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その結果が必ずしも望まれるばかりではないが、俺にとっては喜ばしい事

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「おめでとうグレン、二月目頃だよ。今日は術式を展開して診たけれど、次からは女性の医師を手配しておくから安心して」

アリエーラはベッドの上で思い詰めた様に拳を握り、俺の顔を睨む。セオルも俺と目を合わさねぇで隣で薬茶を入れている。
慶事であるはずが、アリエーラはまるで俺を仇を見るような目で睨む。
緩みそうな口元を引き結び、飛び上がりそうな体は呼吸と共に落ち着けた。

要らない、って言ったあの時のアリエーラの顔を思い出した。

「今は初期で少し情緒不安定かな? 特効薬をジンに頼んだから直ぐに来るよ」
「カイルっ、私は、私は!!」
「アリエーラ、少し落ち着きなさい。君は今混乱してる、そうだね? 仕事の方は気にしなくていい。今は魔力を上手く練れないだろうけどすぐに落ち着く筈だ。それに君は魔法がなくても十分強い、そうだろ?」
「でもっ!」
「ア、アリエーラ、俺がお前の世話をするっ、産まれたら子どもの世話も俺がするっ、だから……」

 
アリエーラは姫さんから離れることを恐れてる。姫さんはアリエーラの真ん中にいる人間だ。
今にも腹を殴り付けそうなアリエーラの拳をグッと握り頼んだ。

「産んでく「アリエーラ!!」」

「凛子様っ」

俺を振り払いベッドから勢いよく飛び上がる。駆けつけた姫さんに抱きつき抱え込むように座り込んだ。

「凛子様、凛子様ぁ」
「不安だったのね? 大丈夫。私もいるから」

絶妙なタイミングで入ってきた姫さんは俺の表情を見て察したのか気まずそうな顔をし、グリグリと顔を擦り付け長い尻尾を巻き付けるアリエーラを、優しくあやす様に頭を撫でた。


いや、いいんだ。俺的にどうじゃなくアリエーラ的にはこれが一番なんだ。
それにこれだけ取り乱すんだ。姫さんの言う通り不安だったんだろう。

その後ガッチリと姫さんを抱えて離さないアリエーラをカイルがちょちょいと魔法で眠らせ、姫さんに付き添いを頼み俺たちは別室で今後の対策を話し合った。



「セオルは気が付いていたのか」
「ごめん、確信が無くて言えなかった」
「妊娠初期の不安症は獣人ではあまり見られないからね。薬学に詳しくても気が付かないのは仕方無いよ」
「何はともあれグレン、おめでとう」
「セオル……ありがとう」
「まあ、おめでたいとは限らないけどな」
「ジン」

ジンの言葉にグッと喉が詰まった。
それは俺も思った。認めたくねぇがアリエーラにとって腹の子は邪魔な存在だろう。
まあ、出来やしないとタカをくくって避妊しなかったのは俺だし、アリエーラは満足するとそのまま寝ちまう事もあったから出来ても不思議じゃない。

「でも、もしグレンがいらないと言うなら、処置を考えるけど?」

「俺は……正直迷い、ました。腹の子はアリエーラにとって番以外の男の子だ。邪魔で疎ましく思うんだろうと。だが俺はアリエーラに子殺しなんてさせたくないし、俺は、俺の番が俺の子を孕んだ事に、喜びを感じて、いる」

獣人は、必ずしも子を大事に育てるとは限らない。番のいる獣人が何よりも優先するのは番。その番がどうするかで子育ても変わる。番が子嫌いなら、育児を放棄する場合もあるほどだ。
姫さんがそうだとは思わないが、アリエーラにとって腹の子は姫さんの子じゃない。子を授かったことで姫さんとの時間が減るなら、アリエーラは迷わず子を切り捨てる。


「アリエーラが、自棄にならねぇかが心配だ」

「あ? お前馬鹿か? なんのためにリンを連れてきたと想ってる。仕方ねぇからしばらく俺のリンを貸してやる」
「ふふっ、勿論私のリンもね」
「ついでにウィルのリンもだろうな」

「……いいの、ですか」
「カイル様、ジン様、ありがとうございます」
「おいセオル、俺より先に言うなよ! お二人とも、ありがとうございます」

「勿論いいよ。そうする事でリンも喜ぶからね」
「そう言って、結局カイルもアリエーラに甘いんだよな」
「君もね?ジン」

ジンにカイル。この二人とはあまり接点がない。だから勝手に俺の中で腹黒そうだと決めつけていたが、もしかしたら違うのかもしれない。
アリエーラ、お前はどうやら思った以上に大切にされているぞ?




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