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黒い瞳
聞こえない?
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返事をしない……?
あんなに沢山話していたのに?
「どういうこと?」
少なくとも席に着いてから一限の途中まで、彼女は私とずっと話していたはずだ。コソコソと小声で話しかけてきていたからそれは周りに……、少なくとも前の席の奏には聞こえないはずがない。
先生に運良くバレなかったとしてもここまで近い席にいるんだ、どんなに声を抑えたとしても話していたのに気づくはず。
「そのままだよ、私達は話しかけてるけどあの子は何も答えないよ」
「私とは朝ずっと話してたのに……」
「何を言ってるの?」
「え?」
怪訝そうな顔で私のことを見る。
私はなにかおかしなことでも言っただろうか、事実を言ったまでのはずだと思うが。
「葵がずっと一人で話していただけじゃない」
私が話していただけ……?
奏が嘘をついているようには見えない。
つまり月白さんの声はずっと聞こえていなかったということだろうか。
「世界には不思議なことに説明が難しいことがたくさんあってね」
目の前が真っ白になる。
私がいたはずの教室、目の前にいたはずの奏は気づけばどこにもいない。その代わり目の前には、真っ白な長い髪をいじりながら座る白目が黒くない女子がいた。その声と顔立ちは白目が黒くないことを除けば間違いなく月白さんと一致した。
「どうして?って思っているね、聞きたいことは沢山あるだろう」
私の口をそっと人差し指で触れ、自己紹介の時のにっこりとした笑顔とは違い微笑むと言った方がふさわしい、そんな笑顔を私に向けた。
「教室の中で、多くの人は異質なものを嫌う。その中で君だけは私のこの他とは違う真っ黒な目を綺麗だと思った」
たしかにみんなの反応は様々だった。気味が悪いなどと思った人もきっと少なくないし、月白さんが教室に入る前の話題の盛り上がり具合のわりに話しかける人間は少なかった。
しかし私は目を離したくないくらいに綺麗だと思った。
「それは何故か、答えは簡単で君は私と同じように異質なものを一つ持っているからだよ。でも君はおそらく無意識でこう思った」
異質なもの?
なんのことだろう?
この名前のことだろうか、この女性的な振る舞いのことだろうか。もし違うものなら見当がつかない。
「自分の持っているものよりも綺麗なあの眼が欲しい、独り占めできるならいいのに」
「そんな君はとても強欲で美しい」
そう笑う彼女の顔はどこか寒気がしてくるような、恐ろしい笑みだった。
「月白さん、君は何者なの?」
恐る恐る私が聞くと、彼女は少し楽しそうに私の顔を覗き込んだ。
何も言わずに少なくとも五秒はニヤニヤと私を見つめた後に、彼女は黒板の前にスタスタと歩いていった。
「そうだね、古くから私達はこの世界で生まれ育って共存してきた」
チョークを持ち、楽しげに彼女は黒板に何かを書き始める。
「君たち人間は私たちのことをこう呼んできたみたいだからそれに合わせて教えてあげるよ。優しいからね」
黒板に書かれていたのは『悪魔』の2文字だった。
あんなに沢山話していたのに?
「どういうこと?」
少なくとも席に着いてから一限の途中まで、彼女は私とずっと話していたはずだ。コソコソと小声で話しかけてきていたからそれは周りに……、少なくとも前の席の奏には聞こえないはずがない。
先生に運良くバレなかったとしてもここまで近い席にいるんだ、どんなに声を抑えたとしても話していたのに気づくはず。
「そのままだよ、私達は話しかけてるけどあの子は何も答えないよ」
「私とは朝ずっと話してたのに……」
「何を言ってるの?」
「え?」
怪訝そうな顔で私のことを見る。
私はなにかおかしなことでも言っただろうか、事実を言ったまでのはずだと思うが。
「葵がずっと一人で話していただけじゃない」
私が話していただけ……?
奏が嘘をついているようには見えない。
つまり月白さんの声はずっと聞こえていなかったということだろうか。
「世界には不思議なことに説明が難しいことがたくさんあってね」
目の前が真っ白になる。
私がいたはずの教室、目の前にいたはずの奏は気づけばどこにもいない。その代わり目の前には、真っ白な長い髪をいじりながら座る白目が黒くない女子がいた。その声と顔立ちは白目が黒くないことを除けば間違いなく月白さんと一致した。
「どうして?って思っているね、聞きたいことは沢山あるだろう」
私の口をそっと人差し指で触れ、自己紹介の時のにっこりとした笑顔とは違い微笑むと言った方がふさわしい、そんな笑顔を私に向けた。
「教室の中で、多くの人は異質なものを嫌う。その中で君だけは私のこの他とは違う真っ黒な目を綺麗だと思った」
たしかにみんなの反応は様々だった。気味が悪いなどと思った人もきっと少なくないし、月白さんが教室に入る前の話題の盛り上がり具合のわりに話しかける人間は少なかった。
しかし私は目を離したくないくらいに綺麗だと思った。
「それは何故か、答えは簡単で君は私と同じように異質なものを一つ持っているからだよ。でも君はおそらく無意識でこう思った」
異質なもの?
なんのことだろう?
この名前のことだろうか、この女性的な振る舞いのことだろうか。もし違うものなら見当がつかない。
「自分の持っているものよりも綺麗なあの眼が欲しい、独り占めできるならいいのに」
「そんな君はとても強欲で美しい」
そう笑う彼女の顔はどこか寒気がしてくるような、恐ろしい笑みだった。
「月白さん、君は何者なの?」
恐る恐る私が聞くと、彼女は少し楽しそうに私の顔を覗き込んだ。
何も言わずに少なくとも五秒はニヤニヤと私を見つめた後に、彼女は黒板の前にスタスタと歩いていった。
「そうだね、古くから私達はこの世界で生まれ育って共存してきた」
チョークを持ち、楽しげに彼女は黒板に何かを書き始める。
「君たち人間は私たちのことをこう呼んできたみたいだからそれに合わせて教えてあげるよ。優しいからね」
黒板に書かれていたのは『悪魔』の2文字だった。
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