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土曜日、午後6時
7 半獣の王様
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「後は特に注意事項はありません。魔法陣のある二十階には遅くとも11時30分には集合してくださいね」
「ああ」
「分かったよ」
遅れると次は八年後だったよな。
電車に乗り遅れるのとは訳が違うから気をつけよう。本当はもう少しルーシェンと会う時間が欲しかったけど仕方ない。これというのもみんなグリモフ……いや、アニキのせいだな。
でも、もしかしたら短い時間で良かったのかもしれない。長く会えば、その分別れが辛くなりそうだ。
考えこんでいると、庭園の入り口から兵士が一人やって来た。
「ハルバート主任、少しお話が」
如月が俺達から離れて兵士と話し込む。何かあったのかな。
「修平」
「……ん?」
「大丈夫か?」
「何が?」
「さっきからずっと上の空だ。何か気になる事でもあるのか?」
「いや……」
康哉は相変わらず鋭いな。ルーシェンと会えるかどうか気になるけど、康哉に心配されるほど顔に出てたかな。
「修平……お前はさ」
「?」
「日本に帰りたい……よな?」
え?
どういう意味だ?康哉は帰りたくないのか?
予想外の質問に言葉を失っていると、如月が戻って来た。
「実は今から少し前、王宮前の噴水広場でちょっとした騒ぎがあったようです。半獣が二人……王に会わせろと」
半獣と聞いてすぐにラウルを思い出した。
まさか、子どもなのに王都に来たのか!?王に会わせろ?って何だ?
混乱する俺をよそに、如月は言葉を続けた。
「あなたの事ですよね?松田さん」
え?康哉?
俺の視線に気づいた康哉が肩をすくめた。
「実は頼まれて一週間ほど半獣の王をやってたんだ」
やってたんだ……ってアルバイトか!王様って頼まれてやるものなのか?時給いくらだよ。
「松田さんは王様、岬さんは奴隷ってなかなか極端ですね」
うるせーよ如月。奴隷もペットも経験済みで悪かったな。
「二人はどうしてるんだ?」
「兵士が取り押さえてます。今のところ特に危害を加えたりはしていませんよ。ただ、王に会うまで動かないと言っているそうなので……」
康哉がため息をついて立ち上がった。
「悪い。修平、ちょっと行ってくる」
「分かった。俺は弁当食ったり、王宮を見学してるから、ゆっくりしてきていいぞ」
「すぐに戻るよ」
康哉はそう言って庭園を出ていった。
……あいつが王様か。
昔からクラス委員長とか生徒会長とかやってたから、リーダーの素質があるんだろうな。
二人が追いかけてくるって、よほど慕われてるって事だよな。康哉は冷たく見えるけど面倒見はいいし、頭もいいし顔もいい。さすが俺の親友だな。
そこまで考えて気づいた。
もしかして……康哉は本当に日本に帰りたくないのかもしれない。
「まさか……だって父さんや母さんは?」
このまま戻らなかったら両親が心配するんじゃないだろうか。康哉は俺と違って一人っ子だし、両親の期待を一身に背負ってると思うんだよな。康哉の口からあまり家族の話を聞いたことはないけど。
どっちかと言うと、俺の方がいなくても問題ないよな。もちろん心配はされるだろうけど、父さんには新しい奥さん、兄ちゃんと姉ちゃんにもそれぞれ家族がいるし……。
「岬さん、お話いいですか?」
考え込んでいた俺に、如月が話しかけてきた。
「ああ。悪い、考え事してた。いいぞ」
「先程の部下から預かりました。こちら岬さんの荷物ですよね」
如月は見慣れたリュックを渡してくれた。
中を確認すると、オッサンのマントやラウルの腕輪、リックのペンダント、異世界Tシャツと替えの下着など、俺が持ち歩いていた荷物がちゃんと揃っていた。
「無くなったものありませんか?グリモフに取られた物なんかは?」
「大丈夫だ。お金も全然取られてない」
良かった。
グリモフも少しはいい所があるな。価値がないと思われたのかもしれないけど、俺には大切なものばかりだ。
「返した所で申し訳ないのですが、魔石とこちらの世界の硬貨と、魔法充電器は回収してもよろしいですか?あと転移直前でかまいませんので、耳にはめている翻訳機も」
「え!?」
「他の物はともかく、これらのアイテムは分かりやすく日本にはありませんから。騒ぎになると困りますし」
「分かったよ」
「ガイドブックやTシャツなんかは持ち帰って大丈夫ですよ。異世界トリップ記念にぜひ残しておいてください。このTシャツは南の砦で買われたんですか?」
「何で分かったんだ?」
「よっ!砦一番の○○!……と書いてありますので……」
「○○って何だよ」
「それは私の口からはちょっと……」
如月は言葉を濁した。
そこ、絶対に下品な単語が入るだろ!カッコいい異世界Tシャツだと思っていたのに、意味が分かるとショックだな……。そういえばリックとお揃いだった。リックは意味が分かってたんだよな。悪い事をした。
「まあ……日本で着るなら何の問題もありませんよ。松田さんも、文字まではマスターしていませんから」
「康哉がどうかしたのか?」
「気づいてました?松田さん、一週間の間にこちらの世界の言葉をほぼマスターしてるんですよ。頭のいい方ですよね」
『……ソウデスネ』
俺はいまだにカタコトの異世界語しか喋れないんだけど。……なんだか、康哉と頭の出来が違いすぎて、少し凹んだぞ。
「ところで岬さん」
如月が急に声のトーンを落とした。
「あともう一つ、気になっていたのですが、岬さん何か……身につけていませんか?魔力を帯びた何かを。それも国宝級の」
「ああ」
「分かったよ」
遅れると次は八年後だったよな。
電車に乗り遅れるのとは訳が違うから気をつけよう。本当はもう少しルーシェンと会う時間が欲しかったけど仕方ない。これというのもみんなグリモフ……いや、アニキのせいだな。
でも、もしかしたら短い時間で良かったのかもしれない。長く会えば、その分別れが辛くなりそうだ。
考えこんでいると、庭園の入り口から兵士が一人やって来た。
「ハルバート主任、少しお話が」
如月が俺達から離れて兵士と話し込む。何かあったのかな。
「修平」
「……ん?」
「大丈夫か?」
「何が?」
「さっきからずっと上の空だ。何か気になる事でもあるのか?」
「いや……」
康哉は相変わらず鋭いな。ルーシェンと会えるかどうか気になるけど、康哉に心配されるほど顔に出てたかな。
「修平……お前はさ」
「?」
「日本に帰りたい……よな?」
え?
どういう意味だ?康哉は帰りたくないのか?
予想外の質問に言葉を失っていると、如月が戻って来た。
「実は今から少し前、王宮前の噴水広場でちょっとした騒ぎがあったようです。半獣が二人……王に会わせろと」
半獣と聞いてすぐにラウルを思い出した。
まさか、子どもなのに王都に来たのか!?王に会わせろ?って何だ?
混乱する俺をよそに、如月は言葉を続けた。
「あなたの事ですよね?松田さん」
え?康哉?
俺の視線に気づいた康哉が肩をすくめた。
「実は頼まれて一週間ほど半獣の王をやってたんだ」
やってたんだ……ってアルバイトか!王様って頼まれてやるものなのか?時給いくらだよ。
「松田さんは王様、岬さんは奴隷ってなかなか極端ですね」
うるせーよ如月。奴隷もペットも経験済みで悪かったな。
「二人はどうしてるんだ?」
「兵士が取り押さえてます。今のところ特に危害を加えたりはしていませんよ。ただ、王に会うまで動かないと言っているそうなので……」
康哉がため息をついて立ち上がった。
「悪い。修平、ちょっと行ってくる」
「分かった。俺は弁当食ったり、王宮を見学してるから、ゆっくりしてきていいぞ」
「すぐに戻るよ」
康哉はそう言って庭園を出ていった。
……あいつが王様か。
昔からクラス委員長とか生徒会長とかやってたから、リーダーの素質があるんだろうな。
二人が追いかけてくるって、よほど慕われてるって事だよな。康哉は冷たく見えるけど面倒見はいいし、頭もいいし顔もいい。さすが俺の親友だな。
そこまで考えて気づいた。
もしかして……康哉は本当に日本に帰りたくないのかもしれない。
「まさか……だって父さんや母さんは?」
このまま戻らなかったら両親が心配するんじゃないだろうか。康哉は俺と違って一人っ子だし、両親の期待を一身に背負ってると思うんだよな。康哉の口からあまり家族の話を聞いたことはないけど。
どっちかと言うと、俺の方がいなくても問題ないよな。もちろん心配はされるだろうけど、父さんには新しい奥さん、兄ちゃんと姉ちゃんにもそれぞれ家族がいるし……。
「岬さん、お話いいですか?」
考え込んでいた俺に、如月が話しかけてきた。
「ああ。悪い、考え事してた。いいぞ」
「先程の部下から預かりました。こちら岬さんの荷物ですよね」
如月は見慣れたリュックを渡してくれた。
中を確認すると、オッサンのマントやラウルの腕輪、リックのペンダント、異世界Tシャツと替えの下着など、俺が持ち歩いていた荷物がちゃんと揃っていた。
「無くなったものありませんか?グリモフに取られた物なんかは?」
「大丈夫だ。お金も全然取られてない」
良かった。
グリモフも少しはいい所があるな。価値がないと思われたのかもしれないけど、俺には大切なものばかりだ。
「返した所で申し訳ないのですが、魔石とこちらの世界の硬貨と、魔法充電器は回収してもよろしいですか?あと転移直前でかまいませんので、耳にはめている翻訳機も」
「え!?」
「他の物はともかく、これらのアイテムは分かりやすく日本にはありませんから。騒ぎになると困りますし」
「分かったよ」
「ガイドブックやTシャツなんかは持ち帰って大丈夫ですよ。異世界トリップ記念にぜひ残しておいてください。このTシャツは南の砦で買われたんですか?」
「何で分かったんだ?」
「よっ!砦一番の○○!……と書いてありますので……」
「○○って何だよ」
「それは私の口からはちょっと……」
如月は言葉を濁した。
そこ、絶対に下品な単語が入るだろ!カッコいい異世界Tシャツだと思っていたのに、意味が分かるとショックだな……。そういえばリックとお揃いだった。リックは意味が分かってたんだよな。悪い事をした。
「まあ……日本で着るなら何の問題もありませんよ。松田さんも、文字まではマスターしていませんから」
「康哉がどうかしたのか?」
「気づいてました?松田さん、一週間の間にこちらの世界の言葉をほぼマスターしてるんですよ。頭のいい方ですよね」
『……ソウデスネ』
俺はいまだにカタコトの異世界語しか喋れないんだけど。……なんだか、康哉と頭の出来が違いすぎて、少し凹んだぞ。
「ところで岬さん」
如月が急に声のトーンを落とした。
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