〖完結〗「お前は俺の最高の番(つがい)だ」「番(つがい)?私の番は別にいる」

ゆか

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焦がれる気持ちは止まらないのに(アリエーラ)

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──寒くはない?ほら、もっと寄って?

──うん、とても温かい。



慈しむような囁く小さな声が聞こえる。少し甘えたあの方の声も。


布の摺れる音が、小さなテントの中で寄り添っているのを教える。

唇を合わせた時の濡れたような小さなリップ音と、漏れ出る熱い吐息も。

ここで二人が始めても、誰からも認められた夫婦である二人を誰も咎めない。

でもあの人はしない。嫉妬深い彼は、殊更聞かせるようなことはしない。しないが、私をここに待機させるのは私に立場を分からせるためか。


あの方は昼間から特に感情が昂っていた。初めての旅行、初めての登山。

高所を怖がるあの人がここまで登れた。それが嬉しかったのか、ただ初めての事に興奮したのかは分からない。

楽しそうに笑、楽しそうに話す。いつもはアレクシスと入る温泉へ、私を伴った。小さく張った結界の中で、無防備に衣類を脱ぎ湯の中に飛び込む。私に向かって湯を飛ばし、早く入ってと手を振った。


濡れた黒髪が眩しい笑顔が、とても尊く美しかった。


私はカイルのような広範囲の結界を張れない。だから泳ぐのは無理ですと言えば、不満を口にすることなく私の髪を解く。待って来た櫛を使い私の髪を梳きながら、鼻歌を歌い知らない歌を口ずさむ。

幼い頃、よく風呂で洗ってくれた。髪にこだわりは無いが私の髪を綺麗だと言ってくれたから伸ばした。

優しく、ゆっくりと梳く。労わるように大事に大事に。

大切に思われている。それだけで心が満たされ温かいものが溢れてゆく。

番に向ける眼差しではない、分かってはいても私の心は止まらない。

男だとか女だとか、番だとか番じゃないとかもそんなものはどうでもいい些事だ。


男に生まれたかったという思いはもうない。同じ女であるからここに居ることが許されているのだから。


だから、カイルからセオルに引き合わせられた時には何も言わなかった。湧き上がる衝動を、別の男で発散しろという事だろう。


セオルに会うのは何十年ぶりか、体つきはあの頃と同じで細いが、雰囲気は以前より少し男らしくなったか。

久しぶりに会ったセオルは私を見て嬉しそうに笑った。

ああ、やっぱりセオルもグレンと同じだったのか、そう思った。

セオルの屋敷でカイルは凛子様を連れ庭へ出、その後私を置いて二人は転移で宿へ戻ってしまった。凛子様は少し困惑していたが、古い友人だと知ると渋々とカイルに従った。


二人の時間は久しぶりだがセオルはあまり変わっていなかった。あの頃と変わらない仕草に話し方、懐かしさに昔話の会話が弾んだ。

そして何故急に王都を去ったのか、もしかしたら私を番と感じたのではないかと聞いた。


「そうだよ、僕はアリエーラを愛しちゃったんだよ。でもね、僕は君に番と過ごすような満たされた時間をあげられないし、僕とでは子が出来ない。幸せな未来をあげられないから」

「だから、去ったのか」

「……いつか、君を困らせて嫌われてしまうと思った。嫌われてしまうくらいなら、綺麗なまま残りたい」

「……」

「カイル様は僕達の関係を知ってたよ。知っていて僕を尋ねてきた。最初は引き受ける気はなかったんだけどね、今アリエーラのそばにアリエーラを番だと言う男がいるって聞いて、引き受けた」


今回ここをルートに入れたのは最初からセオルが目当てだろう。全く、あの人はどこまで知っているんだか。


「アリエーラ、僕も一緒に君の番を守らせてくれないかな」

「私の番なのにか?」

「君の番だからだよ。だって僕は君が番を想って満たされている姿が好きだから。君の番が笑顔なら君も笑顔になる」

「私が他の人間を好きでも構わないと?」

「構わないよ」


あの頃と変わらない柔らかい笑顔。セオルの言葉に偽りは感じ取れなかった。


「セオル、脱いで」

「え」

「早く」


服を脱ぐように言われ、だいぶ戸惑いながらもあっという間に全て脱ぐ。相変わらず細い体。それに似合わない大きさのものがぶら下がり、ピクリピクリと反応する。

私はその上に刻まれた魔法陣に目をやる。

避妊の陣は対して難しく無いはずだが、どれほど腕の悪い魔術師がかけたのか不完全な陣は崩れているが効果は消えていない。解除しようにも体の深くに刻まれすぎて不可能だろう。


昔、あの人も悩んでいた。魔力の高いジンとカイルの子だけが出来ないと。


子ども。私にはその存在の重要性は分からない。

番との間に欲しいかと聞かれれば別に、と思う。あの方の関心が間違いなく移るからだ。それでも、もしかしたら何か変わるのかもしれないと思う事もあった。

そんな私と違いセオルはあの方と同じく心を痛めたのか。



「あの、アリエーラ?」

「セオル、君は私を忘れようとしなかったのか」

「……忘れられるわけない」

「私の一番はあの方だ」

「うん」

「君を優先することは無い」

「心得てるよ」

「今の私は特に子を必要とはしていない」

「うん、ん?」

「むしろ今は要らない」

「そうなんだ」

「ついでにカイルはグレンも巻き込むつもりだろう」

「例のアリエーラを番だって言ってる?」

「そう。多分そのつもりで同行を許可したんだろうね」

「僕一人だとダメだったのかな」

「いや、恐らくセオルが暴走しないように互いを見張らせたいのだろう。それは許せる?」

「……許すも許さないもない。アリエーラがそれを許すなら従う」

「私は、以前のように寝れないかもしれない。どんな男と寝ても番ではないと思うとあまり濡れないんだ」

「……番を、忘れようとしたの?」

「子どもでも居たら、自分が変われるかと思った。でも今は要らない。私はあの人のそばに居たい」

「……いつの間にか番を知っちゃったんだね。まあ、カイル様が僕を勧誘に来た時からそうだろうとは思ってたけどね。でもいつの間に」


何だか咎めるようなセオルの視線、言うか言わないか少しだけ迷ったが言った。

今後もセオルといるのなら、番の味を知っているのに当の凛子様本人はそれを知らないことに矛盾が生じるからだ。



「……寝てる間に、とか犯罪」

「我慢出来なかった」

「でも凄かったでしょ?」

「ああ、一瞬で理性が飛んだ」

「普通番が同性だと一瞬でも戸惑うものだけど、君には男とか女とかの性別の意識が薄いもんね。君の興奮が目に見えるよ」


「……それでもいいのか」


「僕はアリエーラの番じゃなくてもいい。隣にいるパートナーにして」



真っ直ぐなセオルの瞳、グレンもこんな風に私を見ていた。

もし拒否すれば、私は早々に排除されるだろう。ただ、このまま受け入れるのに、多少の罪悪感がある。


「私は差し出せるものを何も持っていない」

「何言ってんの? 昂ったアリエーラを鎮める役なんて垂涎もののご褒美だよ」

「そうなのか」

「そう」

「そう、か。なら、よろしく頼む」

「よろしく! アリエーラ」



私が受け入れた事でセオルのレーン入が決まった。その後三日ほど掛けて引越しの支度を手伝い、アレクシスやジン

カイルが転移で物を移動してくれた。

そして最低限の荷物を持ち、凛子様の元へと二人で戻った。








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