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三人の王子

6 ゲイル

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 ケネスってヒースとエリオットのお兄さんだったのか。王太子って次の王様ってことだよな。
 そういえばドラゴン姿の時に一度会ったことがある。あまり記憶に残ってないけど、痩せていて落ち着いた雰囲気の人だった。

「ケネス兄さんは王城に住んでいて、式典や催事の時くらいしか会わないんだ。年も離れているから、昔からそれほど会話もしていないな」

「エリオットみたいに嫌な人なの?」

 聞くとヒースは苦笑いを浮かべた。

「嫌がらせをされた記憶はないよ。ただ」
「ただ?」
「いや、何でもない。それより遅くなったけどお昼を食べてから馬を見に行こうか」
「うん」

 ケネスと何があったんだろう。エリオットもケネスとは仲が悪そうだな。エリオットは仲の良い人がそもそもいなさそうだけど。

 ヒースは俺のためにパンや軽食をかごに準備してくれた。エリオットから渡された上着はヒースが受け取り、別の上着を貸してくれる。上着をどうするか聞いたら紋章やボタンを付け替えてヒースの付き人の上着風に変えるのだそうだ。そう言われてみれば付き人によって着ている服のデザインが少しずつ違う。あれを見ると主人が誰か、その主人がどのくらいの力やお金を持っているか分かるらしい。

「お前は俺の付き人だからな」

 そう言って頭を撫でられたから、さっきのキスみたいな回復魔法を思い出して、嬉しくて恥ずかしくて俯いてしまった。
 なんだかヒースが優しい。優しすぎる。前から優しかったけど、ドラゴンの時は素直に嬉しかった優しさが、落ち着かないドキドキに変わった。

***

 学園には入り口の近くに馬車庫があり、その奥に馬が十数頭飼育されている。馬車用の馬は少なく、貴族たちの乗馬練習用の馬の方が多いと聞いた。俺は飼育舎の掃除担当になったことがないからよく分からないけど、正直乗馬は不安しかなかった。
 ヒースの城にいる時も馬がいたけど、馬たちには全然仲良くしてもらえなかったんだよな。

「これはヒース様、よくお越しで」
「乗馬の練習をしたいんだが、二頭かりられるかな」
「もちろんです」

 飼育舎で働いているのは中年のおじさんだった。この人は関わったことがないけど、餌を運んだり掃除をしている従業員たちには見覚えがある。みんな今日も元気に働いているんだな。

 ヒースと一緒に飼育舎に入って行くと、繋がれてリラックスしていた馬たちに一斉に緊張が走った。警戒心剥き出しの目で見られる。

 (やあ、君たち元気?)

 念話で話しかけたけど、あまり警戒は解かれなかった。馬たちの言葉は分からないけど、怖がられているのはなんとなく分かるな。

「今日はみんなどうしたんだ。落ち着かないな」
「先ほどまではこのような事はなかったのですが」

 ごめんヒース、多分俺のせい。

「初心者にも扱いやすい馬はと思って来てみたんだが」
「こらっ、お前たちどうした。いつも優しくしてくださるヒース王子様だぞ」
「ヒース、やっぱり俺、乗馬は諦めて徒歩で……」

 ん?
 飼育舎の奥の方に変な気配がある。目を閉じて気配を探ると、他はみんな馬なのに、明らかに一頭だけ他とは違う気配を感じた。光のシルエットは馬なんだけど。馬じゃない。

 そっちに歩いて行くと、馬たちはみんな興奮している中、落ち着いてこっちを睨んでいる馬もどきがいた。見た目は確かに馬そっくりだ。

(こんにちは。お前って馬なの?)
(オマエこそ、ヒトじゃないだろ)
(俺はカル。ドラゴンだよ)

「カル君、こいつは気難しい馬だから近寄らない方がいい。誰も乗せないんだよ。頭はいいのに人の言うことを聞かなくてね」

(オレはゲイル。ウマでもヒトでもない。ドラゴンでもない。何か用か)
(ゲイル、乗せてよ!)

 馬もどきのゲイルはじっと俺を睨みつけたけど、了解してくれたような気がした。

「おじさん、この馬にする」
「しかしカル君」

 おじさんが止める前に、ゲイルが歩いてきて俺の頭に鼻先を近づけた。

「驚いたな。こいつがこんなに大人しくしているのを見るのは初めてだ」
「危険じゃないのか?」
「大丈夫だよ」

 ゲイルとは何となく友達になれそうな気がした。


 









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