〖完結〗「お前は俺の最高の番(つがい)だ」「番(つがい)?私の番は別にいる」

ゆか

文字の大きさ
上 下
47 / 68

そしてそして

しおりを挟む
護衛補佐となって五年が過ぎた。

何とか一度目、二度目の契約更新は済、次の更新は一年後だ。

護衛補佐、何をするって?主に見回りだ、見回り。

朝起きてから姫さんが行動する範囲をくまなく見回り、散歩に出るといやあ先に出て見回り。つまり姫さんの行動する範囲全てを見回る。仕事としては楽で楽で仕方がない、楽すぎて退屈で退屈で退屈で……

そう、姫さんの行動範囲が狭すぎて仕事がない。体が鈍る。だから騎士団で幻獣人に混じって鍛えるが結局物足りなく、月に二、三度ギルドに顔を出し依頼を受けている。


アリエーラとは相変わらずだが少しだけ、いや、大分変化があった。


発情の周期は大体月一だ。これは姫さんとアリエーラの接触云々は関係なく起こる事が分かった。それ以外は多少ムラムラするみたいだが我慢ができる。俺とセオルは月一の発情のタイミングでアリエーラを満足させる。相変わらず俺達個人を見る訳じゃないが俺と付き合っていた五年は何だったんだと言うぐらい乱れに乱れドロドロになる。

あー、考えただけで勃ちそうだ。

二人で相手する分後ろの穴も使うのかと思ったがアリエーラはそっち使おうとすると怒る。一回ちょっと擦り付けたら全力の蹴りが飛んで肋がいった。その後二ヶ月もお預けだった。

アリエーラと上手くやるのには、アリエーラの番を尊重する、跡を付けない、俺たち個人を意識させない、ケツの穴を使わない、か。まあ、他にも細くあるが。

最初に比べアリエーラとは話もするし一緒に飯も食う。番同士って言うもんとは違う、なんて言うか、多分仲間、位には意識されてる。拒否されまくっていた頃に比べればかなりの前進。



初めの頃はお互いにどう排除しようかと殺気を飛ばしあったセオルと俺は、とりあえずは協力関係にある。

今となってやっとなんで男が二人必要なのか、ハッキリと分かってる。

アリエーラは姫さんに向ける以外の情が薄い。元々感情の起伏が少ないとは思ってたが、異常な程ない。

俺はアリエーラの何を見てきたんだかとベコベコにへこんで落ち込んだ。

情が薄いアリエーラは要らないと思えば付き合いの古いセオルも切るだろう。勿論俺もだ。

もし俺だけだったら、きっと俺はアリエーラをマトモに戻そうとしただろうな。

そして排除される。

セオルもだ。アイツはアリエーラと談笑する姫さんを羨ましそうに眺めることがある。成り代わりたいという欲求があるのは俺だけじゃなくセオルもだ。周囲のものは気がついてる筈で、そんなセオルをジンが見ているのに気が付き俺はセオルを止めるべく動いた。

って言っても話を聞くだけだが。どう知りあって、どう恋に落ちたのか。お互いがどれだけアリエーラを好きか。何度も同じ話を聞いた。

終いにゃ酒飲みながらアリエーラの善がりポイントやどんなシチュエーションが好きかとか。セオルはアリエーラと別れてから四十年以上女を抱いてないと聞いて、その一途さに感心した。若干引いたのは秘密だ。

アリエーラを番だと認識する俺達はアリエーラの発情の時しか抱かせて貰えないが、たまーに、アリエーラは発情以外でさせてくれる。勿論アリエーラのオカズは必要だからセオルが下になりアリエーラは目を閉じ、番が男だったらごっこでだが。つまり、初めてセオルと三人でヤった時と同じ方法だ。

アリエーラが腰を振りセオルが果てればそのままの体制で俺が後ろからはめる。俺も下になって腰を振って貰いたいが番と体格が違いすぎ却下された。

アリエーラが最中に俺たちの名を呼ぶことは絶対にない。だからこそ俺とセオルはお互い殺し合わずに居られるような気がする。






「遅いね」

「迎えに行くか」

「鬱陶しいって怒られるよ」

「まあ、そうだが」



俺とセオルは仕事が終わるとアリエーラの部屋で待つ。俺もセオルも部屋を貰ってるがほぼ物置だ。

毎日何もしなくとも同じベッドに入り眠る。どっちかが痛いぐらいに張り詰めていてもアリエーラの許可が無ければ突っ込むことは出来ない。あんまり息を荒くしても蹴り出される。何度となく涙を飲んだが今日は周期的にドロドロアリエーラの日だ。綺麗に体を洗って匂いも落とした。うっかり強く噛んじまった時のために念入りに歯を磨いた。アリエーラが居なくても既に半勃ちだ。


アリエーラの帰りを今か今かと待っていると、扉がガチャりと開く。相変わらず気配のないアリエーラは、何だか暗い。


「おかえりなさい、アリエーラ」

「ああ」

「遅かったな、おかえり」

「ああ、少し庭を歩いて来た」


「「……」」


俺とセオルは顔を見合せる。


何かおかしい。


アリエーラはバサバサと脱いだ服を長椅子の背もたれに放り投げると、簡単に体に浄化をかけてベッドへ倒れ込んだ。


「……悪いが今日は一人にしてくれ」


それからのアリエーラは何を聞いても答えず、無言を貫いた。


「アリエーラ、これ」


セオルが用意していたハンカチをアリエーラの手に握らせると、アリエーラはクンと嗅ぐ。姫さんの匂い付きのハンカチだ。セオルは一日に一度姫さんにセオル茶を出す。あの罰ゲームから気に入ったようでとても喜んで飲んでるが、その支度に部屋へ上がった時には一枚綿のハンカチを持って行ってこっそり部屋の匂いを付けてくる。まあ、アリエーラのオカズなんだが、今のアリエーラはそれを嗅いでも発情はしない。


俺とセオルは訳の分からねぇままに部屋を出た。


「グレン気が付いた?」

「ああ。お前もか?」

「当たり前」


「「魔法の精度が低い」」


「だね」

「だな」


浄化魔法ってのは一般人も使う生活魔法だが、人によって精度が違う。アリエーラみたいな上級者は一般人が三度かける所を一回で終わらせちまうが、さっきアリエーラがかけたのはあまり精度が高いもんじゃねぇ。

あんなアリエーラを見るのは初めてだ。確実に何かあったはず。


「僕、ちょっと凛子様に聞いてこようか」

「いや、俺が行く」


アリエーラがここまで沈むのは見たことがねぇ。セオルは俺よりもずっと慰め役に適してるからな。


「ちょっと行って来るわ」

「よろしく」





とは言ったものの、姫さんの部屋の手前でルーイが立ち塞がる。


「この時間凛子様はゆっくりとお過ごしです。用事があるなら伺います。と言っても凛子様に話を通すのは明日の朝ですが」


いっつもゆっくりしてるだろうが。

とは言えねぇが引き下がる訳にも行かない。


「アリエーラの様子がおかしいんだ。出来れば今少し時間を取れないか」

「今日凛子様とお過ごしなのはジン様です。分かって言っていますか?」

「ああ」

「部屋にお二人だけになってどれ程の時間が経っているのかも?」

「……いや」


この言い方。

中じゃ夫婦の営みが始まってるから邪魔すんなってことか。


「この時間は凛子様のお部屋に私でも入る事はしません。お引き取り下さい」

「ならルーイから見たアリエーラの様子はどうだったか教えてくれないか」


俺とセオルは日中アリエーラの、姫さんのそばに上がることはほとんど無いが、ルーイは一日の大半を姫さんのそばで過ごす。だからルーイなら何か気が付いているかもしれない。


「そうですね、特に変わりはないと思いますが、少し疲れているように見えました」

「疲れ?」


ここ最近のアリエーラの予定で疲れるほどの予定は無い。なんせ姫さんは出かけないからな。あ、いや今日は確か姫さん連れて商会本部に顔を出していたか。たしかジンに会いに行ってた筈だ。

だが転移門使って歩いてもすぐの場所、疲れるほどの事じゃないはずだ……

精神的にクル何かがあったのか?


「……わかった。遅い時間にすまなかった」


「わかってくださればいいんです」


そう言い俺が立ち去るまでじっと見張るのは、さすが番犬だ。





急いでアリエーラの部屋へ戻ると、セオルが扉の前で座り込んでいる。やっぱり入れては貰えなかったようだ。

初めての事態に俺とセオルはじっと黙ったまま扉の前で夜を明かした。







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私と運命の番との物語

星屑
恋愛
サーフィリア・ルナ・アイラックは前世の記憶を思い出した。だが、彼女が転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢だった。しかもその悪役令嬢、ヒロインがどのルートを選んでも邪竜に殺されるという、破滅エンドしかない。 ーなんで死ぬ運命しかないの⁉︎どうしてタイプでも好きでもない王太子と婚約しなくてはならないの⁉︎誰か私の破滅エンドを打ち破るくらいの運命の人はいないの⁉︎ー 破滅エンドを回避し、永遠の愛を手に入れる。 前世では恋をしたことがなく、物語のような永遠の愛に憧れていた。 そんな彼女と恋をした人はまさかの……⁉︎ そんな2人がイチャイチャラブラブする物語。 *「私と運命の番との物語」の改稿版です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...