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魔物の島
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アニキの目に以前のような鋭い光が宿っている。それはアニキが生きている証のようで俺を安心させた。
「お前は、何を失った……? 答えろ、ミサキ」
『……とにかく、そこから救出します』
俺はアニキの言葉を無視して、リュックからもう一つの武器、長さ20センチ程の短剣を取り出した。緑水湖の道の駅にある武器屋のマスターから購入したものだ。
『じっとしててください』
アニキの右手を捕らえているツタを一本ずつ断ち切っていく。
さすがはマスターの武器だ。素人の俺にも扱いやすくて切れ味がいい。だが作業を始めてすぐに、恐ろしい事実に気づいた。ツタには鋭い刺があり、それが何本もアニキの身体に深々と突き刺さっていた。
『アニキ、刺が……』
「……いいから抜け。死にはしねぇよ」
気合を入れてツタを引っぱると、アニキの右腕が自由になる代わりに、引き抜かれたトゲから真新しい血がたらたらと流れた。
呻き声を上げて前のめりになったアニキを何とか支える。
『大丈夫ですか? 痛いですか……?』
「痛いに……決まってる、だろうが」
『すぐ止血します。あ! そういえば、荷物に痛み止めがあります』
「それを早くよこせ。……この馬鹿」
痛み止めは以前道の駅でアニキが買ったものと同じものだ。ラキ王国では有名な薬で、薄めれば飲み薬、そのままなら塗り薬として使える。この国の人間なら旅には必ず携帯する必需品らしい。俺もその効果は身をもって知っている。
『腕に塗りますか?』
「飲ませろ」
捕らわれていて傷だらけなのに、やっぱりアニキはアニキだ。少しだけ懐かしくなる。アニキもあの黒い獣と同じかもしれない。見た目は怖いし態度は横柄だけど、慣れてくると少し可愛いと思ってしまう。可愛いなんて思っている事がバレたらボコボコにされそうだけど。
「……何がおかしい」
『なんでもありません』
水筒のコップに痛み止めを用意してアニキの口に持っていくと、不満そうな目でにらまれた。
「……飲ませろと言っただろうが」
少しの間意味が分からずアニキの顔を眺める。何となく理解して口に含むと、自由になった右手で引き寄せられた。
唇が触れると同時にアニキの舌が強引に割り込んでくる。アニキは飢えた獣のようにごくりごくりと痛み止めを飲み干した。
薬が無くなっても、わずかな息継ぎを繰り返して口づけは続いた。薬は苦く、血の味がするし、頭は酸欠になりそうだ。でもアニキが求めるなら、なんだって差し出したい。奪ってばかりの人生なのに、何も持っていないアニキだから。
唇が離れて、アニキの身体からふっと力が抜ける。俺は息が上がってしまい、荒い呼吸を繰り返した。
そんな俺を見て久々にアニキが笑う。
「……相変わらずのマヌケ面だな」
『……よく見ると可愛い顔です』
少し痛みが落ち着いたのか、アニキは俺の短剣を取ると、俺よりずっと慣れた手つきで左手と両足に絡まるツタを切り落としていった。ツタが外れるたびに新たな血が流れる。 ハラハラする俺をよそに、アニキは淀みない流れでツタを引きはがすと、忌々しそうに短剣でズタズタにした。
「お前は、何を失った……? 答えろ、ミサキ」
『……とにかく、そこから救出します』
俺はアニキの言葉を無視して、リュックからもう一つの武器、長さ20センチ程の短剣を取り出した。緑水湖の道の駅にある武器屋のマスターから購入したものだ。
『じっとしててください』
アニキの右手を捕らえているツタを一本ずつ断ち切っていく。
さすがはマスターの武器だ。素人の俺にも扱いやすくて切れ味がいい。だが作業を始めてすぐに、恐ろしい事実に気づいた。ツタには鋭い刺があり、それが何本もアニキの身体に深々と突き刺さっていた。
『アニキ、刺が……』
「……いいから抜け。死にはしねぇよ」
気合を入れてツタを引っぱると、アニキの右腕が自由になる代わりに、引き抜かれたトゲから真新しい血がたらたらと流れた。
呻き声を上げて前のめりになったアニキを何とか支える。
『大丈夫ですか? 痛いですか……?』
「痛いに……決まってる、だろうが」
『すぐ止血します。あ! そういえば、荷物に痛み止めがあります』
「それを早くよこせ。……この馬鹿」
痛み止めは以前道の駅でアニキが買ったものと同じものだ。ラキ王国では有名な薬で、薄めれば飲み薬、そのままなら塗り薬として使える。この国の人間なら旅には必ず携帯する必需品らしい。俺もその効果は身をもって知っている。
『腕に塗りますか?』
「飲ませろ」
捕らわれていて傷だらけなのに、やっぱりアニキはアニキだ。少しだけ懐かしくなる。アニキもあの黒い獣と同じかもしれない。見た目は怖いし態度は横柄だけど、慣れてくると少し可愛いと思ってしまう。可愛いなんて思っている事がバレたらボコボコにされそうだけど。
「……何がおかしい」
『なんでもありません』
水筒のコップに痛み止めを用意してアニキの口に持っていくと、不満そうな目でにらまれた。
「……飲ませろと言っただろうが」
少しの間意味が分からずアニキの顔を眺める。何となく理解して口に含むと、自由になった右手で引き寄せられた。
唇が触れると同時にアニキの舌が強引に割り込んでくる。アニキは飢えた獣のようにごくりごくりと痛み止めを飲み干した。
薬が無くなっても、わずかな息継ぎを繰り返して口づけは続いた。薬は苦く、血の味がするし、頭は酸欠になりそうだ。でもアニキが求めるなら、なんだって差し出したい。奪ってばかりの人生なのに、何も持っていないアニキだから。
唇が離れて、アニキの身体からふっと力が抜ける。俺は息が上がってしまい、荒い呼吸を繰り返した。
そんな俺を見て久々にアニキが笑う。
「……相変わらずのマヌケ面だな」
『……よく見ると可愛い顔です』
少し痛みが落ち着いたのか、アニキは俺の短剣を取ると、俺よりずっと慣れた手つきで左手と両足に絡まるツタを切り落としていった。ツタが外れるたびに新たな血が流れる。 ハラハラする俺をよそに、アニキは淀みない流れでツタを引きはがすと、忌々しそうに短剣でズタズタにした。
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