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ep.0 目覚め前(アルバート視点)
10 大神殿
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「何の用だよ」
無視しようかとも思ったが、かろうじて言葉を絞り出した。追い払わなければ出て行かないと思ったのだ。
ワイアットは勝手にベッドまでやってくるとシーツを捲り上げた。制止しようとして手首を掴むと、ズキッと腕が痛んだ。
「なんだ、たいして重症じゃないな。呪われたんじゃなかったのか」
「うるさい。クソ兄貴、出ていけよ!」
「おいおい、弟の身体を心配してる兄にそれは酷いんじゃないか?」
「心配? 面白がっているだけだろ」
「心配してるのは本当だ。神殿は禁欲ジジイばっかりなんだろ。お前みたいな若い男が入ったら襲われるかもな。せいぜい気をつけろ」
そう言ってワイアットはゲラゲラ笑った。
アルバートはワイアットの下衆な発想に唖然とした。自分は神子さまや神官にそれほど忠誠心がないと思っていたが、兄ほどではなかったらしい。
「まあ、一生禁欲生活を送ることを考えたら、相手がジジイでもいないよりマシかもな。どうせ政略結婚なら相手の身分が高いにこしたことはないからな。
お前は神子の結婚相手だから、逆に美形の若い神官を食い放題できるんじゃないか。綺麗な顔の神官がいたら俺にもまわせよ」
「神殿はそんな場所じゃない。神官や司祭さまを侮辱するな」
できるだけ怒りを抑えて反論すると、ワイアットはアルバートの耳元で囁く。
「あいかわらずお前は甘いな。プライドばかり高くていつまでも子供だ。王族や神官なんて金と保身と権力のことばかり考えているものだ。お前も神殿に入れば分かるさ。絶大な権力を手にすると楽しいぞ。辺境で魔物の相手をするよりよほどいい」
「兄貴みたいな人間ばかりじゃない」
「それはどうかな」
ワイアットの指が動き、簡単な魔法の力が指先に集束する。兄は補助魔法が得意だ。とっさに枕元の聖騎士の剣に手を伸ばして柄に手をかける。本当に攻撃するつもりはないが、牽制は必要だ。
今はアルバートも兄と同じくらい魔法が使えるが、子供の頃は、先に魔法を習いはじめた兄に全くかなわなくて、何度も魔法をかけられたことを思い出す。肝心な時に言葉を話せなくなったり、ゆっくりとしか動けなくなったり、楽しみにしていたイベントで眠らされた記憶はトラウマでしかない。
「なんだよ。精神が落ち着く魔法をかけてやろうと思ったのに」
「あんたが消えてくれた方が落ち着く」
「相変わらず頭のかたい弟だ」
ワイアットが魔力を引っ込めたので寝室での睨み合いは終了した。
「神官どもに捨てられるなよ。神子の相手に相応しくなければ、お前は用無しだ」
ひらひらと手を振り、捨て台詞を残してワイアットは出て行った。
***
三日後、アルバートはゼフィーを連れて大神殿を訪れていた。
大神殿は国の中心だ。遠目からは巻貝のように見える白い建物は全部で七つある。中央の巨大な建物が神子さまの住居だ。螺旋状に地下から上層まで続いている。庭園は数えきれないほどあるらしい。
巡礼者がぐるりと神殿の正門から大通りまで行列を作っていたが、入り口は一箇所のみで警備はかなり厳しい。警備を担当するのは聖騎士の第一部隊だ。第一部隊にはグリフォンは少なく、騎士たちは地上戦や用心警護、都での戦いを得意としている。空からの警備を担当しているのは大型の鳥ジャターユだ。こちらは偵察と伝令、攻撃を兼ねていて、聖騎士が騎乗することはない。
アルバートはグリフォンを連れていて、聖騎士の正装をしていたため、巡礼者とは別に簡単なチェックのみで別の入り口から神殿に入れてもらうことができた。
関係者しかいない庭を通り、六つある別棟の一つの部屋に通される。ゼフィーは庭園で待機だ。神殿は空気がいいのか、ゼフィーもひんやりした石畳の庭園に寝そべって上空のジャターユを眺めている。確かに神殿に来てからアルバートの身体も軽い。空気は辺境とは比べものにならないほど澄んでいて、どんな場所にも光が満ちている。
神官は忙しそうに働いていて、使命感に溢れているように見える。兄が言うような欲にまみれた人間はいないような気がした。
「アルバート殿、お久しぶりです。任務でお怪我をされたとか」
しばらく待っていると、部屋に司祭がやって来た。以前アルバートの村にやって来たキリアン司祭だ。にこにこと穏やかな笑みを浮かべている。
無視しようかとも思ったが、かろうじて言葉を絞り出した。追い払わなければ出て行かないと思ったのだ。
ワイアットは勝手にベッドまでやってくるとシーツを捲り上げた。制止しようとして手首を掴むと、ズキッと腕が痛んだ。
「なんだ、たいして重症じゃないな。呪われたんじゃなかったのか」
「うるさい。クソ兄貴、出ていけよ!」
「おいおい、弟の身体を心配してる兄にそれは酷いんじゃないか?」
「心配? 面白がっているだけだろ」
「心配してるのは本当だ。神殿は禁欲ジジイばっかりなんだろ。お前みたいな若い男が入ったら襲われるかもな。せいぜい気をつけろ」
そう言ってワイアットはゲラゲラ笑った。
アルバートはワイアットの下衆な発想に唖然とした。自分は神子さまや神官にそれほど忠誠心がないと思っていたが、兄ほどではなかったらしい。
「まあ、一生禁欲生活を送ることを考えたら、相手がジジイでもいないよりマシかもな。どうせ政略結婚なら相手の身分が高いにこしたことはないからな。
お前は神子の結婚相手だから、逆に美形の若い神官を食い放題できるんじゃないか。綺麗な顔の神官がいたら俺にもまわせよ」
「神殿はそんな場所じゃない。神官や司祭さまを侮辱するな」
できるだけ怒りを抑えて反論すると、ワイアットはアルバートの耳元で囁く。
「あいかわらずお前は甘いな。プライドばかり高くていつまでも子供だ。王族や神官なんて金と保身と権力のことばかり考えているものだ。お前も神殿に入れば分かるさ。絶大な権力を手にすると楽しいぞ。辺境で魔物の相手をするよりよほどいい」
「兄貴みたいな人間ばかりじゃない」
「それはどうかな」
ワイアットの指が動き、簡単な魔法の力が指先に集束する。兄は補助魔法が得意だ。とっさに枕元の聖騎士の剣に手を伸ばして柄に手をかける。本当に攻撃するつもりはないが、牽制は必要だ。
今はアルバートも兄と同じくらい魔法が使えるが、子供の頃は、先に魔法を習いはじめた兄に全くかなわなくて、何度も魔法をかけられたことを思い出す。肝心な時に言葉を話せなくなったり、ゆっくりとしか動けなくなったり、楽しみにしていたイベントで眠らされた記憶はトラウマでしかない。
「なんだよ。精神が落ち着く魔法をかけてやろうと思ったのに」
「あんたが消えてくれた方が落ち着く」
「相変わらず頭のかたい弟だ」
ワイアットが魔力を引っ込めたので寝室での睨み合いは終了した。
「神官どもに捨てられるなよ。神子の相手に相応しくなければ、お前は用無しだ」
ひらひらと手を振り、捨て台詞を残してワイアットは出て行った。
***
三日後、アルバートはゼフィーを連れて大神殿を訪れていた。
大神殿は国の中心だ。遠目からは巻貝のように見える白い建物は全部で七つある。中央の巨大な建物が神子さまの住居だ。螺旋状に地下から上層まで続いている。庭園は数えきれないほどあるらしい。
巡礼者がぐるりと神殿の正門から大通りまで行列を作っていたが、入り口は一箇所のみで警備はかなり厳しい。警備を担当するのは聖騎士の第一部隊だ。第一部隊にはグリフォンは少なく、騎士たちは地上戦や用心警護、都での戦いを得意としている。空からの警備を担当しているのは大型の鳥ジャターユだ。こちらは偵察と伝令、攻撃を兼ねていて、聖騎士が騎乗することはない。
アルバートはグリフォンを連れていて、聖騎士の正装をしていたため、巡礼者とは別に簡単なチェックのみで別の入り口から神殿に入れてもらうことができた。
関係者しかいない庭を通り、六つある別棟の一つの部屋に通される。ゼフィーは庭園で待機だ。神殿は空気がいいのか、ゼフィーもひんやりした石畳の庭園に寝そべって上空のジャターユを眺めている。確かに神殿に来てからアルバートの身体も軽い。空気は辺境とは比べものにならないほど澄んでいて、どんな場所にも光が満ちている。
神官は忙しそうに働いていて、使命感に溢れているように見える。兄が言うような欲にまみれた人間はいないような気がした。
「アルバート殿、お久しぶりです。任務でお怪我をされたとか」
しばらく待っていると、部屋に司祭がやって来た。以前アルバートの村にやって来たキリアン司祭だ。にこにこと穏やかな笑みを浮かべている。
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