皇子様、もう一度あなたを好きになっても良いですか?~ループを繰り返す嫌われ皇太子妃の二度目の初恋~

せい

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第一章

裏切り

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一回目の人生ではマーサに殺され死んだ私。
死んだ原因であるマーサさえ、遠ざければ問題ないと思っていた私が甘かった。

アドリアン様からコルベール家のメイドを呼んでいいと言われたので、私の身の回りは彼女たちに任せていた。
これでメイド達からの嫌がらせもなくなるし、平和に過ごせると思った私だったが。
なぜか彼女たちもタシェ様の味方に付くようになってしまった。

タシェ様の持つ優しさと明るさがメイド達の心を変えてしまったのだろうか。
今となってはわからない。

気づいたら全員がタシェ様を妄信するようになっていたのだ。

コルベール家に忠誠を誓ったメイドであり、父の計らいで特別私と親しかった者たちを送ってもらった。
一人は、幼い頃から私の面倒を見てくれていた姉のような存在だった人もいる。
その彼女たちが選ばれて皇宮に来た時は本当に喜んだのに。

私の周りの人はなぜ皆タシェ様を好きになるのだろうか。

彼女に対して思わず嫉妬の感情が芽生える。
自分にはないものを持っている彼女が私は羨ましくなってしまった。


(彼女なんか、いなければ良いのに。)


そんな事を考えた私にバチが当たったのだろうか。


―コルベール家が反逆を企ている。


そんなありもしない噂がまことしやかに流れだした。

小さな話だったのがどんどんと広がっていき、とうとう陛下の耳にも届いた。
私たち家族は陛下へ呼ばれ、皇家に忠誠を誓っている我が家がそんなことするはずがないと否定したのに。

なのにどうしてか、我が家を調査すればするほど証拠が出てくる。

知らない数々のその証拠たちを父は当然否定した。
だが、無実だと証明するには厳しい状況にまで追い込まれ陛下は判断せざるを得なかった。


とうとう、コルベール家は皇家反逆の罪として囚われてしまった。

牢屋に入れられたままでは、為す術がない。
死刑執行日だって既に確定している。

そんな絶望的な状況で手も足も出せないのが悔しくて涙が出た。
せっかくやり直すチャンスをもらえたというのに。
死ぬ運命を結局変えられなかったどころか、家族まで巻き込んでしまった。

今回は一体どこを間違ってしまったのだろう。

回らなくなった頭でぼんやりと考える。


(最後にアドリアン様のお顔だけでも見たかった…。)


二回目の人生でも決して好かれてるなんて思ってなかったけど。
それでも前回に比べたらマシだと思っていた。
死ぬ間際でも会いに来てくれないという事は結局、今世でも彼の気持ちを変えることはできなかったのだとその時になって知る。


しかし、その代わりと言ってはなんだが意外な人物が私の元に訪れた。

それは姉のように慕っていたという私専属のメイド。

彼女がタシェ様に傾倒するようになってからは会話が減っていた。
とは言え、長い付き合いだ。
もしかしたら、私の死を悲しんで最後の挨拶に来てくれたのではないか。

そう思っていたのだが。
彼女は思いもよらなかった事実を私へ告白した。

今回の件は全て自分がやったとのこと。

偽の証拠を作ったり、嘘の証言をしたり。
皇宮のメイドを使って、噂を広めたり。
彼女は、コルベール家を没落させたいが為に行ったのだと私に言った。

最初は信じられなかった。
いや、信じたくなかった。

私たちは共に姉妹のように育った仲のはず。
そんな事を彼女がするはずがないと。
そう思っていたのに。

混乱する私に彼女は一言。


「あんたの事、ずっと嫌いだったのよ。」


私に向けてそう言い放ったのだ。

ずっと一緒にいたのに全然気づかなかった。
一体いつから私は彼女に嫌われていたのだろう。

そんな事考えても、もう意味などない。

私は死ぬのだから。
皮肉にもアドリアン様との二年目の結婚記念日という前回と同じ日に。


――


そして私はまた二年前の結婚式の日に巻き戻った。

既に一回体験したからだろうか。
今回は特に驚きはなかった。


頭の中では今回はどうすれば死を回避できるか。
そればかりを考えていた。


もう死にたくない。
アドリアン様と共に過ぎして生きていきたい。

願いはそれだけだ。
他に望むものなんてない。


しかし、神は私のその願いすらも叶えてはくれなかった。


三回目はマーサを二回目同様に遠ざけたが、コルベール家のメイドは呼ばなかった。
その代わり、皇宮内で比較的新人の子たちを選んだ。
まだ私に対する偏見など持ってなさそうな子たちだ。

それでも嫌がらせは変わらなかったが、死ぬくらいならと我慢できた。

文句も言わない私に彼女たちの嫌がらせはエスカレートしていった。
その結果、階段上から突き飛ばされ当たり所が悪く私は死んだ。


――


四回目はメイドを付けること自体辞めた。
アドリアン様は当然良い顔をしなかったし、私も一人で何かしたことが無かったから不安だったが何とかなった。

一人で行動するのは案外気持ちが楽で、私は今世では社交活動を積極的にしてみようかと考えた。
今まではメイドの監視の目もあり、一挙手一投足誰かに報告されたりなど窮屈だったが今回はそれもない。

令嬢たちに誘われるお茶会に参加したり、詩の朗読会なんかに参加した。
そのおかげで私はある令嬢と仲良くなった。

友達は少なかった私にとって彼女は親友と呼べるほどの仲にまでなったが。
私は彼女がアドリアン様へ傾倒している令嬢の一人だとは知らなかった。

私に近づいた目的はアドリアン様だったらしい。

私がアドリアン様からそんなに好かれていないどころか嫌われているという事実を知った彼女は、皇太子妃に自分がなろうと考えたらしい。

私を亡き者にしようと暗殺者を雇い、結局私は殺されてしまった。


――


五回目の人生。
私はアドリアン様へ専属護衛をつけてもらうよう頼んだ。

皇太子妃護衛を付けること自体、問題はなかったし寧ろ当然の待遇だ。
今までの騎士は専属ではなかった為、今回は正式につけることにした。

専属護衛騎士に選ばれた子は若手で実力のある少年だった。
私より二歳年下らしく、弟がいたらこんな感じだろうかと思った。

私は彼とすぐに仲良くなった。
私の噂など気にしない、自分の見たものだけを信じる彼の真っ直ぐな性格はとても心地良いものだった。

仲良くなって距離が近すぎたせいか、皇宮内で私は浮気を疑われた。
アドリアン様一筋の私はあり得ないと否定したが、彼の方は騎士団で居場所を失くしてしまったようだ。
居づらくなった彼は皇宮を去ることになってしまう。

だが、その三日後。
なぜか彼の死体が皇宮近くで見つかり、私は疑われる。
否定したが誰にも信じてもらえず悲しんだ。

アドリアン様は皇太子妃の名誉のためだと言って、調査をしてくれたのだが。
そうしている間に彼の親しかった友人の騎士から殺されてしまった。


――


私はもう限界だった。

何度も何度もループしては死ぬ運命。
前回と違う行動をしても結果は変わらない。

一体この地獄はどこまで続くのだろうか。
なぜ私だけこんな目に遭うのだろうか。

死ぬ時の痛みはどれも鮮明に覚えていて、忘れられない痛みとなった。
慣れるなんてことは恐らく一生ないだろう。


誰でも良いから私を助けて。


そう願った時に一番最初に頭に浮かんだのはアドリアン様だった。
結局、どの人生でも彼は私に振り向いてくれることは無かった。
彼の中の一番はいつだってタシェ様だ。

しかし、拒絶することもなかった。

私は一縷の望みにかけて、アドリアン様へ正直に話そうとそう決心した。


アドリアン様は静かに私の話を聞いてくれた。
絵空事のような突拍子もない話だが、笑わずに真剣に耳を傾けてくれる。

初めてこの事を他人に相談出来た私は一人じゃないという安心感が生まれた。

アドリアン様なら信頼できる。
そう思って相談したというのに。

彼までも私を裏切ったのだ。

アドリアン様だけに話した内容のはずだった。
普段から文句を言わない様に従順な私が顔色を変えて人払いしてほしいと言ったから、アドリアン様はその望みを叶えてくれたはずだった。

なのに彼に話した内容は第三者であるタシェ様に伝わっている。
タシェ様は私に一言、「疲れているんですね。」と気の毒そうに言う。

私はその瞬間、アドリアン様は私の話を信じていなかったのだとショックを受けた。
いくらタシェ様の事を好きだとしても、約束だけは守ってくれる方だと思っていたのに。

完全に戦意が削がれた私に容赦なくタシェ様が言う。


「殿下が、西部の別荘で休憩されてはどうかと仰っています。」


変なことを言う皇太子妃など必要ないという事か。
私は完全にアドリアン様に見捨てられたのだ。


何もかもどうでも良かった。
信じてた人たちに裏切られていった私の人生は一体なんだろうか。

六回目の人生。
結婚記念日二年目にアルフォール帝国の騎士に別荘を襲撃され、私は死んだ。
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