29 / 65
旅行編 お墓参り〜赤砂の街
1
しおりを挟む夕陽が沈んでいく。
崖の上に立ち、黙って酒を飲むアニキの姿を数メートル後ろから眺める。
アニキは酒を少しだけ飲むと、瓶に入った残りの酒を崖下に撒いた。
いつかの夢で見た、仲間を待ちながら草原に座っていた子供の頃と同じ表情をしている。
俺は来る途中で摘んだ花を、さすがに崖下に投げる気にはならず、アニキが立っていた場所の隣に置いた。
崖の近くにはラキ王国が設置した看板が見える。異世界文字が読めるようになっていたので、その看板に『この先、人食いワーム出没のため立ち入り禁止』と書かれているのが分かる。
ここはアニキが両親や仲間を人食いワームに喰われて失った場所だ。厳密にはこの侵入禁止のエリアの奥だけど。
アニキはたまに一人で両親や仲間達の弔いに来ていたんじゃないかと思う。アニキの横顔を見てそんな事を思った。
異世界の弔いってどうやるんだろう。
日本みたいにお墓が密集している場所とかあまり見かける事がなくて、異世界のお葬式にも参列した事がないからよく分からない。
でも花を供えるのは間違ってない気がする。アニキも怒らないし、この際日本式で勘弁してもらおう。俺は花を供えると、アニキの両親や仲間達が安らかに眠れるよう祈った。
「そろそろ行くか」
『もういいんですか?』
「日没になる。野営地を探さないとな」
そう言ったアニキはいつもと同じ表情に戻っていた。
***
朝、俺とアニキは住み慣れた洞窟ハウスを出て、約束の異世界旅行に出発したのだった。
楽しみにしていた旅行だけど、いざ出かけるとなると家を離れるのは少しさみしい。
初日は俺の希望でアニキの両親の墓参りに行き、そのまま一番近くにある赤砂の街に何日か滞在する事にしていた。墓参りと言っても墓はなく、目印と言えば看板しかない崖だったけど。
崖は赤砂の街から離れていたので、到着する前に一晩野宿をする事になった。本当はもう少し早い時間に墓参りに行く予定だったけど、珍しい動物を見かけて狩りをしていたせいで遅くなったのだ。
ちなみに捕まえた動物は亀のような甲羅を持っていて、それがかなりの高値で売れるらしく、アニキはご機嫌だった。俺も動物を殺すのはたとえ食料の為でもいまだに嫌いだけど、亀もどきは甲羅を脱ぎ捨てて逃げていったから罪悪感は少ない。甲羅がなくて寒そうだったけど。
アニキが見つけた野営地で、魔石を使って火をおこす。食事の準備はアニキにまかせて、俺は旅行の為一頭だけ借りていた角馬に餌をやった。
その後荷物から分厚い布を出して、少しだけ植物の生えている場所に敷き寝床代わりにする。
ケビンみたいに角馬に寄りかかって寝たいけど、角馬は人に寄りかかられるのが嫌みたいだ。アニキもいるから馬と添い寝するのはあきらめよう。
寝床を作って荷物をまとめていると、少し離れた場所に黒助の姿が見えた。昼間は姿を見なかったけど、やっぱりついてきていたらしい。黒助はその場に座り込むと、こちらを眺めたまま彫像のようにじっとしていた。
アニキが即席で作ったスープを飲む頃には完全に夜になった。何の危険生物も出ない。星空がすごく綺麗だ。
『人食いワーム、このあたりには出ませんよね』
「出没する前には地鳴りがある。それに、ワームは血の匂いを嗅ぎつけて出てくるから怪我しなければ問題ない」
『アニキは何でも知ってますね』
「お前が無知なだけだ」
ちょっと誉めるとこれだからな……。
『そんな事いうなら一緒に寝てあげません』
「人食いワームは出ないが、多頭蛇や大型の羽虫なら出るぞ」
『え!?』
アニキは俺の引きつった顔を見てニヤリと笑う。
「怖いなら添い寝してやる」
確かに怖いから添い寝してほしいけど、アニキはアニキで野獣みたいなものだからな。普段は洞窟ハウスだけど、今は野宿だし。
『アニキの方が怖いんじゃないんですか?』
「つべこべ言わずに来い」
渋っていると、アニキに手を引っ張られて腕の中に抱き寄せられた。
2
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる