ねぇ、届いてますか

第一話

桜が少し舞う。風も少し吹く。
僕はその光景に見とれていて、眺めていた。
宛もなく、フラフラ歩いていた。
その先の橋に君がいるとも知らずに。
譜面を落としてしまったから、拾うために、少しづつ視線を下にする。
目の前で桜の花びらが落ちる。
その時、彼女と合ってしまった。目が。
僕は不意に顔が赤くなる。
こういう事に慣れていないから。
彼女はすぐ目線を外し僕に微笑んだ。
すると、彼女はYAMAHAの411のフルートを持って静かに独奏を始めた。
｢わぁ………」
流れ始めた音楽は僕の心を揺さぶって、舞い上がらせる。胸がキラキラする。なんだか、僕の気持ちを前に押されるような…。
吹奏楽をやっていて初めての経験で、思考が止まったまま、彼女を見つめたまま、呆然と立ち尽くしていた。
｢ねぇ…？｣
小鳥が囀るような声で彼女は優しく声をかけてきてくれた。僕は呆然としていたから
｢ぇ…あ、はいっ…」
と、間抜けた声で返事を返す。
｢ねぇ、君が持ってるのって、YAMAHAのYCL650のクラリネットだよね？一緒に吹こうよ、木管なら！｣
彼女は僕の返事を待たないまま
｢じゃあ、この曲ね…。｣
と、曲まで指定してきた。
特にこの後用もなかったので、彼女に乗ることにした。
彼女のカウントの合図で、彼女の指が走り出す。僕もつられて走り出す。
1人で吹いている時はただ吹いているだけと思っていたのに、何故なんだろう、上手く言えないけれど…すごく楽しいんだ。
ドキドキして、ワクワクして、とにかく楽しいんだよ。何故だろう…何故だろう…

とにかく…楽しいんだ…