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ep.5 地下の街
10地下大河のほとり
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悪くないと言われたのが嬉しくて、下を向いて笑いを噛み殺す。喜んじゃダメだ。悪くないって言われただけで、それは良いとは別なんだから。
でも嬉しい。思わず大好きだって告白したくなるくらい嬉しくて、顔をもとに戻すのに苦労した。
「お前こそ、ヨルグの方が良かったんじゃないか」
「え?」
「あんな、どこが取り柄かわからないようなお坊ちゃんでも、楽しそうに話してただろ」
アルバート、ヨルグに厳しいな。
「それに、護衛ならジャック隊長やレイ隊長の方が俺より頼りになる」
「ヨルグは昔の知り合いにちょっとだけ似てるんだ。だから安心感があるけど、やっぱりアルがいいよ。アルは……好きだった人に似てる」
うわぁ、言ってしまった。
「ご、ごめん。アルのことをその人の代わりにしてるわけじゃないんだ。アルバートのこともちゃんと好きだよ」
焦ってそう付け加えると、アルは俺の頭をポンポンと撫でた。
「全部思い出したのか?」
「少しだけ。本当は思い出すのが怖いんだ。だって、八百年たってるから」
「じゃあ思い出さなくていい。お前は今を生きろ」
「何それ」
「目の前の俺だけ見ていればいいってことだな」
「えっ?」
アルバートがニヤニヤしてる。
「神子さまに好かれるのも悪くない」
「アルバートも、少しは……俺を好きになってよ」
「お前を好きになると大変そうだからな」
「でも結婚してるんだし」
「考えておいてやる」
考えるって……好きになるってそういうものじゃないと思うけど。やっぱりアルバートはルーリーさんのことが忘れられないのかな。そうだよな。あの人は綺麗で優しそうな女の人だったし、男で頼りなくて、面倒な契約の対象である俺とじゃ比較にならないよな。
***
もう一度足に魔法をかけてから、ゴツゴツした岩場を出発した。近くで聞こえてきていた水の音はだんだんと大きくなってきて、そのうち地下大河のほとりに出た。
看板にアルバートが灯りの瓶をかざして文字を読む。
「おかしいな。この辺りにエルトリアの出口に続く道があるはずなんだが」
「見当たらないの?」
「暗すぎて見逃したのかもしれないな」
相談した結果、引き返して道を探すより先に進むことにした。この先の道の方が人も多そうだし、食料が尽きかけていたから。
「誰かに聞けば分かるだろう。あまり兵士くずれの人間に会わなければいいが」
歩いているうちに大きな地下道が見えてきた。暗闇の中にテントがたくさん設置されているような気がする。テント型の住居かな。歩いている人も何人か。
「カナ、フードを深く被ってろ。俺から離れるな」
「うん」
手を握ってもらってテントに近づく。テントのそばに立っているおじさんは天井近くを見上げていた。格好は古着を重ね着していて、剣は持ってない。背中にはナタを背負ってるけど、血はついてなさそう。
「なあ、ここは地底湖の近くなのか?」
アルバートがおじさんに話しかける。
「ああ。ここは地底湖のそばにあるスラムさ。あんたら兵士には見えないな。魚をとりたきゃ金を払ってもらう」
「魚とれるの?」
話しかけたらアルに睨まれた。
「ここら一帯の地底湖の釣り場はうちのボスが仕切っている。金を払えば道具を貸してやるぜ。勝手に魚をとるやつは川に沈める事にしてる」
「釣りはいい」
「やりたい!」
俺とアルバートの言葉が被った。やっぱり睨まれる。でも、釣りってした事ないし。
「やっていきな。この先に店らしい店もないぜ。ついでにサデから流れてきた集団と自警団達が揉めてるから、どうせ足止めをくらってどこにも行けない」
「サデ?」
「なんでもサデの王族って話だ。この先の平原に居座ってる。本当かどうか知らねぇが、金になると判断した盗賊やスラムの連中が追いかけ回してる。自警団は両方から金をとるつもりさ」
「お金になるって……どうして?」
「王族なら捕まえて売れるだろ」
売るって……人を? やっぱりスラム街怖い。
「まあ俺はサデの王族なんかに関わるより、魚か鳥を捕まえた方が金になると思うがな」
「鳥? 地下にも鳥がいるのか?」
「さっき丸っこくて不恰好な鳥が上を飛んでたんだ。そいつの周りは火の玉みたいに明るくてな、あれはきっとサデの王族のペットだな。あいつを捕まえて売れば地上に出るのも夢じゃない」
おもちに似た鳥もいるんだな、そう思ってポケットに手を突っ込む。
あれ? おもちがいない。ずっと静かだったから寝てると思ってた。ポケットにはおもちの代わりに同じくらいの重さの羽毛とお金が入ってる。
「おもちがお金に」
「その金ならそこそこの道具と餌を貸してやる。釣り場はこっちだ。ついてこい」
仕方なくおじさんの後をついていく。アルバートが俺にしか聞こえない小声で囁いた。
「お前の鳥がじっとしているわけないだろ。昨日の夜中も何度か出入りしてたぜ。お前の知らない間に遊びまわってるんだよ」
「……」
「しかし金を集めてくるとは、ガルーダってのは思ったより使える鳥だな」
俺、おもちの飼い主失格かも。
でも嬉しい。思わず大好きだって告白したくなるくらい嬉しくて、顔をもとに戻すのに苦労した。
「お前こそ、ヨルグの方が良かったんじゃないか」
「え?」
「あんな、どこが取り柄かわからないようなお坊ちゃんでも、楽しそうに話してただろ」
アルバート、ヨルグに厳しいな。
「それに、護衛ならジャック隊長やレイ隊長の方が俺より頼りになる」
「ヨルグは昔の知り合いにちょっとだけ似てるんだ。だから安心感があるけど、やっぱりアルがいいよ。アルは……好きだった人に似てる」
うわぁ、言ってしまった。
「ご、ごめん。アルのことをその人の代わりにしてるわけじゃないんだ。アルバートのこともちゃんと好きだよ」
焦ってそう付け加えると、アルは俺の頭をポンポンと撫でた。
「全部思い出したのか?」
「少しだけ。本当は思い出すのが怖いんだ。だって、八百年たってるから」
「じゃあ思い出さなくていい。お前は今を生きろ」
「何それ」
「目の前の俺だけ見ていればいいってことだな」
「えっ?」
アルバートがニヤニヤしてる。
「神子さまに好かれるのも悪くない」
「アルバートも、少しは……俺を好きになってよ」
「お前を好きになると大変そうだからな」
「でも結婚してるんだし」
「考えておいてやる」
考えるって……好きになるってそういうものじゃないと思うけど。やっぱりアルバートはルーリーさんのことが忘れられないのかな。そうだよな。あの人は綺麗で優しそうな女の人だったし、男で頼りなくて、面倒な契約の対象である俺とじゃ比較にならないよな。
***
もう一度足に魔法をかけてから、ゴツゴツした岩場を出発した。近くで聞こえてきていた水の音はだんだんと大きくなってきて、そのうち地下大河のほとりに出た。
看板にアルバートが灯りの瓶をかざして文字を読む。
「おかしいな。この辺りにエルトリアの出口に続く道があるはずなんだが」
「見当たらないの?」
「暗すぎて見逃したのかもしれないな」
相談した結果、引き返して道を探すより先に進むことにした。この先の道の方が人も多そうだし、食料が尽きかけていたから。
「誰かに聞けば分かるだろう。あまり兵士くずれの人間に会わなければいいが」
歩いているうちに大きな地下道が見えてきた。暗闇の中にテントがたくさん設置されているような気がする。テント型の住居かな。歩いている人も何人か。
「カナ、フードを深く被ってろ。俺から離れるな」
「うん」
手を握ってもらってテントに近づく。テントのそばに立っているおじさんは天井近くを見上げていた。格好は古着を重ね着していて、剣は持ってない。背中にはナタを背負ってるけど、血はついてなさそう。
「なあ、ここは地底湖の近くなのか?」
アルバートがおじさんに話しかける。
「ああ。ここは地底湖のそばにあるスラムさ。あんたら兵士には見えないな。魚をとりたきゃ金を払ってもらう」
「魚とれるの?」
話しかけたらアルに睨まれた。
「ここら一帯の地底湖の釣り場はうちのボスが仕切っている。金を払えば道具を貸してやるぜ。勝手に魚をとるやつは川に沈める事にしてる」
「釣りはいい」
「やりたい!」
俺とアルバートの言葉が被った。やっぱり睨まれる。でも、釣りってした事ないし。
「やっていきな。この先に店らしい店もないぜ。ついでにサデから流れてきた集団と自警団達が揉めてるから、どうせ足止めをくらってどこにも行けない」
「サデ?」
「なんでもサデの王族って話だ。この先の平原に居座ってる。本当かどうか知らねぇが、金になると判断した盗賊やスラムの連中が追いかけ回してる。自警団は両方から金をとるつもりさ」
「お金になるって……どうして?」
「王族なら捕まえて売れるだろ」
売るって……人を? やっぱりスラム街怖い。
「まあ俺はサデの王族なんかに関わるより、魚か鳥を捕まえた方が金になると思うがな」
「鳥? 地下にも鳥がいるのか?」
「さっき丸っこくて不恰好な鳥が上を飛んでたんだ。そいつの周りは火の玉みたいに明るくてな、あれはきっとサデの王族のペットだな。あいつを捕まえて売れば地上に出るのも夢じゃない」
おもちに似た鳥もいるんだな、そう思ってポケットに手を突っ込む。
あれ? おもちがいない。ずっと静かだったから寝てると思ってた。ポケットにはおもちの代わりに同じくらいの重さの羽毛とお金が入ってる。
「おもちがお金に」
「その金ならそこそこの道具と餌を貸してやる。釣り場はこっちだ。ついてこい」
仕方なくおじさんの後をついていく。アルバートが俺にしか聞こえない小声で囁いた。
「お前の鳥がじっとしているわけないだろ。昨日の夜中も何度か出入りしてたぜ。お前の知らない間に遊びまわってるんだよ」
「……」
「しかし金を集めてくるとは、ガルーダってのは思ったより使える鳥だな」
俺、おもちの飼い主失格かも。
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