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金曜日、午後7時(レヴィン編)

15 きっと間に合うよ!

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***

 はっ、俺また寝てた!?

 一瞬で意識をブラックアウトさせるとは、モフモフ毛皮恐るべし。
 そろそろ何とかの門に行かないと、ヤバいんじゃないか……?待ち合わせしているのに、時間が分からないなんてすごく不便だ。アニキがちょっとだけ優しくなった奇跡の瞬間、携帯電話を返して貰えるよう頼めば良かった。

 起き上がって伸びをすると、湿った草の臭いが鼻をくすぐる。生暖かい風が脇を通り抜けた。

 ……あれ?外?

 確かケビンにもたれて眠っていたはずが、気づけば屋外にいる。
 冴えない色の雑草が生えた丘と、遠くに見える林、大きな川。空はどんよりと曇っている。

「俺、王都に到着したはずなんだけど……」

 ヴァネッサさんに放り出されたのか?あり得るな。

「シュウヘイ」

 名前を呼ばれて振り向くと、後ろにケビンが立っていた。

「何だケビンか。驚かすなよ……」    
「僕やっとボスの指令を達成できたよ。あとはご飯を食べて迎えを待つんだ。シュウヘイも気をつけてね」

 おかしい……。
 誰かの声が聞こえるのにケビンしかいない。しかも話し声はケビンの鳴き声にそっくりだ。

「ケビン……お前、もしかして話せるのか?」

 ケビンは俺の問いに目をぱちくりさせた。

「シュウヘイはチョロチョロして、すぐに迷子になるから運ぶの大変だったよ。交尾ばかりしてるし」
「……なんかすみません」

 ケビンに怒られた。
 って言うか、本当にケビンが話してるのか?腹話術じゃないだろうな。

「シュウヘイは今からどこに行くの?」
「何とかの門で眼鏡の男と待ち合わせなんだ。ケビンと別れるのは寂しいけど」
「僕はボスがいるから寂しくないよ。メアリーもいるし」
「少しは寂しがってくれよー!」

 長い毛皮にしがみつくと
「人間はわがまま」
とケビンがため息のような声を洩らした。クールな表情していると思っていたけど、ケビンは性格もクールだった。

「……ところであいつはどうするの?」
「あいつ?」

 顔を上げてケビンの視線の先を辿る。

 離れた場所に真っ黒い生き物が見えた。
 なんだ、あれ?
 黒い炎のような毛皮の、獅子に似た生き物が、草の陰から獲物を狙っている。
 狙われているのは草食動物じゃなくて、人間の子供だった。

 怯えた表情の子供は、獅子に狙われているのにその場から動かない。
 距離はもう一メートルもないように見えた。
 見覚えのあるその子供の名前は

「……レヴィン!」

 子供の頃のアニキだ。
 あれ……?という事はこれは夢なのか?夢の続き?

「ボスなら助けに行くと思うけど、シュウヘイはどうする?」

 後ろでケビンが淡々と聞いてくる。

「……どうするって、こんなのただの夢だろ!?」
「あの子供、放っておくと死ぬと思う」

 考える暇もなく、黒い獅子は子供に飛びかかった。

「レヴィン!」

 勝手に体が動いた。
 黒い獅子に向かって走る。武器も何もないけど、注意を逸らせば助かるかもしれない。

「シュウヘイ!きっと間に合うよ!」

 風に乗ってケビンの声が聞こえた。
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