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視察という名の旅行
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リミオの噴火事件から七日、俺達はやっと正規の護衛任務につくことになった。
サルターンの王都を南に下り港町ウィスタルへ、その後は船に湿地の街カレギへ、んでもって山岳地帯べロームからの霊山ジャロングへ。
まあ、おおよそ令嬢が行かないような場所が混じってはいるがそれはいい。
「いや三ヶ月じゃ足りねえだろ。移動にどんだけかかると思ってんだ」
「グレンさんうるさいですよ。さっさと荷物詰め込んでください」
明日からの出発のためにもう一度荷物を確認する。最低限の支度で、必要なものは滞在先でその都度調達するから大したもんでもねぇがきっちり見とかねえと後で困るのは自分だ。
「グレンさん昨日ジン様からの契約書にサインしたじゃないですか。ちゃんと期間は延長されてますし説明だってされましたよ? あれでしょ、アリエーラさんばっか見てて聞いてなかったんですね」
「……いや、聞いていた」
「本当にですか?グレンさんアリエーラさんの事になるとポンコツになりますから」
確かに、アリエルの姿を見るとモヤモヤムラムラして目で追っちまうが、全く聞いていなかったわけじゃねぇ。
しかも視察の同行って最初言ってなかったか?この旅程だと姫さん中心のただの観光じゃねえか。
「……お前だってポンコツだろう。黒姫の顔に鼻血ぶっかけやがって。どうせなら違うもんぶっかけて見ろ」
「あ、あああれは! 緊張して! って、なんですか違うもんって!!そうゆう目で見るのはやめて下さい! 穢れるじゃないですか!!」
「なんだ穢れって。お前は黒姫を美化しすぎじゃないか?」
「あんまり失礼なこと言うと、寝てる間に尻尾が腐り落ちる毒仕込みますよ!」
黒姫には子供だっているはずだ。穢れるもなにも無いだろう。
とりあえず荷物の整理を終え、壁にかかった時計を見る。
「マジで止めろ。ほら遅れる、行くぞ」
「はい!!」
リミオは子供のように目を輝かせ元気に声を上げた。
リミオの顔射事件はそりゃーもう、大変だった。
不敬どころじゃない。一瞬でリミオの命が飛んじまうだろうと思ったさ。
アリエルは速攻で黒姫をリミオから遠ざけて浄化魔法をかけたが、ものすごい形相で睨まれた。
……俺じゃないし。
加害者のリミオはその場でぶっ倒れて意識を飛ばしてたから首が飛ぶことは無かったが、何故か皆して俺を睨んだ。
結局その場をなだめたのは黒姫だ。
リミオを休ませてくれ様子を見に何度か部屋を訪れてくれた。
が、黒姫が動く度に黒姫の周りに人が増えた。
夫の獣人騎士やらもう1人騎士やら宰相やら。夫がぞろぞろと。アリエルとガキは後ろに引くが、やっぱりこいつらも俺を睨む。
来る度に服が代わるのと香ってくる石鹸の香りからして風呂だろう。リミオの鼻血を浴びて他の男の匂いがついたことが原因か。
獣人や幻獣人は鼻が利く。普段他人の匂いは大して気にならねぇが番相手には違う。まあ、こんな表面の匂いくらいじゃ目くじら立てるほどでもないと思うが。
そしてリミオが目を覚ました頃、青筋立てたジン・グルードがやって来た。
リミオに対して黒姫の姿を見ただけでこれでは契約することは出来ないと言ってきた。
青くなり言葉を失うリミオに、流石に可哀想になっちまった。
コイツにとって黒姫は俺のアリエルと同じようなものかもしれない。聞きたくなくても延々と喋るくらいだ。リミオにとっては大切な女なんだろう。
「リミオくん、体はもう平気?」
少し離れた場所からの黒姫の言葉にリミオがバッと顔を向ける。
「ぼ、僕……あ、あの……その……」
しどろもどろで更にはまた噴火しそうなほど顔を赤くしたリミオ。黒姫はニコニコしながら見つめ、周りを囲む夫たちは一気に警戒を強めたのが分かる。
「リミオくん、明日から一緒にお茶しましょ?」
恥ずかしいなら慣れればいい。そう言って俺達を茶の席に招待した。
恥ずかしいとは違うも思うが、リミオはその夜ベッドの上で変な踊りを踊っていた。
「ひ、ひひひっ、姫様っ、ご、ごごご招待、頂き……あり、ありがとう、ございます」
「いらっしゃい。どうぞ掛けて下さいね」
俺達は黒姫の招待を受け、同じテーブルについて毎日小一時間程茶の席に同席している。
なんの気まぐれを起こしたのかと思っていたが、ここ数日で黒姫って人間とその夫がどんな奴らかが分かってきた。
まずは黒姫、こいつはそこら辺の世話焼きババアみたいな性格だ。よくある貴族の女の弱者への施しとは違う。近所の子供の世話をするババアみたいだ。まあ、誰彼構わずって訳じゃ無さそうだが、つまりあれだ。俺の好みじゃない。
問題は夫たち。
俺が会ったことのある黒姫の夫は四人。あの獣人ジン・グルードと幻獣人三人、ウィリアム、イクス、ルカだ。あと一人、人間の夫には会ったことがない。
更にはここレーンの王アレクシスは黒姫を番だと公言しているがその王にも会ったことはない。
俺の読みではアリエルの番はそのどれかじゃないかと思ってる。
番がいるのに番以外の男と寝るのは番への欲求が溜まるから、それを発散するためだろう。獣人の女は番とじゃなくても寝れる。だから、あまり濡れなかった。
それに気が付いた時は振られた時と同じくらいへこんだ。
獣人の男にだってそう言う事は、俺はアリエル以外勃たないが一般にはまあある事だ。
今回の旅に同行するのはジン、ウィリアム、イクス、アレクシス王だと言う。残りのカイル、ルカは交代で転移術を使って行き来するらしい。
いや、思ったさ。同行する夫のメンツにおかしいのが一人いるって。
どうやら黒姫が旅をする事になったのはアレクシス王が決めたことらしい。
「馬鹿か!! 人間の女は大事に屋敷に囲っておくもんだろう!」
と思ったが言わない。面倒だし、俺はこの契約の間にアリエルに近づいて番から奪ってやるんだ。
そんなアリエルは俺には見向きもせずに、いつも黒姫の後ろでじっと主の姿を見ていた。
サルターンの王都を南に下り港町ウィスタルへ、その後は船に湿地の街カレギへ、んでもって山岳地帯べロームからの霊山ジャロングへ。
まあ、おおよそ令嬢が行かないような場所が混じってはいるがそれはいい。
「いや三ヶ月じゃ足りねえだろ。移動にどんだけかかると思ってんだ」
「グレンさんうるさいですよ。さっさと荷物詰め込んでください」
明日からの出発のためにもう一度荷物を確認する。最低限の支度で、必要なものは滞在先でその都度調達するから大したもんでもねぇがきっちり見とかねえと後で困るのは自分だ。
「グレンさん昨日ジン様からの契約書にサインしたじゃないですか。ちゃんと期間は延長されてますし説明だってされましたよ? あれでしょ、アリエーラさんばっか見てて聞いてなかったんですね」
「……いや、聞いていた」
「本当にですか?グレンさんアリエーラさんの事になるとポンコツになりますから」
確かに、アリエルの姿を見るとモヤモヤムラムラして目で追っちまうが、全く聞いていなかったわけじゃねぇ。
しかも視察の同行って最初言ってなかったか?この旅程だと姫さん中心のただの観光じゃねえか。
「……お前だってポンコツだろう。黒姫の顔に鼻血ぶっかけやがって。どうせなら違うもんぶっかけて見ろ」
「あ、あああれは! 緊張して! って、なんですか違うもんって!!そうゆう目で見るのはやめて下さい! 穢れるじゃないですか!!」
「なんだ穢れって。お前は黒姫を美化しすぎじゃないか?」
「あんまり失礼なこと言うと、寝てる間に尻尾が腐り落ちる毒仕込みますよ!」
黒姫には子供だっているはずだ。穢れるもなにも無いだろう。
とりあえず荷物の整理を終え、壁にかかった時計を見る。
「マジで止めろ。ほら遅れる、行くぞ」
「はい!!」
リミオは子供のように目を輝かせ元気に声を上げた。
リミオの顔射事件はそりゃーもう、大変だった。
不敬どころじゃない。一瞬でリミオの命が飛んじまうだろうと思ったさ。
アリエルは速攻で黒姫をリミオから遠ざけて浄化魔法をかけたが、ものすごい形相で睨まれた。
……俺じゃないし。
加害者のリミオはその場でぶっ倒れて意識を飛ばしてたから首が飛ぶことは無かったが、何故か皆して俺を睨んだ。
結局その場をなだめたのは黒姫だ。
リミオを休ませてくれ様子を見に何度か部屋を訪れてくれた。
が、黒姫が動く度に黒姫の周りに人が増えた。
夫の獣人騎士やらもう1人騎士やら宰相やら。夫がぞろぞろと。アリエルとガキは後ろに引くが、やっぱりこいつらも俺を睨む。
来る度に服が代わるのと香ってくる石鹸の香りからして風呂だろう。リミオの鼻血を浴びて他の男の匂いがついたことが原因か。
獣人や幻獣人は鼻が利く。普段他人の匂いは大して気にならねぇが番相手には違う。まあ、こんな表面の匂いくらいじゃ目くじら立てるほどでもないと思うが。
そしてリミオが目を覚ました頃、青筋立てたジン・グルードがやって来た。
リミオに対して黒姫の姿を見ただけでこれでは契約することは出来ないと言ってきた。
青くなり言葉を失うリミオに、流石に可哀想になっちまった。
コイツにとって黒姫は俺のアリエルと同じようなものかもしれない。聞きたくなくても延々と喋るくらいだ。リミオにとっては大切な女なんだろう。
「リミオくん、体はもう平気?」
少し離れた場所からの黒姫の言葉にリミオがバッと顔を向ける。
「ぼ、僕……あ、あの……その……」
しどろもどろで更にはまた噴火しそうなほど顔を赤くしたリミオ。黒姫はニコニコしながら見つめ、周りを囲む夫たちは一気に警戒を強めたのが分かる。
「リミオくん、明日から一緒にお茶しましょ?」
恥ずかしいなら慣れればいい。そう言って俺達を茶の席に招待した。
恥ずかしいとは違うも思うが、リミオはその夜ベッドの上で変な踊りを踊っていた。
「ひ、ひひひっ、姫様っ、ご、ごごご招待、頂き……あり、ありがとう、ございます」
「いらっしゃい。どうぞ掛けて下さいね」
俺達は黒姫の招待を受け、同じテーブルについて毎日小一時間程茶の席に同席している。
なんの気まぐれを起こしたのかと思っていたが、ここ数日で黒姫って人間とその夫がどんな奴らかが分かってきた。
まずは黒姫、こいつはそこら辺の世話焼きババアみたいな性格だ。よくある貴族の女の弱者への施しとは違う。近所の子供の世話をするババアみたいだ。まあ、誰彼構わずって訳じゃ無さそうだが、つまりあれだ。俺の好みじゃない。
問題は夫たち。
俺が会ったことのある黒姫の夫は四人。あの獣人ジン・グルードと幻獣人三人、ウィリアム、イクス、ルカだ。あと一人、人間の夫には会ったことがない。
更にはここレーンの王アレクシスは黒姫を番だと公言しているがその王にも会ったことはない。
俺の読みではアリエルの番はそのどれかじゃないかと思ってる。
番がいるのに番以外の男と寝るのは番への欲求が溜まるから、それを発散するためだろう。獣人の女は番とじゃなくても寝れる。だから、あまり濡れなかった。
それに気が付いた時は振られた時と同じくらいへこんだ。
獣人の男にだってそう言う事は、俺はアリエル以外勃たないが一般にはまあある事だ。
今回の旅に同行するのはジン、ウィリアム、イクス、アレクシス王だと言う。残りのカイル、ルカは交代で転移術を使って行き来するらしい。
いや、思ったさ。同行する夫のメンツにおかしいのが一人いるって。
どうやら黒姫が旅をする事になったのはアレクシス王が決めたことらしい。
「馬鹿か!! 人間の女は大事に屋敷に囲っておくもんだろう!」
と思ったが言わない。面倒だし、俺はこの契約の間にアリエルに近づいて番から奪ってやるんだ。
そんなアリエルは俺には見向きもせずに、いつも黒姫の後ろでじっと主の姿を見ていた。
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