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黒幕は全てを知っている
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この日は姫さんの体調を考慮しこのままここで夜を明かす。明日早朝の出発に備え体を休め、姫さんのテントの周りには俺とリミオ以外にも数人の騎士が付き交代で仮眠を取り世を明かす。
カイルの広範囲結界のおかげで魔獣や寒さの心配は無いが、だからと言って全く危険がない訳では無い。広く覆っていた結界は夜間魔力温存の為にギリギリまで小さくなる。魔獣は人の気配に敏感で結界を張っていても近付いてくる。周辺の駆除は済ませているが魔獣とは無から湧くもの、万が一囲まれないとも限らない。
俺たちは周辺に焚き火をいくつか焚き、それを囲む。
「グレンさん、何かあったんですか? なんかずっと様子がおかしいですよ?」
「そうか? 気のせいだろ」
「……アリエーラさんと何かありました?」
「…………」
そういやリミオは昼間俺と離れて周辺を回っていたんだったかと思い出す。
「何か、か」
話したらスッキリするか、しないな。余計に惨めになる。
まだ頭が晴れない。何だかこう、脳みそが考える事を拒否するって感じだ。
──グレン、すまない。
アリエーラが他の男に抱かれたことよりもあの言葉が引っかかる。何で謝るんだ。余計に惨めになるじゃねぇか。
ありゃアリエーラの番にぶつけられない欲求を発散するためにした事だがセオルはアリエーラが発情してるのがわかってた。
俺は多少興奮してるとは分かっていたがそこまでだとは分からなかったんだ。
アイツはアリエーラを理解してる。
どんな関係だ?昨日今日の付き合いじゃない。発散の仕方も、満足のさせ方も知ってる。五年付き合った俺よりも。
『なぁリミオ』
『内緒話ですか?』
『……目の前で姫さんが自分以外の男と口付けてたりしたらやっぱり殺意沸くだろ?』
『?? 何でですか? 姫様が幸せならいいんじゃないですか?』
『……そういうもんか』
『なんかグレンさん変ですよ? いつになく気弱で。やっぱり何かあったんですね』
何か、か。
ありすぎて俺自身現実逃避してる。今もテントから聞こえる姫さんたちの楽しそうな声に、楽しそうでいいなぁとか、結構な距離を歩いてるはずなのに元気だなぁとか、そろそろ寝ないと明日に響くんじゃないかとか頭ん中で突っ込んでる。
『……俺はそれなりに強かったはずなんだけどなぁ』
『物理的に、ですか? そうですね』
『姫さんについてからなんかこう、幻獣人はみんな強ぇし、番も強ぇし、薬師にもやられて』
『え、彼にですか?』
『……お前が居ない間にちょっとな。あんな魔法は初めてだったし、アイツは多分、俺の前のアリエーラの種馬だ』
そう、それしか考えられない。けどアリエーラを知ってて、アリエーラ自身もアイツには姫さんのそばに上がったばかりだってのに警戒する素振りがない。
あれは俺の知らないアリエーラの男だ。
『種馬……それは、無いんじゃないですか?』
『俺はそう感じた』
『えっと、こんな事勝手に教えちゃいけないと思いますけど、彼、多分種無しです』
『……あ?』
『かなり古い魔術痕があるんです。下腹、というか下半身に』
『どう言う事だ?』
『だいぶ古いです。多分四、五十年は経ってると思いますけど。あれ避妊術です。粗雑なもので通常数年で効果が切れるものなんですが術者の腕が悪かったんでしょうね、歪な形で残ってます。まだ効果が残ってるし、あれは回復出来ないんじゃないですかね』
『避妊術ってあれか、娼婦がかける』
『はい。通常は年一か、開いても三年程でかけ直しますが彼の術はだからアリエーラさんの種馬ってよりは、きっとアリエーラさんは彼のお客さんだったんでしょうね』
『んな訳あるかっ、アリエーラの言い方じゃ幼い時から姫さんにぞっこんだ。番がいる奴は番以外で発情しにくいはずだ』
『う~ん、じゃあ直接関係者に聞いてみたらどうですか?』
『関係者?』
『はい、関係者に』
リミオが顎でクイッとテントを示す。
振り返るとそこから出てきたカイルと目が合った。
『……関係者って、アレか』
『どう考えたってそうでしょ。セオルさんを連れて来たのはカイル様ですよ? 間違いなく黒幕です』
だろうな。分かってる、分かってるが……
俺は立ち上がりカイルへ駆け寄る。
「カイル様、少し、お話ししたい事があるのですが、お時間を頂けませんでしょうか」
背中を嫌な汗が伝う。
「ああ、構わないよ」
相変わらずキラキラと綺麗な顔でうっすら笑顔を浮かべる。見る者によって見え方の違うこの表情は苦手だ。何考えてるか読めない。
アリエーラに関わる人間だと分かってはいるが今まで中々機会がなく近付けなかった。
いや、違うな。俺はこの男が俺よりも遥かに強いことを知ってる。要は、ビビってるんだ。
「場所を変えようか」
「はい」
それで来られたのは別のテントだった。
テント内はシンプルな家具が並び、クローゼットまである。端には茶器が簡素にまとめられ、カイルは俺を座るように促すとそれを手に取り、お茶を入れる。
こんなものをどうやって持ち込んだのか、不思議な気持ちで見回すと、言いたいことを察したのか、ふふふと笑いながらアレクシスの収納術だよと呟いた。
目の前に品のいい香りの茶が置かれ、カイルが席に着く。
「ありがとう、ございます」
「毒なんか入っていないから遠慮せずお飲みなさい」
ゆっくりとカップに手をつけるが緊張した俺は茶の味なんかわからない。
「姫様の体調はどうですか」
「今のところ平気だよ。初めての登山で興奮してるのか、なかなか寝付かないから魔法で眠りを促しておいたから明日は早く目が覚めるよ」
「そうですか。あれだけ沢山行動されたのに全くお休みになりませんでしたから心配はしていたんです」
「ふふ、繕わなくたっていいんだよ君が聞きたいのはセオルの事かな」
「……彼は何者で、アリエーラとどういった関係なのか、あなたは何のために彼を手元に置くのか、教えて頂けませんか」
「セオル・デオルト。この辺り周辺に薬を下ろしていた薬師でアリエーラとは、彼女がスロッシュベルトにいた時の友人だ」
「友人?」
んな訳あるか。アイツはアリエーラの体を知っていた。ただの友人な訳はない。
「君達からしたら、私の妻は変わっているだろ?」
「え? ……どうでしょうか」
変わってるを通り越してるさ。おとなしく王都の屋敷に籠っていればいいものを、態々馬に乗り、船に乗り山を登って何がしたいんだ。息抜きなら王都でも出来るだろうなんて言えるか?
「私はね、今回の旅に反対だったんだよ」
話が見えないな。それとセオル、どう繋がる?
カイルの広範囲結界のおかげで魔獣や寒さの心配は無いが、だからと言って全く危険がない訳では無い。広く覆っていた結界は夜間魔力温存の為にギリギリまで小さくなる。魔獣は人の気配に敏感で結界を張っていても近付いてくる。周辺の駆除は済ませているが魔獣とは無から湧くもの、万が一囲まれないとも限らない。
俺たちは周辺に焚き火をいくつか焚き、それを囲む。
「グレンさん、何かあったんですか? なんかずっと様子がおかしいですよ?」
「そうか? 気のせいだろ」
「……アリエーラさんと何かありました?」
「…………」
そういやリミオは昼間俺と離れて周辺を回っていたんだったかと思い出す。
「何か、か」
話したらスッキリするか、しないな。余計に惨めになる。
まだ頭が晴れない。何だかこう、脳みそが考える事を拒否するって感じだ。
──グレン、すまない。
アリエーラが他の男に抱かれたことよりもあの言葉が引っかかる。何で謝るんだ。余計に惨めになるじゃねぇか。
ありゃアリエーラの番にぶつけられない欲求を発散するためにした事だがセオルはアリエーラが発情してるのがわかってた。
俺は多少興奮してるとは分かっていたがそこまでだとは分からなかったんだ。
アイツはアリエーラを理解してる。
どんな関係だ?昨日今日の付き合いじゃない。発散の仕方も、満足のさせ方も知ってる。五年付き合った俺よりも。
『なぁリミオ』
『内緒話ですか?』
『……目の前で姫さんが自分以外の男と口付けてたりしたらやっぱり殺意沸くだろ?』
『?? 何でですか? 姫様が幸せならいいんじゃないですか?』
『……そういうもんか』
『なんかグレンさん変ですよ? いつになく気弱で。やっぱり何かあったんですね』
何か、か。
ありすぎて俺自身現実逃避してる。今もテントから聞こえる姫さんたちの楽しそうな声に、楽しそうでいいなぁとか、結構な距離を歩いてるはずなのに元気だなぁとか、そろそろ寝ないと明日に響くんじゃないかとか頭ん中で突っ込んでる。
『……俺はそれなりに強かったはずなんだけどなぁ』
『物理的に、ですか? そうですね』
『姫さんについてからなんかこう、幻獣人はみんな強ぇし、番も強ぇし、薬師にもやられて』
『え、彼にですか?』
『……お前が居ない間にちょっとな。あんな魔法は初めてだったし、アイツは多分、俺の前のアリエーラの種馬だ』
そう、それしか考えられない。けどアリエーラを知ってて、アリエーラ自身もアイツには姫さんのそばに上がったばかりだってのに警戒する素振りがない。
あれは俺の知らないアリエーラの男だ。
『種馬……それは、無いんじゃないですか?』
『俺はそう感じた』
『えっと、こんな事勝手に教えちゃいけないと思いますけど、彼、多分種無しです』
『……あ?』
『かなり古い魔術痕があるんです。下腹、というか下半身に』
『どう言う事だ?』
『だいぶ古いです。多分四、五十年は経ってると思いますけど。あれ避妊術です。粗雑なもので通常数年で効果が切れるものなんですが術者の腕が悪かったんでしょうね、歪な形で残ってます。まだ効果が残ってるし、あれは回復出来ないんじゃないですかね』
『避妊術ってあれか、娼婦がかける』
『はい。通常は年一か、開いても三年程でかけ直しますが彼の術はだからアリエーラさんの種馬ってよりは、きっとアリエーラさんは彼のお客さんだったんでしょうね』
『んな訳あるかっ、アリエーラの言い方じゃ幼い時から姫さんにぞっこんだ。番がいる奴は番以外で発情しにくいはずだ』
『う~ん、じゃあ直接関係者に聞いてみたらどうですか?』
『関係者?』
『はい、関係者に』
リミオが顎でクイッとテントを示す。
振り返るとそこから出てきたカイルと目が合った。
『……関係者って、アレか』
『どう考えたってそうでしょ。セオルさんを連れて来たのはカイル様ですよ? 間違いなく黒幕です』
だろうな。分かってる、分かってるが……
俺は立ち上がりカイルへ駆け寄る。
「カイル様、少し、お話ししたい事があるのですが、お時間を頂けませんでしょうか」
背中を嫌な汗が伝う。
「ああ、構わないよ」
相変わらずキラキラと綺麗な顔でうっすら笑顔を浮かべる。見る者によって見え方の違うこの表情は苦手だ。何考えてるか読めない。
アリエーラに関わる人間だと分かってはいるが今まで中々機会がなく近付けなかった。
いや、違うな。俺はこの男が俺よりも遥かに強いことを知ってる。要は、ビビってるんだ。
「場所を変えようか」
「はい」
それで来られたのは別のテントだった。
テント内はシンプルな家具が並び、クローゼットまである。端には茶器が簡素にまとめられ、カイルは俺を座るように促すとそれを手に取り、お茶を入れる。
こんなものをどうやって持ち込んだのか、不思議な気持ちで見回すと、言いたいことを察したのか、ふふふと笑いながらアレクシスの収納術だよと呟いた。
目の前に品のいい香りの茶が置かれ、カイルが席に着く。
「ありがとう、ございます」
「毒なんか入っていないから遠慮せずお飲みなさい」
ゆっくりとカップに手をつけるが緊張した俺は茶の味なんかわからない。
「姫様の体調はどうですか」
「今のところ平気だよ。初めての登山で興奮してるのか、なかなか寝付かないから魔法で眠りを促しておいたから明日は早く目が覚めるよ」
「そうですか。あれだけ沢山行動されたのに全くお休みになりませんでしたから心配はしていたんです」
「ふふ、繕わなくたっていいんだよ君が聞きたいのはセオルの事かな」
「……彼は何者で、アリエーラとどういった関係なのか、あなたは何のために彼を手元に置くのか、教えて頂けませんか」
「セオル・デオルト。この辺り周辺に薬を下ろしていた薬師でアリエーラとは、彼女がスロッシュベルトにいた時の友人だ」
「友人?」
んな訳あるか。アイツはアリエーラの体を知っていた。ただの友人な訳はない。
「君達からしたら、私の妻は変わっているだろ?」
「え? ……どうでしょうか」
変わってるを通り越してるさ。おとなしく王都の屋敷に籠っていればいいものを、態々馬に乗り、船に乗り山を登って何がしたいんだ。息抜きなら王都でも出来るだろうなんて言えるか?
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