One week

カム

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土曜日、午前11時30分(レヴィン編)

8 正解はどこだ!?

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「……っ、ゲホッ」

 何かが思いきりぶつかってきたような感覚がして、一瞬呼吸が止まった。
 いつの間にか倒れていて、からだ中が痛い。真っ白だった視界が、徐々に通常の明るさに戻ってきた。


 ……生きてた。


 体の周りで青い光が瞬いている。
 目を凝らさないと分からないくらい淡い光。左手の薬指が少し熱い。
 視線をやると、ルーシェンに貰った銀の指輪が輝いていた。それでやっと俺にも青い光の正体がつかめた。
 俺が助かったのは、アドレナリンのせいでも、恐怖で感覚が麻痺している訳でもなく(少しはあるかな)守りの指輪のおかげだ。

 ……ありがとう、ルーシェン。

 そっと指輪を撫でると、さらに体が楽になった。

 それでもやっぱりブレス攻撃はきつい。死ななかっただけマシなんだろうな。どこか怪我をしているような気もするけど、よく分からない。

 俺は自分に出せる最高速度で体をひねると、堕ちるように水の中に飛び込んだ。

 水の中に赤い光は見当たらない。
 グリモフも、何匹も首長竜を用意するほど根性は悪くないみたいだ。
 何とか手足が動いてくれた。出口まででいいから、もう少しだけ働いて欲しい。

 水槽の底は思ったより深く、観客たちの姿も見えない。
 沈むように泳いでいくと、情報屋のじいさんの言う通り、トンネルのような水路がいくつか見える。

 右から二番目……だったよな?でも何を基準に右なんだよ……!

 考えていると、だんだん息が苦しくなってきた。
 一旦水面に出てからもう一度飛び込んだ場所を確認して……。

 ん?

 上の方で鈍い音がした。
 水の流れが変化する。流されそうになって、とっさに近くの水路の縁を掴む。上を見てゾッとした。首長竜の赤い目が四つ。
 俺を追いかけてきたんだ。早すぎるだろ!

 もう右とか二番目とか考える暇もなく、俺は近くの水路に逃げ込んだ。

 水路は思ったより長かった。
でも、向こう側は少し明るくなっている。だからきっと出口か何かあるはずだ。あってくれ、頼む。

 ……息が苦しい。
 泳ぎは得意なはずなのに、ブレス攻撃を受けたせいか、全然スピードが出せない。

 もう少し……。

 無我夢中で水路の出口を目指していたら、急に背後が暗くなった。
 振り向くと、間近に迫る四つの目。
 首長竜もどきが、俺の足を喰おうと口を開けている。

 ひぃぃ!こ、殺される……!

 怖すぎて目を閉じた瞬間、何かが体に巻き付いてきた。
 ぎゃああ!首だ!きっと、巻き付いてから丸のみなんだ!
 焦って口から空気を洩らしながら暴れるけど、びくともしない。目を開いても、視界は赤く濁っていて何も見えない。

 ああ……。
 これはきっと血だ。足とかガブッとやられたに違いない。トムソンガゼルが、ライオンに食べられる時痛くないって噂は本当だったんだな。不思議と全く痛くない。

 気を失いそうになった俺は、そのまま上の方に向かって運ばれていった。

 ん?水面?

「ぐぇぼっ!」

 むせすぎて変な声が出た。

 酸素だ!美味しすぎる酸素がそこに。

 あれ?俺、生きてる……?

「……二度と俺の前に、その面を晒すなと言ったはずだ」

 誰かのかなり不機嫌そうな声が至近距離で聞こえる。この声、まさか。

『あ、あ、アニキ……』

 俺の体に巻き付いていたのは、首長竜の首じゃなくて、アニキの腕だった。不機嫌なアニキが片手で俺を支えている。

『何でここに……』

「上にある柵を掴んでろ」
『え?』

 アニキが唐突に俺の体を放したので、完全に力を抜いていた俺は再び溺れそうになった。         
 もがいて頭上を見ると、鉄格子のような柵が天井に張り巡らされている。 手を伸ばせば 届きそうだ。うんていで遊ぶ要領で、部屋の隅まで移動する。天井に一ヶ所、鉄格子の扉が開いている場所があった。

 ここが正解だったんだ……。

『アニキが開けたんですか?』

 振り返っても、アニキの姿は見えなかった。
 俺のいる場所とは逆の方向で、水面が波打ってる。広がる赤い血。まさか……アニキの血じゃないよな?アニキは不死身だって言ってたよな?
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