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ep.4 呪術師
6 ルドとネリ
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目が覚めた。相変わらず鳥籠の中だ。鳥籠の周辺は暗くて、天幕がかけられているから全ては見通せないけど、見える範囲には誰もいなかった。部屋の壁に飾られた黒い蝋燭がかなり短くなっている。数時間は眠っていたと思う。
俺は膝を抱えて自分をぎゅっと抱きしめた。涙がボロボロと出て服を濡らした。声を殺して泣く。
昔のアルのことを想って胸が締め付けられた。どうして忘れていたんだろう。辛すぎる記憶だから忘れたかったのかな。
アルに会いたい。こうして自分が生きているのだからアルだってきっと助かったはずだ。でも、あれは八百年前の話で、たとえあの時助かったとしても、あのアルはとっくに寿命を迎えているに決まってる。一緒に生きて、同じ時代に死にたかったのに。どうして俺だけ。
「ピィ」
はっとして顔を上げた。どこかから聞こえたよく知っている鳴き声。
見れば床の上をちょんちょんと、丸っこい鳥が跳ねながらこっちにやってくるところだった。
「おもち……!」
おもちは俺の声を聞いて鳥籠に突進して来た。
「待って、鳥籠には結界が」
「ピィ」
おもちは結界をものともせず突破した。呪術師の作った結界に丸い穴が開く。おもちはそのまま鳥籠に飛び込んでくると俺の手の中におさまった。
「おもち……」
おもちは俺の手首の鎖をしばらくつついていたけど、諦めてごそごそと袖から服の中に入っていった。結界を突破してもダメージはそれほど受けていない。小さい穴だからだろうか。
足音がして思わず姿勢をただした。きっと鳥籠の結界に穴が開いたのがバレたんだ。
「神子さま、おや……絶望して泣いておられたのですか」
俺を攫ったあの冷たそうな男がやって来た。被っていた黒いフードを脱いでいるから柔らかそうな黒髪や整った顔立ち、紫色の瞳の色まではっきりと見えた。
その顔を涙を拭って睨みつける。おもちの存在がばれないようにしないと。
「あら、確かにあんたの言うとおりサデの神子より綺麗な顔してるわね」
さらに足音がして後ろから女性の声がした。黒い呪術師の衣装を着た三十代くらいの女性だ。髪を肩で切りそろえた派手な顔立ちのその人は、大きな口に真っ赤な口紅を塗っている。俺を見る目つきは男と同じように冷たい。
「結界を解こうとしても無駄だよ。ルドの結界は強力なの。どれだけ足掻いてもせいぜいその程度の穴しか開けられやしない」
「ネリ、無駄口を叩くな」
ルドっていうのが俺を攫った男で、ネリがこの女の人か。仲はそんなに良くなさそう。
「俺をどうするの?」
ルドに怒られて不貞腐れたネリが鳥籠に近づいて来て、真っ赤な口の端をあげて笑った。
「あんたはあたしたち呪術師の国の『暴風避け』に使わせてもらうよ。死なない程度に生かしてやるから安心しな」
「暴風避け?」
「神子なら魔法の風も魔物も寄せ付けないだろ? 各国から神子を捕まえて魔物の発生源に連れて行くのさ。いいビジネスになる。どんな大国もあたしらに従うだろうね」
このネリって人は口が軽いみたいだ。言っていることは酷いけど、夢で見た八百年前の神官たちとそれほど変わらない。
「なんとか言ったらどうなんだい? 顔色も変えずに、生意気な神子だね」
ネリは懐から一枚の紙を取り出すと、鳥籠に向けて放った。一瞬で鳥籠が炎に包まれる。記憶の中の防御魔法を使うか迷ったけど、炎は籠の中までは来なかったからむせながらなんとか耐えた。それでもすごく熱い。
「余計なことをするな。傷が付いたらどうする」
「神子ならこの程度で死にはしないよ。こいつは八百年も生きてたんだろう?」
「主に逆らうのか?」
ルドの言葉にネリは炎を止めた。炎が少しずつ小さくなって煙が立ちこめる。床に敷かれていたクッションと俺の着ていたマントの裾が少し焦げていた。
「お綺麗な顔の神子を見ていると腹がたつんだよ」
「お前の神子嫌いなどどうでもいい。主の命令に従え」
ネリは肩をすくめると部屋を出ていった。喉が熱くて手で押さえる。
主と言ってたけど、このルドという人じゃなさそうだ。組織のリーダー格はどこにいるんだろう。
俺は膝を抱えて自分をぎゅっと抱きしめた。涙がボロボロと出て服を濡らした。声を殺して泣く。
昔のアルのことを想って胸が締め付けられた。どうして忘れていたんだろう。辛すぎる記憶だから忘れたかったのかな。
アルに会いたい。こうして自分が生きているのだからアルだってきっと助かったはずだ。でも、あれは八百年前の話で、たとえあの時助かったとしても、あのアルはとっくに寿命を迎えているに決まってる。一緒に生きて、同じ時代に死にたかったのに。どうして俺だけ。
「ピィ」
はっとして顔を上げた。どこかから聞こえたよく知っている鳴き声。
見れば床の上をちょんちょんと、丸っこい鳥が跳ねながらこっちにやってくるところだった。
「おもち……!」
おもちは俺の声を聞いて鳥籠に突進して来た。
「待って、鳥籠には結界が」
「ピィ」
おもちは結界をものともせず突破した。呪術師の作った結界に丸い穴が開く。おもちはそのまま鳥籠に飛び込んでくると俺の手の中におさまった。
「おもち……」
おもちは俺の手首の鎖をしばらくつついていたけど、諦めてごそごそと袖から服の中に入っていった。結界を突破してもダメージはそれほど受けていない。小さい穴だからだろうか。
足音がして思わず姿勢をただした。きっと鳥籠の結界に穴が開いたのがバレたんだ。
「神子さま、おや……絶望して泣いておられたのですか」
俺を攫ったあの冷たそうな男がやって来た。被っていた黒いフードを脱いでいるから柔らかそうな黒髪や整った顔立ち、紫色の瞳の色まではっきりと見えた。
その顔を涙を拭って睨みつける。おもちの存在がばれないようにしないと。
「あら、確かにあんたの言うとおりサデの神子より綺麗な顔してるわね」
さらに足音がして後ろから女性の声がした。黒い呪術師の衣装を着た三十代くらいの女性だ。髪を肩で切りそろえた派手な顔立ちのその人は、大きな口に真っ赤な口紅を塗っている。俺を見る目つきは男と同じように冷たい。
「結界を解こうとしても無駄だよ。ルドの結界は強力なの。どれだけ足掻いてもせいぜいその程度の穴しか開けられやしない」
「ネリ、無駄口を叩くな」
ルドっていうのが俺を攫った男で、ネリがこの女の人か。仲はそんなに良くなさそう。
「俺をどうするの?」
ルドに怒られて不貞腐れたネリが鳥籠に近づいて来て、真っ赤な口の端をあげて笑った。
「あんたはあたしたち呪術師の国の『暴風避け』に使わせてもらうよ。死なない程度に生かしてやるから安心しな」
「暴風避け?」
「神子なら魔法の風も魔物も寄せ付けないだろ? 各国から神子を捕まえて魔物の発生源に連れて行くのさ。いいビジネスになる。どんな大国もあたしらに従うだろうね」
このネリって人は口が軽いみたいだ。言っていることは酷いけど、夢で見た八百年前の神官たちとそれほど変わらない。
「なんとか言ったらどうなんだい? 顔色も変えずに、生意気な神子だね」
ネリは懐から一枚の紙を取り出すと、鳥籠に向けて放った。一瞬で鳥籠が炎に包まれる。記憶の中の防御魔法を使うか迷ったけど、炎は籠の中までは来なかったからむせながらなんとか耐えた。それでもすごく熱い。
「余計なことをするな。傷が付いたらどうする」
「神子ならこの程度で死にはしないよ。こいつは八百年も生きてたんだろう?」
「主に逆らうのか?」
ルドの言葉にネリは炎を止めた。炎が少しずつ小さくなって煙が立ちこめる。床に敷かれていたクッションと俺の着ていたマントの裾が少し焦げていた。
「お綺麗な顔の神子を見ていると腹がたつんだよ」
「お前の神子嫌いなどどうでもいい。主の命令に従え」
ネリは肩をすくめると部屋を出ていった。喉が熱くて手で押さえる。
主と言ってたけど、このルドという人じゃなさそうだ。組織のリーダー格はどこにいるんだろう。
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