転生したら神子さまと呼ばれています

カム

文字の大きさ
55 / 112
ep.4 呪術師

3 魔法契約

しおりを挟む
「かなめ様、アルバートはきちんと役目をはたしていますか? 何か失礼な態度をとったりしていませんか? あいつ……いえ、あの者は聖騎士時代にはヘニング家出身だということを鼻にかけ、同期の者たちには酷い態度だったんですよ。かなめ様の前では取り繕っているかもしれませんが」

 馬車の中ではヨルグがずっとアルバートのことを喋っていた。ヨルグは二番目だったのが気に入らないんだろうな。そんなに神子と結婚っていいことなんだろうか。

「アルバートはワイアット殿と違って側室の子ですから父親の命令には逆らえなかったのでしょう。あの者が結婚の話を受けなければ、私がかなめ様と結婚できていたのに。占術師もいったいどうしてアルバートを選んだのか理解に苦しみます」

「俺はアルバートで良かったけど」
「騙されてはだめです! かなめ様、アルバートは顔こそ少し整っていますが、性格は冷血で不遜で少しもかなめ様のことを敬ってなどいないんですよ!」
「ヨルグ、落ち着いて」

 ヨルグが手を握ってくるので、慌てて距離をとる。馬車が狭くて逃げ場がない。ヨルグは嫌いじゃないけど、いきなり距離を詰められると困る。

「かなめ様、アルバートなど捨てて私と結婚の誓いを結びませんか? 一生大切にいたします」

 ヨルグの目が真剣だ。キスされそうになって冷や汗が出た。

「待って、ヨルグ……!」

 馬車が急停止したのはその直後だった。馬たちの鋭いいななきが聞こえる。椅子から落ちそうになったところをヨルグが支えてくれてなんとか無事だ。
 まだ王宮には到着していないと思う。馬車の外で何があったか分からないけど、扉の向こうで聖騎士たちが剣を抜く音が聞こえた。

「どうしたんだ、急に……!」
「ヨルグ! 馬車から出るな、かなめ様を守れ!」

 アラン隊長の声がして心臓が早鐘を打つ。同時に轟音と地面が揺れる音がした。ヨルグに支えてもらわないと立っていられないほどの振動だ。まさか、さっきの神官が何かしたんだろうか。
 馬車の窓から外を覗いてショックを受けた。馬車の外に黒っぽい何かがいる。人間によく似てるけど、手足が長い何か別の生き物。いや、本当に生き物だろうか。顔の位置には何か紙が貼られていて、身体は無機物を集めて人型にしたような姿だ。

「ヨルグ! あれ……」
「か、かなめ様、私の側から離れませんよう!」

 ヨルグの声が震えてる。顔が真っ青だ。
 馬車の天井からもすごい音が聞こえた。さっきの手足の長い黒いのが上に飛び乗ってたんだ。天井からミシミシと破壊音がした。

「うわぁぁ、どうすれば……! 隊長!」
「ヨルグ! 外に出ないとまずいよ!」

 ヨルグは剣を抜き、馬車の扉を開けた。外に出たヨルグの悲鳴が聞こえる。

「ヨルグ!」

 天井にいた手足の長い生き物がヨルグに飛びかかるのが見えた。そのままもつれるように地面に転がる。体格差がありすぎる。ヨルグが危ない、助けなきゃ!

 馬車を出てヨルグに近づこうとした俺の手を誰かが掴んで止めた。振り返って確認する。黒いフードを被った男だ。聖騎士でも神官でもない。

「は、放せ!」
「神子さま、お初にお目にかかります」

 男の声は子守唄のように耳に優しく響いた。めまいがしそうな声だ。何か強い魔力を感じる。

 馬車の外の風景は酷いものだった。狭い路地に、手足の長い黒い生き物が五体はいる。馬車を守っていた聖騎士たちとアラン隊長、ヨルグ、みんな黒い生き物に押さえつけられて地面に倒れて呻いている。血の匂いと鎖、辺りに広がる暗闇。

「あなたは呪術師ですか⁉︎ なぜこんな事を……!」
「さすがはエルトリアを八百年も支えた神子さま、私の呪術が効かないとは。殺すのが惜しくなる。しかも飾っておきたくなるような美しさだ」
「呪術を止めてください!」

 呪術師は微笑んで俺を見おろした。切れ長の瞳、顔を縁取る柔らかそうな髪、物腰は柔らかなのにゾッとするような冷たい目をしてる。全身から滲み出るのは憎悪なのかもしれない。

「神子さまが私と来てくださるのなら、他の者たちの命まではとらないと約束しましょう」

 約束……。この世界の約束はきっと魔法契約だ。それなら確実にみんなの命を守れる。俺の中に眠っていた呪文が記憶の底から浮かび上がってきた。呪術師に掴まれた俺の腕にするりと黒い鎖が巻き付く。代わりに呪術師の足に白いレース糸のようなものが絡み付いた。鎖と違って俺の呪文は軽いから、この男は気づいていないかもしれない。でも、鎖と同じかそれ以上に強力なんだ。どうして忘れていたんだろう。

「約束です。聖騎士たちには手を出さないでくださいね」





 

 







しおりを挟む
感想 244

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

処理中です...