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何があったのかは分からねぇがこれは行っとくしかないだろう!

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あれから夕刻まで寝ようと思ったがモヤモヤと考えちまって結局一睡もできながった。
宿の食堂で簡単に夕食を済ませ深夜帯の警備と交代する。座り込んだ宿の屋根の上から周囲を見渡し、ぼんやりとアリエーラの事を考える。
何故同性の黒姫を番と感じたのか、あの後アリエーラはどこに行ったのか漠然と掴みどころの無い色々な考えが過ぎるが、どうも考えは纏まらない。

番の番が同性とか、どうすりゃいいんだよ。
俺が諦めるって選択肢はねぇ。
いっその事三人で仲良くってか?
無理だ。俺が殺される。黒姫の周りにはやべぇ夫ばかりだ。
何でアリエーラは黒姫のそばに寄れる?
クリムやアレクシス王の言葉。アリエーラの気持に気がついてるはずだ。



「代わるって言ったのに」

「……クリム」

トン、と隣に靴先が見え、顔を上げた。
相変わらず綺麗な顔した白い獣人の男は、うっすらとその唇を持ち上げる。
同じように隣に腰を下ろすクリムを見て、そう言えばそんな事を言っていたかと思い出す。


「アリエーラが抜け出すとか、言ってなかったか?」
「多分ね」
「……何でだ?アリエーラの行動が分かるのか」

アイツが黒姫のそばを離れることは、警備の都合上以外ほとんど無い。夜もなるべく近い部屋で休む程だ。
アレは黒姫が大切な祖母だからじゃない。番だったからだった。


「一度知るとさ、止まらないんだよね獣人は」
「何がだ」
「グレンはアリエーラを見て欲を感じない?」
「お前、綺麗な顔して言うな」

つまりはヤりたいだろって事か。

「顔は関係ないよ。で?」
「……アイツの匂いを感じるだけでヤりたくなる」
「一度番の味を知ると引き返せなくなる。それが獣人」
「確かに、アリエーラと寝る前なら引き返せてたかもしれねぇな」
「僕は経験が無いけどそう聞いた。番の甘い匂いと汗と情事の匂いで狂わされる」


その通りだ。獣人の男は意外と一途だ。どんなに遊んでたヤツでも番を得れば番だけを大切にする。
奥の奥まで匂いを付けて、番の首筋に噛み跡を付けて他の男に自分の番だと知らしめる。

「…………はぁ」

今更ながらヘコむ。

「何?」
「一度も噛んだことがない」
「だろうね」

獣人が噛むのは番だけ。噛みながら後背位で突くのが獣人の交わり。体だけの関係の俺はアリエーラから噛む事を許された事が無い。

「なんでこんな話をする」
「……僕は君を応援してるんだ。アリエーラがグレンと上手く行けば僕の時間が増えるからね」

「なあ、クリムの番はまさか」
「それ以上言ったら殺すよ」
「…………オウ」

最近俺の周りはちょっとアレな奴が多い。どいつもこいつも黒姫の信者ばかりだ。しかも皆が皆獣人幻獣人。これじゃあ魔人族から『獣好き』と言われるのも無理はねぇ。

「なあ、なんでアリエーラは排除されずに侍ることが出来たんだ?お前の親父が気付いてないとは思えないんだが。夫の中じゃ一番ヤバそうだ」

素朴な疑問だ。黒姫の周りは皆鼻が利く。アリエーラが黒姫を特別視してるのに気が付かないわけは無い。まぁ、俺は気が付かなかったが。
番を持つ種族は特別な感情を持って番に近付く者を排除しようとするのは当たり前の事だ。

「グレンはカイル様、会ってないの?」
「ちょっと遠目に見たぐらいだな」
「感想は?」
「ありゃ腹黒だろ」
「合ってるけど忠告。一番ヤバイのはカイル様、間違いなくね。クソ親父よりもね。グレンがアリエーラ狙いだからほっとかれてるんだよね。かあさまに危害が及べばミンチだよっと、来た」

クリムが言ったようにアリエーラが宿の裏口から姿を現し何か急いでいるのか小走りで街の出口の方へと向かった。
どういう事なのかとクリムを見れば、クリムはハンカチを取り出し鼻を押さえている。

「何してるんだ」
「嫌な匂いに備えてる。僕だって番以外のこんな匂い嗅ぎたくないんだ。早く行ってよ、ここの空気浄化したいからさ」

何を言っているのかと思ったが、すぐに分かった。

驚くほど甘いアリエーラの匂い。
騎士服には汚れや匂いの付着を防ぐ魔法が込められている。だから服から出る部分、髪から香るアリエーラの匂いをこっそりと嗅いでたが……

「発情、してるのか」
「いいから早く行ってくれる?交代のお礼、期待してるよ」

俺はクリムの言葉を背中に聞きながら、アリエーラの後を追った。







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