119 / 204
金曜日、午後1時(レヴィン編)
8 マジックショー
しおりを挟む
食堂を出て人の多い方向に進む。
少し広くなった道の真ん中にいつのまにか円形のステージが出来ていて、人々がそれを取り囲むように集まりはじめていた。
『何が始まるのですか?』
「マジックショーだよ」
近くにいたお爺さんはそう答えた。
マジックショーって異世界にもあるのか。帽子から鳩出したりするのかな?
異世界マジックショーはかなり人気があるみたいだ。見物人はあっという間に増えて、満員電車並みになった。
出遅れたせいであまりいい場所がとれず、背が高い男達が前にいるせいでよく見えない。それでも背伸びをしてステージを見ていると、派手な服の司会者が登場した。
「みなさん押さないで~!これからおまちかねディックとアンドラのマジックショーが始まるよ~!」
歓声が飛ぶ。
よく分からないが、ここはコンサートのノリで、俺も
『ディックー!アンドラー!』
と叫んでみた。
ステージがピンクと水色の煙に包まれる。
派手な効果音とともに、煙の中から二人の男女が登場した。忍者みたいだ。
ステージ衣装に身を包んだ二人は、優雅な動きで両手を掲げると、手のひらの少し上空に四つの炎を作りだした。
どよめきが起こる。
二人はお互いに炎を投げ合い、炎は数を増やしたり色を変えたり、まるで生き物のようにステージ上を動き回った。
マジックショーって……本物の魔法だったのか。
炎は途中で水に変わった。魚のような形の水はキラキラ輝きながら砕けてはまた再生する。
すげえ……。ディックもアンドラも最高だ。完全に目が釘付けだ。
群衆もすっかり二人の魔法の虜になってる。何か起こるたびに拍手喝采だ。
『ディックー!アンドラー!』
俺も夢中になって声援を送っていた。
「……?」
後ろにいる誰かの手が、俺の腰のあたりで怪しい動きをしてる事に気づいたのはその直後だった。
まさか、スリ!?
しまった。マジックショーに夢中になって完全に無防備だった。
荷物をガードしようと体の向きを変えようとしたけど、人混みに押されてままならない。
「……!」
動けないまま、後ろの奴の手が俺のズボンのお尻あたりをなで回す。スリ……じゃないぞ。これ。ぎゅっとお尻を掴まれて確信した。
痴漢だ!
モミモミ。
なでなで。
後ろの手が自由すぎる。
お尻をなで回していた手は、一瞬の隙をついて前に回り込んできた。
「あっ……」
なんだこの緩急をつけた絶妙な力加減。形を確かめるように撫でられてる。
ヒイィ。せっかくのマジックショーが、全然頭に入ってこない。
文句を言ってやろうと動き回る手を捕まえた。
『止めてください』
体をひねって後ろを向く。しらばっくれたら兵士につき出してやる。
後ろに立っていたのは、フードを目深に被った男だった。
あれ……こいつ、どこかで見たような。
理解した瞬間、総毛立つ。
フードを被った男が低い声で囁いた。
「俺を置いて出るなんて、ひどいじゃねーか」
男の口が、探したぜ、という言葉を紡ぎ出すのを信じられない思いで見つめる。
砦を出たのは、こいつから逃げる為だった。
盗賊のアニキが俺の後ろに立っていた。
少し広くなった道の真ん中にいつのまにか円形のステージが出来ていて、人々がそれを取り囲むように集まりはじめていた。
『何が始まるのですか?』
「マジックショーだよ」
近くにいたお爺さんはそう答えた。
マジックショーって異世界にもあるのか。帽子から鳩出したりするのかな?
異世界マジックショーはかなり人気があるみたいだ。見物人はあっという間に増えて、満員電車並みになった。
出遅れたせいであまりいい場所がとれず、背が高い男達が前にいるせいでよく見えない。それでも背伸びをしてステージを見ていると、派手な服の司会者が登場した。
「みなさん押さないで~!これからおまちかねディックとアンドラのマジックショーが始まるよ~!」
歓声が飛ぶ。
よく分からないが、ここはコンサートのノリで、俺も
『ディックー!アンドラー!』
と叫んでみた。
ステージがピンクと水色の煙に包まれる。
派手な効果音とともに、煙の中から二人の男女が登場した。忍者みたいだ。
ステージ衣装に身を包んだ二人は、優雅な動きで両手を掲げると、手のひらの少し上空に四つの炎を作りだした。
どよめきが起こる。
二人はお互いに炎を投げ合い、炎は数を増やしたり色を変えたり、まるで生き物のようにステージ上を動き回った。
マジックショーって……本物の魔法だったのか。
炎は途中で水に変わった。魚のような形の水はキラキラ輝きながら砕けてはまた再生する。
すげえ……。ディックもアンドラも最高だ。完全に目が釘付けだ。
群衆もすっかり二人の魔法の虜になってる。何か起こるたびに拍手喝采だ。
『ディックー!アンドラー!』
俺も夢中になって声援を送っていた。
「……?」
後ろにいる誰かの手が、俺の腰のあたりで怪しい動きをしてる事に気づいたのはその直後だった。
まさか、スリ!?
しまった。マジックショーに夢中になって完全に無防備だった。
荷物をガードしようと体の向きを変えようとしたけど、人混みに押されてままならない。
「……!」
動けないまま、後ろの奴の手が俺のズボンのお尻あたりをなで回す。スリ……じゃないぞ。これ。ぎゅっとお尻を掴まれて確信した。
痴漢だ!
モミモミ。
なでなで。
後ろの手が自由すぎる。
お尻をなで回していた手は、一瞬の隙をついて前に回り込んできた。
「あっ……」
なんだこの緩急をつけた絶妙な力加減。形を確かめるように撫でられてる。
ヒイィ。せっかくのマジックショーが、全然頭に入ってこない。
文句を言ってやろうと動き回る手を捕まえた。
『止めてください』
体をひねって後ろを向く。しらばっくれたら兵士につき出してやる。
後ろに立っていたのは、フードを目深に被った男だった。
あれ……こいつ、どこかで見たような。
理解した瞬間、総毛立つ。
フードを被った男が低い声で囁いた。
「俺を置いて出るなんて、ひどいじゃねーか」
男の口が、探したぜ、という言葉を紡ぎ出すのを信じられない思いで見つめる。
砦を出たのは、こいつから逃げる為だった。
盗賊のアニキが俺の後ろに立っていた。
10
お気に入りに追加
785
あなたにおすすめの小説
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる