〖完結〗「お前は俺の最高の番(つがい)だ」「番(つがい)?私の番は別にいる」

ゆか

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恋に逆上せ上がった俺は、アリエルの事をちゃんと見ていなかったんだ。

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レーンに来て七日。幻獣人ばっかの騎士団で揉まれに揉まれてやっとの事で『ギリギリ合格』を貰った。

「少し休んでから顔合わせな」

ロジーとか言うこの隊の隊長にそう言われたが、驚くほどのシゴキにもはや胃袋は限界。吐く寸前だった。
何だこれ。その辺の魔獣より幻獣人の方がよっぽどヤベェじゃねぇか。
てか護衛必要か?要らないだろ。

「ちょっと、外の空気吸っていいですか」

「ああ。いいぞ」


リミオは完全に潰れていて、俺の呼びかけに僅かに手を振り答えた。
何とか生きてるから大丈夫か。
フラフラになりながら訓練場から出て屋外を求め歩き出すも、動くと内蔵が踊る。どう歩いたか何度かえずきながら扉を開けると、ヒヤリと冷たい風とふわりと薔薇の香りが広がっていた。

騎士団の訓練場の傍に随分と可愛らしい庭があるもんだ。
しかし匂いがキツイ。
普段ならいいが今は腹が沸いてる。強い花の香りはキツイ。

何とか薔薇を抜けたいと庭の中を歩くと、少し開けた場所に出る。さっき見た薔薇では無く生垣とどこの家の庭にもありそうな普通の花、花の名前なんて知らねぇが兎に角背の低いのが綺麗な花壇にちんまりと咲いてる。

「バラの隣に随分と地味な場所作ったな」

いやホントに。金はあんだからもっと派手な庭が作れるだろう。

「ホントにね」
「ああ、ホントにだ、な…………誰だ?あんた」

振り返るとシンプルなドレスに日除けのための鍔の広い帽子を被った少女と、無表情で俺を睨む変なガキが居た。

「少し地味過ぎるかしら」
「……ああ、もっとこう、ドンッとデカくてブワッと咲くやつがいいんじゃないか?」
「あ、その表現面白いですね。でもここはここで良いんです。ご飯だって毎日お肉じゃキツイでしょ?」
「いや、俺は毎日肉でいい」

そう言うと膝を落として花の匂いを嗅いだ。
服装からして貴族じゃない。侍女見習いか何かだろう。無表情のガキは侍従見習いか。

「あんた、小間使いか何かか?ちいせぇのに偉いな」
「え?あっ、ルーイくん駄目!」

頭をポンとするだけのつもりだったが、少女はバッと後ろに飛び退き、俺の顔のすぐ脇をナイフが飛んだ。

「……マジか」

ガキは少女を後から抱えその目元を抑えていた。その手から放たれたと思われるナイフは後ろの生垣の中に音を立てて消えたようだ。

リミオといいこのガキといい、最近のガキは皆こんななのかよ。いや、リミオはちいせぇだけで成獣人か。

無表情のガキはそっと右手を下ろすが、その手は血管が浮き上がり爪がまるで鋭利な刃物のように尖っていた。

「……幻獣人か」

いや、幻獣人が人の形を取れるのは成幻獣人になってから、つまり大人だって事だ。だがこいつの見た目はガキ、変種だ。


──姫様は変種の幻獣人を仕えさせてるんですけどね?グレンさん聞いてます?
──ああ聞いてる。

もっと聞いときゃ良かった。あの後確かその変種の事をなんか言ってた気がする。


「ル、ルーイくん?」
「大丈夫ですよ凛子様」

声は優しいのに顔は相変わらずの無表情だった。
髪はくくってるのか色は分からないが、リンコと呼ばれるこの少女が黒姫だ。
膝を着いて詫びを、そう思った時だった。

懐かしい気配が近づくのを感じ、俺は目を向けた。

「ア、アリエル……」

ものすごい速さで走ってくるアリエルの姿に、俺の心は踊った。

番じゃない男と寝るぐらいだ。番に相手にされないか種族違いかだろう。いや、たとえ種族が違っても相手に番と認識されてなくてもあの見た目だ。アリエルに誘われて食わねぇ男がいるか?
いつも澄ました顔して、実は苦しい恋でもしてるんだろう。
お前に番がいてもいい。いや、良くはないが仕方ない。会ったら文句を言ってやろうと思っていたのに全部飛んでっちまった。


「アリエル、俺はお前に会いに………ってオイ!なに抜いてっ、」

シュン!

シュッシュッ、シュッシュシュシュシュッ!!

「オイ、アリエル!俺は、お前にっ、会いにっ!!」


容赦なく振るわれる剣に明確に感じる殺意。
冷たい目をしたアリエルは容赦なく剣を振るう。
ギリギリでかわしていた俺の腹にアリエルの蹴りが入る。

「ぐぅっ、」

幾ら獣人でも女の蹴りがここまで強いはずはない。身体強化を部分的にかけてるんだろう。


後ろにふっ飛ばされた俺は受身をとるが、アリエルの素早い剣を避けるのには距離が足りない。
受けたくとも訓練では模擬刀を使っていたから今は丸腰、しかも俺にとっては番だ。剣なんか向けられねえっ!

「アリエル!話を」
「駄目!アリエーラ!」




アリエルの振るった剣がピタリと止み、俺はほっと息をついた。

目の前には白と銀の騎士服を着た俺の番が冷たく見下ろす。
いや、アリエルはいつもこんな目だった。冷たいと思うのは俺が振られたからだ。
いつだってどこか一線引いてた。話してる時も、飯食ってる時も。ヤってる時だっていつもどこか遠くを見てるような、そんな女だった。


「ごめんなさいね?えぇと」

「グレンです。グレン・カーソン。黒の姫様に大変な無礼を働きました。お許し下さい」

片膝をつき頭を下げる。
黒姫はただの異界人じゃない。レーンの王家に生まれた王族だ。
アリエルだけじゃない。幻獣人のガキも黒姫を全力で守るのは当たり前の事だ。


「あ、はい。許しますから立ってください」

「・・・・・・ありがとうございます」

呆気なく許され立ち上がると、黒姫はニッコリと笑んだ。
ちゃんと見ると黒姫は小柄だが落ち着いた雰囲気をもっている。この体の小ささは種族的なものなのかもしれない。

「私は結城凛子です、よろしくお願いいたします。今度のお出かけで同行してくれる方ですよね?ジンから騎士団の方に出入りするって聞いていたんですが、直ぐに名乗らなくてごめんなさい」

「いえ、こちらこそ申し訳ございません。少しだけ外の空気を吸おうと思ったのですが気がついたらこちらに出てしまって」
「きっと曲がる場所を間違えたんですね。私も慣れるまでは結構迷いましたから」
「そうですか……」







アリエルが俺を見ることは無かった。

俺に向けられた明らかな殺気。会えた事を喜んでいたのは俺だけだった。
恋に逆上せ、俺は周りが見えなくなっていたんだ。

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