皇子様、もう一度あなたを好きになっても良いですか?~ループを繰り返す嫌われ皇太子妃の二度目の初恋~

せい

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第二章

日記の行方

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皇子様がいきなり私の両肩を掴んでくる。


「それは本当ですか!?」


あまりの勢いに私も押されてしまう。
そんなに大事な日記なのだろうか。


「う、うん。あくまでも予想だけど…。」

「それでも構いません。」


真剣な表情で私を見つめる。
後ろにいるお兄様も同じ表情をしていて、何だか責任重大だ。


「イヴ、どうして場所がわかるんだ?」

「えっと、私大事なものはある場所に隠すって決めてるの。だからもしかしたらそこにあるかもと思って。今の私も同じ事してるかどうかはわからないけど。」

「なるほど…。確かにお前は昔から勉強が嫌だからと教材を無くした振りしたり、気に入った物を大事に隠したりする癖があったな。」


お兄様はいつも余計な事を言う。
それは大人になった今でも変わらないみたいだ。

皇子様の前でそんな事言われると流石の私でも恥ずかしい。


「もう!そんな事、今はどうでも良いでしょ!早く探しに行くよ!」


私は早く話を切り替えたくて言う。


「?部屋には置いていないのか。」


不思議そうな顔をしている皇子様とお兄様。
そんな二人に得意げな顔で私は告げる。


「うん。だって部屋に置いておいたらすぐに見つかっちゃうでしょ?だからね…。」


私がとある場所の名前を言うと、案の定二人は驚いた顔をした。


――


「…本当にこの場所にあるんですか。」

「うん、多分!」


皇子様に場所を言ったら、敷地が広すぎるという事で使用人に頼んで探してもらった。

そう。
この場所で一番大きな木を。


「まさか、ここで一番大きな木を探せと言われるとは思いませんでした。」

「そうですね…。イヴ、何でここに隠したんだ?」


お兄様の問いに私は自信満々に答える。


「すごくわかりやすい目印だから!それに大きいから迫力もあってかっこいい!」

「「…。」」


私がそう言うとなぜか二人は黙り込んだ。
心なしか呆れた顔をしている様に見えなくもない。


「我が家の敷地も後で確認しようと思います。あの様子じゃ他に何か隠していそうです。」

「そうですね。その方が良いかと。」


私には聞こえないくらいの声で二人がひそひそと話している。
仲間外れにされたみたいで気分は良くない。


「もう、せっかく教えてあげたのに。それよりも早く探そ…。」


私が動こうとした瞬間。
誰かの手が私を制したことがわかった。

皇子様だ。


「待ってください。まだ体が痛い筈です、どこを探せばいいのか教えてくれればこちらで探します。」


確かに皇子様の言う通り、まだ体が痛かった。

さっき二人から聞いて分かったのだが、私は怪我をして二週間以上眠り続けていたらしい。
通りで体が痛い訳だと納得したが、なぜ怪我をしたかまでは教えてもらえなかった。

単純に私がドジして怪我をしたのかとも思ったけど、二人の深刻そうな顔を見てるとそうではないらしい。
今はまだ聞ける雰囲気じゃないから私も何も聞かないでいる。

それよりも今は日記探しだ。
だがこんな状態では私も探しに行けない。
場所を知っているのは私だけ。
考えた末、車椅子で行く事になりお兄様が押してくれてここまで来た。

その事をすっかり忘れていた私に皇子様は気づいて止めてくれた。
紳士的で男らしいその姿に思わずときめく。


「あ、じゃあ…、ここの下を掘ってほしい。」


少し赤くなった顔を隠すように逸らし、木の右側の下を指す。


「ここですね。」


皇子様は特に気にした様子もなく、そこを掘ろうと用意していた道具を手にする。
お兄様も手伝おうとして皇子様と一緒にそこを掘ろうとするが。
なぜか二人とも固まっていた。

どうしたのだろうかと私は首を傾げた。
すると皇子様が深刻そうな顔をして私に言う。


「既に誰かが掘った形跡があります。」


それは想像していなかった事だった。


「ですがこれはイヴが埋めた時の跡とも言えませんか?」

「彼女が眠っていた期間に雨が降った日があったでしょう。その時に濡れた土が馴染んで平らになると思いますがこれはそうなっていない。土が柔らかすぎます。」


皇子様は土を触り感触を確かめている。
私もその場所を見てみたが確かに誰かが掘ったように見えなくもない。


「…嫌な予感はしますが、一先ず確認しましょう。」


取り敢えず掘ってみようという事で二人は作業を再開した。
しかし。

皇子様の嫌な予感は当たってしまっていたようだ。
どれだけ掘り進めても、そこからは何も発見されなかった。


「やはり無いですね。まさか我々より先に取っていたとは。」


顎に手をかけて悩んでいる皇子様。
だが、そんな彼とは対象にお兄様は冷静だった。


「殿下、今回の件を一番揉み消したいと思っている人物がいるとすれば…。」

「それは私も考えました。しかし、この場所はイヴェットしか知らない筈でしょう。」

「メイドを潜り込ませていたくらいです。イヴの行動も監視されていたのでは?」

「…。」


お兄様が責めるような目で皇子様へ詰め寄る。
今の口振りだと、二人は既に誰が犯人なのか知っているようだった。

皇子様は認めたくないのか眉間に皺を寄せ何かに耐えている表情だ。
よっぽど情のある人なのだろうか。


「ね、ねえねえ。そもそもその日記って私にとって何か悪い事でも書いてあるの?」


私は彼の苦しげに歪んだ顔を見ていたくなくて話題を変えようと疑問に思っていたことを聞いた。
これだけ協力しておいてなんだが、もし私に不利なことが書いてあるとするのならばこのまま見つからないでほしいとも思ったからだ。

少しドキドキしながら答えを待っていると、二人は首を振って否定を示した。


「いえ、寧ろイヴェットにとっては見つけて欲しい物だと思います。」

「?そうなの?」

「ええ。あなたの尊厳を守る大事な証拠ですから。」


皇子様の言っている事がいまいち理解できなかったが私にとって悪い物ではないらしいので安心する。
しかし、そうなってくると新たな疑問が湧いた。


「見つけて欲しいのに誰もわからない場所に隠したの?後から言うつもりだったとか?」

「…いえ、そんな筈は。彼女は最初からあの日を最後にしようと…。」


語尾がどんどんと小さくなって彼が何と言おうとしていたか最後まで聞こえなかった。
だが、私の疑問で皇子様もおかしいと思ったのか考え込んだ。


「因みにこの隠し場所を知っている人は他にいますか?」

「ううん。誰にも言ってないよ。」


ここは私だけの秘密の場所。
どんなに仲の良い友達でも絶対に喋っていない。
家族であるお兄様にすら言っていなかったくらいだ。

今回は緊急っぽかったから話したけど、そうでなければ誰にも教えない。


「イヴェットの行動を考えると、彼女は誰かが日記を見つけてくれると確信していた風に思えます。そうでなければ、態々隠した日記を証拠として提示しないでしょう。」

「そうですね。しかしそれは一体誰なのでしょうか。」


二人とも頭を悩ませている。
私も一緒に考えたいが、今の私が誰と交流を持っていたのかさっぱりわからない。

手助けできる事は何もなかった。


「取り敢えず彼女が親しくしていたであろう人物に聴取していきましょう。」


手掛かりも何もない。
今できる事と言えばそれくらいだろう。

この場にいる全員がそう思い、皇子様の意見に賛同したのだった。
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