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グレンとクリム、そして迷走。
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「起きなよ……起きろって」
どっからか声が聞こえる。
まあ、俺じゃない。
「オイ、起きろ」
俺か? うるせぇな、ほっといてくれ。
「起きろってんだ!ぐぉらぁ!」
「ごふぉっ!!」
頭への突然の衝撃に顔を上げると、真っ白の獣人が、テーブルの脇に立っていた。ジンによく似た男、黒姫とジンの子クリムだ。
「……何が」
あったのか。ここはどこだったかと考え、さっきまでのアリエーラとのやり取りを思い出す。
また振られた俺はしこたま酒を飲んだ、までは覚えている。
「僕の母が船内の食堂を見たいと夕食をここに食べに来た。お前がべろべろの状態でいるのが母の目に留まった。食事中気もそぞろな母に、仕方なく僕が世話をすることにした。分かるかな?」
「あ、ああ。すまない……夕食?」
「そう。どっぷりと日も暮れて今は夜だね」
どうやら俺は飲みすぎて潰れ今に至る、と言うわけだ。
当たりを見回せば夕食時の忙しさ漂う店内に、呆れたような従業員の顔。
「お前、騒ぎを起こせば船から下ろされる。何があった?」
他人に話すつもりなんて無かったが、俺は一言「また振られた」と言った。
クリムは水の入ったグラスを従業員から受け取ると俺に差し出した。
「飲みなよ」
差し出されたグラスを手に取ると、そこに情けない顔の自分が映っているのが見えた。
「飲まないなら魔法でお前の胃袋に直に流し込んだっていいんだよ」
「飲むよ、飲むからやめてくれ」
一気に水を飲み干しグラスを置くと「行くぞ」とクリムが言う。
「お金は立て替えておいたから後で払って。頭冷やしに行くよ」
「ああ、すまない」
俺はふらつく足で先を歩くクリムの後を追った。
「そもそもアリエーラに気持ちを求めるのが無理な話だね」
甲板の上で大きく手足を広げて夜空を見上げる。
そんな俺は隣に座るクリムの言葉に驚いた。
「何で知ってんだ」
「言ってじゃないか、あんたの相棒が。獣人の彼女に振られたって。あんたは獣人の女で番を追いかけて来たんだろ?そもそもかあさまの傍に上がる獣人の女はアリエーラだけだしね」
「……いや、そうかもしれないが、下働きでも出入りの業者でも色々あるだろ」
「だったらかあさまの護衛じゃなくてそっちに入り込む。なんだ、違うの?」
「まあ、そうだが」
「諦めろとは言わないけど……まあ、無理だろうね」
無理だろう、そう言われた事で俺の心臓が跳ね上がる。
「アンタが、アリエーラのツガ……」
「違う。止めろ。不愉快だ」
「違うのか、ならアンタは誰が番か知っているのか」
クリムは心底不快そうに顔を顰めて見下ろす。
「…………」
「…………」
「……なあ」
「知ってたら?」
「教えて欲しい」
「嫌だね」
「……何で」
「知ってどうするの?その番を殺すのか?そんな事をすれば僕がお前を殺してやる」
恐ろしい程の怒気を纏うクリムに気圧されてしまい強ばる体。
脅しじゃない、本気だ。
誰だ……
クリムに近い男、ジン・グルード。
父親か。
「……そんな事はしない。アリエーラはそういった意味では番から認識されていない。その番を殺すなんて、出来るわけない」
「どうだか。でも、アリエーラをか……」
「可笑しいか」
「いや……、番に振り向いて貰えない気持ちは分かる。それでも求める気持ちも。全く、あんたら不毛過ぎるよ。ま、頑張れば? ただ、真面目にやんないと僕のクソ親父はアンタをすっぱり切る。アリエーラのそばにいたいなら精々頑張れば?」
「おい、待っ」
そう言うとクリムはヒラヒラと後ろ手に手を振りさっさと船内に入って行った。
クリムでもなかった。
でもあの言い方、クリムの近しい人物が番か。
父親のジンかとも思ったが、アイツはクソ親父と言った。違うのか?
アリエーラの番への思いは不毛、アリエーラの番にはアリエーラでは無い番がいる、のか?
やはり黒姫の夫の誰かか。
──番に振り向いて貰えない気持ちは分かる。
あのクリムも、同じなのか?番に意識されていない、もしくは番に既に別の番がいるか。
「……俺だけじゃなかったのか」
クリムも高ランクの冒険者、黒姫とジンの息子。あの見た目と生まれからして女に不自由することは無いだろうに。
──あの人に、少しでも危害を加える可能性のある男と?
危害、殺るわけない。そんな事をすればアリエーラに憎まれる。相手がアリエーラを意識していないなら、欲を満たすだけでもいい。子種を絞るだけでも。
まあ、それだとアリエーラよりも俺が得をするのか。
「……あ?ちょっと待て」
危害を加える可能性?気のせいか、引っかかる。
つまり、アリエーラの番は俺と同等の強さ、もしくはそれ以下、か?
いや、俺より強いヤツって可能性もあるが……。
もしそうなら黒姫の周りの男で俺と同等、それ以下は余りいない。なんせ皆幻獣人の騎士たち、同等かそれ以上に強いヤツばかりだ。
俺より下、俺より下……。
あの幻獣人のチビか!?
確かに有り得るかもしれない。
初めて会った時、あの時アリエーラは俺があのチビとやり合ってたから俺に剣を抜いたのか!?
確かにいつも黒姫にへばりついてる黒姫に近い人物で、黒姫のお気に入りだと聞いた。
大切な母親のお気に入りで、この旅にもしっかりと付いてきている。クリムが庇うのも頷ける。
あのチビが?
あのチビ、がか……。
あー、なんだ。すげぇ腹が立つな。
明らかに俺よりも弱い。なよっちい成りして態度はかなり生意気だった。
あれに負けたのか。アレに……。
そりゃアイツが相手じゃ子供は出来ないだろう、子供だからな。
「…………あ~っ!!クソッ!!」
腹が立つ!!
どっからか声が聞こえる。
まあ、俺じゃない。
「オイ、起きろ」
俺か? うるせぇな、ほっといてくれ。
「起きろってんだ!ぐぉらぁ!」
「ごふぉっ!!」
頭への突然の衝撃に顔を上げると、真っ白の獣人が、テーブルの脇に立っていた。ジンによく似た男、黒姫とジンの子クリムだ。
「……何が」
あったのか。ここはどこだったかと考え、さっきまでのアリエーラとのやり取りを思い出す。
また振られた俺はしこたま酒を飲んだ、までは覚えている。
「僕の母が船内の食堂を見たいと夕食をここに食べに来た。お前がべろべろの状態でいるのが母の目に留まった。食事中気もそぞろな母に、仕方なく僕が世話をすることにした。分かるかな?」
「あ、ああ。すまない……夕食?」
「そう。どっぷりと日も暮れて今は夜だね」
どうやら俺は飲みすぎて潰れ今に至る、と言うわけだ。
当たりを見回せば夕食時の忙しさ漂う店内に、呆れたような従業員の顔。
「お前、騒ぎを起こせば船から下ろされる。何があった?」
他人に話すつもりなんて無かったが、俺は一言「また振られた」と言った。
クリムは水の入ったグラスを従業員から受け取ると俺に差し出した。
「飲みなよ」
差し出されたグラスを手に取ると、そこに情けない顔の自分が映っているのが見えた。
「飲まないなら魔法でお前の胃袋に直に流し込んだっていいんだよ」
「飲むよ、飲むからやめてくれ」
一気に水を飲み干しグラスを置くと「行くぞ」とクリムが言う。
「お金は立て替えておいたから後で払って。頭冷やしに行くよ」
「ああ、すまない」
俺はふらつく足で先を歩くクリムの後を追った。
「そもそもアリエーラに気持ちを求めるのが無理な話だね」
甲板の上で大きく手足を広げて夜空を見上げる。
そんな俺は隣に座るクリムの言葉に驚いた。
「何で知ってんだ」
「言ってじゃないか、あんたの相棒が。獣人の彼女に振られたって。あんたは獣人の女で番を追いかけて来たんだろ?そもそもかあさまの傍に上がる獣人の女はアリエーラだけだしね」
「……いや、そうかもしれないが、下働きでも出入りの業者でも色々あるだろ」
「だったらかあさまの護衛じゃなくてそっちに入り込む。なんだ、違うの?」
「まあ、そうだが」
「諦めろとは言わないけど……まあ、無理だろうね」
無理だろう、そう言われた事で俺の心臓が跳ね上がる。
「アンタが、アリエーラのツガ……」
「違う。止めろ。不愉快だ」
「違うのか、ならアンタは誰が番か知っているのか」
クリムは心底不快そうに顔を顰めて見下ろす。
「…………」
「…………」
「……なあ」
「知ってたら?」
「教えて欲しい」
「嫌だね」
「……何で」
「知ってどうするの?その番を殺すのか?そんな事をすれば僕がお前を殺してやる」
恐ろしい程の怒気を纏うクリムに気圧されてしまい強ばる体。
脅しじゃない、本気だ。
誰だ……
クリムに近い男、ジン・グルード。
父親か。
「……そんな事はしない。アリエーラはそういった意味では番から認識されていない。その番を殺すなんて、出来るわけない」
「どうだか。でも、アリエーラをか……」
「可笑しいか」
「いや……、番に振り向いて貰えない気持ちは分かる。それでも求める気持ちも。全く、あんたら不毛過ぎるよ。ま、頑張れば? ただ、真面目にやんないと僕のクソ親父はアンタをすっぱり切る。アリエーラのそばにいたいなら精々頑張れば?」
「おい、待っ」
そう言うとクリムはヒラヒラと後ろ手に手を振りさっさと船内に入って行った。
クリムでもなかった。
でもあの言い方、クリムの近しい人物が番か。
父親のジンかとも思ったが、アイツはクソ親父と言った。違うのか?
アリエーラの番への思いは不毛、アリエーラの番にはアリエーラでは無い番がいる、のか?
やはり黒姫の夫の誰かか。
──番に振り向いて貰えない気持ちは分かる。
あのクリムも、同じなのか?番に意識されていない、もしくは番に既に別の番がいるか。
「……俺だけじゃなかったのか」
クリムも高ランクの冒険者、黒姫とジンの息子。あの見た目と生まれからして女に不自由することは無いだろうに。
──あの人に、少しでも危害を加える可能性のある男と?
危害、殺るわけない。そんな事をすればアリエーラに憎まれる。相手がアリエーラを意識していないなら、欲を満たすだけでもいい。子種を絞るだけでも。
まあ、それだとアリエーラよりも俺が得をするのか。
「……あ?ちょっと待て」
危害を加える可能性?気のせいか、引っかかる。
つまり、アリエーラの番は俺と同等の強さ、もしくはそれ以下、か?
いや、俺より強いヤツって可能性もあるが……。
もしそうなら黒姫の周りの男で俺と同等、それ以下は余りいない。なんせ皆幻獣人の騎士たち、同等かそれ以上に強いヤツばかりだ。
俺より下、俺より下……。
あの幻獣人のチビか!?
確かに有り得るかもしれない。
初めて会った時、あの時アリエーラは俺があのチビとやり合ってたから俺に剣を抜いたのか!?
確かにいつも黒姫にへばりついてる黒姫に近い人物で、黒姫のお気に入りだと聞いた。
大切な母親のお気に入りで、この旅にもしっかりと付いてきている。クリムが庇うのも頷ける。
あのチビが?
あのチビ、がか……。
あー、なんだ。すげぇ腹が立つな。
明らかに俺よりも弱い。なよっちい成りして態度はかなり生意気だった。
あれに負けたのか。アレに……。
そりゃアイツが相手じゃ子供は出来ないだろう、子供だからな。
「…………あ~っ!!クソッ!!」
腹が立つ!!
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