転生したら神子さまと呼ばれています

カム

文字の大きさ
75 / 112
ep.5 地下の街

10地下大河のほとり

しおりを挟む
 悪くないと言われたのが嬉しくて、下を向いて笑いを噛み殺す。喜んじゃダメだ。悪くないって言われただけで、それは良いとは別なんだから。
 でも嬉しい。思わず大好きだって告白したくなるくらい嬉しくて、顔をもとに戻すのに苦労した。

「お前こそ、ヨルグの方が良かったんじゃないか」
「え?」
「あんな、どこが取り柄かわからないようなお坊ちゃんでも、楽しそうに話してただろ」

 アルバート、ヨルグに厳しいな。

「それに、護衛ならジャック隊長やレイ隊長の方が俺より頼りになる」

「ヨルグは昔の知り合いにちょっとだけ似てるんだ。だから安心感があるけど、やっぱりアルがいいよ。アルは……好きだった人に似てる」

 うわぁ、言ってしまった。

「ご、ごめん。アルのことをその人の代わりにしてるわけじゃないんだ。アルバートのこともちゃんと好きだよ」

 焦ってそう付け加えると、アルは俺の頭をポンポンと撫でた。

「全部思い出したのか?」
「少しだけ。本当は思い出すのが怖いんだ。だって、八百年たってるから」
「じゃあ思い出さなくていい。お前は今を生きろ」
「何それ」
「目の前の俺だけ見ていればいいってことだな」
「えっ?」

 アルバートがニヤニヤしてる。

「神子さまに好かれるのも悪くない」
「アルバートも、少しは……俺を好きになってよ」
「お前を好きになると大変そうだからな」
「でも結婚してるんだし」
「考えておいてやる」

 考えるって……好きになるってそういうものじゃないと思うけど。やっぱりアルバートはルーリーさんのことが忘れられないのかな。そうだよな。あの人は綺麗で優しそうな女の人だったし、男で頼りなくて、面倒な契約の対象である俺とじゃ比較にならないよな。

***

 もう一度足に魔法をかけてから、ゴツゴツした岩場を出発した。近くで聞こえてきていた水の音はだんだんと大きくなってきて、そのうち地下大河のほとりに出た。

 看板にアルバートが灯りの瓶をかざして文字を読む。

「おかしいな。この辺りにエルトリアの出口に続く道があるはずなんだが」
「見当たらないの?」
「暗すぎて見逃したのかもしれないな」

 相談した結果、引き返して道を探すより先に進むことにした。この先の道の方が人も多そうだし、食料が尽きかけていたから。

「誰かに聞けば分かるだろう。あまり兵士くずれの人間に会わなければいいが」

 歩いているうちに大きな地下道が見えてきた。暗闇の中にテントがたくさん設置されているような気がする。テント型の住居かな。歩いている人も何人か。

「カナ、フードを深く被ってろ。俺から離れるな」
「うん」

 手を握ってもらってテントに近づく。テントのそばに立っているおじさんは天井近くを見上げていた。格好は古着を重ね着していて、剣は持ってない。背中にはナタを背負ってるけど、血はついてなさそう。

「なあ、ここは地底湖の近くなのか?」

 アルバートがおじさんに話しかける。

「ああ。ここは地底湖のそばにあるスラムさ。あんたら兵士には見えないな。魚をとりたきゃ金を払ってもらう」
「魚とれるの?」

 話しかけたらアルに睨まれた。

「ここら一帯の地底湖の釣り場はうちのボスが仕切っている。金を払えば道具を貸してやるぜ。勝手に魚をとるやつは川に沈める事にしてる」

「釣りはいい」
「やりたい!」

 俺とアルバートの言葉が被った。やっぱり睨まれる。でも、釣りってした事ないし。

「やっていきな。この先に店らしい店もないぜ。ついでにサデから流れてきた集団と自警団達が揉めてるから、どうせ足止めをくらってどこにも行けない」

「サデ?」

「なんでもサデの王族って話だ。この先の平原に居座ってる。本当かどうか知らねぇが、金になると判断した盗賊やスラムの連中が追いかけ回してる。自警団は両方から金をとるつもりさ」

「お金になるって……どうして?」

「王族なら捕まえて売れるだろ」

 売るって……人を? やっぱりスラム街怖い。

「まあ俺はサデの王族なんかに関わるより、魚か鳥を捕まえた方が金になると思うがな」

「鳥? 地下にも鳥がいるのか?」

「さっき丸っこくて不恰好な鳥が上を飛んでたんだ。そいつの周りは火の玉みたいに明るくてな、あれはきっとサデの王族のペットだな。あいつを捕まえて売れば地上に出るのも夢じゃない」

 おもちに似た鳥もいるんだな、そう思ってポケットに手を突っ込む。
 あれ? おもちがいない。ずっと静かだったから寝てると思ってた。ポケットにはおもちの代わりに同じくらいの重さの羽毛とお金が入ってる。

「おもちがお金に」
「その金ならそこそこの道具と餌を貸してやる。釣り場はこっちだ。ついてこい」

 仕方なくおじさんの後をついていく。アルバートが俺にしか聞こえない小声で囁いた。

「お前の鳥がじっとしているわけないだろ。昨日の夜中も何度か出入りしてたぜ。お前の知らない間に遊びまわってるんだよ」
「……」
「しかし金を集めてくるとは、ガルーダってのは思ったより使える鳥だな」

 俺、おもちの飼い主失格かも。

しおりを挟む
感想 244

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

処理中です...