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土曜日、午後6時
14 十七階はどこだ
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如月に電話をかけると、何度目かのコール音の後に出てくれた。
「如月、あのさ……日本に帰るの、今日の夜じゃないと駄目かな?今日を逃すと次はやっぱり八年後になるのか?」
電話の向こうでちょっとした沈黙があった。
「……何かあったのですか?」
「康哉が、日本に帰りたくないとか言ってるんだ。俺どうしたらいいかな」
「ケンカでもされたんですか?」
「ケンカじゃないと思う。 俺が何言っても聞かないから、如月が説得してくれよ」
「分かりました。今康哉さんそちらにいます?」
「いや、今はいないけど……」
「では私から電話してみます。あと岬さん、指輪の件ですが、上司が直接話を聞きたいというので、こちらに来ていただけますか?」
「わかった。場所は?」
「17階の魔法関連部、異世界担当課です」
「すぐに行くよ」
如月との電話を切ると、俺は荷物をまとめて部屋を出た。
康哉が医者を連れてくるって言ってたけど、正直魔法治療は勘弁して欲しいし、指輪のおかげで歩けるくらいには元気だ。
廊下を歩いて三階に向かう。
魔法村の城に例えるとドラゴンゾンビが徘徊していた場所だ。そっくりな扉の前にはゾンビはいなくて、代わりに受付のお姉さんがいた。
『17階に行きたいのですが』
「許可証をお持ちですか?」
如月にもらった許可証を見せると、お姉さんはすんなり通してくれた。
「うわ……」
扉の奥に広がっていたのは、魔法村で見たパーティー会場と全く同じ広間だった。
今はパーティーは行われてなくて、料理の乗ったテーブルやドレスアップした人達もいない。でも、ぴかぴかの白い床や金色の柱、壁にかけられた大きな絵画まで全く同じで気味が悪かった。ルーシェンが間違えたのも無理はない。
端の一段高い場所に玉座がある。椅子が両脇に二つ。ルーシェン、この先あの椅子に座る度に思い出さないだろうか。つくづく悪趣味な魔法だったな。
そんな事を考えながら広間の脇にある通路を奥に進むと、ずっと上まで伸びる階段があった。まさか、階段で17階まで上るのか?フラフラだから体力もつかな。
『あの、すみません。17階に行きたいのですが、この階段をあがるのですか?』
歩いている兵士をつかまえて道を聞くと、階段の側にある石板を教えてくれた。人が二人くらい乗れそうな大きさの石板は、乗ればエレベーターのように勝手に上昇や下降するらしい。そういえば、グリモフ邸にも似たような石板の部屋があったな。
兵士にお礼を言って石板の一つに乗ると、それはゆっくり上昇を始めた。上昇しているうちに、動く石板の床にいろいろな異世界文字が浮き出ては消える。読めないから意味が分からない。
階段と透明エレベーターからは、途中の階で忙しく働いている人達が見えた。たまに別の石板で下降していく人や、階段を下りている人もいる。もう十時近いのに、みんな遅くまで働いているんだな。
何度か石板が止まったので、その度に下りては
『ここは何階ですか?』
と近くにいる人に訪ねる。
わりと頻繁に止まるせいで、何度も乗り直していると、だんだん気持ち悪くなってきた。乗り物に酔った時みたいに、吐き気と目眩がする。
それでも我慢して乗っていると、階段の一番上までたどり着いた。ここ何階だ?17階通りすぎたのかな。
石板エレベーターを下りて、フラフラと階段脇のくつろぎスペースに移動する。
豪華なソファーと、美しい夜景の見える窓があるというのに、今の俺はそれどころじゃなかった。気持ち悪い。吐きそうだ。
ソファーに突っ伏して、何とか吐き気を堪える。せっかく康哉に作ってもらった料理を食べたんだから、出来れば吐きたくない。
しばらくソファーでじっとしていると、少し吐き気がおさまってきた。代わりにぞくぞくと寒気がする。駄目だ。本格的に風邪だな。
石板エレベーターは気持ち悪くなるから、今度は階段を使おう。指輪をごしごし擦ると、俺は再び立ち上がった。
「如月、あのさ……日本に帰るの、今日の夜じゃないと駄目かな?今日を逃すと次はやっぱり八年後になるのか?」
電話の向こうでちょっとした沈黙があった。
「……何かあったのですか?」
「康哉が、日本に帰りたくないとか言ってるんだ。俺どうしたらいいかな」
「ケンカでもされたんですか?」
「ケンカじゃないと思う。 俺が何言っても聞かないから、如月が説得してくれよ」
「分かりました。今康哉さんそちらにいます?」
「いや、今はいないけど……」
「では私から電話してみます。あと岬さん、指輪の件ですが、上司が直接話を聞きたいというので、こちらに来ていただけますか?」
「わかった。場所は?」
「17階の魔法関連部、異世界担当課です」
「すぐに行くよ」
如月との電話を切ると、俺は荷物をまとめて部屋を出た。
康哉が医者を連れてくるって言ってたけど、正直魔法治療は勘弁して欲しいし、指輪のおかげで歩けるくらいには元気だ。
廊下を歩いて三階に向かう。
魔法村の城に例えるとドラゴンゾンビが徘徊していた場所だ。そっくりな扉の前にはゾンビはいなくて、代わりに受付のお姉さんがいた。
『17階に行きたいのですが』
「許可証をお持ちですか?」
如月にもらった許可証を見せると、お姉さんはすんなり通してくれた。
「うわ……」
扉の奥に広がっていたのは、魔法村で見たパーティー会場と全く同じ広間だった。
今はパーティーは行われてなくて、料理の乗ったテーブルやドレスアップした人達もいない。でも、ぴかぴかの白い床や金色の柱、壁にかけられた大きな絵画まで全く同じで気味が悪かった。ルーシェンが間違えたのも無理はない。
端の一段高い場所に玉座がある。椅子が両脇に二つ。ルーシェン、この先あの椅子に座る度に思い出さないだろうか。つくづく悪趣味な魔法だったな。
そんな事を考えながら広間の脇にある通路を奥に進むと、ずっと上まで伸びる階段があった。まさか、階段で17階まで上るのか?フラフラだから体力もつかな。
『あの、すみません。17階に行きたいのですが、この階段をあがるのですか?』
歩いている兵士をつかまえて道を聞くと、階段の側にある石板を教えてくれた。人が二人くらい乗れそうな大きさの石板は、乗ればエレベーターのように勝手に上昇や下降するらしい。そういえば、グリモフ邸にも似たような石板の部屋があったな。
兵士にお礼を言って石板の一つに乗ると、それはゆっくり上昇を始めた。上昇しているうちに、動く石板の床にいろいろな異世界文字が浮き出ては消える。読めないから意味が分からない。
階段と透明エレベーターからは、途中の階で忙しく働いている人達が見えた。たまに別の石板で下降していく人や、階段を下りている人もいる。もう十時近いのに、みんな遅くまで働いているんだな。
何度か石板が止まったので、その度に下りては
『ここは何階ですか?』
と近くにいる人に訪ねる。
わりと頻繁に止まるせいで、何度も乗り直していると、だんだん気持ち悪くなってきた。乗り物に酔った時みたいに、吐き気と目眩がする。
それでも我慢して乗っていると、階段の一番上までたどり着いた。ここ何階だ?17階通りすぎたのかな。
石板エレベーターを下りて、フラフラと階段脇のくつろぎスペースに移動する。
豪華なソファーと、美しい夜景の見える窓があるというのに、今の俺はそれどころじゃなかった。気持ち悪い。吐きそうだ。
ソファーに突っ伏して、何とか吐き気を堪える。せっかく康哉に作ってもらった料理を食べたんだから、出来れば吐きたくない。
しばらくソファーでじっとしていると、少し吐き気がおさまってきた。代わりにぞくぞくと寒気がする。駄目だ。本格的に風邪だな。
石板エレベーターは気持ち悪くなるから、今度は階段を使おう。指輪をごしごし擦ると、俺は再び立ち上がった。
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