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おまけ 風邪引きアニキ
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それは雨季に入ったばかりのある日の事。その頃は朝も昼も夜も、暇さえあれば雨が降っていた。
保存食が少なくなったので、アニキは雨の日だろうと狩りに出かけていた。酷くなる雨を眺めながら、早く帰ってこないかと心配になる。俺が無事でいる限りアニキは不死身だけど、それでも怪我はして欲しくない。
強くなる雨が入って来ないように、防水に優れた生き物の皮でつくられた布で入り口を封鎖し、いつものように部屋を掃除する。雨季の間は野菜も育てられないし、する事がなくて暇だ。遊んでいてもいいけど、保存食も少ないし、アニキがたまにしている仕事を手伝う事にする。
一緒に生活していて気づいたけど、アニキはすごく器用だ。
動物の皮で作った小道具とか、木彫りの人形や楽器など、ほとんどナイフ一本で作ってしまう。それは素人の俺が見ても完成度が高く、街に持っていけば必ず売れる。
俺もそれを手伝おうと、練習で砂ワニの人形を作っているけど、俺の作る人形は酷い。小学生の工作レベルだ。
「やっぱり難しいな……」
失敗した砂ワニ人形を眺めていると、部屋で寝そべっていた黒助が起き上がって出て行った。
『アニキ?』
黒助が出て行くのは、アニキと顔を合わせないためだ。でも今日は時間が早い。狩りが上手くいったんだろうか。
『お帰りなさい……アニキ?』
迎えに出て、びしょぬれのアニキの様子がいつもと違う事に気づいた。
「ミサキ……」
『どうしたんですか』
アニキが俺にもたれかかる。身体が熱くてびっくりした。熱がある。
急いで濡れた上着を脱がせ、ベッドまで引きずるように連れていく。靴を脱がせて、濡れたズボンも脱がせようと思うのに、アニキが俺の顔に手をかけ、口づけをしてくる。舌も熱い。
「ん、んっ……」
お帰りなさいのキスはいつもの事だけど、今日はそんな事してる場合じゃない。それなのにアニキは口づけを止めないし、俺の服の下に濡れた手を入れようとするから腹が立った。フラフラなくせに。
『っ、アニキ……! 熱があるので大人しく寝てください』
「うるせぇな……」
不満そうなアニキを無理矢理ベッドに寝かせ、ズボンを脱がし濡れた身体を乾いた布で拭く。見慣れた入れ墨の模様が愛おしい。
『薬持ってきます』
ベッドを離れようとしたら腕を引っ張られた。
「ここにいろ」
『アニキが大人しく薬を飲んだら添い寝してあげます』
「雨にうたれて体温が上がっただけだ。寝れば下がる」
『薬は飲んでください』
人には薬を使うくせに、自分は飲みたがらないんだから困ったものだ。
苦いから嫌いなのかな。非常用の薬箱から、こっちの世界の風邪薬を取り出し、水と一緒に持っていってもアニキは首を振らなかった。
「……それは必要ない。熱が出ても死ぬこともないからな」
『死ななくても苦しいのは駄目です』
「薬は高価だ。お前が使え」
一瞬言葉に詰まった。
アニキの言葉はいつも全然優しくないけど、たまにすごく愛されているような気がする。
『お金の心配をするなら……高い酒を減らしてください』
文句を言ってみせると、アニキはそれ以上抵抗せずにしぶしぶ俺に従った。
苦そうな粉薬を口に入れ、自分では動く気がなさそうなアニキに水を口移しで与える。髪をくしゃくしゃにされながら舌を絡められて、水を飲ませるのも一苦労だ。
こっちの世界の人は、風邪がうつるという概念ないんだろうか。アニキの風邪なら全然いいけど、二人同時に風邪引くと困る。保存食だって少ないし。でもそんな意見はアニキには通用しそうにない。
普段ならベッドでキスしたら、絶対その先になだれ込むんだけど、熱のせいかアニキはすぐに眠ってしまった。
保存食が少なくなったので、アニキは雨の日だろうと狩りに出かけていた。酷くなる雨を眺めながら、早く帰ってこないかと心配になる。俺が無事でいる限りアニキは不死身だけど、それでも怪我はして欲しくない。
強くなる雨が入って来ないように、防水に優れた生き物の皮でつくられた布で入り口を封鎖し、いつものように部屋を掃除する。雨季の間は野菜も育てられないし、する事がなくて暇だ。遊んでいてもいいけど、保存食も少ないし、アニキがたまにしている仕事を手伝う事にする。
一緒に生活していて気づいたけど、アニキはすごく器用だ。
動物の皮で作った小道具とか、木彫りの人形や楽器など、ほとんどナイフ一本で作ってしまう。それは素人の俺が見ても完成度が高く、街に持っていけば必ず売れる。
俺もそれを手伝おうと、練習で砂ワニの人形を作っているけど、俺の作る人形は酷い。小学生の工作レベルだ。
「やっぱり難しいな……」
失敗した砂ワニ人形を眺めていると、部屋で寝そべっていた黒助が起き上がって出て行った。
『アニキ?』
黒助が出て行くのは、アニキと顔を合わせないためだ。でも今日は時間が早い。狩りが上手くいったんだろうか。
『お帰りなさい……アニキ?』
迎えに出て、びしょぬれのアニキの様子がいつもと違う事に気づいた。
「ミサキ……」
『どうしたんですか』
アニキが俺にもたれかかる。身体が熱くてびっくりした。熱がある。
急いで濡れた上着を脱がせ、ベッドまで引きずるように連れていく。靴を脱がせて、濡れたズボンも脱がせようと思うのに、アニキが俺の顔に手をかけ、口づけをしてくる。舌も熱い。
「ん、んっ……」
お帰りなさいのキスはいつもの事だけど、今日はそんな事してる場合じゃない。それなのにアニキは口づけを止めないし、俺の服の下に濡れた手を入れようとするから腹が立った。フラフラなくせに。
『っ、アニキ……! 熱があるので大人しく寝てください』
「うるせぇな……」
不満そうなアニキを無理矢理ベッドに寝かせ、ズボンを脱がし濡れた身体を乾いた布で拭く。見慣れた入れ墨の模様が愛おしい。
『薬持ってきます』
ベッドを離れようとしたら腕を引っ張られた。
「ここにいろ」
『アニキが大人しく薬を飲んだら添い寝してあげます』
「雨にうたれて体温が上がっただけだ。寝れば下がる」
『薬は飲んでください』
人には薬を使うくせに、自分は飲みたがらないんだから困ったものだ。
苦いから嫌いなのかな。非常用の薬箱から、こっちの世界の風邪薬を取り出し、水と一緒に持っていってもアニキは首を振らなかった。
「……それは必要ない。熱が出ても死ぬこともないからな」
『死ななくても苦しいのは駄目です』
「薬は高価だ。お前が使え」
一瞬言葉に詰まった。
アニキの言葉はいつも全然優しくないけど、たまにすごく愛されているような気がする。
『お金の心配をするなら……高い酒を減らしてください』
文句を言ってみせると、アニキはそれ以上抵抗せずにしぶしぶ俺に従った。
苦そうな粉薬を口に入れ、自分では動く気がなさそうなアニキに水を口移しで与える。髪をくしゃくしゃにされながら舌を絡められて、水を飲ませるのも一苦労だ。
こっちの世界の人は、風邪がうつるという概念ないんだろうか。アニキの風邪なら全然いいけど、二人同時に風邪引くと困る。保存食だって少ないし。でもそんな意見はアニキには通用しそうにない。
普段ならベッドでキスしたら、絶対その先になだれ込むんだけど、熱のせいかアニキはすぐに眠ってしまった。
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