〖完結〗「お前は俺の最高の番(つがい)だ」「番(つがい)?私の番は別にいる」

ゆか

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番が望む今と未来

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「さっきの店はどうだった?」
「悪くない。あれならお連れしたら喜んでくださる。ありがとう」
「!! いや、いいんだ。どれが美味かった?」
「そうだね……どれも美味しかったがバナナのタルトかな。焼き目が綺麗で香ばしい。思ったよりも甘過ぎずさっぱりとしていた」
「そうか」

結局アリエーラは看板のロールケーキでは無いものばかりを食べた。今の話を聞くにアリエーラはあのロールケーキのようなものよりさっぱりとしたものが好みなのかもしれない。

露天街には様々な店が並ぶ。店や路地などを確認しているふとアリエーラが足を止めた。
年老いたジジイが店番をする小さな宝飾品の露天。小物やら指輪やらブローチ、髪留めが並ぶ。
いくつかを手に取りじっくりと見ているが、どれも小さな傷があり少しくすんでいる明らかに手入れが足りていない品。
物は良さそうだが、正直ここで買うならほかの店で買った方がいい。


「店主、あるのはここに出ているものだけか?」

「ここで買うのか?」

俺の言葉に答えることなくアリエーラは店主が取り出した別の物を手に取る。
アリエーラが気に入ったのは小さな動物の置き物だ。これもだいぶ汚ぇが多分猫だ。
アリエーラ装飾品は殆ど身に付けない。唯一付けているのが編み込んだ先の髪を止める、アリエーラの暗灰色の髪によく映える小さな黒曜石が嵌め込まれた銀の留め具だけだ。


「アリエーラ、俺に贈らせてくれないか」

番じゃない俺から贈られるのは嫌かもしれないがもしかしたらと思ってしまった。

「お断りする」

「……そうか」

力強い一言。断られると分かっていたが、本当に断られると結構クるもんがある。
そうとは知ってか知らずか、アリエーラは買った置物を見て酷く優しい顔をする。
番に贈るのかもしれない、もしくは番に見立ててそばに置くのか。もしルーイが番なら小さな猫はルーイのイメージに被る。


その後アリエーラは屋台で色々なものを食べた。それを見てアリエーラの食の好みを知る。串焼きや腸詰め肉、揚げ菓子や果物。
今まで一緒に飯を食ってもいつもその日のおすすめだった。
新しいアリエーラを見る度にもっと知りたいと思っちまう。半日あった休みはあっと言う間に終わり、宿へ戻る途中俺はアリエーラを大通りから脇道に引き込み聞いた。

「番と結ばれない理由は察する。だがお前はこのままでいいのか」

と。アリエーラは驚き目を丸くした。

「……気がついていたのか」

「お前の番に危害を加えるつもりは無い。ただ、俺はお前と居たい。手に入らなくても、だ」

「私は今を変えるつもりは無い。あの方と愛し合う番になれないのは分かっている。それでも、あの方にとって私は特別」

「……俺には分からない信頼関係があるってことか。だがお前にだって番に対する欲求はあるだろ」

番に対する欲求は精神的なものだけじゃねぇ。当たり前のように女も番とヤりたい筈だ。

「あの人を抱く……」

アリエーラの顔がカッと赤くなる。番との情事を想像したんだろうが、腹を立てるよりも気になった。

今、抱くって言わなかったか?

そっち?そっちなのか??
確かに番を得て特殊な性癖に目覚めるヤツもいるのは確かだが、アリエーラは番を抱きたい???

確かにアイツは小さくまるで人間の子供だ。見ようによっちゃあ可愛らしく見えなくもないような。
アリエーラが抱く。
子供の様にチビな男を、抱く。
いや、小さいからこそそっちに目覚めたのか?

いやいや今は置いておこう。

「種が欲しければ俺に撒かせてくれ。俺はお前に番がいても構わない、お願いだから他の男を使わないでくれ」

アリエーラはじっと俺の言葉を聞いてくれた。無表情だが冷たさはなく、なんなら俺を憐れんでいるようにも見えた。


「そこに、私の利は?」

「…………ねぇな」


「グレン私はね、あの人のそばに居ることが幸せなんだ」

どこか遠くを見るような目をしたアリエーラは、何かを思い出したのか酷く優しい顔をする。

「……ずっと幼い頃から夢に見ていた」




「…………ん?」

「やっと許されたんだ。もう離れるつもりは無い」

「今」

「確かに私は子が欲しかったが、今子が出来れば離れなくてはならなくなる」

「まて」

「あの方は私の太陽であり月。何時でも私を照らしてくれる。失えないんだ」

「アリエーラ」

「私はあの人と同じようにグレンに気持ちを向けられない。これ以上近付くべきでは無いよ」

「お前の番は」

「きみがこの任務を受けたことには驚いたが、このが終わればもう会うこともないだろう。きみは番ではないが、その飾らない所は好きだったよ。本当にすまない」

「まっ! アリエーラ! まだ話を!」

言いたいことを言うだけ言ったアリエーラは俺に頭を下げてからクルリと背中を向ける。
俺は慌ててアリエーラの手を掴んだ。
 
「待ってくれ。話を聞いてくれ」

「グレン、私たちは」

「分かってる。俺とお前は番同士にはなれない。それでもいいんだ、番の次に俺を置いてくれ」

「…………」


黙るアリエーラは何かに気づいたように、瞳が揺らいだ。
意識を集中させれば、確かに人の気配。
往来の脇道であるから当たり前だが、極わずかにこちらを伺う人の気配がある。
俺の後方の積まれた木箱の影。

「グレン、この話は後だ」
「ああ」

向かい合うアリエーラはそっと位置を変え俺の体で死角を作り、胸元からナイフを取りだし投げた。




キンッ!

「ひょえぇっ!」

結界に阻まれたナイフが弾かれ、すっとんきょな声が上がる。

「……あんたらなぁ」
「……何をしているんですか」


物陰にいたのはリミオとクリムだ。
気配を消していたのはリミオの隠匿の術、ナイフを弾いたのはクリムの結界術だ。

「ス、すすすみません!出来心で」

リミオは慌ててアリエーラに対して頭を下げる。オイ、おれには下げないのか。

「リミオがおもしろいことしてたから混ざってみた。まだ気付かれて無かったみたいだけど、アリエーラならうっかり殺っちゃうかもしれないし?」

ムカつくほどに綺麗な顔でイラつくほどに綺麗な笑顔を作るクリム。確かにクリムがいなけりゃあ、リミオはアリエーラのナイフを避けられなかったかもしれない。
だがそれと覗いていたことは別だ。

「要件は?」

冷たいアリエーラの声、顔には出さないが怒っている。あまりその場面になったことは無いが昔酒場で飯食ってる時もたまにこんな空気になった事がある。大声で話してる他の席の客の話が耳に入った時の事だ。確かあれはスロッシュベルトとレーンの王族の話だったと思うが、あまり覚えていねぇ。

「知らせてあげようかと思って」
「要件を」
「商会のトラブルで糞親父がかあさまから離れる。だから順番が繰り上がって明後日の夕刻までウィルの時間」
「!! そうか、ありがとう」

アリエーラがカッと目を見開きクリムに礼を伝えた。

「お互い様だからね」

「グレン、悪いが用事が出来た。話はまた別の時に」

「オイ! ちょっと待て!」

そして俺が止めるのも聞かずにその場からものすごい速さで走り去った。



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