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悪魔との契約
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グリモフ事件の資料は膨大だった。
異世界に来て半年の俺では理解出来ない単語が山のように並んでいて、目まいがしそうだ。
とりあえず目次ページの単語を訳して、知りたい情報がありそうなページをめくる。それから持参したノートにメモを取っていった。
それにしても、あのオカマの大男、かなりの犯罪を重ねてるな。
ガイドブックには載っていなかった、殺人や誘拐や奴隷売買といった不穏な単語ばかりが延々と続き、今更だけど自分がよく無事だったと感動した。アニキが殺したがっていたのも無理もない。アニキの仲間が盗賊に殺されたのも、こいつの金儲けのためだもんな。
グリモフ本人は、まだ全ての罪が明らかになっていないので、相変わらず投獄されているらしい。
生きてると知ってほっとした。
もしかしたら、グリモフが盗賊らしき侵入者に殺害されたという記事が載っているかもしれないと不安だったんだ。アニキはひょっとして俺との約束を守ってくれているのかも。それとも投獄されて手が出せないのかな。後で図書館の兄さんに、どんな所に投獄されているのか聞いてみよう。できれば一生出てこられない場所がいい。それならアニキの命も安泰だ。
少しほっとしながら、グリモフ事件の被害者や、犯罪に加担した人たちのページをチェックしていた時だった。
不意にその文字が目に入った。
「……え?」
胸騒ぎがして辞書を引く手が震えた。
次に文字の単語をメモして、図書館を利用している人をつかまえ、読みと意味を確認した。
理解するほどに、ショックが襲ってきて、自分でも血の気が引くのが分かった。
「大丈夫?」
『……大丈夫です』
心配してくれたお姉さんにかろうじて返事をし、席に戻ると、もう一度そのページを見つめた。
処刑者リストの中に、盗賊のアニキの名前があった。
***
それから自分がどうしていたのか、しばらく記憶がない。
気がつけば王宮を出て、暗くなりかけた王都を歩いていた。
……何でアニキが。
別人だと思いたかった。
でも資料には、レヴィンという名の盗賊の外見の特徴が細かく書かれていた。
年齢や所属する盗賊団の名前とアジトの位置、どの情報を見てもあのアニキと共通する事ばかりだ。
(この国では盗賊は捕まったら処刑される。だから俺は大人しく捕まるつもりはない)
アニキはそう言っていたのに。
グリモフが生きているのに、どうしてアニキが……。
目の前が涙で滲む。
拭っても拭っても、あとから涙が溢れて止まらない。
「うぅ……」
アニキと一緒に泊まった宿屋が視界にぼんやりと映り、自分が無意識にどこを目指していたか知った。
壁にもたれて、人目も気にせず泣く。
どうしてあの時、確実にアニキを止めなかったのだろう。もっと真剣に復讐を止めるよう説得していれば、アニキは処刑されずにすんだのに……。
声を殺して泣いていると、しわがれた低い声が耳に響いた。
「若者よ、お前の未来を占ってやろうか?」
目の前に立っていたのは、地蔵のような顔の爺さんだった。
異世界に来て半年の俺では理解出来ない単語が山のように並んでいて、目まいがしそうだ。
とりあえず目次ページの単語を訳して、知りたい情報がありそうなページをめくる。それから持参したノートにメモを取っていった。
それにしても、あのオカマの大男、かなりの犯罪を重ねてるな。
ガイドブックには載っていなかった、殺人や誘拐や奴隷売買といった不穏な単語ばかりが延々と続き、今更だけど自分がよく無事だったと感動した。アニキが殺したがっていたのも無理もない。アニキの仲間が盗賊に殺されたのも、こいつの金儲けのためだもんな。
グリモフ本人は、まだ全ての罪が明らかになっていないので、相変わらず投獄されているらしい。
生きてると知ってほっとした。
もしかしたら、グリモフが盗賊らしき侵入者に殺害されたという記事が載っているかもしれないと不安だったんだ。アニキはひょっとして俺との約束を守ってくれているのかも。それとも投獄されて手が出せないのかな。後で図書館の兄さんに、どんな所に投獄されているのか聞いてみよう。できれば一生出てこられない場所がいい。それならアニキの命も安泰だ。
少しほっとしながら、グリモフ事件の被害者や、犯罪に加担した人たちのページをチェックしていた時だった。
不意にその文字が目に入った。
「……え?」
胸騒ぎがして辞書を引く手が震えた。
次に文字の単語をメモして、図書館を利用している人をつかまえ、読みと意味を確認した。
理解するほどに、ショックが襲ってきて、自分でも血の気が引くのが分かった。
「大丈夫?」
『……大丈夫です』
心配してくれたお姉さんにかろうじて返事をし、席に戻ると、もう一度そのページを見つめた。
処刑者リストの中に、盗賊のアニキの名前があった。
***
それから自分がどうしていたのか、しばらく記憶がない。
気がつけば王宮を出て、暗くなりかけた王都を歩いていた。
……何でアニキが。
別人だと思いたかった。
でも資料には、レヴィンという名の盗賊の外見の特徴が細かく書かれていた。
年齢や所属する盗賊団の名前とアジトの位置、どの情報を見てもあのアニキと共通する事ばかりだ。
(この国では盗賊は捕まったら処刑される。だから俺は大人しく捕まるつもりはない)
アニキはそう言っていたのに。
グリモフが生きているのに、どうしてアニキが……。
目の前が涙で滲む。
拭っても拭っても、あとから涙が溢れて止まらない。
「うぅ……」
アニキと一緒に泊まった宿屋が視界にぼんやりと映り、自分が無意識にどこを目指していたか知った。
壁にもたれて、人目も気にせず泣く。
どうしてあの時、確実にアニキを止めなかったのだろう。もっと真剣に復讐を止めるよう説得していれば、アニキは処刑されずにすんだのに……。
声を殺して泣いていると、しわがれた低い声が耳に響いた。
「若者よ、お前の未来を占ってやろうか?」
目の前に立っていたのは、地蔵のような顔の爺さんだった。
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