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カム

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金曜日、午後1時(レヴィン編)

2 溺れる

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「うぉああっ!?」

 着地、というのは俺の勘違いだった。
 足が宇宙に触れたと思った瞬間、体が一気に沈む。

「ぎゃあぁ、ガボっ、げふっ!!」

 溺れる。宇宙じゃなくて海だった。

「落ち着け、シュウヘイ!」

 パニックでルーシェンにしがみつくと、ルーシェンの冷静な声が聞こえた。

「お前、泳げないのか?」

 ん?そういえば俺、泳げるな。
 我にかえって暴れるのを止め、立ち泳ぎで周囲を見ると、上空に青空が見えた。

 村がない。
 俺とルーシェンは海に浮かんでいて、百メートルくらい離れた場所に森が見える。反対側のずっと遠くには、蜃気楼のように揺らめく町(都市?)が見えていた。

『ここはどこでしょう。村も城も無いですね』
「シュウヘイ!」
「うがっ!?」

 俺をたしなめた筈のルーシェンがしがみついてきて、重さで再び沈みそうになる。

『ルーシェン!』

「……ありがとう。お前のおかげで村から脱出できた。生きてこの景色が見られるなんて夢のようだ。お前にはどれだけ感謝してもしきれない……」

 そうか、脱出できたのか。あらためてお礼を言われると照れるな。

『ルーシェンがあきらめなかったからで、んガボッ』

 今度こそ思いっきり海に沈む。
 いや、沈められた。こいつ、無茶苦茶だ。
 浮上したいと足掻くのに、そんな事お構いなしに俺の首に腕を回してくる。
 海の中でもイケメンはイケメンらしい。
変な所に感心していると、かたく結んだ俺の唇をルーシェンの唇が塞いだ。舌が絡められ、甘く吸われる。

「ん、んっ……」

 ここはキスじゃなく酸素だろ!?酸素の口移しが正解のはずだ。ガッツリ舌を絡めてくるな……!溺れるっていってるだろ。

 海の水が混ざった口づけは、少しもしょっぱくなかった。腕をほどこうにも、力が強くてびくともしない。

 ああ……溺れる。

 口の端からこぼれた泡がポコポコと水面に上がっていく。海の中は、真っ暗な岩に緑色の小さな光が無数に輝いていて、まるで銀河の中にいるみたいだった。宇宙だと思ったのは、海の底だったのか。

 やっぱり……ルーシェンとのキスは嫌いじゃない。酸欠で溺れそうなのに、それが妙に心地いいなんて……末期だな、俺。


 その数秒後、海面に顔を出すと、気がすむまでルーシェンをタコ殴りにした。

「いい加減に機嫌を治してくれ」

 森に向かって泳ぐ俺の後をルーシェンがついてくる。腕が折れたはずのルーシェンは、俺よりずっと泳ぎが上手い。心配するとまた沈められそうだから、素っ気ない態度でいるけど不思議だ。

 もくもくと泳いでいると、森のはずれにオブジェのように佇む動物が見えた。

「ケビン!!」
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