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 ベル様が私を連れてきたのは服屋でした。納得してくれているようで、全くしていなかったようです。

「良いって言っていたではないですか!」
「確かに構わないと言った。こうやって服屋に来れば良いだけだからな」

 あんな私の意思を尊重するみたいな雰囲気を出しておいて、裏ではそんな事を考えていただなんて! 騙されました!

「ひどいです! 嘘つきです!」
「ああ、もう店に入るんだから静かにしていろ」
「……」
「……本当に静かになるんだな」

 ベル様は呆れたように言ってきますが、お店に迷惑をかけるわけにはいきません。そう思って店内に入ると――

「お嬢様、いらっしゃいませ」
「……アン。どうしてここに?」
「レオニクス様のご命令です。『リリの服装を見たら、ベルなら必ずここに来るから着付けを手伝ってあげて』そうおっしゃられていました。というわけで、今からこちらに着替えてもらいます。ベルフリード皇太子殿下もそれでよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます。では、お嬢様、こちらへ」

 そうして今度はアンに奥の更衣室に連れていかれる。

 レオ兄様もここまでベル様の考えがわかっているならそう言ってくれればこんな事にはならなかったのに……

 リリアがモヤモヤとしている中、アンは手慣れた手つきでリリアを着替えさせる。

 気がついた時には着替えが終わっており、前を見て見るとそこには町娘の姿をした私が映っていた。

 これでいいのでしょうか? 一瞬悩んでしまうが、そう言えばベル様も着飾っておらず、シンプルな服装をしていた事を思い出す。

 もしかして、制服じゃなくてドレスでも私はここに連れて来られたんじゃ……
 いや、でもレオ兄様はあれでいいって……もしかして、レオ兄様はベル様に私をここへ連れて来させたかった?

 そんなわけないよね……

「そろそろいいか?」
「はい、準備は終わりました」
「ちょ、ちょっと待ってアン!」

 アンが扉を開けようとするのを止める。が、返事をするのを止める事ができなかったので、ベル様が入って来てしまった。

 ベル様は入って来て早々、私を見て感想を述べる。

「似合っているぞ」
「……ありがとうございます」

 アレの前ではどんなドレスを着ようと褒めてくれるような事はありませんでした。妹に夢中だったというのはわかっていますが、私自身に魅力は何もないんだと、そう思っていました。
 だからこうして、例えお世辞でも褒めてもらえるのは嬉しいものですね。

「ん? 何か怒っているのか?」
「別に……なんでもありません」

 顔を覗き込もうとしてくるベル様に、思わず顔を逸らしてしまいます。その行動にふと思い出してしまう。

「お前は! 妹と違って愛嬌も振りまく事ができないのか!」

 昔、アレに1度言われた言葉……、今まで思い出してもいなかったのに、急にどうして……
 ううん。たぶんもう分かっている。私にはティアのような素直さがない。それを今自覚してしまった。

 おそらく、ベル様にも同じ感想を思われてしまっただろう。それならそれでいい。私は隣国との関係をよくするためここに居るのです。ベル様と何かしらの関係を築くためではありません。

 気合いを入れ直し、ベル様の顔を見る。そして――

「申し訳ありません。家族以外の殿方に褒められた事がなく、少し照れていたのです」

 私の背中から声が聞こえた。振り返るように後ろを見ると、私の背中に隠れるようにしゃがんでいるアンがいる。

「アン!」
「……それは本当なのか」
「はい。私が知る限りですが、お嬢様の婚約を知っている男性は言い寄らないように、知らない方は高嶺の花過ぎて話しかけられない。そんな状況でしたので」
「……婚約者は」

 ベル様は絞り出すような声を出す。もう既に結果をわかっている。しかし、この質問が私を傷つけるとわかっていても、聞きたくなってしまった。そんな感じでしょうか。
 そんなベル様の質問に、アンは黙って首を横に振る。

「……そうか。(なんて勿体無い)」
「えっ?」
「いやなんでもない。そうか……今の服も似合っているが、もちろん制服も似合っていた。ドレスを着れば、もっと綺麗になるんだろうな」
「お世辞はやめてください!」
「お世辞ではない。俺は本気でそう思っている。嫌か?」
「嫌……ではありません。あまり慣れてはいませんが……その……嬉しい……です」

 ベル様といると何か様子がおかしい。心臓がバクバクとうるさい。こんなこと、今までなかったのに……

「そろそろお時間では?」
「ああ、そうだな。そろそろ行くとしよう。お前、名前は?」
「アンと申します。リリアお嬢様の専属メイドです」
「そうかアン。これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、お嬢様をよろしくお願いします」

 私はまたベル様の手に引かれお店を出る。来た時と違って、私には何も考える余裕はありませんでした。
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