしやがる」
回復し立ち上がったジンは恐ろしい程に怒っていた。身体中から溢れる魔力は痺れるような痛みを感じさせる。
「どれくらい気を失ってた」
「数分です。屋外にも撒かれたようで外も混乱しています」
「ウィル達もやられたか。クソっ、鼻から吸い込んだせいでまだ鼻が死んでる。リンは?」
「いません。アリエーラも」
「……駄目だ。鼻が利かない。お前達、アリエーラの匂いを追えるか」
「ここからじゃ無理だな。匂いも何も異臭で嗅ぎ取れねぇ」
「僕もです」
「セオル、あと何人いける」
「人数分。既に投薬済みです」
アリエーラが一緒なら姫さんは大丈夫な筈だ。
ジンはわかってるからあまり焦って無いんだろうが、俺は違う。
アリエーラは確かに強いが、まだ魔力が上手く練れない。焦っても仕方ねぇのは分かってるが、万が一アリエーラに何かあったら……
獣人は番、伴侶となれば相手に印をつける。余程離れてなきゃ番の大体の居場所を知ることが出来、強く感じる感情も分かるらしい。番に対する感覚強化みたいなもんで、自由を好む獣人の中にはこれを嫌う者もいるから付けてない奴らもいる。そして獣人の夫を持つ姫さんにもそれはある。ジンは姫さんに付けた番の契約紋から位置を探る。
「……くそっ、人が多すぎて混じる」
「人が多いと分かりずらいのか?」
そんなのは聞いたことないが俺には経験がないからわからねぇ。話しながらジンは魔力を練って伝令鳥を創り出す。
「いや、リンの場合は番が複数居るからな、契約紋の感度を鈍らせるまじないが施されてる」
「……鈍らせる」
「獣人の夫婦でもあるだろう?感情が筒抜けになるのは恥ずかしいって言う奴。ま、そんな女は大概浮気癖があるが」
「姫さんはそんな風にはみえな……」
「当たり前だ! ……お前、アリエーラにもし付けたらどうなる? お前がいない時セオルとヤってんの気付きたいかよ」
ああ、そうか、そういう事か。
「獣人の男は嫉妬深い。覚悟があって番っても、知りたくない」
「……じゃあどう探す」
「匂いの届かないところ。風上か、上だ。二人にかけた結界は解けてねえ、そんなヤワな術じゃねえからな。が、リンの変装は俺が気を失って解けてるはずだ。アリエーラなら目立たないように隠れようとする」
「夜と言っても人は多い。ってことは、上か」
「あまり離れた場所には行かないはずだ。近辺三階以上の場所くまなく探す」
俺たちは周辺の木や建物に上り周囲を伺うが、アリエーラと姫さんは見つからない。
騒ぎをに駆けつけたサルターンの騎士らが駆けつけより騒ぎは大きくなった。
幻獣人が複数固まっていた事で、こっちが犯人扱いされることになっちまった。
引き止められ取り調べをと詰め寄られ、ジンのイライラらは最高潮に達しそうになった。
「ジン、リンは何処?」
酷く冷たい冷気を纏い、黒幕カイルがふっと現れた。
カイルは周囲に目をやり、今にもキレて暴れだしそうなジンとサルターンの騎士を見て一言「大体把握した。少し待て」と言いシュッと転移で消えた。
そんでものの数秒で戻って来たが、その隣には服を乱したサルターン第一王子アルバンが顔を引き攣らせながら立っていた。
乱れ方から察するに女と会ってた最中、か。
「アルバン、何者かの襲撃を受けて連れていた獣人、幻獣人が被害に遭った。結界術で被害を逃れたリンと護衛騎士アリエーラが行方不明、でいいね? ジン」
「ああ、こいつらから俺達が犯人だと不当聴取を要求されてる。リンを探しに行きたくても逃げれば聴取無しで捕縛すると」
「何を! 貴様ら以外に怪しいもの達などどこにも居ない!!」
「あ"? ざけんな! なんで俺らが自分の鼻潰すんだってんだろ!」
そんた時、ハッと気が付いた。
「ちっと待て! 姫さん所に直に転移すればいいんじゃないか?」
カイルがアルバンを一瞬で連れて来たなら姫さんの所に行って連れて帰って来たらいいんじゃねぇだろうか。
「無理だよ」
「何故だ」
「ジンの結界術は魔力を遮断する」
「ならそれを解いて」
「今が安全とは限らない」
「ならどうやって!」
「そのためのアルバンだよ。ね?」
アルバン王子は相変わらず顔を引き攣らせているが、はぁっと大きく息をつき「仕方ない」と漏らした。
「アルバンは少し特殊な術を使う。遠視、とは違うが……アルバン、頼むよ」
アルバン王子は周りの騎士を退かし場所を作ると魔力を練り、知らねぇ言語の呪文らしき物を唱える。
足元には魔法陣が描かれ、波紋が広がるように魔力が波打つ。
「おおっとぉ?これは、アレだな」
「何だ」
「三番通り四階建て屋上」
「幾つあると思ってる。もっと絞れ」
「二人は警戒してる。人間の、男が一人。入れ替わって十人、か? が入れ替わる。全員帯剣してるな。この感じ、獣人か」
「ジン」
「ああ、行ってくる」
カイルを残し俺たちは三番通りへと急いだ。
そこまでは大した距離じゃねぇ、近付きゃジンも契約紋で分かるかもしれねえし、俺の鼻もセオルのおかげでそこそこ回復してる。
三番通り、着いたはいいが王都だ。建物の数はかなりあって、その中からとなると探すのは少しかかる。
そんな焦る俺の前を、弱々しい伝令鳥がゆっくりと通りすぎる。
「!! アリエーラの匂い! ジン!!」
俺宛じゃないアリエーラの匂いのする伝令鳥は立ち止まるジンの肩にそっと止まり嘴の魔法紙をそっと離す。
「三番通り、赤い煉瓦、商会、白枠の窓、四階建て、広い屋上……行くぞ」
場所に近付くにつれ、アリエーラの匂いを微かに感じるようになった。ジンも同じなんだろう迷うこと無く足を進める、
赤い煉瓦の商会を見つけた時、剣を撃ち合う音が聞こえ、身体中の血が一気に沸騰した。
俺とセオルはジンを追い越し壁を蹴り屋上へと急いだ。
「アアァァァァァリエェェエエラアアアアッッ!!」
男共と二人の間に着地し、目の前の男どもを睨んだ。
「グレン!」
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