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金曜日、午後1時(レヴィン編)
4 なんだか、さみしいな
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『冗談なのは知ってます』
からかわれてちょっとムッとする。驚いたのは本当だ。
ルーシェンの口癖は「立派な王になる」だから、俺の世界に来たいなんて本気で思っているわけない。でも逃げたくなる気持ちも分かるな。魔法の村みたいな性格の悪い罠を創り上げてくる敵がいたんじゃ、俺だって逃げたい。
『魔法の村が無くなったこと、創った人は分かるのですか?』
何て名前だったっけ?あの銅像の女の人。
「……もちろん気づくだろう」
ルーシェンは起き上がって蜃気楼を見つめた。
「俺が生き延びた事に気づいたかどうかは不明だ。次の手を打ってくる前に、捕えなければならない」
そう言うルーシェンの顔からは笑みが消えていた。現実逃避するのを止めたんだろうな。そう思うと、ちょっとだけ切ない気分になる。
こいつは俺とそんなに年が違わないのに、王子に生まれたというだけで、俺には想像できないほど重い物を背負っているんだからな。冗談でも、俺の世界に来いよ、って言ってやればよかったかな……。
『……そういえば、朝ルーシェンは手紙を残していました』
無言になったので話題を変える。せめて俺といる時くらい、嫌なことを考えないですむように。
ルーシェンが俺に書き残してポケットにいれておいたはずの紙は、今探っても見当たらなかった。村と共に消えてしまったみたいだ。
『あれは何て書いたのですか?読めなかったので教えてください』
「……あれは……もういいんだ」
ルーシェンが赤くなっている。相当くさいセリフだったらしい。
『教えてください』
「助かったのだから、もういい。忘れてくれ」
そう言ってルーシェンは立ちあがると、少し離れた場所に向かった。
そして鞘にしまったままの剣で空中(と地面)に文字のような物を描き始めた。あわせて何かブツブツ言ってる。
おお!まさかこれはリアル魔法使いの呪文詠唱ってやつじゃないのか!?ゲームでこんな感じの動きがあったぞ。違うのか?杖じゃなくてもいいんだな。棒なら何でもいいのか。
何が起こるのかわくわくして見つめているのに、ルーシェンは呪文を唱えるのをさっさと終了し、俺のそばに戻ってきた。炎も上がらないし、何も起こらないぞ。
『今の何ですか?』
まさか戦士のラジオ体操的なものじゃないだろうな。そうだったら殴る。俺のわくわくを返せ。
「ああ、相棒を呼んだ」
相棒!?
『私の他に相棒がいるのですか?』
と言うとルーシェンは目を丸くした。
『冗談です』
相棒か。いいなぁ……。
魔法で連絡を取り合う相棒。如月みたいに魔法陣で移動して来るんだろうか。
そういえば、俺も如月に連絡取って間に合わなかった事を謝らないと。康哉……もう元の世界に戻っただろうな。
「……八年!」
「どうした、シュウヘイ」
『いや、何でもありません』
俺も現実を思い出した。
八年こっちに住むのか……。八年も姿を消したらどうなるんだ?完全に存在を忘れられるのかな。康哉が俺を連れだしたから、康哉に殺人容疑か何かがかかったりするかも。
いや、頭のいい康哉なら世間の目なんて簡単にごまかせるだろう。前から完全犯罪とか出来そうなやつだと思ってたんだ。
八年もあるならもう一度オッサンの動物村に寄って、ラウルに会いに行ってもいいな。あいつ別れる時泣いてたし……。
ネックはラウルの村に行く途中で、花カブトの沼を通らなければいけない事だ。
それからリックの宿にも今度こそ泊まろう。滝の見える部屋に泊まってみたい。友達のよしみで宿泊料金を安くしてくれるかも。
そんな事を考えながら、リュックから携帯電話を取り出す。魔法村の中ではずっと止まっていた携帯はきちんと動いていて、時刻は午後2時をさしていた。良かった。ちゃんと使えるみたいだ。
あれ?
金曜日?
日付が変わっていない。最後に如月から着信があったのが午前9時すぎだ。五時間しか経ってないなんて、そんな馬鹿な。確かに俺は村の中で二晩過ごしたぞ。一日目は酒を飲んで歌って騒ぎ、二日目はルーシェンに襲われたから確実だ。
『ルーシェン……時間が』
経っていません、と続けようとしてそれに気づいた。
上空に小さく見える五つの飛行物体。
ベージュの体にエメラルド色の鱗、太陽の光を反射して輝く翼、騎乗する兵士達の独特のジャケット。
あれは……地方の傭兵たちの憧れ、王都の飛行部隊だ。砦で間近で見て興奮したから間違いない。ひときわ目立つのは先頭を飛ぶ白い竜だ。カッコイイ。
「飛竜!ヒヤッホー!」
叫んでいるうちに飛行士逹はこちらに近づいてきて、近くの草原に見事に着地した。白い竜には誰も乗っていない。
「エスト」
ルーシェンが白い飛竜に近づき首を撫でても、尻尾で払われたりはしなかった。飛竜は首をすり寄せてルーシェンに甘えるような仕草をする。ベージュの飛竜から飛び降りた兵士達が、ルーシェンの元に駆け寄ってきた。
「王子!よくぞご無事で……!」
「お探しいたしました」
「いったい今までどちらにいらっしゃったのですか……!?」
「すまない。心配をかけたな」
兵士二人がルーシェンに詰め寄り、残りの二人が膝をついて頭を下げる。一人は泣いてるみたいだ。
そっか……そういえばルーシェンって王子だったな。忘れてた訳じゃないけど、部下がいる姿を初めて見たから新鮮だ。慕われてんだな。
俺は空気を読んで少し離れた場所に移動する。同じように空気を呼んだ(または飛竜を警戒した)ケビンが、俺の近くにくっついてきた。
再会を喜ぶルーシェンと部下達。嬉しいんだけど……。
「なんか、さみしいな。ケビン」
ケビンに同意を求めると、ケビンは鼻をならした。
からかわれてちょっとムッとする。驚いたのは本当だ。
ルーシェンの口癖は「立派な王になる」だから、俺の世界に来たいなんて本気で思っているわけない。でも逃げたくなる気持ちも分かるな。魔法の村みたいな性格の悪い罠を創り上げてくる敵がいたんじゃ、俺だって逃げたい。
『魔法の村が無くなったこと、創った人は分かるのですか?』
何て名前だったっけ?あの銅像の女の人。
「……もちろん気づくだろう」
ルーシェンは起き上がって蜃気楼を見つめた。
「俺が生き延びた事に気づいたかどうかは不明だ。次の手を打ってくる前に、捕えなければならない」
そう言うルーシェンの顔からは笑みが消えていた。現実逃避するのを止めたんだろうな。そう思うと、ちょっとだけ切ない気分になる。
こいつは俺とそんなに年が違わないのに、王子に生まれたというだけで、俺には想像できないほど重い物を背負っているんだからな。冗談でも、俺の世界に来いよ、って言ってやればよかったかな……。
『……そういえば、朝ルーシェンは手紙を残していました』
無言になったので話題を変える。せめて俺といる時くらい、嫌なことを考えないですむように。
ルーシェンが俺に書き残してポケットにいれておいたはずの紙は、今探っても見当たらなかった。村と共に消えてしまったみたいだ。
『あれは何て書いたのですか?読めなかったので教えてください』
「……あれは……もういいんだ」
ルーシェンが赤くなっている。相当くさいセリフだったらしい。
『教えてください』
「助かったのだから、もういい。忘れてくれ」
そう言ってルーシェンは立ちあがると、少し離れた場所に向かった。
そして鞘にしまったままの剣で空中(と地面)に文字のような物を描き始めた。あわせて何かブツブツ言ってる。
おお!まさかこれはリアル魔法使いの呪文詠唱ってやつじゃないのか!?ゲームでこんな感じの動きがあったぞ。違うのか?杖じゃなくてもいいんだな。棒なら何でもいいのか。
何が起こるのかわくわくして見つめているのに、ルーシェンは呪文を唱えるのをさっさと終了し、俺のそばに戻ってきた。炎も上がらないし、何も起こらないぞ。
『今の何ですか?』
まさか戦士のラジオ体操的なものじゃないだろうな。そうだったら殴る。俺のわくわくを返せ。
「ああ、相棒を呼んだ」
相棒!?
『私の他に相棒がいるのですか?』
と言うとルーシェンは目を丸くした。
『冗談です』
相棒か。いいなぁ……。
魔法で連絡を取り合う相棒。如月みたいに魔法陣で移動して来るんだろうか。
そういえば、俺も如月に連絡取って間に合わなかった事を謝らないと。康哉……もう元の世界に戻っただろうな。
「……八年!」
「どうした、シュウヘイ」
『いや、何でもありません』
俺も現実を思い出した。
八年こっちに住むのか……。八年も姿を消したらどうなるんだ?完全に存在を忘れられるのかな。康哉が俺を連れだしたから、康哉に殺人容疑か何かがかかったりするかも。
いや、頭のいい康哉なら世間の目なんて簡単にごまかせるだろう。前から完全犯罪とか出来そうなやつだと思ってたんだ。
八年もあるならもう一度オッサンの動物村に寄って、ラウルに会いに行ってもいいな。あいつ別れる時泣いてたし……。
ネックはラウルの村に行く途中で、花カブトの沼を通らなければいけない事だ。
それからリックの宿にも今度こそ泊まろう。滝の見える部屋に泊まってみたい。友達のよしみで宿泊料金を安くしてくれるかも。
そんな事を考えながら、リュックから携帯電話を取り出す。魔法村の中ではずっと止まっていた携帯はきちんと動いていて、時刻は午後2時をさしていた。良かった。ちゃんと使えるみたいだ。
あれ?
金曜日?
日付が変わっていない。最後に如月から着信があったのが午前9時すぎだ。五時間しか経ってないなんて、そんな馬鹿な。確かに俺は村の中で二晩過ごしたぞ。一日目は酒を飲んで歌って騒ぎ、二日目はルーシェンに襲われたから確実だ。
『ルーシェン……時間が』
経っていません、と続けようとしてそれに気づいた。
上空に小さく見える五つの飛行物体。
ベージュの体にエメラルド色の鱗、太陽の光を反射して輝く翼、騎乗する兵士達の独特のジャケット。
あれは……地方の傭兵たちの憧れ、王都の飛行部隊だ。砦で間近で見て興奮したから間違いない。ひときわ目立つのは先頭を飛ぶ白い竜だ。カッコイイ。
「飛竜!ヒヤッホー!」
叫んでいるうちに飛行士逹はこちらに近づいてきて、近くの草原に見事に着地した。白い竜には誰も乗っていない。
「エスト」
ルーシェンが白い飛竜に近づき首を撫でても、尻尾で払われたりはしなかった。飛竜は首をすり寄せてルーシェンに甘えるような仕草をする。ベージュの飛竜から飛び降りた兵士達が、ルーシェンの元に駆け寄ってきた。
「王子!よくぞご無事で……!」
「お探しいたしました」
「いったい今までどちらにいらっしゃったのですか……!?」
「すまない。心配をかけたな」
兵士二人がルーシェンに詰め寄り、残りの二人が膝をついて頭を下げる。一人は泣いてるみたいだ。
そっか……そういえばルーシェンって王子だったな。忘れてた訳じゃないけど、部下がいる姿を初めて見たから新鮮だ。慕われてんだな。
俺は空気を読んで少し離れた場所に移動する。同じように空気を呼んだ(または飛竜を警戒した)ケビンが、俺の近くにくっついてきた。
再会を喜ぶルーシェンと部下達。嬉しいんだけど……。
「なんか、さみしいな。ケビン」
ケビンに同意を求めると、ケビンは鼻をならした。
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