転生したら神子さまと呼ばれています

カム

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ep.5 地下の街

1 力任せ

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 ぼやけた景色はすぐにもとに戻った。転移先は移動に失敗したのかと思うくらいもとの場所と似たような部屋だった。
 でもよく見ると違う。足もとに描かれた魔法陣は同じだけど、そばには火のついていない燭台と蝋燭が数本。暗いけど目を凝らせば壁際に木製のキャビネットがあって、書物や紙が散らばってる。荷物の入った箱もある。何の魔力も感じないし近くに人の気配はない。

「本拠地じゃなさそうだな……」
「呪術は見当たらないよ。アル、少し休んでいて」

 アルバートは壁にもたれかかると、そのまま座り込んだ。足の傷が酷くなってる。額には脂汗が浮かんでいた。痛み止めの回復魔法を唱えると、足の傷が少しマシになる。
 それから転移してきた魔法陣の模様を靴でゴシゴシ擦って消す。これなら多分追っ手は来ない。

「神子さまもけっこう力まかせなんだな」
「えっ?」
「俺のイメージしてきた神子さまは、杖や呪文で闇や魔法を祓っていた。まさか手で引きちぎったり靴で消すとは思わなかった」
「ごめん。イメージ壊して」
「いや」

 アルバートは笑いかけて痛みに顔をしかめた。

「治療するから待ってて。力任せの治療だけど」
「ほとんどの人間は呪術に対して無力だ。神官や聖騎士でも、呪いの治療には何ヶ月もかける。そしてなかなか全快しない。やはり神子さまは桁違いだな」
「……そうかな」

 俺にもっと力があれば捕まったりしなかったし、アルバートの足をこんなに血まみれにすることもなかったと思う。
 アルバートの白いズボンは血と泥と焦げ跡ですごく汚れていた。破れた場所から裂いて、鎖のような呪術を探す。複雑に絡み合う針金のような呪いを一本ずつ引き抜いては砕いた。たしかに力任せの治療かも。

「くっ……」
「痛かったら眠ってていいよ。眠りの魔法、唱えようか?」
「いや、大丈夫だ」
「でも」
「ここがどこだか分からないから眠るのは危険だ。神子さまにくっついていれば痛みが半減する」
「そ、そう? それならいいけど」

 きっと痛いと思うからすぐに治そう。俺は前世で病院にいる時、苦しかったり辛かったりすると痛みから逃れたくて寝る努力をしてた。アルバートは偉いな。
 集中して針金を一本ずつ取り除き、大きな呪いは全部消した。それから注意深く小さな破片みたいな呪いを取っていく。全部綺麗にしてから仕上げに回復魔法をかけた。アルバートの顔色が良くなる。ようやく一呼吸つけた。

「助かった。さすがは神子さまだな。歩けなくなるところだった」
「そんなことないよ。アルバートだって魔法が使えるだろ」
「今はおまじないくらいの魔法しか使えない」
「えっ、どうして?」
「契約の口づけをしていなかったからな」
「……それをしないと魔法使えないの?」
「神子と結婚する者は、生まれ持った魔力に制限をかけられる。神子から魔力を貰わなければ使うたびに魔力が減っていき、いずれなくなってしまう。もちろん神子に危害を加えることも出来ない。神子を裏切らないようにするためだ」

 アルバートは何でもないことのように言ったけど、俺は胃のあたりがずしりと重くなった。俺と離婚できないっていってたのはそのせいなのか。俺が攫われたからアルバートは魔法が上手く使えなかったんだ。魔法が使えるはずなのに足の傷が酷いから変だと思った。

「ごめん。俺のせいで」
「定期的に貰えば問題ない。それに、たくさん貰えばその辺りの神官より魔力が多くなる」
「分かった。いいよ、好きなだけ取って」

 ぎゅっと目を閉じてそう言うと抱き寄せられた。

「かなめ様にそう言っていただけたので、ありがたく頂きます」

 手を取られたので薄目を開けると、アルバートが俺の手の甲にそっと唇を押し当てるところだった。その仕草に胸がきゅんとなる。いつもみたいにキスしてくれないのかな。期待していることを見透かされそうで慌てて目を逸らした。今は大変な時なんだ。変なこと考えてる場合じゃない。

「とりあえず移動しよう。ここがどこなのか把握したい。あまり王都から離れていないとありがたいな。安全を確認して救助要請を出すか」
「うん。でもアルバート……」
「どうした?」
「足が、その……ズボンがボロボロだから」

 正直に言うと直視できない。アルバートの足には筋肉が程よくついてて何だかセクシーだし、結婚式の夜の裸のアルバートを思い出してドキドキする。
 俺の視線をたどってアルバートは肩をすくめた。

「着替えを探すか。足を出して歩いてもかなめ様しか喜ばないからな」
「別に喜んでないよっ」
「マントを返してもらうか」
「それだけは駄目」

 慌ててお尻を押さえると、アルバートは今度こそ吹き出した。
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