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羨ましい。
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サルターンの城下は朝から賑わっていた。いや、賑わっているどころか芋洗い状。様々な種族がごちゃごちゃと集まり、道をゆくのにも苦労する。
そんなごった返した通りをジンは姫さん抱き寄せて抜けて行く。今日の姫さんはジンみたいなたれた大きな付け耳をつけて獣人の振りをしてる。
サルターンは魔人が多いから面倒が無いようにってことだろうが、体つきが小柄だからまるで親子か兄妹だ。言ったら締められそうだから言わねぇが。アリエーラが見惚れる程度には可愛い。
ジンは姫さんを上手く人の流れから庇いながらスイスイと進む。
姫さんは言ってたように露天で兎に角食う。ひとつを買って二人で仲良く分け、滅茶苦茶楽しそうだ。何かものを買えばルーイがサッと寄り荷物を受け取る。空気のような動きに流石だと感心しちまう。
姫さんが大好きな串焼き、汚れた指を拭いながら唇に残った分を舐めるジン。姫さんも同じようにジンの唇を舐める。
……羨ましい!!
俺もやってみたい。
チラッとアリエーラを見るも、俺の視線へは無反応。見てるの分かっててこれだ。やらねぇよって事か。
『グレン、セオル、そろそろだ』
アリエーラの言葉にバラけていた俺達は姫さんとジンの元へ。結構な時間が経ち、そろそろ変えていた髪と瞳の色が戻る。気付かれ騒がれる前に移動だ。
予め予約していた個室のある高級料理屋へ、ここはラートリー商会が出資してる店で融通がきく。
店に入る直前で色が戻っちまって急いで部屋へ。
髪から魔力の残骸が抜ければもう一度色を変えられる。それまでここで少し休息を取ってから夜市へ出かける予定だ。
姫さんは早起きして歩き回り疲れたのか温かい茶を飲むとソファでぐっすりと眠ってしまった。
俺達は隣に用意された別部屋で食事をとり、時間まで待機。
そんな中、隣の部屋に結界が張られた気配を感じた。アリエーラの眉がピクリと反応したが、表情は変わらなかった。
てか、姫さん寝てたよな……この状況でヤるのか? まあ、夫婦だし、分かるさ。姫さんの付け耳可愛かったし、その姫さん見るジンの目ヤバかったもんな? それにこんだけ人の多い場所歩いたんだ、変な匂いが付くから自分の匂いをつけ直したいよな? いいけどよ。
そんなこんな悶々としてると支配人が部屋の扉を叩きアリエーラが対応した。
「断ってくれ」
そう一言伝え扉を閉める。
「何だ?」
「昨日のラッカ子爵令嬢だ。見かけたので挨拶をしたいと」
昨日の今日で偶然の接触、臭うどころか故意だな。
「そりゃ、臭うな」
「ああ、臭すぎて鼻が曲がる。セオル、ウィリアムが建物周囲に居る筈だ。悪いが急ぎ報告を頼む」
「分かった。すぐ戻るよ」
セオルはフードを被り自分に認識阻害の術をかける。リミオみたいに姿を隠す訳じゃないが、余程のことがなきゃ僅かな時間セオルはその辺にある置物の様な認識しかされない。
何時もならアリエーラが完璧なのをかけるが、腹に子がいるせいか魔力が上手く引き出せないらしく術が使えない。
ジンへの報告は後だろう。アイツは姫さんとの時間を邪魔されると怖えからな。
俺達がバタバタと動いてる間、姫さんとジンはゆっくりと夫婦の時間を楽しんだようで、結界が解かれたのは夕刻、というかもう夜に近かった。恥ずかしそうに視線を反らす姫さんと機嫌の良さそうなジン。匂いから察するにしっかりとイチャイチャした様子。
そんな二人を無表情で見つめるアリエーラ。
アリエーラ、羨ましいのは分かる、俺も同じ気持ちだ。
再び髪色を変えた姫さんはいそいそと夜市へと向かった。
「り、りり、凛子様、ジン様、遅くなり申し訳ありません」
「まあ、ミオくん?」
リミオはジンに頭を下げ挨拶をするとモジモジしながら二人に転移者村から出ている屋台の場所を伝えた。
「今年は焼きそばですぅ。塩味とソース味で、塩の方には凛子様のお好きな海老が入っていますよ」
「海老入り!?」
ジンの手を引き跳ねるように軽い足取りで屋台に向かう。
飲食席では予め姫さん用に用意された席に二人仲良くピッタリとくっついて座り、それぞれの味を仲良く分け合い食う。
姫さんとジンが仲良く食ってる間に俺達はリミオからの報告を聞いた。
『つまり近付きたいのはラッカ子爵令嬢じゃなくてその夫の小金持ち男爵って事か?』
『目的は不明ですがあんまりいい噂の無い人なのは確かですね。時間がなかったのでこんなしか情報無いですからそれ以外にもあるかもしれませんので要注意で』
ラッカ子爵令嬢は三人の夫を持つ。どれもそれなりの資産を持つ貴族、子爵、男爵、準男爵だが、筆頭は爵位順じゃなく金だ。筆頭は金貸しやらで溜め込んだゴレッカ男爵だが、この男は綺麗なもんを集めるのが趣味なんだが、宝石やら絵画、美術品じゃない。綺麗な女が好きなんだ。男爵邸には借金のカタに連れてこられた女が何人も働いてる。が、働いても働いても借金は返し終わらない。法外な利子が付けられてるからだ。
悪趣味な貴族の話は俺もスロッシュベルトにいた時に噂には聞いていた。この男の嫌な所は自分の美意識に触れる女を種族関係なく集めるところだ。
通常人間の男は人間の女を迎えるが、女と違い男は避妊さえしとけば獣人だろうと抱く。人間社会では女は様々な主導を握り、令嬢が嫌だと言えばいくら筆頭だろうと無理に抱く事は出来ないからだ。
女の機嫌取って言いなりになっても、子供さえ産みゃああとは知らんという男も、実は少なくない。人間の子を産めるのは人間の女だけだが、それが済めば性欲の発散はその女じゃなくてもいいからだ。
アリエーラはかなりの美人だ。手入れされた髪と肌、スラリと伸びた手足、整った切れ長の目に筋の通った鼻、薄いが形のいい唇も。番の欲目じゃなくても綺麗な女だ。
『凛子様に被害が無いのならいいが』
『何か気になんのか』
『……あの目、あれには敵意があったように見えたし、それ以外に……』
『敵意ほアリエーラにか? それ以外ってのは』
『分からない。分からないが、気持ちの悪い女だった』
あの目はどこかで見た事がある。そう言ってアリエーラは考え込んじまった。
そんなごった返した通りをジンは姫さん抱き寄せて抜けて行く。今日の姫さんはジンみたいなたれた大きな付け耳をつけて獣人の振りをしてる。
サルターンは魔人が多いから面倒が無いようにってことだろうが、体つきが小柄だからまるで親子か兄妹だ。言ったら締められそうだから言わねぇが。アリエーラが見惚れる程度には可愛い。
ジンは姫さんを上手く人の流れから庇いながらスイスイと進む。
姫さんは言ってたように露天で兎に角食う。ひとつを買って二人で仲良く分け、滅茶苦茶楽しそうだ。何かものを買えばルーイがサッと寄り荷物を受け取る。空気のような動きに流石だと感心しちまう。
姫さんが大好きな串焼き、汚れた指を拭いながら唇に残った分を舐めるジン。姫さんも同じようにジンの唇を舐める。
……羨ましい!!
俺もやってみたい。
チラッとアリエーラを見るも、俺の視線へは無反応。見てるの分かっててこれだ。やらねぇよって事か。
『グレン、セオル、そろそろだ』
アリエーラの言葉にバラけていた俺達は姫さんとジンの元へ。結構な時間が経ち、そろそろ変えていた髪と瞳の色が戻る。気付かれ騒がれる前に移動だ。
予め予約していた個室のある高級料理屋へ、ここはラートリー商会が出資してる店で融通がきく。
店に入る直前で色が戻っちまって急いで部屋へ。
髪から魔力の残骸が抜ければもう一度色を変えられる。それまでここで少し休息を取ってから夜市へ出かける予定だ。
姫さんは早起きして歩き回り疲れたのか温かい茶を飲むとソファでぐっすりと眠ってしまった。
俺達は隣に用意された別部屋で食事をとり、時間まで待機。
そんな中、隣の部屋に結界が張られた気配を感じた。アリエーラの眉がピクリと反応したが、表情は変わらなかった。
てか、姫さん寝てたよな……この状況でヤるのか? まあ、夫婦だし、分かるさ。姫さんの付け耳可愛かったし、その姫さん見るジンの目ヤバかったもんな? それにこんだけ人の多い場所歩いたんだ、変な匂いが付くから自分の匂いをつけ直したいよな? いいけどよ。
そんなこんな悶々としてると支配人が部屋の扉を叩きアリエーラが対応した。
「断ってくれ」
そう一言伝え扉を閉める。
「何だ?」
「昨日のラッカ子爵令嬢だ。見かけたので挨拶をしたいと」
昨日の今日で偶然の接触、臭うどころか故意だな。
「そりゃ、臭うな」
「ああ、臭すぎて鼻が曲がる。セオル、ウィリアムが建物周囲に居る筈だ。悪いが急ぎ報告を頼む」
「分かった。すぐ戻るよ」
セオルはフードを被り自分に認識阻害の術をかける。リミオみたいに姿を隠す訳じゃないが、余程のことがなきゃ僅かな時間セオルはその辺にある置物の様な認識しかされない。
何時もならアリエーラが完璧なのをかけるが、腹に子がいるせいか魔力が上手く引き出せないらしく術が使えない。
ジンへの報告は後だろう。アイツは姫さんとの時間を邪魔されると怖えからな。
俺達がバタバタと動いてる間、姫さんとジンはゆっくりと夫婦の時間を楽しんだようで、結界が解かれたのは夕刻、というかもう夜に近かった。恥ずかしそうに視線を反らす姫さんと機嫌の良さそうなジン。匂いから察するにしっかりとイチャイチャした様子。
そんな二人を無表情で見つめるアリエーラ。
アリエーラ、羨ましいのは分かる、俺も同じ気持ちだ。
再び髪色を変えた姫さんはいそいそと夜市へと向かった。
「り、りり、凛子様、ジン様、遅くなり申し訳ありません」
「まあ、ミオくん?」
リミオはジンに頭を下げ挨拶をするとモジモジしながら二人に転移者村から出ている屋台の場所を伝えた。
「今年は焼きそばですぅ。塩味とソース味で、塩の方には凛子様のお好きな海老が入っていますよ」
「海老入り!?」
ジンの手を引き跳ねるように軽い足取りで屋台に向かう。
飲食席では予め姫さん用に用意された席に二人仲良くピッタリとくっついて座り、それぞれの味を仲良く分け合い食う。
姫さんとジンが仲良く食ってる間に俺達はリミオからの報告を聞いた。
『つまり近付きたいのはラッカ子爵令嬢じゃなくてその夫の小金持ち男爵って事か?』
『目的は不明ですがあんまりいい噂の無い人なのは確かですね。時間がなかったのでこんなしか情報無いですからそれ以外にもあるかもしれませんので要注意で』
ラッカ子爵令嬢は三人の夫を持つ。どれもそれなりの資産を持つ貴族、子爵、男爵、準男爵だが、筆頭は爵位順じゃなく金だ。筆頭は金貸しやらで溜め込んだゴレッカ男爵だが、この男は綺麗なもんを集めるのが趣味なんだが、宝石やら絵画、美術品じゃない。綺麗な女が好きなんだ。男爵邸には借金のカタに連れてこられた女が何人も働いてる。が、働いても働いても借金は返し終わらない。法外な利子が付けられてるからだ。
悪趣味な貴族の話は俺もスロッシュベルトにいた時に噂には聞いていた。この男の嫌な所は自分の美意識に触れる女を種族関係なく集めるところだ。
通常人間の男は人間の女を迎えるが、女と違い男は避妊さえしとけば獣人だろうと抱く。人間社会では女は様々な主導を握り、令嬢が嫌だと言えばいくら筆頭だろうと無理に抱く事は出来ないからだ。
女の機嫌取って言いなりになっても、子供さえ産みゃああとは知らんという男も、実は少なくない。人間の子を産めるのは人間の女だけだが、それが済めば性欲の発散はその女じゃなくてもいいからだ。
アリエーラはかなりの美人だ。手入れされた髪と肌、スラリと伸びた手足、整った切れ長の目に筋の通った鼻、薄いが形のいい唇も。番の欲目じゃなくても綺麗な女だ。
『凛子様に被害が無いのならいいが』
『何か気になんのか』
『……あの目、あれには敵意があったように見えたし、それ以外に……』
『敵意ほアリエーラにか? それ以外ってのは』
『分からない。分からないが、気持ちの悪い女だった』
あの目はどこかで見た事がある。そう言ってアリエーラは考え込んじまった。
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